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第四章
女の勘
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ギャル系の女子たちは約束を忘れていたらしく、放課後は先に帰ってしまったので、仲良しの女友達と小雪だけ夏海のバイト先に行く事にした。夏海は店内におらず、女子高生のウェイトレスが店番をしている。接客態度は良くなくて、水とおしぼりも出さず、携帯をいじり続けていた。
「夏海君はどこに行ったのかな?」
「なっちゃんは奥で皿洗いしてる」
「あっ、そうなんだ?教えてくれてありがとう」
ウェイトレスは嫌々、立ち上がると水を持って来て大きな音を立てて机の上に置いた。
「ご注文はなんですか?」
「オススメのメニューとかある?」
「オススメはパンケーキ」
「パンケーキは一番、高くない?」
「飾り付け面倒だから高いんだよ」
「へぇ、そうなの?じゃあパンケーキにしよっかな」
女子高生のウェイトレスは、伝票に汚い字でパンケーキと書き殴って奥に行くと、伝票を冷蔵庫にマグネットで貼り付けた。夏海が手を拭きながら、それを見て呟く。
「パンケーキ、二個も?」
「面倒だからなっちゃんも一個、飾り付け手伝ってよ?」
「パンケーキは一個に付き、五百円のボーナスがバイト代に付くんだ。四百円、俺にくれるならやるよ?」
「四百円はあり得ない!百円ならあげるからやって」
「百円は安過ぎる。嫌なら自分で全部やれよ?」
「ケチ!わかったわよ…。四百円、後で渡すからやって」
夏海は女子高生より手際よく早く盛り付けたが、仕上がりは女子高生より美しい。女子高生のウェイトレスはそれをお盆に乗せて持って行ったが、小雪の女友達が綺麗に盛り付けてある方を素早くお盆から奪い取る。
「私、こっちね!写真撮ってアップするから綺麗な方が良い」
ウェイトレスは明らかに機嫌が悪そうで、自分の盛り付けたパンケーキを乱暴に机の上にに置いた為、更に飾り付けが崩れてしまった。
「なんか全然、違わない?そっちの方が美味しそう」
女友達は携帯を取り出して、色んな角度で写真を何枚も撮っている。
「このクオリティで、この値段なら納得だわ!」
「ううっ…、なんだか同じ値段なのに損した気分…」
不機嫌な女子高生が奥に行くと、夏海は布巾で皿を拭いて棚に片付けているところだった。
「だから女の客は嫌なんだよ?感じ悪ぃし、ムカつく!」
「お前の接客態度が悪いから注意でもされたのか?」
「どうせなっちゃん目当てだから、媚び売っても、私に得なんかないじゃん?」
「俺は男の客でも、それなりにちゃんと接客してるぞ?」
「あの子、なっちゃんに気があるみたいだから気を付けて!」
「気を付けるって…、何を?」
「ああ言う清楚系の女の方がヤリマンなんだから!」
「ヤリマンなんじゃなくて、男がついやりたくなっちまうから襲われやすいだけだろ?」
「男って本当に見る目ない!すぐあの手の女にコロッと騙される」
「騙されてねぇし、俺みたいな奴と本気で付き合う気ないのはわかってる」
「そうそう、興味本位で遊んでるだけ」
「まあ俺も美人とデートするのは楽しいから遊んでんだけど」
「は?なっちゃん、あの女とデートしてんの…。信じらんない!」
そこへ裏のドアからマスターが入って来る。マスターは少し顔を顰めていた。
「あっ、マスターだ。おかえりなさい」
「店の客とデートする時はわしに報告しろと言っただろう?」
「小雪さんは店に来る前から友達だったんだけど、それもルール違反ですか?」
「いや、報告しないならデート代の建て替えは出来んが、それでも良いのなら」
「いつも建て替えてくださってありがとうございます。おばちゃんは奢ってくれるって言うけど、なんか申し訳なくて」
「おばちゃんではなくマダムと呼びなさい!何度、注意しても治らんな…」
「すいません、この前マダムに携帯買ってあげるって言われたけど、なんか悪くて断りました…」
「携帯はあった方がええと思うがな…」
「携帯って毎月、使用料かかるんですよね?マダムがそれも払うって事だから」
「そうか、お前さんは真面目だからな」
「なんか親切にされるの慣れてなくて、素直に喜べないんです…」
女子高生のウェイトレスが会話に割って入る。
「私なら普通に奢ってもらってるけど?買ってもらった物とかたくさんあるし」
「女はそれで良いかもしれないけど…。男が奢らせるってカッコ悪くないか?」
「なっちゃん、考え方が古~い!」
「古いって言われても、俺は嫌なんだ」
この日も小雪は夏海のバイトが終わるまで店内に粘り続けた。女友達は先に帰ってしまい、一人ぼっちで珈琲をチビチビ啜る。バス停まで二人で一緒に歩いて行く後ろ姿を女子高生のウェイトレスは睨み付けていた。
「どうせすぐ別れるに決まってるんだから!騙されてるなっちゃんが可哀想~」
「夏海には釘を刺して置かなければならんな。あの子と付き合うようになると、マダムからの店の評判が悪くなるやもしれん…」
夏海と小雪はバス停のベンチで腰掛けて、いつものように話をする。
「あのパンケーキ、どうしてあんなに飾り付けに差があったんだろ…」
「ああ、綺麗に盛り付けたのは俺がやったやつ。もう一個はあの女がやったから下手だったんだよ?」
「ええっ!夏海君が盛り付けてたの?」
「パンケーキは注文取って来た奴が盛り付けるルールなんだけど、一個に付き五百円のボーナスが付くから、あの女はパンケーキをオススメしまくってる」
「そうなんだ?夏海君が注文、取りに来た時に注文すれば良かった…」
「あの女の常連のオッさんは下手でも褒めちぎるんだけどな」
「そのおじさん、あの子が盛り付けてるって知ってるんだよね?」
「もちろん知ってる。あと要望があればスプーンであ~ん!とかしてたな」
「そ、そんなサービスもあるの?」
小雪は夏海に食べさせてもらうところを妄想して顔が赤くなる。
「あっ、そうそう!この前買った服、あれ有名なブランド物だったんだ?」
「うん、定価は二万くらいするやつだから古着だけど二千円って安いよね」
「やっぱり小雪さんはブランド物だって知ってたんだな…。俺は知らなくてなんでこのパーカーだけこんな高いんだ?って思ってた」
「夏海君が着るとすごく似合ってるし、お洒落だよね~」
「あの後、あれ着てるところおばちゃんに見つかって、良い服着てるねって褒められた」
「そのマダムもお洒落さんなんだね!」
「定価二万もするブランドの服なんか着た事ないから、なんかブランド物ってすげぇなと思った」
「見る人が見たらわかるからね。生地もしっかりしてるから、何度洗ってもヨレヨレにならないよ?」
「そうなのか!いつもすぐヨレヨレになるから困ってたんだ」
「ブランド物はね、見た目がお洒落なだけじゃなくて質が良いから高いんだよ」
「なるほど…。ちょっとブランド物に対する認識が変わった」
「ブランド物にこだわり過ぎてる人はお洒落じゃないよ?夏海君は安い服と一緒に着こなしてるからお洒落だけど」
「ネームバリューの本は前に読んだ事ある。時計屋で有名ブランドメーカーの時計は二百万でも売れるんだけど、同じ性能の時計でも無名のメーカーだと五十万でも売れないんだってさ」
「デザインが好きで選ぶんじゃなくて、ロゴが付いてるからって言うだけで選ぶ人もいるからね」
「俺なら同じ性能の五十万の時計にするけどな。まあ今の俺の財力では二千円の時計しか買えんけど」
「有名なスポーツ選手とかが無名のメーカーの付けてて有名になったりするよ」
「なるほど…。付加価値が付くってやつか」
「うん、有名なアイドルの子が熱愛中の彼氏とお揃いのブレスレット付けてて、それがめちゃくちゃ売れたりしたし…」
「小雪さんといると俺の知らない事、教えてくれるから話してて楽しいよ」
「えっ、私なんて全然!夏海君の方が私の知らない事、いっぱい知ってるもん」
「ブランド物の事はさっぱりだよ?小雪さんって化粧もケバくなくて、モロに俺好みなんだよな」
「眉毛は描いてるけど、ほぼノーメイクだよ?」
「眉毛描いてるだけ?口紅は付けてないのにその色なのか…」
「あっ、口紅は付けてないけどグロスは付けてる!」
「グロスってなんだ?全くわからん…」
「グロスは透明だけど唇に艶が出るの。唇が水に濡れて、プルプルしてるように見えない?」
「確かに…濡れて…プルプルしてるな…」
「彼氏が思わずキスしたくなるグロスってやつだよ」
「う~ん、キスしたくなるのは…ちょっと…。俺は困るんだが…」
「夏海君にも効果が出るんだ?このグロス」
「もうグロスは塗らないでくれないか?我慢してるこっちの身にもなってくれ」
「我慢してるの?ごめんね…」
「小雪さんと一緒にいると辛いんだよ」
「私…、夏海君を嫌な気分にさせてたんだね…。全然、気付かなかった…」
「嫌な気分にはなってない。むしろ良い気分になり過ぎててまずい…」
「他にやめた方が良い事ってあるかな?一緒にいて辛いなんて思われたくないから」
「小雪さんと一緒にいたくないと思った事はないよ?と言うか…また会いたくて堪らなくなってる…」
「いつも素っ気なくてそんな風に見えないんだけど?今朝も私が玄関ホールで待ってたのに無視して行っちゃったし…」
「友達と話したりしてる時は邪魔したくないから声かけなかっただけだよ」
「本当にそれだけ?私から付き纏われて迷惑してるんじゃないかな…」
「こんな美人から付き纏われても嫌がる奴いないんじゃないか?」
「美人じゃないって言われると嫌なんだよね?言わないように頑張ってる」
「そう言えば小雪さんに俺もイケメンとか言われたけど、俺の顔が好みなのか?初めて親に感謝したよ。親に顔が似てるのは自分でもわかってる」
「私もお母さんに似てるよ。お母さんも美人だってよく言われる」
「今まで親の遺伝子が自分の中にあるのが嫌で仕方なかった」
「私も同じだよ。なんか夏海君と私って似てるね!」
「似てないと思うけど…。この頃、嫌な事思い出さなくなった。小雪さんに会ってから」
「私も夏海君に会ってから嫌な事思い出さなくなったよ」
夏海はまた小雪から少し離れると川の方に目線を逸らした。
「小雪さんってなんか良い匂いがするんだよな」
「シャンプーの匂いかな?香水は付けてないよ」
「香水の匂いは嫌いなんだ。マダムが付けてるけど時々、吐き気がする…」
「香水の匂いは嫌いなんだね。私も付けないようにする」
「君は良い匂いだから大丈夫だよ」
「それなら良いのだけど…。シャンプー変えた方が良いかな」
「君は俺に気を遣い過ぎなんだよ?あまり気を遣い過ぎると嫌いになってこないか」
「ううん!嫌いになるどころか、ますます好きになってるよ」
「俺も前に嫌われたくなくて気を遣って話してた事あったんだが、だんだんそいつの事が嫌いになってきて…」
「好きだから気を遣っちゃうのは当然だと思うけど、私の嫌なところは言って欲しい。嫌われたくないもん!」
「嫌なところは特にないかな。強いて言えば君は良い子過ぎる。もっと悪い子になってもよいんじゃないか?」
「私は悪い子だよ?良い子ぶってるだけだから」
「良い子ぶるのもしんどいだろ?俺も昔は良い子ぶっててしんどかった…」
「うん、しんどいね。夏海君の前では少し悪い子になっても良いのかな?」
「君のワガママなんて俺からしたら可愛いもんだし、法律に触れない事なら何でも聞くよ?」
「本当に?じゃあ、夏海君の家に遊びに行きたい!」
「来ても楽しくないと思うけどね」
「夏海君と一緒だとどこでも楽しいよ」
「夏海君はどこに行ったのかな?」
「なっちゃんは奥で皿洗いしてる」
「あっ、そうなんだ?教えてくれてありがとう」
ウェイトレスは嫌々、立ち上がると水を持って来て大きな音を立てて机の上に置いた。
「ご注文はなんですか?」
「オススメのメニューとかある?」
「オススメはパンケーキ」
「パンケーキは一番、高くない?」
「飾り付け面倒だから高いんだよ」
「へぇ、そうなの?じゃあパンケーキにしよっかな」
女子高生のウェイトレスは、伝票に汚い字でパンケーキと書き殴って奥に行くと、伝票を冷蔵庫にマグネットで貼り付けた。夏海が手を拭きながら、それを見て呟く。
「パンケーキ、二個も?」
「面倒だからなっちゃんも一個、飾り付け手伝ってよ?」
「パンケーキは一個に付き、五百円のボーナスがバイト代に付くんだ。四百円、俺にくれるならやるよ?」
「四百円はあり得ない!百円ならあげるからやって」
「百円は安過ぎる。嫌なら自分で全部やれよ?」
「ケチ!わかったわよ…。四百円、後で渡すからやって」
夏海は女子高生より手際よく早く盛り付けたが、仕上がりは女子高生より美しい。女子高生のウェイトレスはそれをお盆に乗せて持って行ったが、小雪の女友達が綺麗に盛り付けてある方を素早くお盆から奪い取る。
「私、こっちね!写真撮ってアップするから綺麗な方が良い」
ウェイトレスは明らかに機嫌が悪そうで、自分の盛り付けたパンケーキを乱暴に机の上にに置いた為、更に飾り付けが崩れてしまった。
「なんか全然、違わない?そっちの方が美味しそう」
女友達は携帯を取り出して、色んな角度で写真を何枚も撮っている。
「このクオリティで、この値段なら納得だわ!」
「ううっ…、なんだか同じ値段なのに損した気分…」
不機嫌な女子高生が奥に行くと、夏海は布巾で皿を拭いて棚に片付けているところだった。
「だから女の客は嫌なんだよ?感じ悪ぃし、ムカつく!」
「お前の接客態度が悪いから注意でもされたのか?」
「どうせなっちゃん目当てだから、媚び売っても、私に得なんかないじゃん?」
「俺は男の客でも、それなりにちゃんと接客してるぞ?」
「あの子、なっちゃんに気があるみたいだから気を付けて!」
「気を付けるって…、何を?」
「ああ言う清楚系の女の方がヤリマンなんだから!」
「ヤリマンなんじゃなくて、男がついやりたくなっちまうから襲われやすいだけだろ?」
「男って本当に見る目ない!すぐあの手の女にコロッと騙される」
「騙されてねぇし、俺みたいな奴と本気で付き合う気ないのはわかってる」
「そうそう、興味本位で遊んでるだけ」
「まあ俺も美人とデートするのは楽しいから遊んでんだけど」
「は?なっちゃん、あの女とデートしてんの…。信じらんない!」
そこへ裏のドアからマスターが入って来る。マスターは少し顔を顰めていた。
「あっ、マスターだ。おかえりなさい」
「店の客とデートする時はわしに報告しろと言っただろう?」
「小雪さんは店に来る前から友達だったんだけど、それもルール違反ですか?」
「いや、報告しないならデート代の建て替えは出来んが、それでも良いのなら」
「いつも建て替えてくださってありがとうございます。おばちゃんは奢ってくれるって言うけど、なんか申し訳なくて」
「おばちゃんではなくマダムと呼びなさい!何度、注意しても治らんな…」
「すいません、この前マダムに携帯買ってあげるって言われたけど、なんか悪くて断りました…」
「携帯はあった方がええと思うがな…」
「携帯って毎月、使用料かかるんですよね?マダムがそれも払うって事だから」
「そうか、お前さんは真面目だからな」
「なんか親切にされるの慣れてなくて、素直に喜べないんです…」
女子高生のウェイトレスが会話に割って入る。
「私なら普通に奢ってもらってるけど?買ってもらった物とかたくさんあるし」
「女はそれで良いかもしれないけど…。男が奢らせるってカッコ悪くないか?」
「なっちゃん、考え方が古~い!」
「古いって言われても、俺は嫌なんだ」
この日も小雪は夏海のバイトが終わるまで店内に粘り続けた。女友達は先に帰ってしまい、一人ぼっちで珈琲をチビチビ啜る。バス停まで二人で一緒に歩いて行く後ろ姿を女子高生のウェイトレスは睨み付けていた。
「どうせすぐ別れるに決まってるんだから!騙されてるなっちゃんが可哀想~」
「夏海には釘を刺して置かなければならんな。あの子と付き合うようになると、マダムからの店の評判が悪くなるやもしれん…」
夏海と小雪はバス停のベンチで腰掛けて、いつものように話をする。
「あのパンケーキ、どうしてあんなに飾り付けに差があったんだろ…」
「ああ、綺麗に盛り付けたのは俺がやったやつ。もう一個はあの女がやったから下手だったんだよ?」
「ええっ!夏海君が盛り付けてたの?」
「パンケーキは注文取って来た奴が盛り付けるルールなんだけど、一個に付き五百円のボーナスが付くから、あの女はパンケーキをオススメしまくってる」
「そうなんだ?夏海君が注文、取りに来た時に注文すれば良かった…」
「あの女の常連のオッさんは下手でも褒めちぎるんだけどな」
「そのおじさん、あの子が盛り付けてるって知ってるんだよね?」
「もちろん知ってる。あと要望があればスプーンであ~ん!とかしてたな」
「そ、そんなサービスもあるの?」
小雪は夏海に食べさせてもらうところを妄想して顔が赤くなる。
「あっ、そうそう!この前買った服、あれ有名なブランド物だったんだ?」
「うん、定価は二万くらいするやつだから古着だけど二千円って安いよね」
「やっぱり小雪さんはブランド物だって知ってたんだな…。俺は知らなくてなんでこのパーカーだけこんな高いんだ?って思ってた」
「夏海君が着るとすごく似合ってるし、お洒落だよね~」
「あの後、あれ着てるところおばちゃんに見つかって、良い服着てるねって褒められた」
「そのマダムもお洒落さんなんだね!」
「定価二万もするブランドの服なんか着た事ないから、なんかブランド物ってすげぇなと思った」
「見る人が見たらわかるからね。生地もしっかりしてるから、何度洗ってもヨレヨレにならないよ?」
「そうなのか!いつもすぐヨレヨレになるから困ってたんだ」
「ブランド物はね、見た目がお洒落なだけじゃなくて質が良いから高いんだよ」
「なるほど…。ちょっとブランド物に対する認識が変わった」
「ブランド物にこだわり過ぎてる人はお洒落じゃないよ?夏海君は安い服と一緒に着こなしてるからお洒落だけど」
「ネームバリューの本は前に読んだ事ある。時計屋で有名ブランドメーカーの時計は二百万でも売れるんだけど、同じ性能の時計でも無名のメーカーだと五十万でも売れないんだってさ」
「デザインが好きで選ぶんじゃなくて、ロゴが付いてるからって言うだけで選ぶ人もいるからね」
「俺なら同じ性能の五十万の時計にするけどな。まあ今の俺の財力では二千円の時計しか買えんけど」
「有名なスポーツ選手とかが無名のメーカーの付けてて有名になったりするよ」
「なるほど…。付加価値が付くってやつか」
「うん、有名なアイドルの子が熱愛中の彼氏とお揃いのブレスレット付けてて、それがめちゃくちゃ売れたりしたし…」
「小雪さんといると俺の知らない事、教えてくれるから話してて楽しいよ」
「えっ、私なんて全然!夏海君の方が私の知らない事、いっぱい知ってるもん」
「ブランド物の事はさっぱりだよ?小雪さんって化粧もケバくなくて、モロに俺好みなんだよな」
「眉毛は描いてるけど、ほぼノーメイクだよ?」
「眉毛描いてるだけ?口紅は付けてないのにその色なのか…」
「あっ、口紅は付けてないけどグロスは付けてる!」
「グロスってなんだ?全くわからん…」
「グロスは透明だけど唇に艶が出るの。唇が水に濡れて、プルプルしてるように見えない?」
「確かに…濡れて…プルプルしてるな…」
「彼氏が思わずキスしたくなるグロスってやつだよ」
「う~ん、キスしたくなるのは…ちょっと…。俺は困るんだが…」
「夏海君にも効果が出るんだ?このグロス」
「もうグロスは塗らないでくれないか?我慢してるこっちの身にもなってくれ」
「我慢してるの?ごめんね…」
「小雪さんと一緒にいると辛いんだよ」
「私…、夏海君を嫌な気分にさせてたんだね…。全然、気付かなかった…」
「嫌な気分にはなってない。むしろ良い気分になり過ぎててまずい…」
「他にやめた方が良い事ってあるかな?一緒にいて辛いなんて思われたくないから」
「小雪さんと一緒にいたくないと思った事はないよ?と言うか…また会いたくて堪らなくなってる…」
「いつも素っ気なくてそんな風に見えないんだけど?今朝も私が玄関ホールで待ってたのに無視して行っちゃったし…」
「友達と話したりしてる時は邪魔したくないから声かけなかっただけだよ」
「本当にそれだけ?私から付き纏われて迷惑してるんじゃないかな…」
「こんな美人から付き纏われても嫌がる奴いないんじゃないか?」
「美人じゃないって言われると嫌なんだよね?言わないように頑張ってる」
「そう言えば小雪さんに俺もイケメンとか言われたけど、俺の顔が好みなのか?初めて親に感謝したよ。親に顔が似てるのは自分でもわかってる」
「私もお母さんに似てるよ。お母さんも美人だってよく言われる」
「今まで親の遺伝子が自分の中にあるのが嫌で仕方なかった」
「私も同じだよ。なんか夏海君と私って似てるね!」
「似てないと思うけど…。この頃、嫌な事思い出さなくなった。小雪さんに会ってから」
「私も夏海君に会ってから嫌な事思い出さなくなったよ」
夏海はまた小雪から少し離れると川の方に目線を逸らした。
「小雪さんってなんか良い匂いがするんだよな」
「シャンプーの匂いかな?香水は付けてないよ」
「香水の匂いは嫌いなんだ。マダムが付けてるけど時々、吐き気がする…」
「香水の匂いは嫌いなんだね。私も付けないようにする」
「君は良い匂いだから大丈夫だよ」
「それなら良いのだけど…。シャンプー変えた方が良いかな」
「君は俺に気を遣い過ぎなんだよ?あまり気を遣い過ぎると嫌いになってこないか」
「ううん!嫌いになるどころか、ますます好きになってるよ」
「俺も前に嫌われたくなくて気を遣って話してた事あったんだが、だんだんそいつの事が嫌いになってきて…」
「好きだから気を遣っちゃうのは当然だと思うけど、私の嫌なところは言って欲しい。嫌われたくないもん!」
「嫌なところは特にないかな。強いて言えば君は良い子過ぎる。もっと悪い子になってもよいんじゃないか?」
「私は悪い子だよ?良い子ぶってるだけだから」
「良い子ぶるのもしんどいだろ?俺も昔は良い子ぶっててしんどかった…」
「うん、しんどいね。夏海君の前では少し悪い子になっても良いのかな?」
「君のワガママなんて俺からしたら可愛いもんだし、法律に触れない事なら何でも聞くよ?」
「本当に?じゃあ、夏海君の家に遊びに行きたい!」
「来ても楽しくないと思うけどね」
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