【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

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4章 お爺ちゃんと生配信

260.お爺ちゃんと秘境探検隊⑤

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 早速外に出た私たちは金の棒を右手に持たせるために南下した。しかしここで問題が発生する。


「果たしてこのマップの人物はどちらを向いているのだろうか?」

「どう言うことだ?」


 リズベッドさんが私の疑問に疑問符を並べた。
 どうもすぐに情報交換できる感じではない様だ。


【|◉〻◉)前向いてるか後ろ向いてるかって意味じゃない?】

「ああ、なるほどな」

「流石スズキさん。冴えてるね」

「壁画では後ろ向いてたっす」

「頭に目の紋様の装備をつけていたの。故にあの大いなる目を置いた時点でここの地図は後ろ向きを指していると見えぬか?」

「良いですね、皆さん思考が温まってきてますよぉ。リズベッド氏、どう動きます? 右か左、どちらに進路を取りますか?」

「ホークアイの妄想を信じて左に向かう。南東へ向かうぞ!」

「了解っす!」


 私たちから見て左手がマップの右手に位置するからこれで良い。コメント欄もどっちがどっちかわからなくなっていた様だが、マッピング機能をアップにして写して移動する位置を伝えるとようやく納得してくれた様だ。

 視聴者から見た場合の右は下から見た場合。
 心臓部から腕に行くにはそれをひっくり返す必要があった。


「こっちは大いなる目が置いてあった場所っすね」

「まさか対になっているとは」

「しかし棒を置くんすか、突き刺すんすか?」


 カレイド氏の疑問ももっともである。
 しかし壁画はどうだった?


「壁画では手に握っていた。しからば置くか刺すの二択であろう」


 大いなる目が配置されていたのは小さな池があるその中心地だった。大いなる目が取り除かれた後は、その部分が窪んでしまっている。
 しかしここには黄金の棒を突き刺す様な穴はない。


【この池を利用できないかな?】


 その時コメント欄から重要な手掛かりが飛び出した。
 ちょうど太陽は池の方から差し込んでいる。


「リズベッド氏!」

「どうしたアキカゼさん。穴を発見出来たか?」

「いいえ、先程コメントで池を利用できないかと書き込みを見てピンときました。これ、刺すんじゃなくて池に反射させるのでは? ちょうど太陽がお誂向けに池を照らす様に差し込んでいます」

「ふむ、やってみる価値はあるか! オレが持とう」


 リズベッド氏がその金の棒を持って池の淵に立って金の棒を捧げた。


「……何も起きませんね」


 しかし特に何も起きる様子はない。
 いや、さっきはこの金属棒で何をした?
 それを思い出して私はショートワープでリズベッド氏のすぐそばへと降り立ち、


「ちょっと失礼」


 レムリアの器で金属棒を叩いた。
 なんとも不思議な音色が辺りに響き、同時に周囲一帯がズゴゴゴゴゴ、と盛り上がる。
 池のほとりが隆起し、地下へと通じる降り階段が競り上がった。


「わっと」


 バランスを崩したリズベッド氏を抱えつつ、その場を離脱。
 何故かお姫様抱っこの形になってしまったが、すぐにおろしたので問題はないだろう。
 

「と、すまない。油断した」

「あれは仕方ないですよ。しかしビンゴでした」

「何かする前はオレに一言だな……」

「済みません。思いついたらすぐに行動したいタチなもので」

「いや、平気だ。むしろその行動力は見習いたいものだな。では行くか」


 心なしか顔の赤いリズベッド氏に続き、私達は階段を降りていく。そこにもその場所を守る様にスワンプマン強化型が居座り、これも私たちの連携で見事撃退する。


「お見事です」

「むしろその棒の出す音色で動きを止めてくれるので楽だな」

「その音色はワシらをダメにするから諸刃の剣ではあるがな」

「そんなことより、奥に続く扉が開いたっすよ」


 頭にライトをつけたヘルメットを被り、先行する様にカレイド氏がリズベッド氏を促す。


「行くか!」


 そこにあった壁画にはヒュプノではない何かの対処法が書かれていた。
 それもムー言語で。


「おっとこれは私の仕事ですね。なになに、災厄の種の浄化法、その手順……どうやらこれは残されたもう一つのアイテムを安全に処理するためのものです。今翻訳した画像を送ります」

「助かる」

【鮮やかな手際】
【ほんとこう言うところ手慣れてるよな】
【探索者としての年季が違うもんよ】

「どうもこれ、錬金のレシピっぽいね。リズベッド氏、錬金持ってる?」

「そうだな。石工を取るついでに少し齧った程度だが……いや、なんとかなりそうだ。だがオレがやるより上位錬金スキル持ちに任せた方が良いだろう。どちらにせよ、これを作り上げなければ次に進めないわけか。骨だな」

「いや、ここは前向きに考えるところだよ? 今日一日でこれだけ探索が進んだ。それに自分たちだけではなく、見ている視聴者さんも参加できる。みんなにとってWin-Winの関係だ」

「普通はそこまでポジティブに捉えられないだろうが……」

「ええ、それが私です。そしてその錬金スキル持ち、私に一人心当たりがあります」

【その心当たりってオクトだろ】
【精錬関係でいつも名前上がるよな】
【アキカゼさんからの素材を丸投げされた人第一位やろ?】
【言えてる】

「そう言うわけでオクト君、任せたよ」

【なんで僕が引き受ける前提なんですかね?】

「だって君こう言うの好きじゃない?」

【本人居て草】
【居るの知ってて話振ってた件】
【|◉〻◉)モテモテっすね】
【僕だって毎日ログイン出来るわけじゃないんですよ?】
【とかなんとか言いながらも作りそう】
【それ】

「と、言うわけで今回の配信は一度区切ります。レシピは最後まで視聴してくれた人の特典として載せるから、オクト君以外にも挑戦したい人がいたらドシドシ挑戦してね。それではまた次回!」

【お疲れ様ー】
【お疲れ様っした】
【おつー】
【今回も見どころたっぷりでした】
【普通会の皮を被った何かだったな】
【掲示板でも取り上げられてんぞ、秒でレイドボス殺す翻訳家が出現したって】
【それアキカゼさんだろ】


 終わり際にコメントを打ち込みたい人用に長めの余韻を残しておく。最後に今回手に入れたレシピを写し、数時間にわたる配信を区切った。



 ◇


 ぱぱっと編集してアーカイブ化させると、最初から見返そうと再生数が伸びていく。
 それを一旦閉じ切り、再度今回の配信に付き合ってくれた感謝を秘境探検隊の皆さんに送った。


「いやー、今回はいつにも増してコメント欄が盛り上がりましたよ。探索系はどうしてもコメントの伸びが悪いのですが、ああやって一緒に探検してる雰囲気があるとやはり変わりますね。私たちがメインの時は見てるだけ、まるで撮られた映画の世界を視聴してるだけだったんですが、それが今回はなかったのは皆さんのスタイルの貫く姿だと思うんですよ。これは誇っても良い。いつまでもこんな感じで貫いてほしいなと思います」

「こちらこそ改めて礼をするよ。一度の探検でここまで進むことは珍しい。朝から夕方まで彷徨って、ヒント0で終わることもしばしばだ。あなたの行動力に何度救われたか」

「それはお互い様ですよ。それと先程は申し訳ありませんでした」

「先ほどとは?」

「お姫様抱っこの件です」

「ああ、この歳になってされるとまた恥ずかしさが段違いだな。いや、あれは本当に照れてしまった」

「やはり貴方は女性でしたか。一人称がオレだったのでてっきり……」

「おっと、その事は御内密に。旦那に内緒で遊んでいるのがバレたら大目玉だ」

「大丈夫でしょう、世の男たちは大らかなものですよ」

「噂に違わず大した御仁だな、アキカゼさんは。いつもうちの夫が世話になっているだけある」

「はて? もしかしてお知り合いの方でしたか?」

「失礼、永井の妻です」

「あっ……あぁ、その節はどうも。ウチの妻も良くしていただいて」


 まさか探偵さんの奥さんだとは。
 世の中狭すぎない?
 それにロールプレイもバッチリ決まっていた。
 彼は奥さんと不仲と言っていたけど、なんだい似た者同士じゃないの。


「ちなみにワシは誰じゃと思う?」


 リズベッド氏に続き、ホークアイ氏が意味ありげに聞いてくる。この様子だとご近所さんの誰かだったりするのだろうか?


「うーん、分かりません。降参です」

「いつも夫がお世話になってます。神保の妻です」

「もー、なんですかみんなして。桜町町内会女性部がなんでこんなところにいるんです?」

「ちなみにあたしは?」

「神保さんの妹さんですか?」


 確か妹さんがいたはずだ。けどその予想は大きく外れることになる。


「残念、正解は娘でした~」

「え、紘子ちゃんなの?」


 紘子ちゃんは娘の由香里と同級生の神保さんのお宅の長女である。ちなみに表の顔はクラン『朱の明星』のサブマスター。
 今の一張羅を仕上げてくれた職人さんであった。


「はい。なんだかアキカゼさんのビルドも楽しそうだなって母さんに誘われて」


 だからってアカウントもう一つ取ったんだ?
 シェリルみたいな事するね。
 じゃなくって……


「なんで旦那さん達に打ち明けないんです? ゲームしてる事。伝えれば喜んでくれると思いますよ?」


 そうしたら二人してサプライズだと言っていた。

 ログアウト後、それとなく妻に聞いてみたら前からそのキャラでロールプレイしていたそうで。
 女性陣には周知の事実だったそうだ。

 紘子ちゃんが別アカウントを取得したことまでは知らなかったが、それ以外は例のVR井戸端会議で意見交換していたりしているそうだった。

 教えてよ。
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