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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
384.お爺ちゃんと家族対抗懇親会5
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「はい、ちょっと待って天使さん」
「貴殿はアキカゼ殿か! この尋常ならざる気配の持ち主について何か詳しい説明をしてくれるのだろうか?」
天使さんは矛を納めず、険しい顔つきを私に向けた。
イ=スの民は特に警戒した様子もない。
それどころか気にした様子もなくもりもりハンバーグ君と語らっている。マイペースな人(?)だ。
「そうだね。姿を私たちの前に表さないのはその見た目が忌避されるモノだとわかっているからだ。そして彼は確かに気配が強いかもしれない。けど私たちに敵意はないよ。そこは断言させて貰おう」
「それ以前にアキカゼ殿からも似たような気配を感じるのだが?」
おっと私にも飛び火したようだ。
まぁ領域を展開してるので仕方ないか。
「その辺の説明については長くなるから省かせてもらうね。つまりだ、私と彼は君たちの崇拝する神々の領域に足を突っ込んでいるというわけだ。納得するしないはそちらにお任せするがね。あ、そこのもりもりハンバーグ君も一応ね?」
「そうなのか!? 一切気配を感じないが?」
「僕の場合は攻撃時に纏う感じなので、お義父さんほど周囲に影響出ないんですよね」
「どうせ私の能力は周囲に影響を与え続けるモノだよ」
肩をすくめ、かぶりを振る。
解除してもいいけど、それは赤の禁忌についてからにしてもらいたい。これ解除すると娘と孫が頭から真っ逆さま日常に落ちちゃうからね。流石に足場がないところでの解除は勘弁願いたい。
「その前に、青の聖獣様に案内したいのだけど許可は頂けるかな?」
「危険がないのであれば良い」
不承不承ではあるが、なんとか天使さんは納得してくれた。
「うちのお父さんてNPCからも危険視されてるんだ?」
「どうかなぁ? お義父さんほどではないと思うよ?」
もりもりハンバーグ君とその娘のさくらが話している。
どの口がそんな言葉を言うんだろうね?
古代獣戦でこれでもかと言うほど活躍しておいてさ。
何はともあれ話は通った。
出遅れ組のカズイやフィローに空導石に触れる機会を得たわけだ。既にAPを取得済みのフィール一家やうちのマリンはその光景を眺めてるだけだった。
そこにパープルがちゃっかり参加する。
「話だけは聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったのよね。綺麗ねー」
「おばちゃんも初めてだったんだ?」
「そうなのよー。主婦業との合間にゲームしてるんだけどね、なかなか空の上まで来る機会なくて」
「そうなのオクト君?」
「はい。彼女はクランでの仕事以上のことをゲーム内であまりしないんですよね。ようやく連れてくることができました。お義父さんのお陰です」
「うちの仕事が忙しいのもお父さんのせいだけどね?」
実の娘に痛いところを突かれた。
確かに彼のクランに丸投げした仕事の回数を思い返すとパープルの時間に余裕ができないのも致し方ないと思う。
だからってそんなに余裕ができないくらいに納期が詰まってたわけでもないだろう?
私だけ責められるのはなんか釈然としないなぁ。
「まぁ結果来られてれてよかったよね。と言うことで一旦青の禁忌から降りようか。天使さんも気が気じゃないみたいだし」
特にイ=スの民の気配に未だにびびっているので長い時間ここにとどまるのは精神衛生上良くないだろう。
「赤の禁忌に行ったらどうするんです? やはり試練ですか?」
「試練は各自乗り越えて貰いたいからね。私からは特に手助けはしないかな?」
「それが賢明だな。もしも手助けありなら危うく俺の苦労が無に帰すところだった」
「おや、お義兄さんは攻略に苦労したクチで?」
「うちのクランの方針でな、メンバー全員をクリアさせるのに苦心した。うちの子達の試練もうちで受け持つつもりだ。俺よりも妻が乗り気だからな」
「本当に丸くなりましたよね、シェリルさん」
「あまり言わないでやってくれ。本人も苦しんだんだ。その分今を楽しんでるよ」
「お姉ちゃんは素直じゃないから」
「パープルのようには生きられないのよ、姉さんも私も」
ヒャッコ君ともりもりハンバーグ君が、パープルとフィールがそれぞれ語り合う。
どちらも何かを羨むような眼差しを向けている。
持つべきモノと持たざるモノの違いは言い出したらキリがない。案外自分が持ってる物を自覚してない人は多いからね。
「さて、次来る時はあまり不安にさせないで欲しいものだ」
「次は配慮しますよ。怖がらせてごめんなさい」
「こ、怖がってなど!」
超越者のような姿をしながらも、どこか隙を見せる天使さんはその日から癒しキャラになっていた。
◇
ところ変わって赤の禁忌。
まだ絶賛うちのクランがイベントを行なっているので、そこら辺でヒーローショーやアイドルショーが行われている。
生憎と探偵さんは聖魔大戦で席を外しているのでいないが、くたびれた番犬が私の顔を見るなり睨みを利かせてきた。
「おんやぁ? どこの誰かと思ったら、クランイベントの企画だけしてトンズラしたクランリーダーさんじゃないですか? 今更何しに来たんですか?」
「やぁ、ジキンさん。今日もランダさんのところで管巻いてるの? 相変わらず時間の使い方が偏ってるね」
「誰?」
カズイがしょぼくれた犬のハーフビーストを見て一言述べる。
まぁこの人もオーラとかそう言うのがない人だからね。
舐められても仕方がないか。
こう見えて私とコンビで古代獣を討伐(テイム)した貢献者なんだけどね。今はタダの不貞腐れた犬だ。
「うちのクランのサブマスターさんだよ。紹介するね、ジキンさん。この子達は私の親戚。要は娘とその孫達な訳だけど」
「こんにちは! 犬のじいじ」
「はいこんにちは、マリンさん。そこのろくでなしに似ないで元気いっぱいで好感が持てるね」
「もぅ、お爺ちゃんのこと悪く言わないでよー」
「はっはっは。馴れ合いだよこんな物は。ね、マスター?」
「えー、そこで私に振るんですか? そう言うわけでマリン。お爺ちゃん達は何も仲違いしてるわけじゃないんだよ。それだけはわかってほしいな」
「なら、いいけど」
少しブー垂れてマリンが折れる。
ジキンさんは誰彼構わず喧嘩売るから相手をする私が損をするんだよね。
え、喧嘩腰になってる原因は私にある?
はっはっは。なんのことを言ってるかさっぱりわからないな。
「お久しぶりです、ジキンさん。今日はそちらのクランマスターをお借りしてすいません」
「やぁ、精錬の騎士さん。いいのいいの、この人睨みを利かせてても勝手にどっかいくから。家族が見張ってくれてるなら僕がいちいち睨みを利かせる必要なくて楽だしずっと貸し出しましょうか?」
「遠慮しておきます」
「残念。面倒ごとを押し付けられると思ったのに」
「はっはっは。いやいやそんな」
オクト君とジキンさんが満面の笑みでやり取りをする。
ねぇ、言葉上で私を押し付けあうのやめて?
私は物じゃないんだよ?
「おや、マスターじゃないか。それにアキ? 今日は団体さんで空の上まで旅行かい?」
「こんにちは、ランダさん。今日は親戚一同でゲームの中を回っているのよ。この人ったら突拍子もない企画を立てるのが得意で。忙しい中お休みもらってごめんなさいね?」
「ああ、別に客足はそんなに伸びてないから別にあたし一人でも全然余裕だけどね」
「あー、アキカゼさんくま!」
ジキンさん夫婦の商っている店の奥から、すっかりイメチェンしたくま君がその巨体をのっそりと出していた。
以前までのツキノワグマの姿では客に怯えられてたが、今のハーフビースト姿では意外と様になっていた。
「くま、下拵えは済んだのかい?」
「ばっちりくま。味見を頼みに来たくま」
「よし、僕が直々に見てやろう」
悪い顔でジキンさんが死刑宣告を告げにいく。
この人息子さんに容赦ないからな。
「やめなさい、息子相手にみっともない。それより急に押しかけてアレですが、ここでお食事って頂けます? 私たちろくに食事もせずにここまで来たんで」
「本当に急だね。でも平気だよ。ピーク時はもっとなだれ込んでくるからね。メニュー表は居るかい?」
「一応初見の子も居るからね、貰おうか」
「はいよ。くま、お客さんにお茶だしな!」
「はいくま!」
くま君もすっかり親子とのコミュニケーションが取れるようになっているね。
聖魔大戦の成長も無駄じゃなかった。
その光景をうんうんと頷きながら見ながら、近くのテーブル席に腰掛けてメニューを開いてみていく。
「さてみんな、何を食べる? 今日はお爺ちゃんの奢りだよ。言っちゃあなんだがここの料理はぼったくりだからね?」
「ちょっと、それは言いがかりよ? ランダさんの食事がこの値段で食べられるってだけで良心設定なのに」
「とはいえ一般的な見解で見ればそう思っちゃうよ。ねぇマリン?」
「ん~? そうだねぇ。でも稼いでる子はいっぱい居るし、一度食べれば損しないって思うよ? ランダさんの食事はバフが凄いから」
「そっか、今時の子は味よりもバフに注目するのが一般的か」
「そうだぜ、爺ちゃん。料理はEN回復とバフ次第だぜ?」
「それはそうなんだけどね、私はせっかく料理をいただくんなら味も楽しんでもらいたいと思うんだ。ねぇアキエさん?」
「そうね。作り手としては味わって食べて貰いたい物だわ」
「婆ちゃんもそっち派?」
カズイの純粋な視線を受け、妻が微笑む。
私たちが結婚した頃は今の時代ほど、レトルト食品が流行していなかった。
厳選した食材から一つ一つ下拵えして、そうして食卓に上がる過程を知っているからこそ。
味わう時はいつも妻の顔を見ながら美味しい美味しいと評価した。
あまり稼ぎの良くなかったあの頃、妻のやりくりで家計を回していたのを知っているからこその基準。
それを今の時代の子に押し付ける事になる。
私の基準を押し付けてしまっていいのか?
「ちゃんと味わって食べれば美味しいわよ? 美味しくて効果があればよりお得じゃない?」
「そうだな、味の方にも興味を向けてもいいか」
「そうよ。味わわないなんてもったいないわ。ね、あなた?」
「そうだね。カズイ、ここのご飯は美味しいぞ?」
「爺ちゃんのお墨付きなら楽しみにしとくか!」
「楽しみにしといていいよ」
注文は今風に手元にあるタブレットで入力するだけで厨房に届き、注文が出来次第こちらに持ってくる仕掛けだ。
「お待たせしたくまー。ダークマターのご注文の方ー」
「あ、はい私」
手を挙げたのはパープルだ。
よりにもよってそれを頼むのか。
皿の上に積み上げられた暗黒物質に注がれる視線は多い。
見た目はアレだが味はしっかりしてるその商品。
パープルも知らないわけでもないだろうに。
カズイやフィローの視線がさっきの今で急に不安なものになっている。
「あ、味はいいから。味は」
「本当ー? 真っ黒焦げじゃん」
「こう見えてAP回復効果がある空の常備薬なのよ~。うーん、おいしー。流石ランダさん」
「おばちゃん、無理してない?」
「してないわよー。おひとついかが?」
「俺はいいって。フィロー食ったら?」
「私もパス。さくら食べる?」
「じゃあ一口」
慣れてる勢は特に動揺せずに口に運んでいく。
そんな様子を見ながらカズイ達は観念してそれを口に入れた。
カリッ、サク。クラッカーのような噛み心地。
しかしとろりと内側から味覚の爆弾が流れ込んでくる。
それはまるで味のジェットコースター。
口の中で転がすたびに味覚が変わった。
その度にカズイの表情も様変わりする。
「美味い。食ったことのない味だ」
「バフも凄いのよー?」
「えっ!? なんっじゃこりゃ!」
驚きに目を白黒させるカズイ。
やはりバフが3~4つつく料理は未知の領域か。
その場で立ち上がってステータスと睨めっこしていた。
「はいはい座って~まだまだくるからね~」
パープルからの促しで次々と料理が運ばれてくる。
全員分が出揃ってから、その場で食事をシェアしながらいただいた。
相変わらずランダさんの腕前は衰えることはないようだ。
妻なんか食べながら何かをメモしていたし、まだまだ研鑽をするつもりなのだろう。もう歳だと引退を決め込むのがバカらしくなるほどのめり込んでいる。
私も彼女に負けてられないな。
食事が終わればあとは自由時間とする。
あまりログイン時間を束縛するのもどうかと思ったし、私の約束も優先したいところだったし。
領主さんはその後ヒャッコ君が引き継いでくれた。
地下フィールドに連れて行く約束もしてるし、正直赤の禁忌を行き来する足が私にはないので助かるよ。
「あなたはこれからどうするの?」
「私はそうだね~、かねてからの約束を果たしにいくよ」
「それは家族を放っておいてまで優先すべき事なのかしら?」
妻の視線が私を射抜く。
こう返されたら私も弱い。
それでも私はイエスと答えるだろう。
「ごめんね。私にとって家族が一番大事だけど、その家族以上に長い年月その場所から離れられない人が居たんだ。同じ立場を経験した私としては」
「見過ごせない。だから仕方ないと言うわけね?」
「うん」
「いいわ、行ってきなさい。孫達は私が預かっておくから。娘達にもうまく言っておくわ。あなたはあなたの目的を優先して」
「ありがとう」
「言っておきますけど、許したわけではありませんからね? 後でこの償いをしていただきます。だから、必ず帰ってくる事。良いですね?」
「勿論だとも」
妻に「あまりゲームに夢中になりすぎるなよ」と釘を刺されつつ、待たせてしまったイ=スの民に呼びかける。
「さて、そろそろ行こうか、君の祖先に会いに」
[ようやくであるか]
「その対面、僕が参加しても?」
どんな展開になるのかわからないと言うのに、もりもりハンバーグ君が興味本位で首を突っ込んでくる。
この人もまた、色々と感づいたようだ。相変わらず鋭い嗅覚を持っているね。
「構わないよ。ね?」
[ふむ。我が祖先との出会いにこれほどまでのギャラリーに出迎えられるというのは興味深いな]
「ではそう言うことで」
私の旅にもりもりハンバーグ君が付き添う事になる。
そして……
私は新しい神格武器を手に入れる事になる。
その武器の名は──
──輝くトラペゾヘドロン。
それはあらゆる時空に通じる窓。
異形化を促進する効果があり、ドリームランドでは特に『侵食』効果に補正がつくアイテム。
それは歪な形の腕輪として私の腕に括りついている。
手をかざすと正面にその窓を展開する不思議な仕掛け。
まるでステータスシステムをポップアップさせたかのようにその場に留まり続けるようだ。
その他に闇を彷徨う者を召喚できるなど、その効果は折紙付き。
でもまぁ、
「これ、僕たちには無用の長物じゃないですか? 異形化の促進でしたっけ? それも拠点化からの神格を据え置くことで可能ですし」
「だよね。でももらっちゃったしなぁ。聖魔大戦の掲示板にでも流す?」
「またパニックになるような事を……でも秘匿しててもアレですし流しちゃいましょう。欲しい人もいるでしょうから」
「じゃ、書き込むねー」
しかしこの話題は一時期魔導書プレイヤーの間でとんでもないお宝情報として再検証される事になった。
が、そもそもの前提が『七の試練でレムリア人との共同ルート』に入っている事、そして『イ=スの民から認識されている』と言う難易度の高いイベントをこなしている事なので、誰でも真似できるかと言ったらそうでもない。
その上でその両方の条件を満たしたプレイヤーは数えるほどしかいない。と言うより私だけだろうと結論づけられていた。
えー?
空の攻略で私と組んだパーティメンバーは全員可能じゃないの?
そう思ったけど、肝心の探偵さんは聖典陣営だからトラペゾヘドロン見ただけで正気度減っちゃうのでアウト。
ランダさんやアキエさんはそもそもこう言うのに興味なさそうだし。ジキンさんは論外。
なんだかんだで使い手を選ぶ難易度の高いアイテムだったようだ。
「貴殿はアキカゼ殿か! この尋常ならざる気配の持ち主について何か詳しい説明をしてくれるのだろうか?」
天使さんは矛を納めず、険しい顔つきを私に向けた。
イ=スの民は特に警戒した様子もない。
それどころか気にした様子もなくもりもりハンバーグ君と語らっている。マイペースな人(?)だ。
「そうだね。姿を私たちの前に表さないのはその見た目が忌避されるモノだとわかっているからだ。そして彼は確かに気配が強いかもしれない。けど私たちに敵意はないよ。そこは断言させて貰おう」
「それ以前にアキカゼ殿からも似たような気配を感じるのだが?」
おっと私にも飛び火したようだ。
まぁ領域を展開してるので仕方ないか。
「その辺の説明については長くなるから省かせてもらうね。つまりだ、私と彼は君たちの崇拝する神々の領域に足を突っ込んでいるというわけだ。納得するしないはそちらにお任せするがね。あ、そこのもりもりハンバーグ君も一応ね?」
「そうなのか!? 一切気配を感じないが?」
「僕の場合は攻撃時に纏う感じなので、お義父さんほど周囲に影響出ないんですよね」
「どうせ私の能力は周囲に影響を与え続けるモノだよ」
肩をすくめ、かぶりを振る。
解除してもいいけど、それは赤の禁忌についてからにしてもらいたい。これ解除すると娘と孫が頭から真っ逆さま日常に落ちちゃうからね。流石に足場がないところでの解除は勘弁願いたい。
「その前に、青の聖獣様に案内したいのだけど許可は頂けるかな?」
「危険がないのであれば良い」
不承不承ではあるが、なんとか天使さんは納得してくれた。
「うちのお父さんてNPCからも危険視されてるんだ?」
「どうかなぁ? お義父さんほどではないと思うよ?」
もりもりハンバーグ君とその娘のさくらが話している。
どの口がそんな言葉を言うんだろうね?
古代獣戦でこれでもかと言うほど活躍しておいてさ。
何はともあれ話は通った。
出遅れ組のカズイやフィローに空導石に触れる機会を得たわけだ。既にAPを取得済みのフィール一家やうちのマリンはその光景を眺めてるだけだった。
そこにパープルがちゃっかり参加する。
「話だけは聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったのよね。綺麗ねー」
「おばちゃんも初めてだったんだ?」
「そうなのよー。主婦業との合間にゲームしてるんだけどね、なかなか空の上まで来る機会なくて」
「そうなのオクト君?」
「はい。彼女はクランでの仕事以上のことをゲーム内であまりしないんですよね。ようやく連れてくることができました。お義父さんのお陰です」
「うちの仕事が忙しいのもお父さんのせいだけどね?」
実の娘に痛いところを突かれた。
確かに彼のクランに丸投げした仕事の回数を思い返すとパープルの時間に余裕ができないのも致し方ないと思う。
だからってそんなに余裕ができないくらいに納期が詰まってたわけでもないだろう?
私だけ責められるのはなんか釈然としないなぁ。
「まぁ結果来られてれてよかったよね。と言うことで一旦青の禁忌から降りようか。天使さんも気が気じゃないみたいだし」
特にイ=スの民の気配に未だにびびっているので長い時間ここにとどまるのは精神衛生上良くないだろう。
「赤の禁忌に行ったらどうするんです? やはり試練ですか?」
「試練は各自乗り越えて貰いたいからね。私からは特に手助けはしないかな?」
「それが賢明だな。もしも手助けありなら危うく俺の苦労が無に帰すところだった」
「おや、お義兄さんは攻略に苦労したクチで?」
「うちのクランの方針でな、メンバー全員をクリアさせるのに苦心した。うちの子達の試練もうちで受け持つつもりだ。俺よりも妻が乗り気だからな」
「本当に丸くなりましたよね、シェリルさん」
「あまり言わないでやってくれ。本人も苦しんだんだ。その分今を楽しんでるよ」
「お姉ちゃんは素直じゃないから」
「パープルのようには生きられないのよ、姉さんも私も」
ヒャッコ君ともりもりハンバーグ君が、パープルとフィールがそれぞれ語り合う。
どちらも何かを羨むような眼差しを向けている。
持つべきモノと持たざるモノの違いは言い出したらキリがない。案外自分が持ってる物を自覚してない人は多いからね。
「さて、次来る時はあまり不安にさせないで欲しいものだ」
「次は配慮しますよ。怖がらせてごめんなさい」
「こ、怖がってなど!」
超越者のような姿をしながらも、どこか隙を見せる天使さんはその日から癒しキャラになっていた。
◇
ところ変わって赤の禁忌。
まだ絶賛うちのクランがイベントを行なっているので、そこら辺でヒーローショーやアイドルショーが行われている。
生憎と探偵さんは聖魔大戦で席を外しているのでいないが、くたびれた番犬が私の顔を見るなり睨みを利かせてきた。
「おんやぁ? どこの誰かと思ったら、クランイベントの企画だけしてトンズラしたクランリーダーさんじゃないですか? 今更何しに来たんですか?」
「やぁ、ジキンさん。今日もランダさんのところで管巻いてるの? 相変わらず時間の使い方が偏ってるね」
「誰?」
カズイがしょぼくれた犬のハーフビーストを見て一言述べる。
まぁこの人もオーラとかそう言うのがない人だからね。
舐められても仕方がないか。
こう見えて私とコンビで古代獣を討伐(テイム)した貢献者なんだけどね。今はタダの不貞腐れた犬だ。
「うちのクランのサブマスターさんだよ。紹介するね、ジキンさん。この子達は私の親戚。要は娘とその孫達な訳だけど」
「こんにちは! 犬のじいじ」
「はいこんにちは、マリンさん。そこのろくでなしに似ないで元気いっぱいで好感が持てるね」
「もぅ、お爺ちゃんのこと悪く言わないでよー」
「はっはっは。馴れ合いだよこんな物は。ね、マスター?」
「えー、そこで私に振るんですか? そう言うわけでマリン。お爺ちゃん達は何も仲違いしてるわけじゃないんだよ。それだけはわかってほしいな」
「なら、いいけど」
少しブー垂れてマリンが折れる。
ジキンさんは誰彼構わず喧嘩売るから相手をする私が損をするんだよね。
え、喧嘩腰になってる原因は私にある?
はっはっは。なんのことを言ってるかさっぱりわからないな。
「お久しぶりです、ジキンさん。今日はそちらのクランマスターをお借りしてすいません」
「やぁ、精錬の騎士さん。いいのいいの、この人睨みを利かせてても勝手にどっかいくから。家族が見張ってくれてるなら僕がいちいち睨みを利かせる必要なくて楽だしずっと貸し出しましょうか?」
「遠慮しておきます」
「残念。面倒ごとを押し付けられると思ったのに」
「はっはっは。いやいやそんな」
オクト君とジキンさんが満面の笑みでやり取りをする。
ねぇ、言葉上で私を押し付けあうのやめて?
私は物じゃないんだよ?
「おや、マスターじゃないか。それにアキ? 今日は団体さんで空の上まで旅行かい?」
「こんにちは、ランダさん。今日は親戚一同でゲームの中を回っているのよ。この人ったら突拍子もない企画を立てるのが得意で。忙しい中お休みもらってごめんなさいね?」
「ああ、別に客足はそんなに伸びてないから別にあたし一人でも全然余裕だけどね」
「あー、アキカゼさんくま!」
ジキンさん夫婦の商っている店の奥から、すっかりイメチェンしたくま君がその巨体をのっそりと出していた。
以前までのツキノワグマの姿では客に怯えられてたが、今のハーフビースト姿では意外と様になっていた。
「くま、下拵えは済んだのかい?」
「ばっちりくま。味見を頼みに来たくま」
「よし、僕が直々に見てやろう」
悪い顔でジキンさんが死刑宣告を告げにいく。
この人息子さんに容赦ないからな。
「やめなさい、息子相手にみっともない。それより急に押しかけてアレですが、ここでお食事って頂けます? 私たちろくに食事もせずにここまで来たんで」
「本当に急だね。でも平気だよ。ピーク時はもっとなだれ込んでくるからね。メニュー表は居るかい?」
「一応初見の子も居るからね、貰おうか」
「はいよ。くま、お客さんにお茶だしな!」
「はいくま!」
くま君もすっかり親子とのコミュニケーションが取れるようになっているね。
聖魔大戦の成長も無駄じゃなかった。
その光景をうんうんと頷きながら見ながら、近くのテーブル席に腰掛けてメニューを開いてみていく。
「さてみんな、何を食べる? 今日はお爺ちゃんの奢りだよ。言っちゃあなんだがここの料理はぼったくりだからね?」
「ちょっと、それは言いがかりよ? ランダさんの食事がこの値段で食べられるってだけで良心設定なのに」
「とはいえ一般的な見解で見ればそう思っちゃうよ。ねぇマリン?」
「ん~? そうだねぇ。でも稼いでる子はいっぱい居るし、一度食べれば損しないって思うよ? ランダさんの食事はバフが凄いから」
「そっか、今時の子は味よりもバフに注目するのが一般的か」
「そうだぜ、爺ちゃん。料理はEN回復とバフ次第だぜ?」
「それはそうなんだけどね、私はせっかく料理をいただくんなら味も楽しんでもらいたいと思うんだ。ねぇアキエさん?」
「そうね。作り手としては味わって食べて貰いたい物だわ」
「婆ちゃんもそっち派?」
カズイの純粋な視線を受け、妻が微笑む。
私たちが結婚した頃は今の時代ほど、レトルト食品が流行していなかった。
厳選した食材から一つ一つ下拵えして、そうして食卓に上がる過程を知っているからこそ。
味わう時はいつも妻の顔を見ながら美味しい美味しいと評価した。
あまり稼ぎの良くなかったあの頃、妻のやりくりで家計を回していたのを知っているからこその基準。
それを今の時代の子に押し付ける事になる。
私の基準を押し付けてしまっていいのか?
「ちゃんと味わって食べれば美味しいわよ? 美味しくて効果があればよりお得じゃない?」
「そうだな、味の方にも興味を向けてもいいか」
「そうよ。味わわないなんてもったいないわ。ね、あなた?」
「そうだね。カズイ、ここのご飯は美味しいぞ?」
「爺ちゃんのお墨付きなら楽しみにしとくか!」
「楽しみにしといていいよ」
注文は今風に手元にあるタブレットで入力するだけで厨房に届き、注文が出来次第こちらに持ってくる仕掛けだ。
「お待たせしたくまー。ダークマターのご注文の方ー」
「あ、はい私」
手を挙げたのはパープルだ。
よりにもよってそれを頼むのか。
皿の上に積み上げられた暗黒物質に注がれる視線は多い。
見た目はアレだが味はしっかりしてるその商品。
パープルも知らないわけでもないだろうに。
カズイやフィローの視線がさっきの今で急に不安なものになっている。
「あ、味はいいから。味は」
「本当ー? 真っ黒焦げじゃん」
「こう見えてAP回復効果がある空の常備薬なのよ~。うーん、おいしー。流石ランダさん」
「おばちゃん、無理してない?」
「してないわよー。おひとついかが?」
「俺はいいって。フィロー食ったら?」
「私もパス。さくら食べる?」
「じゃあ一口」
慣れてる勢は特に動揺せずに口に運んでいく。
そんな様子を見ながらカズイ達は観念してそれを口に入れた。
カリッ、サク。クラッカーのような噛み心地。
しかしとろりと内側から味覚の爆弾が流れ込んでくる。
それはまるで味のジェットコースター。
口の中で転がすたびに味覚が変わった。
その度にカズイの表情も様変わりする。
「美味い。食ったことのない味だ」
「バフも凄いのよー?」
「えっ!? なんっじゃこりゃ!」
驚きに目を白黒させるカズイ。
やはりバフが3~4つつく料理は未知の領域か。
その場で立ち上がってステータスと睨めっこしていた。
「はいはい座って~まだまだくるからね~」
パープルからの促しで次々と料理が運ばれてくる。
全員分が出揃ってから、その場で食事をシェアしながらいただいた。
相変わらずランダさんの腕前は衰えることはないようだ。
妻なんか食べながら何かをメモしていたし、まだまだ研鑽をするつもりなのだろう。もう歳だと引退を決め込むのがバカらしくなるほどのめり込んでいる。
私も彼女に負けてられないな。
食事が終わればあとは自由時間とする。
あまりログイン時間を束縛するのもどうかと思ったし、私の約束も優先したいところだったし。
領主さんはその後ヒャッコ君が引き継いでくれた。
地下フィールドに連れて行く約束もしてるし、正直赤の禁忌を行き来する足が私にはないので助かるよ。
「あなたはこれからどうするの?」
「私はそうだね~、かねてからの約束を果たしにいくよ」
「それは家族を放っておいてまで優先すべき事なのかしら?」
妻の視線が私を射抜く。
こう返されたら私も弱い。
それでも私はイエスと答えるだろう。
「ごめんね。私にとって家族が一番大事だけど、その家族以上に長い年月その場所から離れられない人が居たんだ。同じ立場を経験した私としては」
「見過ごせない。だから仕方ないと言うわけね?」
「うん」
「いいわ、行ってきなさい。孫達は私が預かっておくから。娘達にもうまく言っておくわ。あなたはあなたの目的を優先して」
「ありがとう」
「言っておきますけど、許したわけではありませんからね? 後でこの償いをしていただきます。だから、必ず帰ってくる事。良いですね?」
「勿論だとも」
妻に「あまりゲームに夢中になりすぎるなよ」と釘を刺されつつ、待たせてしまったイ=スの民に呼びかける。
「さて、そろそろ行こうか、君の祖先に会いに」
[ようやくであるか]
「その対面、僕が参加しても?」
どんな展開になるのかわからないと言うのに、もりもりハンバーグ君が興味本位で首を突っ込んでくる。
この人もまた、色々と感づいたようだ。相変わらず鋭い嗅覚を持っているね。
「構わないよ。ね?」
[ふむ。我が祖先との出会いにこれほどまでのギャラリーに出迎えられるというのは興味深いな]
「ではそう言うことで」
私の旅にもりもりハンバーグ君が付き添う事になる。
そして……
私は新しい神格武器を手に入れる事になる。
その武器の名は──
──輝くトラペゾヘドロン。
それはあらゆる時空に通じる窓。
異形化を促進する効果があり、ドリームランドでは特に『侵食』効果に補正がつくアイテム。
それは歪な形の腕輪として私の腕に括りついている。
手をかざすと正面にその窓を展開する不思議な仕掛け。
まるでステータスシステムをポップアップさせたかのようにその場に留まり続けるようだ。
その他に闇を彷徨う者を召喚できるなど、その効果は折紙付き。
でもまぁ、
「これ、僕たちには無用の長物じゃないですか? 異形化の促進でしたっけ? それも拠点化からの神格を据え置くことで可能ですし」
「だよね。でももらっちゃったしなぁ。聖魔大戦の掲示板にでも流す?」
「またパニックになるような事を……でも秘匿しててもアレですし流しちゃいましょう。欲しい人もいるでしょうから」
「じゃ、書き込むねー」
しかしこの話題は一時期魔導書プレイヤーの間でとんでもないお宝情報として再検証される事になった。
が、そもそもの前提が『七の試練でレムリア人との共同ルート』に入っている事、そして『イ=スの民から認識されている』と言う難易度の高いイベントをこなしている事なので、誰でも真似できるかと言ったらそうでもない。
その上でその両方の条件を満たしたプレイヤーは数えるほどしかいない。と言うより私だけだろうと結論づけられていた。
えー?
空の攻略で私と組んだパーティメンバーは全員可能じゃないの?
そう思ったけど、肝心の探偵さんは聖典陣営だからトラペゾヘドロン見ただけで正気度減っちゃうのでアウト。
ランダさんやアキエさんはそもそもこう言うのに興味なさそうだし。ジキンさんは論外。
なんだかんだで使い手を選ぶ難易度の高いアイテムだったようだ。
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“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
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