【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
324 / 497
4章 お爺ちゃんと生配信

285.お爺ちゃんとルルイエの悲願

 配信を終え、再び彼女と向き直る。
 今の彼女はリリーとして私に付き従っている。
 世を偲ぶ仮の姿であるスズキさんではなくなっていた。

 美しい容姿ではあるが、どこか闇を纏っており、油断すると引きずり込まれそうになる恐怖を予感させる。
 そんな彼女が恍惚とした笑みを浮かべて傅くのだ。
 恋愛に多感な時期な男だったらあっという間に取り込まれてしまうだろう。
 しかし彼女の本来の気質はその思慮深さにある。

容姿の不気味さなどなんの障害にもならないほどコミカルな動きでお茶の間を沸かせ続けてきた手腕はお見事。
 すっかり『魚の人』で定着させてるあたり、生半可な努力では達成できないものだ。


「で、どうしてNPCである君がウチの孫を騙せたの? リアルの存在を作り上げるなんて流石に君でも無理でしょ?」

「そのことにつきましては魔術を使いました。思考を誘導する魔術です。わたくしを見ると違和感を抱くことなく近しい人物の信頼できる相手、そして長時間ログインしていても不都合ない存在が思い浮かぶ様な術です」

「そこで浮かび上がったのが偶然彼女の担任教師だった鈴木先生であったと?」

「はい。偶然とは恐ろしいものです。その時の行動していた依代もスズキだったので、恐ろしいほどに噛み合ってくれました。その時ほど自分の幸運を祝ったこともございません」


 リリーは嬉しそうに話を締めくくったが、問題はまだある。
 魔術と聞いて一番先に思いつくのがその後遺症についてだ。


「しかしね、その魔術は後遺症とか大丈夫なの?」

「作用するのはこちら側の世界に限ります。向こう側にお戻りになられた時には綺麗さっぱり忘れてしまいますよ。まるで白昼夢を見た様なものです」


 流石上位NPCと言うか。
 ゲームマスターに限らず、この子達もこれがゲームだって知ってる上での会話なあたり、人間の情報処理能力を超えてきてるよね。


「まぁ良いや。いや、よくないけど。リリーとしては咄嗟の判断で私の身内にそんな魔術を使ったと言う事で良いかな」

「否定できませんわ。それ以前にわたくしは見た者の嫌悪感を向上させる見た目をしておりました。よもや近づいてくるものが居ようなどとは思いもよらず、あの時は咄嗟に使ってしまったのです」

「それ、ある意味では私の被害者だって言ってる?」

「はい」


 リリーはスズキさんの様ないたずらっ子の笑みで頷いた。


「じゃあ仕方ないか。誘ったのは私だし、孫も孫でじっとしてないからね。あの時勝手についてきたのを了承したのも私だし。でも急に先生ぶったりした時は驚いたな。あれで私は君が本物の先生だって信じ切ってしまったよ?」

「綱渡りだったのは確かですわ」

「でも君は直接会うだけじゃなく、私のブログ内でもそう認識させてたよね。それはどうして?」

「魔術とは一度かけた相手にずっと残り続けます。特定の条件下において発動するため、それ以外では綺麗さっぱり忘れてしまう。そう言う魔術を使っています。要は思い出す時に自動で変換されるのですわ」

「聞けば聞くほど便利だねぇ」

「我らはそうして人に紛れて生きてきましたから。これも無駄な諍いを産まないための手段なのですわ。ご理解いただけまして?」

「そう考えれば納得か。君達の悲願でもあるわけだ。まぁ私にどこまでできるかわからないけど、なんとかしてみようじゃないか」

「その時をお待ちしておりますわ」

 ソファに背もたれに背中を預けると、彼女は私の横にちょこんと腰をかけた。
 赤々とした髪が蠢く。
 よく見れば毛ではなく毛細血管が浮き出た触腕だと分かる。
 遠目で見れば毛の様に見えるけど、これもまた擬態なのだろうか?
 軽く触れると、指を柔らかく包み込む様にうねうねと絡みつく。ちょっとヌルヌルするのに目を瞑れば可愛いものだ。

 アンブロシウス氏も言っていたが、私は常に正気を失っているのかもしれない。


「それで話は変わるけど」

「なんでしょう?」

「リリーとしては私が君の旦那さんに変身するのと、ただ側にいるだけなのとどちらが良い?」

「出来れば変身する事を望みますが、そうでなくてもマスターはすでに深きものとして民達に認識されております。わたくしがお側に仕えているだけで無条件で民達は従い、王と慕ってくれる事でしょう」

「本音は?」

「変身してほしいです。でもそれは博打だと知っております。如何に胆力が強靭なマスターであれど、夫の瘴気までは支えきれません。ですのでそれは無理からぬ願いとして胸に秘めておきますわ。今は少しでも長くお側に」

「なるほどね。ならば私は変身しないで君たちを導こう。ゲームマスターさんから今の私を失ってほしくないみたいだ」

「それがよろしいかと思います」

「さて。私からのお話はこんなものだ。あとは君が私を自由にする時間に当てようか。配信でだいぶ時間を使ってしまったが、あと数時間になってしまうが良いかな?」

「では少しの間お手を拝借させていただいて構いませんか?」


 リリーはモジモジしたあと、頬を染め上目遣いで問うてくる。
 そんな彼女の方に手を置き、引き寄せた。
 さっきアンブロシウス氏の前で辛く当たったから断られると思ったのだろう。けれど安心させるべくそっと囁く。


「良いよ。今は私が君のマスターなんだから。私のやれる範囲でならなんでも言いなさい」

「ありがとうございます」


 瞳に涙を浮かべて、それを拭い去りながら彼女は満面の笑みを浮かべた。やはり女性は笑ってる時の方がよりグッとくる。
 娘どころか背格好は孫と同じくらいなのに、何を私は胸を打っているのだろうか?
 浮気じゃないよ、これは。

 今時の若者の言葉を借りるなら、推しだ。
 推しが尊い。そんな感情が胸中に湧き上がる。


 リリーは私との海中散歩を提案した。
 一度ファイベリオンに赴き、海の中に入って泳ぎながら過去のエピソードをいくつか語ってくれた。

 人間と魚人の関係。
 搾取するものとされるもの。
 魚人は後者であった。

 主神である旦那さんが眠りにつき、リリーもまた海中にひっそりと身を隠して生きてた頃。
 魚人達は人類に迫害されていたのだと言う。

 魚人達は神に祈り続けた。
 その祈りが届いてリリーは目覚めたらしい。
 とはいえ意識を戻そうにも器である彼女が目覚めたところで一人ではどうしようも無い。

 そこでリリーは夫をその身に宿せる存在を探す様に依代を使って世界を巡った。

 そんな出来事が数万年つづく。
 私達が遊ぶ前からそれほどの歴史を刻んだ舞台だとは露知らず、プレイヤー達は降り立った。

 世界に神々の祝福が鳴り響き、リリーもその日のことはよく覚えていると語ってくれた。
 けれど海の中にまで手を広げるもの達はいなかったらしい。


≪でもマスターに出会うまでめぼしい方はいらっしゃいませんでした≫

≪リリーが面食いだったからとかじゃなく?≫


 話を茶化すと、彼女は本気で悲しそうな表情となる。


≪マスターはそうやってすぐわたくしを虐めるのですね。これでも結構傷ついているのですよ?≫

≪そうだね。でも君は悪戯で何度私をそんな気分にさせたか覚えているかね?≫

≪10から先は覚えてませんわ≫


 満面の笑みでいけしゃあしゃあと述べる。
 そう言うところだよ?
 過去の旦那さんもそれを知ってるから居眠りしてるんじゃないの? いや、起きてこられても困るんだけどさ。


≪取り敢えずリリーの気持ちはわかったよ。私が人類と魚人の橋渡しをすれば良いんだよね?≫

≪出来るのでしょうか?≫

≪その為には持っているものをなんでも使うんだよ。例えば今冠番組になりつつあるこの配信とかさ≫

≪それはあまりお勧めしませんわ≫

≪また迫害されるかもしれない。そう思うと怖いかな?≫


 リリーは黙り込む。
 過去に何度も手をかけて一度も成功しなかった人類との共存。
 それを達成できるなんて聞かされても寝耳に水だ。


≪やれるかどうかではなく、やるんだ。やってダメだったら次はよく考えてやる。人はそうやって成長してきた。魚人だってそれが出来るはずだ。過去に失敗したぐらいなんだ。できないからってイジケテ諦めたのが今の竜宮城にこもってる人たちだとしたなら、私がその性根を叩き直してやる。私が監督するからにはスパルタだよ、果たして君たちはついてこれるかな?≫

≪マスター、やはりわたくしはあなたを選んで良かったです≫

≪まだまだこれからだよ? 頑張るのも君たちなんだ。でも一度引き受けた以上、私は完遂する事を約束しよう。リリー、着いてきてくれるか?≫

≪勿論です、マスター。我ら魚人族は御身と共に≫

≪では次の配信に備えて準備してほしいものを発表する。時間はあまり残されてないぞ?≫

≪それくらい、今持ちうるコネを駆使してでも揃えて見せますわ≫

≪その意気だ。音頭取りは私に任せなさい≫

≪はい!≫


 普段のおちゃらけてるスズキさんとは違う。
 懸命に一族の悲願を願う彼女の真摯な姿がそこにはあった。
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無実の罪で謹慎中ですが、静かな暮らしが快適なので戻る気はありません

けろ
恋愛
王太子妃候補だった伯爵令嬢エレシア・ヴァレンティスは、ある日突然、身に覚えのない疑いをかけられ、婚約破棄と無期限謹慎を言い渡される。 外出禁止。職務停止。干渉禁止。 誰がどう見ても理不尽な処分――のはずだった。 けれどエレシアは、その命令を前にして気づいてしまう。 誰にも呼ばれない。誰にも期待されない。誰にも干渉されない。 それは、前世で決して手に入らなかった“静かな時間”そのものだと。 こうして始まった、誰にも邪魔されない穏やかな謹慎生活。 一方その頃、彼女を切り捨てた王城では、思わぬ方向へ事態が転がり始めて――? これは、無実の罪で閉じ込められた令嬢が、皮肉にも理想の生活を手に入れてしまう物語。 叫ばず、争わず、ただ静かに距離を取ることで完成する、異色の婚約破棄ざまぁです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。