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鏡の使われ方について
「そもそもだ。主様が外つ国の王だったとして、誰にでも金属 を渡したいか?」
賢そうな顔をした童は首を振った。
「考えたこともなかったけど、そうね。金属でできた武器は強いもの、石や木とは比べものにならないくらい。きっと、外つ国はそれで武装しているのでしょう? 同じものを敵が持ったら、と考えるわね」
「そうだ。だが、味方ならどうだ」
「自分の勢力が持つ力が増すから、渡したい筈。勿論、取引の品としても使いたいでしょうし。でも問題は、敵と味方をどう見分けるかってこと」
「主様ならどう見分ける?」
「血縁関係のあるムラならまず信じられる。何かあったら、まず頼る相手ね。他は場合にもよるけど、とりあえず長年膝を折って従ってくれた相手なら信を置くと思うわ」
村長 の娘は澱みなく答えた。上出来すぎるなと内心コウは舌を巻く。この童 は上に立つ人間として中々のものになるかもしれない。まぁ、それも女でさえなければの話だが。そう考えると残念であるような感傷を抱くのは、この食えない童に既に親愛が湧いているということだろう。この倭国では女の支配者は珍しくないようだが、コウのいた国ではそれは天の意に背くような不自然なことである。
「そんな信じられる相手を主様は全部覚えているかもしれんが、外つ国では臣下も大勢いる。目印があった方が良いだろう? だから、味方には自分のところで作った特別な鏡を渡してやるんだ。それを持っていたらめでたく金属の取引相手になれる、というわけだな」
ミトヤはなるほどというように顔を輝かせてからすぐに、形の良い眉を気に入らなそうに寄せてしまう。
「つまり、金属を手に入れるためには外つ国の臣下にならなければならないの?」
それを嫌がるとは、気位の高いヒメ様だ。だが嫌だとかいうそういうことの前に、現実を一つ思い出させてやる。
「いや、それ以前に。このムラに、外つ国まで行ける船はあるのか」
眉が益々きゅっと寄った。「海人に」と呟いた声は、自信なさげだ。
「あいつらは信用ならんぞ。外つ国でもそう思われている。それに、あいつらに頼らなければ海を渡れない程度の力しかないと思われたら、臣下として喜ばれないだろうな。有事に助けにならんだろう?」
幼さを残した顔が真剣に考えている。別の答えはすぐに見つかったようだ。
「じゃあ、奴国や他の西の国に行って取引するのはどう?遠いけど、外海には出なくて良いと聞くわ。陸伝いに行くなら、うちの小さな船だって」
「そうだな、できそうだ。ならばこのムラは、そのどれかの国の臣下になるのか?」
うっ、と悔しそうに顰めた顔に苦笑して教えてやる。
「敵に金属を渡したくないのは西の国々だって同じだぞ。あいつらは外つ国の真似をして、従ってきた相手に鏡を配ることまでしているからな。むしろそうして勢力を伸ばせるようにと、外つ国側が臣下に他所で配れるだけの鏡を渡すんだ。神やなんかは後付けで、鏡というものはこう使う。何百年も昔から、これが決まったやり口だ」
巫女様は明らかに気に食わないらしい。本当に気位の高い童だ。押し黙って考えている姿が駄々をこねる子供のようでどこか微笑ましいが、結論なんて一つしかない。
「わかったか? もうどこも、強い国は強くあり続けるための体制が昔からできあがっている。このムラが今から気張って多少強くなったところで割り込めない。せいぜいどれぐらい良い臣下になれるか、ぐらいの話だ。どうだ、面白くないだろう? だから俺は、協力する気にはなれない」
最も、臣下になったとしてこのムラぐらいじゃかなり格下として扱われるだろうがな、と付け加えてやる。残酷なようだが、いつかは思い知る話だ。
しゅんと俯いてしまった小さな頭に情が湧いてしまうのはもう仕方ない。手を焼いたとしても相手は懐いているかわいらしい子供で、それに一応、主様だ。なるべく幸せに生きてほしいぐらいのことは、既に思ってしまっている。
「一つだけ、臣下より良い扱いをされる希望がないこともない」
賢そうな顔をした童は首を振った。
「考えたこともなかったけど、そうね。金属でできた武器は強いもの、石や木とは比べものにならないくらい。きっと、外つ国はそれで武装しているのでしょう? 同じものを敵が持ったら、と考えるわね」
「そうだ。だが、味方ならどうだ」
「自分の勢力が持つ力が増すから、渡したい筈。勿論、取引の品としても使いたいでしょうし。でも問題は、敵と味方をどう見分けるかってこと」
「主様ならどう見分ける?」
「血縁関係のあるムラならまず信じられる。何かあったら、まず頼る相手ね。他は場合にもよるけど、とりあえず長年膝を折って従ってくれた相手なら信を置くと思うわ」
村長 の娘は澱みなく答えた。上出来すぎるなと内心コウは舌を巻く。この童 は上に立つ人間として中々のものになるかもしれない。まぁ、それも女でさえなければの話だが。そう考えると残念であるような感傷を抱くのは、この食えない童に既に親愛が湧いているということだろう。この倭国では女の支配者は珍しくないようだが、コウのいた国ではそれは天の意に背くような不自然なことである。
「そんな信じられる相手を主様は全部覚えているかもしれんが、外つ国では臣下も大勢いる。目印があった方が良いだろう? だから、味方には自分のところで作った特別な鏡を渡してやるんだ。それを持っていたらめでたく金属の取引相手になれる、というわけだな」
ミトヤはなるほどというように顔を輝かせてからすぐに、形の良い眉を気に入らなそうに寄せてしまう。
「つまり、金属を手に入れるためには外つ国の臣下にならなければならないの?」
それを嫌がるとは、気位の高いヒメ様だ。だが嫌だとかいうそういうことの前に、現実を一つ思い出させてやる。
「いや、それ以前に。このムラに、外つ国まで行ける船はあるのか」
眉が益々きゅっと寄った。「海人に」と呟いた声は、自信なさげだ。
「あいつらは信用ならんぞ。外つ国でもそう思われている。それに、あいつらに頼らなければ海を渡れない程度の力しかないと思われたら、臣下として喜ばれないだろうな。有事に助けにならんだろう?」
幼さを残した顔が真剣に考えている。別の答えはすぐに見つかったようだ。
「じゃあ、奴国や他の西の国に行って取引するのはどう?遠いけど、外海には出なくて良いと聞くわ。陸伝いに行くなら、うちの小さな船だって」
「そうだな、できそうだ。ならばこのムラは、そのどれかの国の臣下になるのか?」
うっ、と悔しそうに顰めた顔に苦笑して教えてやる。
「敵に金属を渡したくないのは西の国々だって同じだぞ。あいつらは外つ国の真似をして、従ってきた相手に鏡を配ることまでしているからな。むしろそうして勢力を伸ばせるようにと、外つ国側が臣下に他所で配れるだけの鏡を渡すんだ。神やなんかは後付けで、鏡というものはこう使う。何百年も昔から、これが決まったやり口だ」
巫女様は明らかに気に食わないらしい。本当に気位の高い童だ。押し黙って考えている姿が駄々をこねる子供のようでどこか微笑ましいが、結論なんて一つしかない。
「わかったか? もうどこも、強い国は強くあり続けるための体制が昔からできあがっている。このムラが今から気張って多少強くなったところで割り込めない。せいぜいどれぐらい良い臣下になれるか、ぐらいの話だ。どうだ、面白くないだろう? だから俺は、協力する気にはなれない」
最も、臣下になったとしてこのムラぐらいじゃかなり格下として扱われるだろうがな、と付け加えてやる。残酷なようだが、いつかは思い知る話だ。
しゅんと俯いてしまった小さな頭に情が湧いてしまうのはもう仕方ない。手を焼いたとしても相手は懐いているかわいらしい子供で、それに一応、主様だ。なるべく幸せに生きてほしいぐらいのことは、既に思ってしまっている。
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