【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
199 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き

173.お爺ちゃんと家族会議

しおりを挟む

 オリハルコンのレシピを見つけてそれから。
 私達は一度探索を取りやめて一度ログアウトする事にした。
 どうも発見したレシピで一悶着ありそうだと言うこともあり、それと同時に準備が足りないのを察して巻物で入り口まで帰ってそのまま赤の禁忌へと戻り、家族会議をするべく責任者にメールでその旨を送った。

 翌日の事である。
 場所はVR井戸端会議内。その街の住人に紹介さえして貰えれば参加可能なので、参加者には事前に登録してもらった限りである。


「まだこの街並み残ってたのね」

「そうだねぇ。住んでた頃はなんとも思わなかったけど、離れたら離れたでやけに懐かしく感じるものだよ」

「父さんは出張が多かったものね。家にいない方がほとんどだったわ」

「それを指摘されると痛いな」


 久方ぶりに真希と亜耶をリアルアバター越しに見た。
 ゲーム内と違って華美に装飾されてないあの子達は少し歳は取ったが当時の面影を残していてくれた。由香里が変わらなすぎると言うのもあるのだけど、知ってる顔が見えて嬉しく思った。


「俺までお邪魔してよかったのか?」

「お義父さんから頼まれたので。さ、こっちです」

「あ、あぁ」


 後から少し躊躇うようにこちらにやってきたのはリーガル氏かな? 秋人君に連れられて足踏みしていた。


「ようこそ、よく来てくれたね」

「こちらこそお呼びいただきありがとうございます。リーガルこと新城です」

「あ、これはどうも笹井です。今日は殆ど身内の会議ですけどゆっくりしてってください。ただ今回見つけた私達の発見で一悶着起きそうな予感がしそうなのでそちらで口裏合わせをお願いしたくてですね」

「もう最初から嫌な予感しかしないが覚悟しておく」

「大丈夫ですよ。お義父さんは悪いことに巻き込みません」

「秋人君の言う通りだ。まずは由香里、以前送った画像データの配布をお願いするね」

「はーい」


 由香里がまとめてくれたデータを各自の端末に一斉送信した。
 各々がその着信を受け取った直後、一斉に席を立ってコッチを見ていた。
 まず最初に声をあげたのが亜耶。今では空の素材取得を一手に担うクランのマスターを務めている。


「父さん、またとんでもないの発掘してる!」

「偶然だよ」

「何回その偶然を聞けば良いのよー」

「私からも質問。これはどこかで情報を提供するの?」


 続いて真希がトーンを変えずに聞いてくる。


「提供するつもりでいる。けど誰にでもするなと母さんから釘を刺されていてね」

「ちなみに僕は挑戦して無理でしたね」

「ふーん。精錬の騎士のマスターでも無理となると……」

「まぁうちのダグラスさん辺りが一番望みは高いでしょう」

「なるほど。それで発表を渋っているわけね」


 実現不可能な難易度。
 それが表に出せないオリハルコンの取り扱いにより拍車をかけている。なまじ一度出回った品であるからこそ、それがプレイヤーの手で作り上げられるそのレシピ。
 当然欲しがる手はある。そしていろんな手段を使ってでも入手先を限定して張り付くだろう。


「つまりその入手ルートの安全性の確保を私達に頼みたいと言うことね。それくらい構わないけど、安くないわよ?」

「どう受け取ってくれるかはそちらにお任せするよ。そしてその情報をどう活かすかも君たち次第だ。どうかな?」


 私の答えはよほど意外だったのだろう。
 真希、亜耶、新城氏は目を丸くして驚いていた。
 きっと私がこんな風に情報の丸投げをしてくるとは思ってなかったのだろう。


「あのね、父さん。無関心にも程があるわよ? 亜耶からも何か言ってやって」

「無理よ姉さん。思えば父さんは昔からこんな感じだったわ。うちの人なんてありがたい称号スキル貰って一生頭が上がらないみたいに言ってるのに。半ばわかってたこととは言え、このレベルの情報でもポンと渡してくるのは流石に予想外だったけどさー」

「甘いわね、お姉ちゃん達。お父さんはレイド討伐イベントすら丸投げしてくるのよ? あれをちょうど良いタイミングとはいえ、渡された私達の気持ちがわかる?」


 驚いた。確かに成り行きとはいえ任せてくれと言って引き受けてくれた彼女が、こんな風に思っていたなんて。


「見てみなさいよ、由香里。この顔はきっとあなたの苦労なんて知ったこっちゃないって顔よ」

「え、そうなのお父さん?」


 亜耶の指摘に由香里が私に縋ってくる。
 こう言う時って渇いた笑いしか出ないんだよね。
 そこで満を侍して新城氏が挙手をした。


「仲睦まじいところすまない。部外者の身で悪いが、つまりそれは情報そのものはこちらでどのように扱っても構わないと、そう言うことかな?」

「それで合ってますよ。お義父さんは懐が深いので。ただ最終的にはお義父さんに泣きつくことになると思うので、どう動くかは慎重に行った方がいいと思います」

「精錬でのインゴット化……以前に鉱石の融点の見極めは確かにドワーフの管轄か。うちの人材も優秀だが、ドワーフのトップレベルに張り合えるかと言われたら痛いな。どの道アキカゼさんに頼りになるのか」

「ウチは一応チャレンジしてみるわ。うちの職人は基本的に素材に飢えてる人たちしかいないから。あと父さんのクランで発見した素材もいくつかこっちに流通してもらいたいのだけど?」

「空の素材ならうちで取りに行くわ」

「あら、じゃあ亜耶に頼もうかしら」

「毎度あり。父さんが素材の情報をくれるからうちの運営は右肩上がりよ。ありがとね、父さん」

「君達が喜んでくれるなら発表してよかったよ。あとダグラスさんについては一応ここに呼んでるから頼むなら直接取り付けてくれ。彼、今超忙しいから」

「だーれが原因でそうなったんだろうねぇ?」


 振り返れば神保さんがにこやかに笑みを称えて片手を上げていた。ただし目の奥は一切笑ってないが。


「噂をすればなんとやら。遅いですよ、神保さん。私が娘達の返答に困窮するところじゃないですか」

「まったく、悪びれなく言われる人の身にもなってくれ。飛空挺の次はオリハルコンの精錬だって? やっぱり君のクランに入って正解だったな。面白いことが勝手にやってくる」


 そのまま席に座り、話に参加した。
 私の知り合いは初手で私を貶さないといけない人が多すぎると思うんだ。


「さて、うちのクランマスターが随分と世話をかけたの。まぁそれがわかってて厄介になってるので今更どうでも良いか。お初の方は男性陣くらいか? 神保だ。向こうじゃダグラスと名乗ってるが、ただの鉄を触ってるのが好きなジジイよ」

「お久しぶりです、神保さん。その節はわざわざありがとうございました」

「僕、亜耶ちゃんに何かしたっけ?」

「やだなぁ、忘れちゃったんですか? 健介君に頼んで、サイン書いて貰ったじゃないですか。おじさんが人間国宝に認定された折に」

「ああ、あれね」


 亜耶の言葉に新城氏が目を見開いて神保さんを見ていた。
 まぁ人間国宝とか言われたらびっくりするよね。


「偶然、僕以外に居なかったら取れただけだよ。そのおかげで近所では変に騒がれてね。身に覚えのない親戚が増えて大変だったなぁ」

「この人もなんだかんだで父さんと似てるのよね。凄いことをさもどうでも良いことのように偶然の一言で片付けるの」


 真希が嘆息しながら私と神保さんを括った。
 えー、それってどう言う意味?
 結局似たもの同士と言いたいのだろうけど、私と神保さんは同時に否定した。
 揚げ足を取り合って悪態をつく様まで見てそっくりだなんて笑われる。

 一度笑い合ったことですっかり緊張もほぐれたようだ。
 結局私と神保さんは一括りにされたまま話が締めくくられたのだけは納得いかなかったけど、これからを担う若者達が楽しく手を取り合ってる姿を見られただけで今日はこの場を設けてよかったなと思えた。


「それはそれとして父さん、地下のルートの情報は私の方で管理しちゃって良いの?」

「ん~? そこはどざえもんさんに一任してるからね」

「なになに、なんの話?」


 一人だけ話のわからない亜耶が真希の話に食いついてくる。
 一瞬気を抜いたかと表情を顰める真希だったが、ピラニアのように吸い付いたら離さない亜耶の態度に折れたのか、真希は観念したように両手をあげて答えた。


「ワールドクエストが進行したわ」


 その言葉には私以外の全員が驚きの声を上げることになった。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。 (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です) ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様でも公開しております。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...