【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
333 / 497
4章 お爺ちゃんと生配信

292.お爺ちゃんと古代獣討伐スレ民_1

しおりを挟む
「はいこんにちわ、アキカゼです」

「助っ人の魚の人だよー!」


 いつもの挨拶をしながらカメラの前で格好をつける。
 今回やってきたのはセカンドルナ。
 そして抜擢したゲストは不特定多数である。

 今回は掲示板の古代獣討伐スレを賑わせてる、難しいとされるモンスターの討伐部隊への助っ人として駆り出された訳である。
 本来なら各個人の能力に任せるべきところを、何故こんなふうにでしゃばったのかと言えば、放っておいても向こうから怪異がやってきてしまうからだ。

 ならばお目汚しをしないためにも開催中の古代獣討伐に目を向けてもらうのが一番だと考えた次第だ。


「さて、今日のゲストをご紹介しよう」

「ダララララララ、ジャン!」


 スズキさんが口でドラムロールを演出しながら、呼びかける。
 カメラの外から不慣れな演出に戸惑いながら入ってきたのは三名の男女だった。


「はじめまして『猛獣の牙』所属のサクラです。ビルドは相変わらず補助魔法特化です。アキカゼさんとはお久しぶりになりますか」


 サクラ君はトレードマークのキツネ耳をピコピコさせながら苦笑している。まさか初っ端から自分たちのパーティに来るとは想定外だったようだ。
 あの頃に比べて私の知名度はだいぶ上がったからね。
 今ではあの時ほどの気軽さは見る影もない。
 しかし知り合いアピールをちゃっかりしてくるところは、彼らしいと言えた。


「うん。確か孫のマリンやユーノ君と一緒に臨んだ空歩の称号スキルのダンジョンアタック以来だね。その節はどうも」

「お知り合いだったんですね?」

「ファストリアのイベントが終わった後にちょっとね。まさか今日来るとは知らなかったよ。たまたまそんな時もある。では次の方」

「同じく『猛獣の牙』所属のエリーシアです。スキルは長剣特化です。今日はよろしくお願いします」


 髪色と同じ薄茶のタヌキ耳と尻尾をぴょこぴょこさせた少女がキリリとした態度で丁寧に頭を下げる。
 軽く会釈したサクラ君とは大違いで規律に煩そうだ。


「最後に俺だな、同じく『猛獣の牙』所属のラングスタだ。スキルは大砲。迫撃砲などを用いてのけぞり役を任されている。ダメージソースにはなり得ないが、敵は動き回るので俺の役目は重要なんだ」


 ニカッと快活に笑いながらグレイアッシュのオオカミの耳を揺らした。
 この子達は歳格好から見て同世代。
 各々がやりたいことを特化しているのだろうけどなんとも中途半端な結果に終わっているのが惜しい。
 漆黒の帝みたいに二足歩行する狼や犬じゃないあたり、獣の特性はちょっとあれば便利な風潮だ。
 だから伸び代は低い。娘のパープルのようにファッション目当てならわかるが、本人たちは悪と真面目にやっているのだから目も当てられない。

 ただしやり方に否定をするつもりはない彼らから見たら私の方がツッコミどころ満載だからだ。
 孫世代の特徴とでも呼べばいいか。
 自ら考えずにやり込まず、他者から得た情報を取り捨て選択して手に入れてきた結果の集合体だからまあ個性があってないようなものだった。


「そうだね。取り敢えず何が足りないのか一度見させてもらうよ。戦闘に参加するのはそれからでいいかな?」

「舐めプはあまり褒められたものではありませんが」

「アキカゼさんは既に3、5を経験されてますから仕方ありませんね」

「2でも結構きついぜ。やってる事は1と同じなのにフィールドが変化するんだ。参っちまうよ」

「一応聞いているよ。しかし君たち、特効武器は持ち込んで居るのかい? あれがあればのけぞりの効果が得られるらしいじゃないか。通常武器でのダメージも与えられると聞くよ?」

「情報が古いですね、アキカゼさん」

「要は纏ってる液体を吹っ飛ばして肌を露出させればいいんだろ? それは迫撃砲だって出来るし、効果時間も長いんだ」

「情報は常に新しく変わりつつあります。特効武器でクリアされた方には悪いですが、最適解は常に進歩していくのです」


 彼らは彼らなりに考えていると言いたげだ。
 やや呆れた態度を取られたが、そこはいずれ挽回してやれば良いだろう。
 だから視聴者さんは彼らの口が悪いことをあまりせめてやらないでくれ。
 スキルの優位性は彼らの強みなんだ。


「ではパーティを組みましょうか」

「失礼ですがそちらの方も、ですか?」


 三人の目が一斉にスズキさんを見る。
 一応助っ人として呼んでもないのにきてくれた彼女。
 身内としては一緒に居てやりたいが。


「だめかな? こう見えて空を飛べるし天空の試練では世話になってる。弱いと言う事はないよ。むしろ海がメインフィールドなのに肺呼吸覚えてまで地上で生活してる彼女は珍しいと思うけど?」

「いえ、ダメとかじゃないんですけど」

「取り分が減るので」

「何のために人数減らして挑んでるのか意味がなくなると言うか」

「君たちはさ、効率重視もいいけどまずは勝率を上げることが先だよ? 取り分のことは後から考えなさい。まず勝ち筋を見つけてから人数を減らさなきゃ」

「そうだぞー、仲間外れ反対!」


 私の背中に隠れながら、ひょっこり頭だけ出して口論するスズキさん。普段から顔と体が一体化してるから隠せてるのは尾鰭だけな気がするけどきっと気にしてはいけないのだろう。


【こいつら……】
【せっかくアキカゼさんが参加してくれるって言うのに】
【完全に取り分に目がくらんでるな】
【良くも悪くも世代だな】
【まぁまぁ、実際ここで詰まるようなプレイングしかできてない奴らはこんなもんだよ】
【その言い方は失礼では?】
【ヘビーもクリアできない奴だっているんだぞ?】
【ある意味で古代獣討伐はエンドコンテンツじみてるから】
【報酬うまいのと引き換えに、難易度がおかしいからな】
【それを地雷ビルド二人旅で1、3を超えたどっかのマスターとサブマスターは……】
【あの人達は……効率とかどうでもいいから】
【むしろクリアより効率の悪い捕獲の道だからな】
【何故難易度一個飛ばしで挑戦できるのかって方が問題では?】
【単純にその時抜けてなかったからだぞ?】
【最初期からチャレンジしてるんだよなぁ、ある意味パッシヴ極でもクリアできると言わしめた走りだぞ】
【アキカゼさんがパッシヴ極は今でもネタだと思うわ】
【あの人バトルセンスはある方だぞ。それを初っ端から捨ててるのは初志貫徹で写真撮影に特化してるから】
【抜いてる情報が魔導書染みてるんですが?】
【アキカゼ異本かな?】
【ブログを魔導書扱いするのはやめて差し上げろ】


 コメント欄は誹謗中傷から何故か私に流れ弾が飛んできて、結局私の悪口で固まっていた。
 おかしい。何故?

 そこでスズキさんに肩ポンされる。
 きっといいことがありますよ? だいたい君のせいだよね?
 そう詰ると目を逸らされた。
 全くこの人はNPCとは思えないユニークな思考をしているんだから。だからこうも周囲は騙される。



 ◇



 渋々スズキさんのパーティ参加が認められ、領域内。
 先程までの余裕が嘘のように苦戦を強いられていた。
 側から見れば一方的にやられているようにしか見えない。

 しかし彼らはタイミングを見計らっていた。
 それを邪魔するのは忍びない。
 だと言うのに、コメント欄では私が遊んでいると言う指摘を受けた。解せぬ。


【何でサーフィンボードで波乗りしてるんですかねぇ?】
【草】

「それは浴びればひどい目に遭うからだよ。ね、スズキさん」

「ですです」

【お前は何故浮き輪をつけながらそのひどい目に遭う波に揺られてるんだ。ゲストは状態異常喰らってるのに呑気にドリンク飲みやがって】

「えー。僕だって邪魔にならないように頑張ってるのに。誰も努力を認めてくれないんだ。およよ……」


 嘘泣きをしながら彼女は特に悪びれもなく食事を始める。
 完全に視聴者達ををおちょくっているが、私からは何も言わない。


【アキカゼさん、助手に好き勝手やらせすぎじゃない?】

「彼女は確かに私のフレンドさんでもありクラメンさんでもある。けどついてきて欲しいとは一度のオファーしてない。だから自己責任だよ」

【また見捨てられてるやんけ】
【草】
【魚の人、暴れすぎだもんな】
【アイドル活動してる時とギャップありすぎだろ】

「プライベートぐらい自由にさせて」

【普段から自由なのに!?】

「そうだったっけ?」


 そんな茶番を繰り広げてる横で、救援要請が入った。
 助けるのはいいけど、彼らの頑張りは微塵も見えてこない。
 レイヴィアタンの耐久値は未だ90%を切っていなかった。
 何してるのさ。


【救援要請早すぎない?】
【万策尽きたにしては余力ありそう】
【ぶっちゃけ魚の人が視界の端で遊んでるからブチ切れたのでは?】
【ありそう】

「という事です責任とってスズキさんが救助に向かってください」

「イエッサー」

【アキカゼさんは?】
【助手の実力を見るのかもしれないな】
【ぶっちゃけ魚の人って強いの?】
【個人的な強さは見たことないんだよな】
【天空の試練でも賑やかし要員だったしな】

「彼女は真面目にやれば強いよ」多分金狼君といい勝負するんじゃない? こと海という環境で彼女は活きる。今までは苦手分野でバトルしてたから良いところがなかったんだよ」

【金狼レベルは流石にないだろう】
【あの人深夜組なのに普通に派生スキル数120超えてるからな】

「そういえばスズキさんの派生スキル数聞いてなかったな。いくつあるんだろ?」

「僕は140ですね。半分くらい宴会芸に突っ込んでますけど」

【は?】
【おいおいおい】
【派生数も凄いけど、苦手分野でそこまでってあり得るのか?】

「ランクは興味ないのであげてません。僕はハヤテさんとのんびり遊べればいいので」

「さてスズキさん、彼らの度肝を抜くことは出来るかな?」

「多分、何とかなると思います。全力を出す許可をもらえれば」

「許可必要なの?」

「はい」

「じゃあ許可するから頑張って」

「頑張ります!」


 まさかこの子、リリーとして戦うつもりだろうか?
 まぁ何はともあれお手並み拝見だ。

 サクラ君達は助っ人に来たのがスズキさんだけで困惑してたけど、彼女はどんな活躍を見せてくれるのだろうか。
 今から楽しみにしている私がいた。
 
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...