Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー

双葉 鳴

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【ハヤテの章①】ゲーム内生活1〜8日目【AWO】

01_プロローグ 上

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「お母さん、ここで私の弟に会えるんだね?」

 私には弟がいる。

「ええ、そうよ」

 お母さんとお父さんはずっと黙ってた。
 私が悲しまないように。

 けど、それを教えてくれた存在がいた。
 それが『内鉄虎アルプ』ちゃん。
 私の親友で、幼少時から一緒に仲良くしてくれている。
 会うたびに纏う雰囲気が変わる不思議な子。

 その子が、最近身の回りで不思議なことがよく起きる現象の原因は私の中にいるもう一人だって教えてくれた。
 だから私はここに来た。
 お母さんも知ってる『Atlantis World Online』に。

 ここにくれば、私の中に何が潜んでいて。
 そして、その子にお礼が言えるようになる、とある仕掛けがあるから。

 いつも私の手助けをしてくれてありがとう。
 これからもよろしくね。

 私はそのお礼を言いにここに来たんだ。


「そろそろよ、トキ」

「うん、スワンプマンだっけ? そいつにキルされればいいんだよね?」

「特定条件のバグを引き起こす。それであの子が出てきてくれるかもしれない」

「キルされたら、強制ログアウトされちゃうんだよね?」

「ええ。すごい理不尽よね。だから私はこの仕様が嫌いだった」


 でも、とお母さんは続ける。


「ハヤテ、あなたの弟がずっとあなたの中にいたのなら。それでコンタクトが取れるのなら。私は今日という日に感謝している」


 お母さんは祈るように、縋るように言った。
 弟を産んでやれなかったことを、今でも後悔しているみたいだった。

 私は双子で生まれてくるみたいで、
 男ならハヤテ、女ならトキコと名づける予定だったそうだ。


「やっぱり、お母さんとしては嬉しいの?」

「それはそうよ。でも、トキがいなくなっていいってことは絶対にないから安心してね? ハヤテはハヤテ。トキはトキよ」

「うん!」


 不安そうにしてる心境を見抜かれて焦る。
 そうだよね、私がいおらないわけじゃないんだよね。
 そう言われて安心した。


「そろそろよ」

「ここのエンカウント方式、怖いんだよね」


 恐る恐るお母さんと=にくっつきながら歩く。


「トキが今やってるはゲームはエンカウント形式じゃないんだっけ?」

「オープンワールドだよ。普通そうじゃない?」

「そうだねー、ここが長いからすっかり忘れちゃってた」

「もー、ボケボケなんだから」


 少し冗談を言いながら緊張を解いて、その瞬間がやってくる。
 ピキキキ……その場が一瞬にして瞬間冷凍されたみたいに時が止まり。
 内側から砕かれたみたいに時が巻き戻る。

 この演出、必要?
 お母さんが言うには、物事に集中してると敵の接近に気づけないことがあるそうだ。
 だから必要なのだとか。
 さすが


「あれが、スワンプマン!」

「お母さんが注意を引くから、うまくやるのよ」

「普通に倒されるだけじゃダメなの?」

「ここのAI、妙に賢いの」

「うわっ」


 それは非常に厄介なタイプだと思った。
 そんなのが最序盤から現れるなんて。
 理不尽だなと思うことしかできない。


「今!」

「うわぁあああああ!」


 なんのスキルモーションもない大ぶりな攻撃。
 しかしスワンプマンは軽々と受け止めて。
 その空洞のようなくり抜かれた目と目が合う。
 腰が抜けて足が震えるのがわかった。

 普段自分がやっているゲームよりも、個々のモブにはよくわからない恐ろしさがあった。
 覆い被さるようにして、私は足を取られて倒れ込む。
 ここから取り込みが始まるのだそうだ。

 窒息による脂肪という最悪の形。
 気がつけば私は自室のベッドで起き出した。


「あれ、夢?」

「夢じゃないわよ」

「お母さん!」

「お疲れ様。ハヤテの抽出はうまいこと成功したわ。そして、今度からこっちでログインしてちょうだい」

「え、あっちのデータには私のお小遣いがうんと使われてて」

「あなた、最新のダイブマシンが欲しいって言ってたじゃないの。それが早まったんだから感謝しなきゃ」

「そうだけど……」


 そうだけどそうじゃない。
 ゲームデータを引き継いでから、移行がしたかった。
 データをそのまま残していくなんて話が違う。


「私は詳しく知らないけど、お父さんがそこらへん詳しいから聞きなさい」

「はーい」


 私のお父さんはIT会社に勤めているエリート!
 だから私の知らないことはなんでも知っている。
 夕食時に聞いたら、AWOは難しいとのこと。
 今私が遊んでいるゲームはデータのバックアップはほとんど会社側が持っていて、ログインキーさえあればデータ移行はできると聞いて安心する。

 そうなればもう憂いはない。
 その日の夕食は、私の弟がどういう存在なのかの話題で盛り上がる。
 弟は、私の姿で、これから同じ時を過ごすらしい。

 じゃあ、双子として振る舞えるのかな?
 だなんて思っていると。


「今度からハヤテは女の子として扱います」

「私のアバターを使うから?」

「それもあるけど、あなたと一緒に過ごしてきたから所作が何から何まで女の子だったからです」

「あー」


 思い当たる節はあった。
 私がゲームのやりすぎで寝こけてた時。
 いつの間にか終わっていた宿題。
 それは私と同じ癖のある丸文字で記されていた。

 朝なんて、全く記憶はないのに洗顔も食事もしっかりしてて、ニキビ知らずな生活を送れている。
 日がな一日中ゲームばかりしている私が、弟のおかげで学校では優等生として扱われてるのだ。

 なんというか、非常に照れくさい。
 いや、感謝してもし足りないというのが本音か。


「なのでトキ、あなたもハヤテのことは妹として扱うこと」

「私が姉の方なの?」

「あなたが先に生まれたんじゃないの。もう、しっかりしてちょうだい」

「うん、そっか。妹かぁ」


 その日から私の1日は全てが輝かしく見えるようになった。
 いつもならお気に入りの『wonder Blink Online』に入れ込む時間だが、今日ばかりは妹の顔を見に行きたい欲が優った。
 友達の『リノっち』と『ミルっち』に今日は外せない用事があると言って、妹に会いにいく。

 ただし、お母さん同伴で。
 私、まだ妹とフレンドになってないんだよね。

 だから、まずはフレンドから始めて。
 それでゆくゆくは姉妹としてやっていきたいなぁって、そう思ったの。


「心の準備はできた?」

「バッチリ」

「なら待ち合わせの場所に行きましょう?」

「ハヤテは、どんな子なの?」

「一言で言い表すのは難しいけど、変わった子よ?」

「うーん?」

「少なくともトキとは別人ね。変にこだわりが強いというか」

「なるほど、頑張り屋さんなんだ?」

「そうね、そうとも言えるわ」


 どこか歯切れの悪いお母さん。
 そこへ、お母さんを呼ぶ声があった。


「お母さん、こっち!」

「ハヤテちゃん!」


 そこには私にそっくりで(アバターが同じだから当たり前)、けど全く違う性格の子がいた。


「ハヤテ、こっちにずっと篭りきりなの?」

「暇があればここにきてるね」

「もう、お姉ちゃん寂しがってたわよ?」

「ごめんなさい……」


 さっきまで輝いていた笑顔がみるみるうちに萎れている。
 そして、お母さんの背中に隠れている私に気がついたのか、恐る恐る尋ねてきた。


「もしかして、お姉ちゃん?」

「そうよ、がお姉さんのトキ。いっぱい敬いなさい」

「あなた、初対面から煽るような真似をしなくたって」


 お母さんは呆れてる。


「うん、よろしくね、お姉ちゃん」


 うわ、素直でいい子。
 これは変にマウント取らなくてもよかったかな?


「よろしくね、ハヤテ」

「先にフレンド結んじゃいなさい」

「もちろん」

「わかった」


 それを見届けて、お母さんはログアウト。
 取り残された私は、そこで妹とたくさんお話しした。


 今日から妹になるハヤテは、しっかり者だけどどこか抜けていて。
 ちょっと変わってる女の子だった。

 
 初めまして、ハヤテ。
 そして至らない姉だけどよろしくしてね?


 私と妹の生活は、その日から始まった。
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