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3章 お爺ちゃんと古代の導き
131.お爺ちゃん達と[三の試練]④
しおりを挟む「さて、どうする?」
「問題はこのぐちゃぐちゃに広がってる雲がどこから来て、どこに通じているかを知らねばいけない気がするよ。ここに来てから延々と同じところを行ったり来たりしてる気がしてならない」
私の質問に探偵さんが唸りながらメモを取り出し、全員に見せる。彼はボケ防止で常日頃からメモにまとめる癖ができていた。それは今回役に立った。
私のスクリーンショットは映像を切り取るのに長けているが、それは映像の一端に過ぎない。
しかし探偵さんのメモは変化した様子を逐一メモにつけたこまめさだ。それを順に開いて一つづつ解していく。
「最初僕達は船から降りて一本道を進んだ。ここまではいいかな?」
少し偉そうで、それでいて問いかける口調で探偵さんが話し始める。
「最初のポイントはこの一本道。少年がエネミーに古代語が浮き出ると言ったあたりから僕は違和感を感じていたよ。本当だったら先に進まずに検証していたかったが、どうも言い出せる空気じゃなくてね。進むことに賛同した」
この人ちゃっかり私のせいにしてますよ。意見があるんだったら言ってくれればいいのに。
「そして運命のT字路だ。ここから一直線に迷った。まるでゴールなど無いと言わんばかりの迷いっぷりは清々しいくらいにトラップに引っ掛かったと証明している」
「それは確かに僕も思っていました。マスターは道が増えていくのは進んでる証拠だと、ズンズン前に進んでいくんですもん」
「現に道が増えてから素材は手に入っているでしょう?」
「けれど攻略の糸口は途端に途絶えた。そうですよね?」
「悔しいけどその通りだ。まるで餌に釣られて見事に罠に嵌ったみたいで悔しいよ」
「けれど戻ろうにも道が増えてから特に帰り道が混迷を極めた」
「うん」
今まで押し黙っていたジキンさんがいい加減に口出しさせろと私に連続でダメ出しをする。
それに関しては奥様連中は何も言ってこないようだ。
「そもそもここのトラップは入る前から明らかだったんですよ。ヒントは見え過ぎていたこと。これだと思います」
確信ありげにジキンさんが一本指を立ててはっきり言う。
「三の試練……蜃気楼の迷宮……そうか、蜃気楼か。目に見える全てがそこにあるわけじゃなかったと言うわけですね?」
「多分ですが、ここに見える入り組んだショートカットに見えるルートも蜃気楼が見せている幻影だったら?」
「うん、蜃気楼は光の異常屈折で起こるものだから……その原因となるものを散らせば正式なルートが出てくる?」
「かも知れません。ですがどこに原因があるかが問題ですよね」
「やだなー、犬のじいじったら。原因なんて既に判明してるじゃないですか」
男達があーだこーだと話してるところへ、スズキさんの屈託のない声が響く。彼女は真上の太陽を指し示し、ニコニコ笑っている。
「なるほどね、背景の一部と思っていた太陽が原因か。でもこんな上層で下層でのみ起こるとされた蜃気楼が起こるなんて理解できないけど?」
「そこはほら、ゲーム的フレーバーだったり、古代的な超文明が絡んでくるんじゃないですか?」
「ウンウン、やはりロマンはこうでなくちゃ。まずは太陽を塞いでみようか? 流石に夜にしろとは言わないけど、何か策を持ってる人は居る?」
私は残念ながらないなぁ。水や氷って余計に光を反射させちゃうもんね。風なんか雲の流れを……ん? そうか!
この無駄にいっぱいある雲を使うのが正解なんだ。
「ハヤテさん、何か思いつきました?」
スズキさんが興味深そうに私の顔を覗き込んでくる。
「ええ、我ながら名案です。けど、APが持つか不安なので、手持ちのダークマターに余りがある人は渡してもらえると助かります」
「AP……つまり特殊スキルですね?」
「うん、風操作★を使ってここら辺の雲を日除けに使おうと思って」
「なるほどね。道としてじゃなくて障害物として使えと言う意味であんなに無駄にあったのか。結果迷ってしまったのは初見あるあるだね。面白いね、乗った。僕の使う筈だったAPを大事に使ってくれたまえ。少年の閃きに期待してるよ?」
二つのダークマターが探偵さんからトレードで渡された。
「僕はあんまりAPを使う予定は無かったんですが、奥さんの手作り菓子を手に置かないのは損と思って消費してませんでした。合計五個。マスターに託します」
その代わり失敗したら覚えて置くようにと強く念を押され、トレードでジキンさんから五つ頂いた。合計八個。
「残念ながら僕は使い切ってしまいました。空を泳ぐのが楽し過ぎて、ごめんなさい」
スズキさんが申し訳なさそうに言う。
別にないからと言って責める気はない。彼女はそのAPを使って探検をしてくれたりと結構活躍してくれたからね。
「私達もAPを使わないから三つづつ余ってるわ。帰ればいくらでも作れるから、これだけで悪いけど」
女性陣から合計で六つのダークマターを頂き合計十四個。
これだけもらって帰れませんでしたと言ったら私は信頼を失ってしまうな。
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ。それと雲を集めてる際、悪いけど私は戦闘に参加できない。そっちは頼んでも?」
「こればかりは仕方ないでしょう。特別に許してあげます」
ジキンさんが最近バットとしてしか活躍させてこなかった鈍く光る金属の棒を取り出して振るう。その姿勢はさながらスラッガーの様だ。
「任せてください、空でも華麗な槍捌きを見せてあげますよ。あ、アキエさん。水の展開お願いしまーす」
「はいはい、困った子ね」
「そう言いながらアキは嫌がってないよね?」
「まぁね、なんだかんだ言ってスズちゃんは頼りになるもの」
全員が戦闘態勢に入る。
風操作で集めた雲が太陽を塞ぎ、一本の道が出来上がったと同時にピシッとフィールドに罅が入り、そのまま砕け散った!
パキン、パラパラ。
普段と少し違う演出をして、現れたのは影を纏った蛇だった。
私は風操作をしながら素早くスクリーンショットで情報を抜き取る。
[ハイクリティカル!]
[シャドウ型/スネークの情報を獲得しました]
[シャドウ型/スネークの情報を更新しました]
耐久:3000/3000
戦闘行動:巻きつき、噛みつき、AP吸収
弱点:雷属性
特効:光属性
状態:平常
なかなかに厄介な効果を保つため、急ぎみんなに情報を共有する。
「これはハヤテさんに近づけちゃいけないやつですね!」
「しかし太陽を遮ってる時にシャドウ型とは厄介な!」
「弱点があるだけマシさ。雷ならあたしも使える」
「ならば僕はタンクを引き受けよう。遊撃はスズキ君に任せた」
「任されました!」
「じゃあスズちゃんが動きやすい様に水の結界を張っておくわね?」
「わー、助かります!」
ピョンピョンと飛び跳ねるスズキさんとスネークの動き出しは同時だった。
「おっと行かせないよ? <絡め手・66番 払い崩し>!」
どこぞの功夫の達人の様な摺り足で探偵さんがスネークと間を詰めると、私に向かっていた進行ルートを強引に左側にいるジキンさんへと崩した。
「外角甘め、ボールコースですが見逃すバカは居ませんヨッ!」
バキン! と何故か鉄の棒にもかかわらずシャドウ型のスネークはダメージを受けていた。見れば鉄の棒には青白い光がバチバチとスパークしていた。
「付与が得意なのはアキだけじゃないってね!」
どこか得意げにランダさんが胸を張っていた。なるほどね、夫婦の連携プレーというわけだ。良いなぁ、ズルい。私にも見せ場が欲しい。
「こっちも良いところ見せるわよ、スズちゃん!」
「こちら快速スズキ号。獲物の場所まで全速前進!」
ウチの奥さんは水をそこら中に張ってスズキさんの足場としていた。スズキさんは勢いをつけながら水の中を駆け回り、やがてその回転は遠心力で持って稲妻を纏った光と化した。
「これは魚類でありながら僕にのみ許された超奥義! <イナズマスパーク>だぁ!」
自身に雷を宿して突撃をかます、スズキさんらしからぬ神風アタックである。本来の彼女は舞う様な槍裁きで敵の攻撃をいなすのが本来の戦い方である様だったのに。
変わったんだ。進化したと言っても良いのかも知れない。
戦闘は瞬く間に終了。
「お疲れ様でした」
「なんとか守り切りましたよ!」
「この調子で頼みますよ?」
気を抜けば直ぐに太陽の光で帰り道を見失ってしまいそうになる中、仲間達の勇姿はとんでもなく心強かった。
みんな少しづつ強くなってるんだ。私も頑張らないとな。
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