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双葉 鳴

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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

427.お爺ちゃんとクランメンバーズ2

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 不定の狂気から正気に戻っていったものから順に紹介を始めていく。わかって居たことだけど、マスターも幻影もどこかぎこちない。後にも先にも名乗りを終えた後にアイドルプロデュースしたのなんて私くらいのものだろう。
 当時のあの子は自分に自信を持てなかったからねぇ。
 だからって変わりすぎだけど。


「|◉〻◉)なんですか?」

「当時の君は初々しかったなって」

「|◉〻◉)今はもう初々しくないと?」

「だいぶ小慣れてきたよねぇ。誰に似たのか」

「|ー〻ー)きっとハヤテさんに似たんですよ。ハヤテさん色に染められてしまいました」

「これ、配信してたらきっと君に賛同するリスナーさんが多いいんだろうなぁ」


 そんなことを思い浮かべつつ、取り敢えず紹介も兼ねて自らが手にした魔導書を紐解いていくことにした。


「まずは僕。この子はツァトゥグァ様というお方のところで巫女をして居たらしいよ」

「OK、把握しました。魔導書はエイボンの書ですね。( ͡° ͜ʖ ͡°)氏はクリアされたようですね。しかしジキンさんのところのサイクラノーシュのサイ君より随分と幼い印象を受けます。解説のスズキさん、これをどう見ますか?」

「|◉〻◉)そうですね、サイちゃんが崇拝する前の星の巫女である可能性があります」

「なるほど、所でジキンさん」

「なんです?」

「その子は自分のことを何と呼んでいますか?」

「ヤークシュと。それがどうしたんです?」

「|◉〻◉)ビンゴですね。サイクラノーシュは土星ですが、ヤークシュは海王星です。なので命名の儀はそこら辺をモチーフにすると良いでしょう」

「そういえばスズちゃんはどこから入ってきたの?」


 したり顔で解説するスズキさんにようやく気がついたように妻が指摘する。


「|◉〻◉)ずっと居ましたよ?」

「ああ、アキエさん。この人スズキ先生とは別の存在でリリーって呼ばれてる子ですよ。うちのマスターの幻影だそうです」

「あらそうなの? どうりで太々しい面構えだと思ったわ」

「そう言えばあの子もこんな面構えしてたものねぇ。種族が一緒だからって? そんなもの側だけ取り繕ってたって内面までは誤魔化せないわよ。アタシら経営者はそこを見抜いてこそ人を見てるんだもの」

「|◉〻◉)ぼ、僕はスズキじゃないですよ~。もーマスターもお人が悪い」


 あ、屈した。
 流石のスズキさんもランダさんの圧の前には赤子も同然か。
 だったらその着ぐるみ脱げばいいのに。


「君が紛らわしい格好してるからでしょ。はい、脱いだ脱いだ」

「|>〻<)ちょ、チャックに手をかけないで。脱ぐのにだって準備がいるんですから!」


 お手伝いしてあげようと思ったら嫌がられた。
 女性陣からは冷たい視線。酷いな、さっきまでの疑いの視線は今では私にのみ降り注いでるじゃないか。


「ハッハッハ、ハヤテ君は変わらずじゃの。次はワシじゃな。ほれ、この子はハスターと呼ばれる神様を信仰しとるようじゃ。名はセラエノ。確かプレアデス星団の図書館の名じゃったか?」

「ダグラスさんはハスター、セラエノ断章ですか。アンブロシウス氏も無事クリアされたようですね。しかしこうも立て続けに知り合いが魔導書を手に入れるとは」

「この子は娘の小さい頃によくにとる。うちは孫がまだ居らんからもし持ったらこんな気持ちなんじゃろうか? ハヤテ君がマリン君に甘い顔をするのがわかる気がするわい」

「そうでしょう、そうでしょう?」


 そういう意味ではジキンさん所も女子を育てた経験はなさそうだ。コミュニケーションの取り方は大丈夫だろうか?
 手を焼いてると思ったけど、見た目が犬なのが良かったのか、幻影は笑顔を浮かべているようだ。


「そろそろいいかしら?」

「はいはい、どうぞ」


 アバターが若いのもあり、ウチの妻が男児を抱えている姿は様になっている。女の子は育てたことはあるけど、男児は育てたことがないからか、どこか不安げだ。
 しかしすぐ横に百戦錬磨のランダさんが居るのであれこれ聞いては宥めている。
 こういう所でも今後の幻影との付き合い方が出てきそうだね。


「それでこの子だけどね、クトゥルフ様というのに使える神官だそうなのよ」

「へぇ、クトゥルフさん?」

「知ってるの?」

「知ってるも何も私もそうだからね。スズキさん、もう大丈夫?」

「ルリーエです、マスター」


 普段とは違う、ジトっとした視線で睨んでくるルリーエ。
 ウチの妻の前でははしゃげないのか、はたまた礼を失したくないのかいつものような茶番は挟まなくてもいいらしい。
 普段以上におめかしした彼女が妻の前でドレスの裾を掴んで一礼する。


「お初にお目にかかります、奥様。我が名はルリーエ。クトゥルフ様に使えし忠実なる僕、ルリーエにございます」

「そうなのね、ルリーエちゃんと呼んでも?」

「はい」

「じゃあルリーエちゃん、これからよろしく頼むわね?」

「お任せください、奥様」

「その奥様と言うのはやめてくれる? 現実では夫婦でも、ゲームの中でまでその関係性を持ち込みたくないのよ。名前でいいわ」

「ではアキエ様」

「ええ、それでこの子はあなたの弟と言うことになるのかしら?」

「私に血族はおりません。クトゥルフ様が降臨された土地に魂が宿り、意識を持った者が幻影と呼ばれます。私はクトゥルフ様が最後にお眠りになった遺跡、ルルイエの化身。この子からは少し違った気配を感じます」

「クトゥルフさんて地球に来る前にどこかに居たの?」

「さぁ? 私も分かりかねます。何分私が意識を持ったのはクトゥルフ様が地上に降りてからになりますもので」


 いつもとは違うスズキさんの態度にヒヤヒヤしつつ、聞いてもなかなか答えてくれない質問に答えてくれる。


「もしかしたらゾスという惑星にいた頃の幻影ではないかと推測されます」

「そうなのね。あなたはどうしたい? 何かその方に恩を返したいとかはある? 私も協力してあげたいのだけど……そう、いい子ね」


 まだ言語はしっかり喋れて居ないものの、ニュアンスから読み取る辺りはさすがとしか言いようがない。
 しかし魔導書もそうだが幻影も必ずしも同じものではないのかもしれないね。
 それともスズキさん枠はもう一杯で別の幻影を当てはめられただけかもしれないけど。
 ダグラスさんはセラエノ図書館で、アンブロシウス氏と奇しくも同じだった。

 しかしジキンさんは住んでた星からして違う。
 力をつける前の、ツァトゥグァ様のお住まいの幻影。
 能力も全く一緒とは限らないだろう。
 こちらも同じように扱ってはダメだろうね。


「さて、じゃあアタシで最後かい?」

「ええ、お願いできますか?」

「この子はガタノソアって神様を祀ってる神官だそうだ」

「ガタノソア? ガタノトーアではなく?」

「例の正義の巨人にも似たような怪獣が出て居たなぁ」


 ダグラスさんが博識を披露する。
 しかし今欲しい情報はそれじゃない。


「魔導書はポナペ教典だと。マスターは知ってるかい?」

「いいえ、ガタノトーアといえばもりもりハンバーグ君の無銘祭祀書が真っ先に浮かびますが、そっちは聞いたことがないですね」

「そうなのかい。この子は自らを偉大なる大神官イマシュ=モであると言ってて何だか生意気なのよね。ウチの四番目とそっくりでさ、今からかって遊んでるのよ、ウリウリ、悔しいか~?」


 ランダさんは文字通り幻影をいじって泣かせている。
 見慣れた光景なのだろう。はたまたその光景がフラッシュバックしたのかジキンさんの目頭が熱くなっている。この人もこの人で苦労してるんだなぁ。
 

「ランダさん、その辺で」

「なんだい、ウチの教育方針にケチをつけるってのかい?」

「そういうのは個人的にやってください。今は情報を集めるのが先決です。ね?」


 それにしてもさっきから静かに佇んでいるスズキさんに慣れない。ついさっきまでこたつ出してお茶飲んでた人物と一致しなすぎる。


「さて、スズキさ「ルリーエです」……ルリーエ、次はどこの図書館がいいと思う?」


 いつもより眼光強めで私に反論するルリーエは、何やら幻影達とアイコンタクトをしつつ先導していく。


「なんだかあの子だけお姉さんみたいで頼もしいわね」

「普段からあんな感じなの?」

「まさか。スズキ先生を二回りヤンチャにしたのがあの子の素だよ」

「じゃあ今はよそ行きって訳だ? 誰かに気を遣ってんのかね?」

「どうでしょうね。きっと新規の幻影達に舐められないように精一杯背伸びしてるって所でしょう」

「ああ、金狼も銀のやつが生まれた時に手本になるんだって張り切ってたなぁ」

「あの子は誰かの背中に憧れを抱きすぎて空回りを続けてるのよ。その誰かさんは一度も褒めないことで有名な頑固親父だからね」


 ジキンさんの思い出話に奥様であるランダさんが水を差す。
 夫婦が揃うと思い出話が両極端になるのはあるあるだ。


「ほら、ハヤテ君のところのお姉ちゃんが手招きしとるぞ。行かんでいいのか?」

「そうでしたそうでした。皆さんいきましょうか。ダグラスさん、パワードスーツの準備をしておいてください。水泳技能を持ってるなら平気ですが、彼女は割と私たちを自分の能力基準ありきの場所に連れていきたがります。私は慣れた物ですが、ダグラスさん達が赴くには少し厳しい」

「ならワシの出番じゃな。ジキン君も居るかい?」

「僕は自前のロボットがありますので、それに乗っていきますよ」

「ならば私は案内役として陽光操作で光っておきます。それを目印にみなさんついてきてください」


 パワードスーツに乗り込む3名。
 その他は例のお座りしながら走る犬のロボットに乗り込んだ。
 どうやらいつの間にかパーツを転送できるジョブに乗り換えて居たらしい。

 私も海中に踊り出し、宣言通り深海の灯台のごとく光を発し続けた。
 
 深く、深く、海の底をルリーエは進む。
 その後に続く四つの影は怪しく揺れながら私達をとある場所へと誘った。
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