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双葉 鳴

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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

395.お爺ちゃんのドリームランド探訪7

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 昼食を食べ終えた私は、ブログを書き終えた後再び銀の鍵を用いてドリームランドに赴く。
 ただ午前中に赴いたマナの大木から行くのではなく、別の場所から行ってみてもいいかなと現在列車に揺られていた。

 ある程度それっぽいところは確認済みで、ただそこまで行くのはライダーくらいだろう。
 今のうちに検証を兼ねておくのも悪くないと呑気に考えていたらね、偶然顔見知りに出くわした。


「あれ、アキカゼさんか?」

「ああ、金狼氏。奇遇だね。今日はどこかに遠征にでも?」

「そんなところだ。それよりブログみたぜ? 相変わらず意味わからん情報の羅列があったが、コメント欄では全く関係ない話題で盛り上がってんのが笑うな」


 出くわしたのは金狼氏。クラン漆黒の帝のクラマスさんだね。
 こうして顔を合わせるのは天空の試練以来かな?
 たまにジキンさん経由で顔合わせなどもするけど、個人的にはそれくらい久しぶりだ。

 しかし彼くらい大きなクランだと飛空挺で移動すると思ったのだけど、彼の周りにはクランメンバーらしき人物の影もなく。
 ただその腰に巻かれてる見慣れないベルトに目がいった。
 その視線が気になるのか、金狼氏が照れ臭そうにそのベルトを摩る。


「あん? やっぱり目立つかコレ」

「そりゃまぁ。私も経験者ですからね。そうですか、ライダーに任命されたんですね」

「らしくねーとは思うんだが、内心でワクワクが止まらん」

「誰もいい大人なのになんて責めやしませんよ。私だってノリノリで変身ポーズを取りましたからね。その気持ちがあるだけで随分と楽ですよ」

「その言葉が聞けて何よりだよ。それと、くまの件で重ねて感謝する」

「感謝されるようなことなんてしてないけどね?」

「それでも長年抱えていたジレンマを無事解消してもらった。今ああして弟が笑えているのは兄としても嬉しく思う。俺達兄弟がどれだけ手を尽くしてもあいつはこの手を取ってくれることはなかったからな。親父は弛んでるの一点張りだし、お袋は俺たちには無関心だった。そういう意味でも今の家族に姿があるのはアキカゼさん、あんたのおかげでもあるんだ。あんたに出会えたからこそ、うちの親父とお袋が丸くなった。角が取れたともいう。そしてそれぞれ兄弟間でのしこりも不思議と消えた。くまの件も、ロウガの件も、ギンの件も。そして俺さえも。感謝の言葉を並べればキリがないくらいにな」


 こちらが圧倒される程に感謝の言葉を並べる金狼氏。
 彼にも立場があるからクランメンバーの前でこのような姿は見せられないのだろう。そして家族の前でも同様に。
 会社の社長、クランマスターという二つの顔。
 うちの娘もそうだけど、このように砕けた話をする時は場所を選ぶのだ。全く難儀な性格をしているよね。


「じゃあ受け取らないと逆に悪いね。でも私はそこまで手を尽くしたわけじゃないんだけどね。ただ、うん。くま君は無理してると思っていたんだ」

「そうだな」

「彼は見た目のわりに正義を抱えてるし、娘さんもこのゲームにいづれ誘いたいと夢を語る時があるでしょう?」

「ああ」

「でもね、そのあと自分の両手を毎回見つめるんだ。どうしてこのアバターを選んでしまったんだろうと。そこに矛盾を感じていてね。もし私が何かを手伝えるならここだろうと悪者として敵対してあげたんだ。彼はどうしてもその見た目で悪者にされがちだ。見た目からは本人が望む正義とは程遠いだろう? ベルトを所持したとして、その心に抱えた意識まで変えることはなかなかないよ」

「そうなんだろうな。でもアキカゼさんは弟の為に悪として振る舞ってくれたんだろう? なかなか出来ることじゃない」

「うん、そこでコテンパンにしたよ。こっちも負けると色々やばいからね。こう見えて多方面から責任を負わせられてる形だ」

「そこは仕方ないだろう。でもそのおかげでくまは変われたんだ。兄貴としてずっと心配でもあった心のもやを拭い去ってくれた恩は大きい。特に兄弟仲に亀裂が入ったままというのは世間的にも良くないからな」

「まぁね。君も色々苦労してるんだ」

「アキカゼさん程じゃないがな」

「じゃあ私はここなんで」


 私は降りる駅を指定して、だが金狼氏は頭にクエスチョンマークを並べている。事前に下調べしたのだろう、そこには何もないことを示すように私を凝視している。


「もしかして、俺の知らないクエストがその奥にあるのか?」

「コレ用のがあるよ。行ってみる?」


 銀の鍵を取り出して見せびらかす。


「ついてっていいなら知っておきたいな」

「なら一緒に降りよう。金狼氏は空を飛べたよね?」

「一応はな」

「ならここから徒歩だと時間がかかるから飛んで行こう」

「その前に食事だけさせてくれ。アキカゼさんの事だ、自分基準で考えているだろ?」

「おっと失礼。君はまだスタミナに縛られていたね。どうぞどうぞごゆっくり」

「普通はシステムのスタミナのゲージが目の前から消えることなんてそうそうないんだぜ?」

「でも私以外にもどざえもんさんも消えたらしいよ?」

「あの人も十分大概だってーの」


 彼の目からしたらどざえもんさんはそう見えるのか。
 案外評価してくれてるんだね。
 なんといっても地下ルート開拓者だ。
 彼のことを特別視してもらうと自分のことのように嬉しくなってくるよ。やはり同類という気持ちがあるからかな?

 食事を取り終えた後に、それとなくライだの進捗情報を聞く。
 彼のベルトの色合いから魔導書陣営というのは割れたが、どの魔導書かというのが判明しない。
 もしかしたらくま君と同様にネクロノミコンの可能性も高い。

 まぁ魔導書陣営なら大丈夫かな、という気持ちがあるので本当に突拍子もなくミ=ゴに挨拶した。


「こんにちは、ミ=ゴさん。先日はどうも。今回はこの鍵を利用させて貰いに来たんだ」

[貴殿は確か……クトゥルフの]

「あ、覚えててくれたんだ。じゃあ話は早いかな? 金狼氏、紹介するね。この方はミ=ゴ。個体別に名称があるかは知らないけどそう呼ばれてる奉仕種族だ。彼らは代々この門を守護する任務を全うしていてね……って金狼氏?」


 金狼氏はその場で凍りついたように硬直している。
 というよりカチコチに凍り付いていた。
 うん、ミ=ゴの一匹が抱える冷凍銃が金狼氏に向いていることから明らかだ。


「先に説明しないで済まない。彼は私の客人でね。まだ資格もないのに連れてきてしまって申し訳ないと思ってる。しかしそれとこれとは話が別だ。悪いが彼を解凍して貰えないかね?」

[よくわからぬが、仲間の一匹が粗相をしたようだ。それと解凍の術は持ち合わせていない。時間経過で元に戻るだろう]

「じゃあ仕方ないか、強引に解凍させてもらうよ。領域展開・ルルイエ、からの~掌握領域〝水流操作+金狼〟」


 その流れる動作からの神業の数々にミ=ゴ達が信仰対象に縋るように賛同している。
 現金なものだね。だがそのわかりやすい態度は嫌いじゃないよ。説明の手間が省けるからね。


「は!? 俺は一体……」

「おはよう金狼氏。どうも向こうの手違いで君は冷凍処理されたようだ」

「何もさせて貰えずに氷漬けだって? そりゃ一体どんな化け物だ」

「彼らにも守秘義務があるからね。化け物だなんて言っては可哀想だよ。ね?」

「|◉〻◉)ねー」


 あれ? この人いつの間に来たんだ?
 いつのまにかスズキさんが私の影から頭だけを浮かせてミ=ゴに同意を求めていた。
 そのままずるりと出てきて、最初からいましたよアピールをし出す。


「|ー〻ー)あれ、僕今呼ばれましたよね? 急いで駆けつけたんですけど」


 確かに領域展開としてルルイエを呼び出した。
 そういえば彼女はルルイエの化身だったっけ?
 じゃあ領域を呼ぶたびに彼女もセットでついてくる感じなのかな?


「それより、魚の人はどこから来たんだ?」

「彼女は私の幻影なので、私が領域を展開するたびにくるよ」

「意味わかんねぇ。だってその人クラン立ち上げの時からいたろ? ベルトが発見されるよりずっと前からだ。幻影ってのはプレイヤーに混ざってクランに入ることもできるのか?」

「|◉〻◉)擬態です! 僕くらいになるとプレイヤーに擬態しながら近づくこともできるんですよ?」

「そのようだ。あいにくと彼女のことは飼い主の私にもわからないことが多くてね。彼女が言うんならそうなんだろう」

「つまりプレイヤーに見えて実際幻影のパターンもあるってことだな? じゃあ俺にもいくつか心当たりがある。遊び仲間にな、少しだけ毛色の違う奴がいるんだ。リアルの話題を出しても食いつきが悪いのに、ゲームの話をするとイキイキする奴がクランにいてな」

「おっと、それは幸先いいですね。神格召喚まで一直線のパターンですか?」

「よくわからんが、最近そいつによく誘われて遊ぶことが多いよ。クラメンからは贔屓だって呼ばれてるが、俺としてはそんなことないんだがな」

「|◉〻◉)これは意外と断片揃ってるパターンですかね?」

「君と同じく慎重型かもしれないよ?」

「|ー〻ー)だとしても前回参加できなかった理由がわかりません」

「意外と穏健派なのかもしれないよ?」

「|◉〻◉)そんな子魔導書陣営に居たかなー?」


 尽きぬ疑問はさておき、金狼氏なら放っておいてもそのうちドリームランドまで来てくれることだろう。
 魔導書や聖典は椅子取りゲームではなく無差別にランダムで主人を探すようだし。
 その時が来るまではあんが慎重に事を進める幻影が一人くらいあってもいいかもしれないね。


「さて、では私はそろそろ向こうに行くよ。金狼氏はこの後どうする?」

「ちょうど件のクラメンからお誘いいただいた。原因究明も兼ねて少し相談に乗ってくるわ」

「あまり話を急ぎすぎちゃダメだよ?」

「分かってるって。ただ、向こうの言い分もそうだが俺もはっきりさせておきたいしな」

「ならば私と共に向こう側で並び立つ日を楽しみにしてるよ」

「ああ、その時までに大きく成長してみせるさ」


 金狼氏とはその場で別れ、私はドリームランドへと赴いた。
 それにしても驚いた。スズキさんタイプが他にも居たとは。
 でもやけにしっくりくる。
 スズキさんだけが特別なのではなく、幻影が自由意志を持ってプレイヤーのように行動することができると言うのは一つのお手本だ。

 彼女は仲間の全てを知ってるわけではないようだ。
 やはり分裂してしまったときに重要なデータは本体のルリーエにだいぶ持っていかれてしまったとみていいだろう。
 スズキさんとしての彼女はルリーエの記憶を併せ持つ〝姉妹〟のうちの一体。そう言う位置付けで考えていいだろう。


「さて、ここはどこだろうね?」

「|◉〻◉)いい加減誰か魔導書陣営と合流したいところですね」

「配信もスタートしつつ後輩におせっかいを焼きにいくのか。いいね、面白そうだ」

「|ー〻ー)絶対に楽しみ出しますよ、あの人達」

「そうやって多方面から情報を仕入れて何時来るかわからない自分の番に備えて貰えたら何よりだよ」

「|◉〻◉)そこまで考えてたんですね、流石ハヤテさん」

「褒めたって何も出ないよ。さて、記念撮影もしつつ行動開始だ」

「はーい」


 いついかなる場所であろうとも、私の行動指針が変わることはない。カメラを携え、トレンチコートをたなびかせ、私は目の前に聳える山に向けて進路を取った。
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