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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
385.お爺ちゃんと後任ライダー1
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第一回聖魔大戦が終了して一週間。
シェリル達が第二回に向けて準備している。
次こそ勝利をもぎ取ると息巻いていたが、積極的な彼女達が居ても新しく入るメンツ如何では心配だ。
何せ探索勢がどざえもんさんくらいしかいないし、そのどざえもんさんですら第一回であまりポイントを得られなかった結果に終わった。
そういう意味でも次は荒れそうだと掲示板で噂されている。
私? 私はその件に関してはノータッチだよ。
だって向こう側は自分で考えて辿り着かなければ神格側が話しかけてこないもの。
私の考えだと、如何に自分の信仰する神様に協力してもらうかが鍵なんだ。本人がどれだけ頑張ったって興味を惹かれない事が多いよ。
それはシェリル達を見てればわかる事だ。彼女達はそれで自信を無くしてしまったからね。
だから他人の真似をしたって内側に潜む神様が協力してくれる可能性は低い。
そもそも聖典と魔導書では性格からして違うから私の教えなんてなんの役にも立たないよ。
だったら後任を育てた方がまだ有意義じゃない?
私個人のコツを教えられる相手って限られてくるからね。
それはルルイエ異本の適任者という共通点。
私はこれからその人物と出会う約束を取り付けていた。
かの御仁は娘のパープルの同級生という話だ。
世間の狭さを感じつつも私はその人物と待ち合わせしてる場所へと向かった。
そこは始まりの街ファストリア。
私にとっても色々始まった場所でもあった。
「やぁこんにちは。君が今回のルルイエ異本の資格者かな?」
「はい。しろろんと言います。今日はよろしくお願いします」
ヒューマンタイプのハーフマリナーでスキルビルドは私と同じくパッシヴ極。陣営にはまだ属してないという。
なんでも始めたのがつい最近だというのだから驚きだ。
「しろろん氏はご近所さんだという話だけど。いや、うちの娘がね?」
「いえ、僕は遠くの学校から転校してきた生徒で近所というほど近所でもないんですよ。何せ通いでしたんで」
「あ、そうなんだね。パープルめ、適当な事を」
「あはは、彼女も僕の家庭の事情までは知らないですよ。この事はどうかご内密に」
「そうだね、そういうこともあるか。それでは早速ご案内しようか。まだ断片もまだなのだろう?」
「あ、今回は別に図書館まで案内して欲しいわけではないんです」
早速私が最寄りの図書館に案内しようとしたところを、彼は否定するように首を振る。
私のファンだと言うからてっきり……既に行動をなぞった後だったか?
「では私とお話ししたかっただけだったかな?」
「そう言うのとも違うと言うか」
「ふむ、ではなんだろうか?」
なにも思い当たる節が見つからず、思案していると突如しろろん氏がその場で蹲って頭を地面に擦り付けた。
「ちょ、ちょっと! なにやってんの?」
「どうか僕をアキカゼさんの弟子にしていただきたく、今日は頼みに来た次第です!」
「分かった、分かったからもう土下座やめて。周囲の視線が痛いから、ね?」
「本当ですか!? 本当に僕を弟子にしていただけるんですか?」
がばりと起き上がるなり、感涙しながら詰め寄るしろろん氏。
直情的な人だなぁ。
ぱっと見はおとなしそうな人なのに。
すると、私の影から呼んでもないのにスズキさんが現れる。
「|◉〻◉)ハヤテさんの弟子になりたかったらまず最初に僕を倒してからにしてください!」
バァーンという文字の背景を背負って、格好つけながらしろろん氏と向き合う。
なにやってんだろうこの人。
「く、これが噂の一番弟子の貫禄!?」
「違う違う、そんな資格要らないから。スズキさんもそんなに焚き付けないの」
「|◉〻◉)あぁん、ハヤテさんがいじめるー」
「いじめてない、いじめてない。しろろん氏もごめんね? この子思い込みが激しいから。シッシッ」
「|◉〻◉)ひどい! 野良犬を追い払うみたいにされた! お姉ちゃんに言いつけてやるー!」
ダッっとその場から駆け出して人混みに混ざって消えるスズキさん。
先程までの喧騒は嘘のように静まり返った。
なにこの茶番?
自分で仕組んでない時ほど驚かされるものだ。
「しろろん氏?」
「ぼ、僕も彼女に追いつけるようになりたいです!」
いや、彼女のようにだけはならないでね?
私はそれを強く願うばかりだった。
さて、弟子もなにも私は彼のことをパープルから聞いた以外はなにも知らないのだ。
私のファンであること、そして同じようなパッシヴを揃えていること以外は謎に満ちている。
あとベルトを授かったという共通点はあるものの、やっぱり分からないことだらけだ。
「そういえばしろろん氏、釣りってした事ある?」
「同胞を釣り上げろと?」
「あぁ、うん。種族的にはそうなっちゃうね。じゃなくてリアルの方でさ?」
「あぁ、そういうのでしたら無理ですね。僕は今でこそこうやって動けてますが、今は寝たきりの生活を送ってますので」
「そうなの?」
「あっ! でも寝たきりなのは学生時代からで、学校も車椅子で通学してたんですよ?」
「何かのご病気?」
「僕、生まれつき足がないんです。未発達なまま生まれてきちゃって、こうやって立って歩く事がずっと夢でした。でも他のVRで遊んでてもやりたいことはこれじゃないって。もっと違う事がしたい時にお宅のパープルさんからアキカゼさんの情報記録をいただき、感銘を受けてこちらのゲームにご招待頂いたんです。それまではどこか自分の心を騙していたと言いますか、ゲームで遊んでる意外での感動は薄かったと言いますか」
「あぁ、パープル経由というのはそういう事か」
つまり彼は私の行動記録に感銘を受けたクチ。
普段動かない肉体を動かせるVR空間でそれこそリアルの延長線のように好き勝手やってる私を見て自分もそうやって遊びたいとこちらにやってきたわけだ。
なら直接答えを教えるのは野暮だな。
それは彼の自由度を奪う事になる。
私はここに至ってようやく自分の心より欲した同志を獲得したわけだ。
「ようこそAWOの世界へ、しろろん氏。ここはまさに君にうってつけの世界だ。さぁ、思う存分君の欲求を満たそうじゃないか」
私の言葉を聞き、息を呑むしろろん氏。
ようやく聞きたかった言葉を聞けたという顔だ。
私以外のみんなはただのゲームだと思ってるこの世界。
しかし実際に経験した私だからこそ実感する違和感。
それはリアル以上にリアルな謎の数々がすぐ隣に置き去りにされているという事だった。
言うなればミステリーがすぐ隣にあるのだ。
通常のゲームではまずお目にかかれない。
特にこのゲームのようにファンタジーを装っておきながらSFを全面に押し出してる作品はあまりお目にかかった事がないよ、私は。
「ありがとうございますアキカゼさん。誰も僕の本心に気づいてくれずにずっと息苦しい思いをしていました。ですが私の思った通り、貴方は違った。私の気持ちを汲んでくれる人だった。貴方との出会いをこれほど感謝した日はありません」
「君も大袈裟な人だね。でもまぁ、気持ちはわかるよ。まずはなにをしてみたい? 水泳はもう堪能した?」
「ハーフマリナーの能力でなら何度か」
「ふむ。では人のままでは未経験だね? 着いてきなさい。とっておきの鍛錬場がある」
「あの、私は水泳はリアルで体験した事がなくてですね……どうしても足が届かないのと泳げないのもあって」
「現時点で立って歩けるのなら問題はないよ。今スキル派生はいくつ?」
「6つです」
「始めたばかりにしては多いね。私なんて開始して一ヶ月かかって3個だったよ? 君は素質がある方だ。自信を持ちなさい」
「でも掲示板では……」
「君は自分より健康で動けるのが当たり前の人の情報を鵜呑みにするの? さっきまでそれが嫌だと言ってた人の言動とは思えないな」
「! 迂闊でした。僕とした事が、自分で嫌ってる行動を自ら実践していたのですね……」
「自分のペースで良いんだよ、何事もね。誰かの真似をする必要はないんだ。特にこのゲームの派生先は千差万別だ。能力で泳ぐのも良いが、せっかくのパッシヴ極。好きな方向に伸ばしていきたいと思わない?」
「ごもっともです。どうか私にも機会を頂きたく」
「機会なんて待つ必要もなければ誰かにもらうものではないよ。自分で作るものだ。そうでしょ」
「はい」
しろろん氏は先程までの少し自信なさげな自分を叱咤する様に表情を強張らせると、柔和な笑みを浮かべて緊張をほぐしていた。
ようやく思い込みによる洗脳が解けたようだ。
案外直情型なのかもね。
「ではこっちだ。とっておきの場所があるんだ」
クエストを受けにギルドへと赴くと、そこではウエスタンハットを被ってサングラスをかけたスズキさんがクエストボードの前で待ち構えていた。
邪魔だよ、他のプレイヤーの邪魔しないの。
その頭を掴んで横にどかし、目的のクエストを受け取る。
すぐ横では涙を流しながら悔しそうにするスズキさん。
「あの、一緒に連れて行ってあげた方がいいんじゃ? 放っておいたらこの先ずっと出張ってきますよ?」
「しろろん氏がいいなら私は構わないけど……」
「|◉〻◉)僕、君を誤解してました。これから仲良くしようじゃないか、弟弟子よ」
「君は姉弟子ですらないでしょ?」
「|◉〻◉)!」
「アキカゼさん、僕は大丈夫ですから。よろしくお願いします、姉弟子!」
「|◉〻◉)ふはは、君は出来た弟弟子だね。ハヤテさんも隅におけないなぁ。このこのぉ!」
仕方なく、スズキさんの同行を許可した。
別に仲間外れにするつもりはこれっぽっちもないけど、この人そばに置いておくと話が明後日の方向に飛ぶから置いときたくないんだよねぇ。
すぐ会話も脱線するし。
配信時は都合がいいから放っておいたけど、日常的にいられていいことはあまりない。
息が詰まりそうな空間では大いに役立つんだけどね?
何度も助けてもらってるけど、それ以上に迷惑をかけられてる回数も間違いなく多いからなぁ。
結局幻影だったことも隠し通されたままだし。
「着いてきてもいいけど邪魔だけはしないでよ?」
「|◉〻◉)僕が失敗しても次の僕が成功すれば許してくれますか?」
「ダメ」
「|>〻<)うわぁあああん」
「姉弟子、僕に色々教えてくださいね?」
「|◉〻◉)もうハヤテさんなんて知らない! 僕は弟弟子と仲良く暮らすんだ~」
なんだかんだと愉快なお供を連れて私はドブ攫いクエストに挑む。
まぁ難易度も結構高いことながらここに居るのは生粋の魚人とハーフマリナー。
すぐさまクエストをクリアしてチェーンクエストを発動させた。
そして現れる水、水、水。
貯水庫の奥に迷い込んでしまったかのように、しろろん氏がすぐさまハーフマリナーの魚人モードにシフトしてしまう。
スズキさんに至っては先に先に行こうとする。
こらこら、しろろん氏はここで修行していくんだから先に行ったらダメだよ?
弟子を得られて嬉しい気持ちはわかるけど、もう少し弟子のことを考えなきゃ。
幸先が不安なパーティメンバーの行動に目を瞑りつつ、私は精神論から解いていく事にした。
シェリル達が第二回に向けて準備している。
次こそ勝利をもぎ取ると息巻いていたが、積極的な彼女達が居ても新しく入るメンツ如何では心配だ。
何せ探索勢がどざえもんさんくらいしかいないし、そのどざえもんさんですら第一回であまりポイントを得られなかった結果に終わった。
そういう意味でも次は荒れそうだと掲示板で噂されている。
私? 私はその件に関してはノータッチだよ。
だって向こう側は自分で考えて辿り着かなければ神格側が話しかけてこないもの。
私の考えだと、如何に自分の信仰する神様に協力してもらうかが鍵なんだ。本人がどれだけ頑張ったって興味を惹かれない事が多いよ。
それはシェリル達を見てればわかる事だ。彼女達はそれで自信を無くしてしまったからね。
だから他人の真似をしたって内側に潜む神様が協力してくれる可能性は低い。
そもそも聖典と魔導書では性格からして違うから私の教えなんてなんの役にも立たないよ。
だったら後任を育てた方がまだ有意義じゃない?
私個人のコツを教えられる相手って限られてくるからね。
それはルルイエ異本の適任者という共通点。
私はこれからその人物と出会う約束を取り付けていた。
かの御仁は娘のパープルの同級生という話だ。
世間の狭さを感じつつも私はその人物と待ち合わせしてる場所へと向かった。
そこは始まりの街ファストリア。
私にとっても色々始まった場所でもあった。
「やぁこんにちは。君が今回のルルイエ異本の資格者かな?」
「はい。しろろんと言います。今日はよろしくお願いします」
ヒューマンタイプのハーフマリナーでスキルビルドは私と同じくパッシヴ極。陣営にはまだ属してないという。
なんでも始めたのがつい最近だというのだから驚きだ。
「しろろん氏はご近所さんだという話だけど。いや、うちの娘がね?」
「いえ、僕は遠くの学校から転校してきた生徒で近所というほど近所でもないんですよ。何せ通いでしたんで」
「あ、そうなんだね。パープルめ、適当な事を」
「あはは、彼女も僕の家庭の事情までは知らないですよ。この事はどうかご内密に」
「そうだね、そういうこともあるか。それでは早速ご案内しようか。まだ断片もまだなのだろう?」
「あ、今回は別に図書館まで案内して欲しいわけではないんです」
早速私が最寄りの図書館に案内しようとしたところを、彼は否定するように首を振る。
私のファンだと言うからてっきり……既に行動をなぞった後だったか?
「では私とお話ししたかっただけだったかな?」
「そう言うのとも違うと言うか」
「ふむ、ではなんだろうか?」
なにも思い当たる節が見つからず、思案していると突如しろろん氏がその場で蹲って頭を地面に擦り付けた。
「ちょ、ちょっと! なにやってんの?」
「どうか僕をアキカゼさんの弟子にしていただきたく、今日は頼みに来た次第です!」
「分かった、分かったからもう土下座やめて。周囲の視線が痛いから、ね?」
「本当ですか!? 本当に僕を弟子にしていただけるんですか?」
がばりと起き上がるなり、感涙しながら詰め寄るしろろん氏。
直情的な人だなぁ。
ぱっと見はおとなしそうな人なのに。
すると、私の影から呼んでもないのにスズキさんが現れる。
「|◉〻◉)ハヤテさんの弟子になりたかったらまず最初に僕を倒してからにしてください!」
バァーンという文字の背景を背負って、格好つけながらしろろん氏と向き合う。
なにやってんだろうこの人。
「く、これが噂の一番弟子の貫禄!?」
「違う違う、そんな資格要らないから。スズキさんもそんなに焚き付けないの」
「|◉〻◉)あぁん、ハヤテさんがいじめるー」
「いじめてない、いじめてない。しろろん氏もごめんね? この子思い込みが激しいから。シッシッ」
「|◉〻◉)ひどい! 野良犬を追い払うみたいにされた! お姉ちゃんに言いつけてやるー!」
ダッっとその場から駆け出して人混みに混ざって消えるスズキさん。
先程までの喧騒は嘘のように静まり返った。
なにこの茶番?
自分で仕組んでない時ほど驚かされるものだ。
「しろろん氏?」
「ぼ、僕も彼女に追いつけるようになりたいです!」
いや、彼女のようにだけはならないでね?
私はそれを強く願うばかりだった。
さて、弟子もなにも私は彼のことをパープルから聞いた以外はなにも知らないのだ。
私のファンであること、そして同じようなパッシヴを揃えていること以外は謎に満ちている。
あとベルトを授かったという共通点はあるものの、やっぱり分からないことだらけだ。
「そういえばしろろん氏、釣りってした事ある?」
「同胞を釣り上げろと?」
「あぁ、うん。種族的にはそうなっちゃうね。じゃなくてリアルの方でさ?」
「あぁ、そういうのでしたら無理ですね。僕は今でこそこうやって動けてますが、今は寝たきりの生活を送ってますので」
「そうなの?」
「あっ! でも寝たきりなのは学生時代からで、学校も車椅子で通学してたんですよ?」
「何かのご病気?」
「僕、生まれつき足がないんです。未発達なまま生まれてきちゃって、こうやって立って歩く事がずっと夢でした。でも他のVRで遊んでてもやりたいことはこれじゃないって。もっと違う事がしたい時にお宅のパープルさんからアキカゼさんの情報記録をいただき、感銘を受けてこちらのゲームにご招待頂いたんです。それまではどこか自分の心を騙していたと言いますか、ゲームで遊んでる意外での感動は薄かったと言いますか」
「あぁ、パープル経由というのはそういう事か」
つまり彼は私の行動記録に感銘を受けたクチ。
普段動かない肉体を動かせるVR空間でそれこそリアルの延長線のように好き勝手やってる私を見て自分もそうやって遊びたいとこちらにやってきたわけだ。
なら直接答えを教えるのは野暮だな。
それは彼の自由度を奪う事になる。
私はここに至ってようやく自分の心より欲した同志を獲得したわけだ。
「ようこそAWOの世界へ、しろろん氏。ここはまさに君にうってつけの世界だ。さぁ、思う存分君の欲求を満たそうじゃないか」
私の言葉を聞き、息を呑むしろろん氏。
ようやく聞きたかった言葉を聞けたという顔だ。
私以外のみんなはただのゲームだと思ってるこの世界。
しかし実際に経験した私だからこそ実感する違和感。
それはリアル以上にリアルな謎の数々がすぐ隣に置き去りにされているという事だった。
言うなればミステリーがすぐ隣にあるのだ。
通常のゲームではまずお目にかかれない。
特にこのゲームのようにファンタジーを装っておきながらSFを全面に押し出してる作品はあまりお目にかかった事がないよ、私は。
「ありがとうございますアキカゼさん。誰も僕の本心に気づいてくれずにずっと息苦しい思いをしていました。ですが私の思った通り、貴方は違った。私の気持ちを汲んでくれる人だった。貴方との出会いをこれほど感謝した日はありません」
「君も大袈裟な人だね。でもまぁ、気持ちはわかるよ。まずはなにをしてみたい? 水泳はもう堪能した?」
「ハーフマリナーの能力でなら何度か」
「ふむ。では人のままでは未経験だね? 着いてきなさい。とっておきの鍛錬場がある」
「あの、私は水泳はリアルで体験した事がなくてですね……どうしても足が届かないのと泳げないのもあって」
「現時点で立って歩けるのなら問題はないよ。今スキル派生はいくつ?」
「6つです」
「始めたばかりにしては多いね。私なんて開始して一ヶ月かかって3個だったよ? 君は素質がある方だ。自信を持ちなさい」
「でも掲示板では……」
「君は自分より健康で動けるのが当たり前の人の情報を鵜呑みにするの? さっきまでそれが嫌だと言ってた人の言動とは思えないな」
「! 迂闊でした。僕とした事が、自分で嫌ってる行動を自ら実践していたのですね……」
「自分のペースで良いんだよ、何事もね。誰かの真似をする必要はないんだ。特にこのゲームの派生先は千差万別だ。能力で泳ぐのも良いが、せっかくのパッシヴ極。好きな方向に伸ばしていきたいと思わない?」
「ごもっともです。どうか私にも機会を頂きたく」
「機会なんて待つ必要もなければ誰かにもらうものではないよ。自分で作るものだ。そうでしょ」
「はい」
しろろん氏は先程までの少し自信なさげな自分を叱咤する様に表情を強張らせると、柔和な笑みを浮かべて緊張をほぐしていた。
ようやく思い込みによる洗脳が解けたようだ。
案外直情型なのかもね。
「ではこっちだ。とっておきの場所があるんだ」
クエストを受けにギルドへと赴くと、そこではウエスタンハットを被ってサングラスをかけたスズキさんがクエストボードの前で待ち構えていた。
邪魔だよ、他のプレイヤーの邪魔しないの。
その頭を掴んで横にどかし、目的のクエストを受け取る。
すぐ横では涙を流しながら悔しそうにするスズキさん。
「あの、一緒に連れて行ってあげた方がいいんじゃ? 放っておいたらこの先ずっと出張ってきますよ?」
「しろろん氏がいいなら私は構わないけど……」
「|◉〻◉)僕、君を誤解してました。これから仲良くしようじゃないか、弟弟子よ」
「君は姉弟子ですらないでしょ?」
「|◉〻◉)!」
「アキカゼさん、僕は大丈夫ですから。よろしくお願いします、姉弟子!」
「|◉〻◉)ふはは、君は出来た弟弟子だね。ハヤテさんも隅におけないなぁ。このこのぉ!」
仕方なく、スズキさんの同行を許可した。
別に仲間外れにするつもりはこれっぽっちもないけど、この人そばに置いておくと話が明後日の方向に飛ぶから置いときたくないんだよねぇ。
すぐ会話も脱線するし。
配信時は都合がいいから放っておいたけど、日常的にいられていいことはあまりない。
息が詰まりそうな空間では大いに役立つんだけどね?
何度も助けてもらってるけど、それ以上に迷惑をかけられてる回数も間違いなく多いからなぁ。
結局幻影だったことも隠し通されたままだし。
「着いてきてもいいけど邪魔だけはしないでよ?」
「|◉〻◉)僕が失敗しても次の僕が成功すれば許してくれますか?」
「ダメ」
「|>〻<)うわぁあああん」
「姉弟子、僕に色々教えてくださいね?」
「|◉〻◉)もうハヤテさんなんて知らない! 僕は弟弟子と仲良く暮らすんだ~」
なんだかんだと愉快なお供を連れて私はドブ攫いクエストに挑む。
まぁ難易度も結構高いことながらここに居るのは生粋の魚人とハーフマリナー。
すぐさまクエストをクリアしてチェーンクエストを発動させた。
そして現れる水、水、水。
貯水庫の奥に迷い込んでしまったかのように、しろろん氏がすぐさまハーフマリナーの魚人モードにシフトしてしまう。
スズキさんに至っては先に先に行こうとする。
こらこら、しろろん氏はここで修行していくんだから先に行ったらダメだよ?
弟子を得られて嬉しい気持ちはわかるけど、もう少し弟子のことを考えなきゃ。
幸先が不安なパーティメンバーの行動に目を瞑りつつ、私は精神論から解いていく事にした。
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