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第二十章
手の内
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二階の夏海と小雪の部屋だけ綺麗に片付け終わったが、一階はまだいらないもので溢れていた。小雪はキッチンを片付けている。そうこうしていると日が暮れて来た。
「なんかお腹空いて来たね…」
「引っ越し蕎麦が食いたいなぁ~」
「引っ越しが終わった後ってどうしてお蕎麦なの?」
「わかんねぇけど、年越し蕎麦も美味いよなぁ」
「夏海君はお蕎麦が好きなんだね!スーパーがあったら、お蕎麦買ってこようか?」
「この近くにスーパーはあるけど、品揃えは悪いよ?ちょっと高いし」
「そうなんだ。山の上だから運送とかもお金かかっちゃうんだろね…」
「俺は高校の近くのスーパーでいつも買ってる。カフェオレスティックも近所のスーパーだと一箱で八百円くらいするから」
「二百円も違うの?それは家計に響くね。でも最終バスの時間過ぎちゃったし、歩いて行くのは無理だよね…」
「タクシーなんか使うと片道で四千五百円とか取られるからな。足元見られててあくどいよ」
「バスはフリーパスで乗り放題って言ってたね」
「バスも二時間に一本しか来ねぇし、土日祝は来ないとか酷ぇよな…」
「だから住みたがる人がいないのかな?こんな良い物件なのに…」
「まあ市役所が近くなったから、文句あったらすぐに言いに行けるのは良いな」
「お店開いたら市役所の職員の人とかも来そうだね」
「監視の為にくるだろな…。見守りとか言ってたが、あーだこーだとイヤミをタラタラ言ってくるのは目に見えてる…」
「でも中山さんって良い人だよね?シュワちゃんに似ててカッコよかったし!」
「小雪さんってああいうのが好みのタイプなのか?」
「ううん!私の好みのタイプは夏海君」
「それなら良かった」
「ヤキモチ妬いてくれたの?嬉しい!」
「いや、なんか中山さんって…いや、何でもない…」
「言いかけてやめないでよ?気になる」
「良い人ぶってるから気持ち悪いんだ。俺の過去の経験で、ああ言う奴は必ずなんか企んでるんだよ?」
「そうなの?親切で良い人に見えたけど、夏海君の為にあんなに大勢で引っ越しも手伝ってくれたし、粗大ゴミも処分してくれたから、優しい人だなって思った!」
「小雪さんの荷物はあれだけなのか?」
「ううん、少しずつ運び込もうと思ってるの。とりあえず服とか大事なものだけ持って来たけど」
「俺も別に大事なものはそんなになかったから、高校の教科書とかパソコンの教科書とか、制服と小雪さんに選んでもらった服と、それ以外はいらんかな」
「ペットボトルのキャップはもう集めてないの?」
「警察に押収されて破棄されたっぽいし、もう集める気なくなっちまってさ…」
「あの事件の事とか思い出しちゃう?」
「小雪さんもフラッシュバックするなら捨てた方が良いぞ?」
「ううん、フラッシュバックはしないし、夏海君とデートした思い出しか浮かんで来ないから、バスがゲームセンターの前を通っても平気だし~」
「小雪さんの記憶はどう言う構造になってるんだ…」
「夏海君の記憶がいっぱいになってる!大事な記憶を入れるところに入ってる感じ」
「まあ俺もそんな感じかな…。嫌な事を考えるより小雪さんとの将来の事を考えてる時間の方が多い」
「私も!毎日楽しい事ばかり考えてる」
「店の内装をどうしようか?とか、品揃えはどうしようか?とか…」
「うんうん!百円均一で売ってるアルファベットの木製パーツで、ハロウィンとかクリスマスの単語を並べて作りたいなぁって考えてた」
「ハロウィンはもうすぐだから間に合わないと思うけど、クリスマスまでにはオープンを間に合わせたいよな」
「クリスマスだと子供同士でクリスマス会とかやると思うから、可愛いクリスマスのプレゼントのラッピングとか売ると良さそうだね!」
「小学生が子供同士でクリスマス会なんてやるのか?神戸の小学生はオシャンティーだな…」
「クリスマスだから手作りのケーキとかも売りたいなぁ」
「手作りの食べ物は調理師免許か食品衛生士の免許がないと売れないんだよ…」
「あっ、そうなんだ?じゃあ私、調理師の免許取ろうかな…」
「免許取るとなると更に金と時間がかかりそうだな」
「お店を出すのって大変なんだね…。内装だけでもお金結構かかりそう。クリスマスもXの方なら四文字だけどCの方は九文字だし、メリーも入れると更に五文字…。百円均一で買っても千円くらいはかかっちゃうよ」
小雪は指折り数えながら、ゆっくりと呟いた。
「俺の貯金も奨学金の返済用だからさ。卒業後にすぐに支払わないと利息が付いて、元本が減らないから借金地獄で自殺に追い込まれた若者の話をネットで見たから…」
「なんか本末転倒だよね?奨学金ってお金がない学生を応援する為の支援なのに、社会に出たらお金を奪い取って自殺に追い込むなんて…」
「社会福祉課の連中は大体みんなそんな感じだから怖いんだよ?なんだか胸騒ぎがするんだ…」
「大丈夫!きっと幸せになれるよ?夏海君と私の赤ちゃんが産まれて、小学生になって、ここから学校に通って行く夢を昨日見たの」
「俺も昨日はそんな感じの夢を見た…」
「同じ夢?すごい!シンクロしてる…」
小雪は母親に友達の家に泊まるとライムを送ると、マナーモードにして閉じて、夏海と近所のスーパーに買い物に行った。天ぷらのコーナーに行って悩んでいる。
「お蕎麦の上には何を乗せる?海老天とか美味しそうだけど、ちょっと高いね」
「う~ん、やっぱかき揚げかな?」
「材料買って天ぷらは私が作っても良いけど…」
「腹減り過ぎてるから、すぐに食べられる方が良いよ?」
「そっかぁ。もうこんな時間だもんね」
「今日は肉体労働したから、余計に腹減ってんだよ。引っ越しは疲れる…」
「そうだね…。私も腕が筋肉痛だよ…」
レンジでチンして、二分で食べられるご飯を手に取って夏海が言う。
「ご飯も炊くの面倒だから、これ買っとくか?」
「こう言うのうちのお母さんは怒るから、ちゃんとお米から炊きなさいって言われてる」
「米炊くにしても炊飯器がない…。なんか社会福祉科の連中が家電を全部、持って行った…。炊飯器は壊れてなかったのに!弁償しろって文句言いに行く」
「あれ?夏海君がいらないものは中山さんに伝えてなかったっけ…」
「炊飯器は捨てんなってちゃんと言ったのに聞いてなかったらしい」
「炊飯器は必要だよね…。酷い…」
「しかもいらないものはちゃっかり捨てずに残ってるんだ。仕事が雑過ぎてイラッと来た…」
「私たちが二階を片付けてる時に一階の粗大ゴミ全部持って行っちゃったもんね…」
「ちゃんとした引っ越し業者を雇ってたらこんな目に遭わなかったのかもしれないけどな…」
「専門家じゃないから、壊れてるかそうじゃないか、判別できなかったのかもね…」
「炊飯器を買うにしても結構高いし、パソコンを買う前にネット回線も引かないと、パソコンは使えねぇし、なんでこう金ばっかりかかるんだよ!金はねぇのに…」
「私も頑張って働いて稼ぐから、二人で頑張って行こうよ?」
とりあえず一番安いかき揚げ二個セットを三百円で購入して、蕎麦と出汁もそれぞれ五十円で二人分、合計五百円の夕食を取った。
「満腹になったらイライラしてたのが吹っ飛んだ!」
「良かった~。天ぷらするにしても、フライヤー買ってこないとね」
「アヒージョ作る時に使ってた、小さな揚げ物鍋の事か?」
「うん!あれすっごく便利なんだよ?」
「でも高そうだな…」
「炊飯器より高いかも…」
「電子レンジは残ってたのが、唯一の救いだ…」
「ご飯をチンする時に必要だもんね…」
「鍋とか食器はここにあるの使わせてもらうから良いけど…」
「家具は全部残ってるから、買わなくて済むのは良いね」
「でもいらない家具は邪魔だから捨てたいな…」
「確かに箪笥もこんないっぱい使わないよね…。前に住んでた人は大家族で使ってたのかな?」
「若い女性はいたと思う。あと子供もいたんだろな」
「どうしてそんな事がわかるの?」
「箪笥にシールとかベタベタ貼ってた。あんなの子供しかやらんだろ?シールの貼り方にセンスがあるのもあったから、若い女性かな?と思った。鏡台の観音扉開けてみろよ」
言われた通り一階に置いてある鏡台を開くと鏡がシールでデコレーションされていて如何にも女性らしい。
「やっぱり夏海君は私と見てるところが違うね!探偵さんみたい」
「その鏡台は小雪さんが使ったら?俺は多分、使わねぇけど」
「うん、ここでお化粧とかできるね!」
「こんな小汚い場所で小雪さんは嫌じゃないのか?」
「全然、嫌じゃないよ?だって夏海君と一緒に暮らせるんだもん!今、めちゃくちゃ幸せな気分だし」
「風呂は沸かせるのかな?ちょっと見てくる…」
夏海は添え付けのシャワーヘッドを手に取ったが、お湯に切り替えてもお湯が出てこない。
「クソッ!お湯が出ないじゃねぇか?」
「操作パネルの電気は通ってるから、湯沸かし器の室外機が壊れてるのかな?」
「明日、朝一で市役所行って文句言ってくる…」
「私なら平気だよ?一日くらいシャワー浴びられなくても…」
「女はシャワー浴びれないとストレス溜まるんだろ?前に付き合ってた子が言ってたんだ…」
「ストレス溜まるって事はないけど、くちゃくなるから夏海君に嫌われないか不安なだけ…」
「俺の方が臭いだろ…。小雪さんはいい匂いしかしねぇよ?」
夏海はカセットコンロで湯を沸かすと、タオルを何枚か放り込んで、箸で一枚ずつ摘んで取り出して、熱々のタオルを素手で絞る。
「火傷しない?大丈夫…」
「ああ、慣れてるからな」
背中は拭きにくいのでお互いに拭きあいっこをする。下着は脱がないが、夏海と裸の付き合いが出来て小雪は満足だった。
「シャワーがなくても拭きあいっこするの楽しい!」
「小雪さんはなんでも楽しそうにやるよなぁ~」
「だって夏海君がいるだけで楽しいんだもん!」
この日の夜は別々の部屋で寝る事になったが、小雪は寝付けなくて夏海の部屋のドアをノックした。
「夏海君が寝てるところを起こしちゃったらごめんね…。寝ようとしてもなんだか全然、寝付けなくて…」
「引っ越したばかりだから眠れないのかもな?」
「夏海君が一つ屋根の下にいるって思うと興奮しちゃって…」
「いや、実は俺も興奮して眠れなかったんだ…」
「なんかお腹空いて来たね…」
「引っ越し蕎麦が食いたいなぁ~」
「引っ越しが終わった後ってどうしてお蕎麦なの?」
「わかんねぇけど、年越し蕎麦も美味いよなぁ」
「夏海君はお蕎麦が好きなんだね!スーパーがあったら、お蕎麦買ってこようか?」
「この近くにスーパーはあるけど、品揃えは悪いよ?ちょっと高いし」
「そうなんだ。山の上だから運送とかもお金かかっちゃうんだろね…」
「俺は高校の近くのスーパーでいつも買ってる。カフェオレスティックも近所のスーパーだと一箱で八百円くらいするから」
「二百円も違うの?それは家計に響くね。でも最終バスの時間過ぎちゃったし、歩いて行くのは無理だよね…」
「タクシーなんか使うと片道で四千五百円とか取られるからな。足元見られててあくどいよ」
「バスはフリーパスで乗り放題って言ってたね」
「バスも二時間に一本しか来ねぇし、土日祝は来ないとか酷ぇよな…」
「だから住みたがる人がいないのかな?こんな良い物件なのに…」
「まあ市役所が近くなったから、文句あったらすぐに言いに行けるのは良いな」
「お店開いたら市役所の職員の人とかも来そうだね」
「監視の為にくるだろな…。見守りとか言ってたが、あーだこーだとイヤミをタラタラ言ってくるのは目に見えてる…」
「でも中山さんって良い人だよね?シュワちゃんに似ててカッコよかったし!」
「小雪さんってああいうのが好みのタイプなのか?」
「ううん!私の好みのタイプは夏海君」
「それなら良かった」
「ヤキモチ妬いてくれたの?嬉しい!」
「いや、なんか中山さんって…いや、何でもない…」
「言いかけてやめないでよ?気になる」
「良い人ぶってるから気持ち悪いんだ。俺の過去の経験で、ああ言う奴は必ずなんか企んでるんだよ?」
「そうなの?親切で良い人に見えたけど、夏海君の為にあんなに大勢で引っ越しも手伝ってくれたし、粗大ゴミも処分してくれたから、優しい人だなって思った!」
「小雪さんの荷物はあれだけなのか?」
「ううん、少しずつ運び込もうと思ってるの。とりあえず服とか大事なものだけ持って来たけど」
「俺も別に大事なものはそんなになかったから、高校の教科書とかパソコンの教科書とか、制服と小雪さんに選んでもらった服と、それ以外はいらんかな」
「ペットボトルのキャップはもう集めてないの?」
「警察に押収されて破棄されたっぽいし、もう集める気なくなっちまってさ…」
「あの事件の事とか思い出しちゃう?」
「小雪さんもフラッシュバックするなら捨てた方が良いぞ?」
「ううん、フラッシュバックはしないし、夏海君とデートした思い出しか浮かんで来ないから、バスがゲームセンターの前を通っても平気だし~」
「小雪さんの記憶はどう言う構造になってるんだ…」
「夏海君の記憶がいっぱいになってる!大事な記憶を入れるところに入ってる感じ」
「まあ俺もそんな感じかな…。嫌な事を考えるより小雪さんとの将来の事を考えてる時間の方が多い」
「私も!毎日楽しい事ばかり考えてる」
「店の内装をどうしようか?とか、品揃えはどうしようか?とか…」
「うんうん!百円均一で売ってるアルファベットの木製パーツで、ハロウィンとかクリスマスの単語を並べて作りたいなぁって考えてた」
「ハロウィンはもうすぐだから間に合わないと思うけど、クリスマスまでにはオープンを間に合わせたいよな」
「クリスマスだと子供同士でクリスマス会とかやると思うから、可愛いクリスマスのプレゼントのラッピングとか売ると良さそうだね!」
「小学生が子供同士でクリスマス会なんてやるのか?神戸の小学生はオシャンティーだな…」
「クリスマスだから手作りのケーキとかも売りたいなぁ」
「手作りの食べ物は調理師免許か食品衛生士の免許がないと売れないんだよ…」
「あっ、そうなんだ?じゃあ私、調理師の免許取ろうかな…」
「免許取るとなると更に金と時間がかかりそうだな」
「お店を出すのって大変なんだね…。内装だけでもお金結構かかりそう。クリスマスもXの方なら四文字だけどCの方は九文字だし、メリーも入れると更に五文字…。百円均一で買っても千円くらいはかかっちゃうよ」
小雪は指折り数えながら、ゆっくりと呟いた。
「俺の貯金も奨学金の返済用だからさ。卒業後にすぐに支払わないと利息が付いて、元本が減らないから借金地獄で自殺に追い込まれた若者の話をネットで見たから…」
「なんか本末転倒だよね?奨学金ってお金がない学生を応援する為の支援なのに、社会に出たらお金を奪い取って自殺に追い込むなんて…」
「社会福祉課の連中は大体みんなそんな感じだから怖いんだよ?なんだか胸騒ぎがするんだ…」
「大丈夫!きっと幸せになれるよ?夏海君と私の赤ちゃんが産まれて、小学生になって、ここから学校に通って行く夢を昨日見たの」
「俺も昨日はそんな感じの夢を見た…」
「同じ夢?すごい!シンクロしてる…」
小雪は母親に友達の家に泊まるとライムを送ると、マナーモードにして閉じて、夏海と近所のスーパーに買い物に行った。天ぷらのコーナーに行って悩んでいる。
「お蕎麦の上には何を乗せる?海老天とか美味しそうだけど、ちょっと高いね」
「う~ん、やっぱかき揚げかな?」
「材料買って天ぷらは私が作っても良いけど…」
「腹減り過ぎてるから、すぐに食べられる方が良いよ?」
「そっかぁ。もうこんな時間だもんね」
「今日は肉体労働したから、余計に腹減ってんだよ。引っ越しは疲れる…」
「そうだね…。私も腕が筋肉痛だよ…」
レンジでチンして、二分で食べられるご飯を手に取って夏海が言う。
「ご飯も炊くの面倒だから、これ買っとくか?」
「こう言うのうちのお母さんは怒るから、ちゃんとお米から炊きなさいって言われてる」
「米炊くにしても炊飯器がない…。なんか社会福祉科の連中が家電を全部、持って行った…。炊飯器は壊れてなかったのに!弁償しろって文句言いに行く」
「あれ?夏海君がいらないものは中山さんに伝えてなかったっけ…」
「炊飯器は捨てんなってちゃんと言ったのに聞いてなかったらしい」
「炊飯器は必要だよね…。酷い…」
「しかもいらないものはちゃっかり捨てずに残ってるんだ。仕事が雑過ぎてイラッと来た…」
「私たちが二階を片付けてる時に一階の粗大ゴミ全部持って行っちゃったもんね…」
「ちゃんとした引っ越し業者を雇ってたらこんな目に遭わなかったのかもしれないけどな…」
「専門家じゃないから、壊れてるかそうじゃないか、判別できなかったのかもね…」
「炊飯器を買うにしても結構高いし、パソコンを買う前にネット回線も引かないと、パソコンは使えねぇし、なんでこう金ばっかりかかるんだよ!金はねぇのに…」
「私も頑張って働いて稼ぐから、二人で頑張って行こうよ?」
とりあえず一番安いかき揚げ二個セットを三百円で購入して、蕎麦と出汁もそれぞれ五十円で二人分、合計五百円の夕食を取った。
「満腹になったらイライラしてたのが吹っ飛んだ!」
「良かった~。天ぷらするにしても、フライヤー買ってこないとね」
「アヒージョ作る時に使ってた、小さな揚げ物鍋の事か?」
「うん!あれすっごく便利なんだよ?」
「でも高そうだな…」
「炊飯器より高いかも…」
「電子レンジは残ってたのが、唯一の救いだ…」
「ご飯をチンする時に必要だもんね…」
「鍋とか食器はここにあるの使わせてもらうから良いけど…」
「家具は全部残ってるから、買わなくて済むのは良いね」
「でもいらない家具は邪魔だから捨てたいな…」
「確かに箪笥もこんないっぱい使わないよね…。前に住んでた人は大家族で使ってたのかな?」
「若い女性はいたと思う。あと子供もいたんだろな」
「どうしてそんな事がわかるの?」
「箪笥にシールとかベタベタ貼ってた。あんなの子供しかやらんだろ?シールの貼り方にセンスがあるのもあったから、若い女性かな?と思った。鏡台の観音扉開けてみろよ」
言われた通り一階に置いてある鏡台を開くと鏡がシールでデコレーションされていて如何にも女性らしい。
「やっぱり夏海君は私と見てるところが違うね!探偵さんみたい」
「その鏡台は小雪さんが使ったら?俺は多分、使わねぇけど」
「うん、ここでお化粧とかできるね!」
「こんな小汚い場所で小雪さんは嫌じゃないのか?」
「全然、嫌じゃないよ?だって夏海君と一緒に暮らせるんだもん!今、めちゃくちゃ幸せな気分だし」
「風呂は沸かせるのかな?ちょっと見てくる…」
夏海は添え付けのシャワーヘッドを手に取ったが、お湯に切り替えてもお湯が出てこない。
「クソッ!お湯が出ないじゃねぇか?」
「操作パネルの電気は通ってるから、湯沸かし器の室外機が壊れてるのかな?」
「明日、朝一で市役所行って文句言ってくる…」
「私なら平気だよ?一日くらいシャワー浴びられなくても…」
「女はシャワー浴びれないとストレス溜まるんだろ?前に付き合ってた子が言ってたんだ…」
「ストレス溜まるって事はないけど、くちゃくなるから夏海君に嫌われないか不安なだけ…」
「俺の方が臭いだろ…。小雪さんはいい匂いしかしねぇよ?」
夏海はカセットコンロで湯を沸かすと、タオルを何枚か放り込んで、箸で一枚ずつ摘んで取り出して、熱々のタオルを素手で絞る。
「火傷しない?大丈夫…」
「ああ、慣れてるからな」
背中は拭きにくいのでお互いに拭きあいっこをする。下着は脱がないが、夏海と裸の付き合いが出来て小雪は満足だった。
「シャワーがなくても拭きあいっこするの楽しい!」
「小雪さんはなんでも楽しそうにやるよなぁ~」
「だって夏海君がいるだけで楽しいんだもん!」
この日の夜は別々の部屋で寝る事になったが、小雪は寝付けなくて夏海の部屋のドアをノックした。
「夏海君が寝てるところを起こしちゃったらごめんね…。寝ようとしてもなんだか全然、寝付けなくて…」
「引っ越したばかりだから眠れないのかもな?」
「夏海君が一つ屋根の下にいるって思うと興奮しちゃって…」
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