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4章 お爺ちゃんと生配信
side マリン
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時は少し遡り、マリンが号令をかけてルリ、ユーノそしてケンタと共に先行していた。
「ルリちゃん、何かわかることあった?」
マリンがルリに声をかけると、ルリはかぶりを振って俯く。
ただでさえ既知のデータにはない新エリア。
怪しいと思えば全てが怪しいのだ。
「ケンタ君、平気? 汗びっしょりだけど」
「このぐらい何でもないぜ。ちょっと休憩入れれば元通りだって」
汗だくで平気そうにしているケンタを見かねてユーノが声をかける。
ユーノには二つ歳の離れた弟がいるので、重ねてしまったのかもしれない。
そんな心配など不要だとケンタは虚勢を張り続ける。
この中で唯一の男だ。女子より先に音を上げるわけには行かなかった。
そういったところも微笑ましく見守るユーノ。
一向はそれぞれの思惑を抱えてエリアの中腹を歩く。
広大とは言え、スタミナ軽減のスキルを伸ばしているので進行速度は早い方だ。
しかし先駆者の祖父アキカゼ・ハヤテ以上の成果を挙げられるとは思ってない。
戦闘特化ゆえ、探索でやれることなど限られているからだ。
このパーティにおいてルリの言動が探索の要になる。
そんなルリが通路のT字路の手前でしゃがみ込み、息を潜めてパーティーチャットを開いた。
ルリ :みんな、声を上げないで
未知の存在と接敵したかもしれない
ケンタ:敵か? バトルフィールドに入ったっけ?
ケンタの言葉に全員が眉を顰める。本来エネミーは目視できず、バトルフィールドに突入することでその姿を表すのだ。
しかし現在入った覚えもなく、突然そこにいる状態だ。
マリン達が訝しむのも無理はない。
ユーノ:こっちでは確認してないよ
マリン:煙っぽい奴だね
ユーノ:確かに新しい敵
どうする?
ルリ :向こうの目的がわからない
戦闘しなくて良いならスルーしちゃいたい
マリン:何かを探してる可能性は?
ユーノ:全く動かないのも怪しいもんね
探し物があるのなら納得だよ
ケンタ:問答無用でぶっ飛ばせば良いんじゃねーの?
ここでケンタが勝気な表情で事を構える選択に一票入れる。
ルリ :多分それが一番やっちゃいけないやつ
後先考えずに行動するとお母さんによく怒られた
マリン:ルリちゃんのところのクランは結果が全てだからね
ケンタ:メンドっちぃな
しかし堅実派のルリはかぶりを振ってこれを静止した。
ユーノ:ケンタ君、今は抑えて
出番が来たら働いてもらうから、ね?
ケンタ:まぁ今はマリンさんがリーダーだし
従うよ
マリン:じゃあルリちゃん的にはどうするべきだと思う?
ルリ :こっちに近づいてきた
マリン:なんで!? 声出してないのに!
ケンタ:やっぱり戦闘になったか!
でもゆらゆらしてて殴りがいねーぞ、どうする?
ルリ :やれるだけやってみる。
まだ何も分かってないけど
動くことでわかることもあるから
ケンタ:取り敢えず暴れて良いんだな!
通路の内側で身を潜めていた一向に、煙で肉体を構成しているエネミーが拳の形を形成して殴りかかってくる。
狙いはマリン。パーティーのリーダーを見抜く力でもあるのだろうか?
「らぁ!」
そこでケンタが助走をつけ、壁を蹴ってエネミーの真横から斬りかかった。
「チッ、浅いか」
「ケンタ君、後ろ!」
「!?」
袈裟斬りにするように走った剣閃。
しかし手応えらしい手応えも感じず、直後にユーノの悲鳴が聞こえる。
いつの間にか背に回り込んでいたエネミーがケンタに噛みつこうと鋭い牙を尖らせていたのだ。
スキル発動直後の硬直ですぐに移動できないケンタ。
LPダメージを喰らう覚悟を決め、
「シッ」
そこへマリンが先程のお礼とばかりに援護に入る。
短剣でのダメージはあまり期待できないが、ヘイトを自分に向けることくらいはできた。
しかしまるで手応えがない。
切り裂いても煙に巻かれた様に姿を変化させ続けるエネミー。
物理攻撃が一切効かない相手はシャドウ型以来だ。
それなりの備えはしてきているものの、決め手の見えない戦いは非常に疲れるものだ。
特に第三世代は事前情報の有無を尊重する傾向にある。
「ユーノ! 魔法お願い」
「分かった、〝アクアウェブ〟」
マリンの号令に、ユーノは詠唱の短い水属性制圧魔法を行使する。押し流すことに特化したその魔法はユーノが扱える中でも拘束に分類される。
エネミーは文字通り流されたが、流しきれなかった上部が分離し、また違う形を形成する。
その見慣れたことのある形態は……
「弓!? まずい、全員防御姿勢!」
まさかここで中距離攻撃とは。
マリン一向は防御を捨てたアタッカーに魔法ビルド。
守るより倒すことに重きを置く。
故にガードは得意ではない。
LP回復ポーションが必要な理由はここにあった。
「〝エリアガード〟 これで即死は防げる筈! 各自でLP回復お願い」
ユーノの機転で範囲防御スキルが展開される。
しかしどれほどの威力かわからないため、SPの無駄打ちができない。ユーノが持つスキルの中でもそれなりのダメージカット力があるスキルだが、未知の相手にどこまで有効か判別もつかないのだ。
「助かった。ダメージはそこまで痛くはないけど、数を食らうと厄介だ。アイテムは再使用まで30秒の制限があるからな」
「向こうは連射も可能っぽい。ここは近距離で行くしかないか」
「魔法も効いてる感じしないですね。煙ってここまで厄介なんだ」
「何かギミックがある筈……それがわかるまで耐えて」
「おう! 俺の大剣なら多少弾ける。マリンさんはその隙に爺ちゃん達を呼んできてくれ」
ケンタの言葉にマリンは押し黙る。
確かに祖父なら、アキカゼ・ハヤテならなんでもない様に解決してしまうだろう。でもそれで良いのか?
良くない。私達はまだ出来る。
たとえそれが時間稼ぎにしかならなくても、諦める理由にはならない。
拳を握り、ケンタに向き直る。
「……ううん、ここは私達でやっつけるよ」
「……!?」
マリンの覚悟にケンタは衝撃を受けた様に固まる。
祖父の前では甘えることの多かったマリン。
しかし同世代の前ではしっかり者の印象が強い。
「それに、お爺ちゃん達に任せっぱなしじゃ情けないじゃん。ケンタ君もそう思わない?」
「うっ、そりゃあ思うところはあるけどよ」
「じゃあ決まりだね。ごめんルリちゃん、ユーノ。これは私のワガママ。けれどここで頼ったら私達の今まで積み重ねてきたものが全て吹き飛んじゃう。私達だってやれるんだってところをお爺ちゃんにも見せたいんだ」
「マリンちゃん、本気?」
「うん。ルリちゃんは根性論とか嫌いかもしれないけど」
「そんな事ないよ。お母さんも結構そういうところある。私はなんでそんなに必死になってんだろうと思ったけど、そうか。譲れないものがある時、そんな気持ちになるんだね。私は付き合うよ。マリンちゃんのやりたい様にして」
「ありがとう!」
「マリンちゃんはホント自分勝手なんだから」
「ユーノもごめん、付き合わせちゃって」
拝み倒す様にマリンはユーノに頭を下げる。
長い付き合いだからこそ、ワガママに振り回してきた自覚はあった。
「でもま、それがマリンちゃんだもんね。私は相棒としてマリンちゃんの理解者のつもりだよ? それにこの程度のわがまま、ものの数じゃないって」
「うん、ユーノにはいつも助けられてる」
話がまとまりそうだった時、後方から祖父が、超えるべき壁が現れた。そしてこちらの欲しい言葉をかけてくる。
『助けはいるかな?』
マリンはその言葉を押し返す様に否定する。
『助けてくれたら嬉しいけど、ここは私達にやらせて。まだ何も掴めてないの。ここぐらいは活躍したいから……ダメ?』
『いいや。好きにやりなさい。私達は少し後ろで見てるよ』
『うん、じゃあ見てて』
個人コールを切り、両頬に気合を入れると、マリンは格上の相手に立ち向かっていく。
努力、がむしゃら。そんな言葉の意味すら知らないで育った第三世代のマリン達は、今日初めて自ら泥沼の戦いに身を投じた。
「ルリちゃん、何かわかることあった?」
マリンがルリに声をかけると、ルリはかぶりを振って俯く。
ただでさえ既知のデータにはない新エリア。
怪しいと思えば全てが怪しいのだ。
「ケンタ君、平気? 汗びっしょりだけど」
「このぐらい何でもないぜ。ちょっと休憩入れれば元通りだって」
汗だくで平気そうにしているケンタを見かねてユーノが声をかける。
ユーノには二つ歳の離れた弟がいるので、重ねてしまったのかもしれない。
そんな心配など不要だとケンタは虚勢を張り続ける。
この中で唯一の男だ。女子より先に音を上げるわけには行かなかった。
そういったところも微笑ましく見守るユーノ。
一向はそれぞれの思惑を抱えてエリアの中腹を歩く。
広大とは言え、スタミナ軽減のスキルを伸ばしているので進行速度は早い方だ。
しかし先駆者の祖父アキカゼ・ハヤテ以上の成果を挙げられるとは思ってない。
戦闘特化ゆえ、探索でやれることなど限られているからだ。
このパーティにおいてルリの言動が探索の要になる。
そんなルリが通路のT字路の手前でしゃがみ込み、息を潜めてパーティーチャットを開いた。
ルリ :みんな、声を上げないで
未知の存在と接敵したかもしれない
ケンタ:敵か? バトルフィールドに入ったっけ?
ケンタの言葉に全員が眉を顰める。本来エネミーは目視できず、バトルフィールドに突入することでその姿を表すのだ。
しかし現在入った覚えもなく、突然そこにいる状態だ。
マリン達が訝しむのも無理はない。
ユーノ:こっちでは確認してないよ
マリン:煙っぽい奴だね
ユーノ:確かに新しい敵
どうする?
ルリ :向こうの目的がわからない
戦闘しなくて良いならスルーしちゃいたい
マリン:何かを探してる可能性は?
ユーノ:全く動かないのも怪しいもんね
探し物があるのなら納得だよ
ケンタ:問答無用でぶっ飛ばせば良いんじゃねーの?
ここでケンタが勝気な表情で事を構える選択に一票入れる。
ルリ :多分それが一番やっちゃいけないやつ
後先考えずに行動するとお母さんによく怒られた
マリン:ルリちゃんのところのクランは結果が全てだからね
ケンタ:メンドっちぃな
しかし堅実派のルリはかぶりを振ってこれを静止した。
ユーノ:ケンタ君、今は抑えて
出番が来たら働いてもらうから、ね?
ケンタ:まぁ今はマリンさんがリーダーだし
従うよ
マリン:じゃあルリちゃん的にはどうするべきだと思う?
ルリ :こっちに近づいてきた
マリン:なんで!? 声出してないのに!
ケンタ:やっぱり戦闘になったか!
でもゆらゆらしてて殴りがいねーぞ、どうする?
ルリ :やれるだけやってみる。
まだ何も分かってないけど
動くことでわかることもあるから
ケンタ:取り敢えず暴れて良いんだな!
通路の内側で身を潜めていた一向に、煙で肉体を構成しているエネミーが拳の形を形成して殴りかかってくる。
狙いはマリン。パーティーのリーダーを見抜く力でもあるのだろうか?
「らぁ!」
そこでケンタが助走をつけ、壁を蹴ってエネミーの真横から斬りかかった。
「チッ、浅いか」
「ケンタ君、後ろ!」
「!?」
袈裟斬りにするように走った剣閃。
しかし手応えらしい手応えも感じず、直後にユーノの悲鳴が聞こえる。
いつの間にか背に回り込んでいたエネミーがケンタに噛みつこうと鋭い牙を尖らせていたのだ。
スキル発動直後の硬直ですぐに移動できないケンタ。
LPダメージを喰らう覚悟を決め、
「シッ」
そこへマリンが先程のお礼とばかりに援護に入る。
短剣でのダメージはあまり期待できないが、ヘイトを自分に向けることくらいはできた。
しかしまるで手応えがない。
切り裂いても煙に巻かれた様に姿を変化させ続けるエネミー。
物理攻撃が一切効かない相手はシャドウ型以来だ。
それなりの備えはしてきているものの、決め手の見えない戦いは非常に疲れるものだ。
特に第三世代は事前情報の有無を尊重する傾向にある。
「ユーノ! 魔法お願い」
「分かった、〝アクアウェブ〟」
マリンの号令に、ユーノは詠唱の短い水属性制圧魔法を行使する。押し流すことに特化したその魔法はユーノが扱える中でも拘束に分類される。
エネミーは文字通り流されたが、流しきれなかった上部が分離し、また違う形を形成する。
その見慣れたことのある形態は……
「弓!? まずい、全員防御姿勢!」
まさかここで中距離攻撃とは。
マリン一向は防御を捨てたアタッカーに魔法ビルド。
守るより倒すことに重きを置く。
故にガードは得意ではない。
LP回復ポーションが必要な理由はここにあった。
「〝エリアガード〟 これで即死は防げる筈! 各自でLP回復お願い」
ユーノの機転で範囲防御スキルが展開される。
しかしどれほどの威力かわからないため、SPの無駄打ちができない。ユーノが持つスキルの中でもそれなりのダメージカット力があるスキルだが、未知の相手にどこまで有効か判別もつかないのだ。
「助かった。ダメージはそこまで痛くはないけど、数を食らうと厄介だ。アイテムは再使用まで30秒の制限があるからな」
「向こうは連射も可能っぽい。ここは近距離で行くしかないか」
「魔法も効いてる感じしないですね。煙ってここまで厄介なんだ」
「何かギミックがある筈……それがわかるまで耐えて」
「おう! 俺の大剣なら多少弾ける。マリンさんはその隙に爺ちゃん達を呼んできてくれ」
ケンタの言葉にマリンは押し黙る。
確かに祖父なら、アキカゼ・ハヤテならなんでもない様に解決してしまうだろう。でもそれで良いのか?
良くない。私達はまだ出来る。
たとえそれが時間稼ぎにしかならなくても、諦める理由にはならない。
拳を握り、ケンタに向き直る。
「……ううん、ここは私達でやっつけるよ」
「……!?」
マリンの覚悟にケンタは衝撃を受けた様に固まる。
祖父の前では甘えることの多かったマリン。
しかし同世代の前ではしっかり者の印象が強い。
「それに、お爺ちゃん達に任せっぱなしじゃ情けないじゃん。ケンタ君もそう思わない?」
「うっ、そりゃあ思うところはあるけどよ」
「じゃあ決まりだね。ごめんルリちゃん、ユーノ。これは私のワガママ。けれどここで頼ったら私達の今まで積み重ねてきたものが全て吹き飛んじゃう。私達だってやれるんだってところをお爺ちゃんにも見せたいんだ」
「マリンちゃん、本気?」
「うん。ルリちゃんは根性論とか嫌いかもしれないけど」
「そんな事ないよ。お母さんも結構そういうところある。私はなんでそんなに必死になってんだろうと思ったけど、そうか。譲れないものがある時、そんな気持ちになるんだね。私は付き合うよ。マリンちゃんのやりたい様にして」
「ありがとう!」
「マリンちゃんはホント自分勝手なんだから」
「ユーノもごめん、付き合わせちゃって」
拝み倒す様にマリンはユーノに頭を下げる。
長い付き合いだからこそ、ワガママに振り回してきた自覚はあった。
「でもま、それがマリンちゃんだもんね。私は相棒としてマリンちゃんの理解者のつもりだよ? それにこの程度のわがまま、ものの数じゃないって」
「うん、ユーノにはいつも助けられてる」
話がまとまりそうだった時、後方から祖父が、超えるべき壁が現れた。そしてこちらの欲しい言葉をかけてくる。
『助けはいるかな?』
マリンはその言葉を押し返す様に否定する。
『助けてくれたら嬉しいけど、ここは私達にやらせて。まだ何も掴めてないの。ここぐらいは活躍したいから……ダメ?』
『いいや。好きにやりなさい。私達は少し後ろで見てるよ』
『うん、じゃあ見てて』
個人コールを切り、両頬に気合を入れると、マリンは格上の相手に立ち向かっていく。
努力、がむしゃら。そんな言葉の意味すら知らないで育った第三世代のマリン達は、今日初めて自ら泥沼の戦いに身を投じた。
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