どんな日だって、いいのよ。

Yuuka

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どんな日だって、いいのよ。

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もう、散々。嫌い。
夜の帳に、寂しさと虚しさが静かに充満していく。
曇った視界。煙草の煙が、目に染みる。

あっという間に年月ばかりが過ぎ去って。
嬉しくて嬉しくて、幸せだーっ!と人生最高潮だと思ったあの日すら、
走馬灯のように駆け巡る思い出のひと欠けら。

別に、時間を巻き戻せるなんて思っても無いし、時間を巻き戻したいと願っているわけでもない。
別に、強がりのつもりでもないし、非現実的な祈りを捧げているほど暇でもない。

ただ...、ただ。

大好きだった。大好きだったのよ。
彼のことを一つ一つ、知っていくのが。
ありがとう、忘れない。
「忘れろよ。」って声が聞こえてきそうで、頭の中に、彼の声が響く。
切ないね。

だけど、映画を観るたび。音楽を聴くたび。
だって、私の、はじめての全部が。
そうなんだよ、はじめての全部が、彼だったから。

電話だって、待ち合わせだって。ラブレターだって。
どうしようもなく、ドキドキしたんだよ。
どうしようもなく。

忘れない、忘れない、忘れられない。

30分も早く、駅のホームに着いた。
どこが正解なのかが分からなくて、端から端、何往復もしちゃったじゃない。
ベンチの背もたれの上にある鏡で、何度も私は自分の姿を見て。
慣れないメイクが崩れてないか、髪の毛が乱れてないか、何度も確認してた。
あの時、鏡に映っていた私。悲しいけれど、自分史上で最強に可愛かったよ。

手をつなぐことが、こんなにドキドキすることだったなんて。
知らなかったんだよ。
何度も彼の手を触れていたのに。
何度も私のほっぺたを摘まむ悪戯な手だったのに。

「待たせてごめんね。」とニコッと現れた彼に、なんだか急に恥ずかしくなってしまって。どんな言葉を返すのが正解かフリーズしてしまって。
不意に、彼は私の手に、手を重ねて、繋いだ。
私より大きな骨ばった手の平と、手の指が。男の人なんだって。
顔中が急に熱くなって、心臓の音がドクンドクンって身体中に響いて、
繋いだ手から、彼にも聞こえてしまうんじゃないかって。
「今日はちょっとだけデートプラン考えてきたから。OK?」
彼の顔すら見上げられなくて、なんかうまく言葉も発することができなくて、
繋いだ手を少しギュッと握り返したら、彼もギュッと握り返してきてくれた。

あの日。
映画観て、本屋さん見て、CDショップ見て、雑貨屋さん見て。
それから少し歩いて、ちょっと小洒落たお店で夕飯を食べて。
全部がドキドキで、彼の喋ることを全部聞き逃したくなくて。
海の見える公園まで、またちょっと歩いてベンチに並んで座って。
彼が自販機で買ってきてくれたあったかいミルクティ。
「大好き。」一生分の勇気を振り絞ったつもりで、言ってみた。

すっとベンチから降りた彼は、私の前のしゃがみこんで。
いつもの悪戯そうな顔して、両手でほっぺた、ムニーって摘んできた。
「ははっ(笑)そうだろうな。知ってるよ。」
うわぁ、いつもの感じ...。自信満々に、ちょっと澄ました意地悪っぽい顔だ。

後にも先にも。
もうさ、そんな恋に出会うことはないよなって。

時々、全部を支配するよ。
空を見上げても、どんな空模様だって一緒に見上げたって。

彼の隣は、私の場所だったのにね。

もう、そんなことも、古い古いお話なんです。
それなりに。それなりに、きたんです。

今は、今は。
グラスに浮かぶ氷だけが、静かに、ただただ、私のことを見ている。

静かな、夜。
なりたくて、大人になったわけじゃない。
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