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第二十二章
磔の刑
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待ちに待ったハロウィンの日がやって来た。小雪はお菓子作りの材料をたっぷり買って来て前日から仕込んでいたパンプキンパイを作っている。ホールケーキを一個とカップケーキを複数作ってラッピングに包んでいた。
「大きいやつは夏海君用で小さい奴はお店のお客さんやお友達に配る用だよ?」
「小雪さんは千秋って源氏名でやってるってオカンから聞いたけど、エロ親父からセクハラとかされてないか?」
「福原さんって人がしつこく絡んで来てるけど、お金持ちだからいっぱいお酒やおつまみ頼んでくれるし、春海ママも喜んでたよ!」
「そっか…。もっと普通のバイトやって欲しいんだけど」
「夏海君はスナックが嫌いなの?」
「いや、ガキの頃はよく店に遊びに行ってたんだけど、エロ親父がガキがいると酒がまずくなるって怒ってたから、行かなくなっただけだ。あとでそのエロ親父がオカンと寝たとか言って来て、俺の為に体売ってたのか?って思ったらムカついて来て…」
「やっぱり夏海君は優しいんだね?本当はお母さんの事が大好きなんだよ。だからムカついたんだと思う」
「て言うか中学生にオカンと寝たとか言ってくるオッさんとかマジで尊敬できねぇ!あんな大人にだけはなりたくない…と中学生の時に思った。だから行きたくない…」
「私もそんな大人は嫌いだよ?夏海君の方が絶対に大人っぽいなって思う」
ハロウィンは月曜日なので登校してすぐ小雪は友達にカップケーキを何個か配る。
「これ小雪が作ったの?美味しそう!」
「うん、手作りだよ?私は朝ごはんに味見で食べたけど」
「同棲中のツンデレ彼氏にも食べさせてあげたの?」
「うん、美味しいって喜んで食べてた」
放課後は夏海の家に帰らず、スナックじゅん子に向かった。材料費でへそくりが減ってしまったので、稼ぎたいと思っていたから五時からバイトに入る。お客さんが来ると手作りのパンプキンパイを配った。福原も上機嫌で受け取る。
「千秋ちゃんが作ったやつかい?」
「はい!私の手作りです」
「とか何とか言って本当は遥ママの手作りを、そう言って渡せと言われたんだろ?」
「私はそんな事は言いませんよ?千秋ちゃんが自分で作って持って来たんです」
「こいつは失礼!わしの勘繰り過ぎだったようだな」
その場でパンプキンパイのラッピングを開き、福原は一気に頬張る。
「美味い!こんな美味いパンプキンパイは初めて食った」
この日も小雪が指定されまくり、その日のナンバーワンの座を獲得した。ナンバーワンには金一封が出るが、場末のスナックなので、それほど金額は高くはない。
「この前はあの子が来てなかったから、私がナンバーワンを取れたけど、梨沙が辞めたくなった理由がわかるわ…」
「若いってだけで喋りも上手くないのにチヤホヤされててムカつくよね?」
裏に設置されたトイレにある、小汚い化粧直しルームで、熟女のホステスがタバコを吸いながら愚痴をこぼしている。
「ママ、ちょっと話が…」
ホステスたちに呼ばれて春海が奥の部屋に行くと、みんなで集まって深刻な顔をしている。
「どうしたの?千秋ちゃんだけだと大変だから、接客のヘルプに回ってあげて」
「ヘルプはいくら注文されてもボーナスが付かないですよね?なんか馬鹿馬鹿しくなって来て…」
「梨沙がいた頃もそうだったでしょ?」
「梨沙はあそこまでお客様の贔屓が激しくなかったし、私たちもご指名される事があったから良かったんだけど、千秋が来てから他の子は誰もご指名されなくなってるんです…」
「私たちも辞めようと思ってます」
「そんな事言わないで?千秋ちゃんが休んだらお店が回らなくなってしまうわ」
「でも…これ以上は…なんか精神的に辛くて…」
「わかったわ…。千秋ちゃんと話してみるから少し待って?」
春海は仕方なく、店が終わる頃に小雪を呼んで、こう言った。経営者として苦渋の決断である。
「小雪ちゃんには悪いんだけど…他のホステスの子が辞めちゃうって言うから、別のバイトを探してくれる?あなたならいくらでも雇ってくれるところはあるから」
「そうですか…。夏海君にも辞めて欲しいって言われてたから、そうします…」
夕方五時から閉店の十時まで頑張ったので、ナンバーワンの金一封が出て、一日で八千円稼げた。
「これだけあったら…フライヤーも買えるかな?夏海君に負担はかけたくないもん」
帰りのバスはもうなくなっていたので、仕方なく歩いて帰れるマンションの方へ向かってトボトボと歩き始める。玄関先で小雪の母親が仁王立ちして待ち構えていた。
「あっ、お母さん!どうしてそこに立ってるの」
「あなたの帰りが遅いから待ってたの」
「さっき家に帰るってライム送ったから?バイト先から友達の家が遠くて、バスもないの…」
「その友達の件についても調べさせてもらったの。あの夏海って言う背の低い男の子の家に泊まってるんでしょ?」
「夏海君は真面目だから私には一度も手を出してこないよ?」
「夏海って子の事も調べたんだけど、警察に何度も補導されてて逮捕歴もあるじゃない?危険だわ」
「誤認逮捕で冤罪だったんだよ?補導されてたのは虐待されて家出してたからだと思う」
「お母さんはね、あなたの事を心配してるの!」
「夏海君は本当に良い子だから!」
「私がここまで言ってもダメなら仕方ないわね?先に警察を呼んであるから今頃…」
「えっ、なんで警察を呼んであるの?」
「未成年者略取の罪で夏海って子を逮捕してもらいます」
「そんな事しないで…酷いよ…。やめて?お母さんの馬鹿!」
小雪は慌ててバス停前に止まっている夜間タクシーを呼び止めると、小学校の前まで行きたいと頼んだ。タクシーの料金メーターはガンガン上がって行き、八千円ギリギリのところで降ろしてもらう。小雪は無我夢中で走った。バスなら数分の距離が、妙に長く感じる。足が攣りそうになりながら、夏海の家を目指した。
「お前ら!これは住居不法侵入だぞ?」
「黙れ!お前みたいな犯罪者に人権なんてねぇんだよ?」
「は?俺が何やったっつーんだよ!また誤認逮捕で冤罪起こす気か…」
「小雪って子の親から通報されたんだ。娘を誘拐されたから犯人を捕まえてくれってな」
そこへ、小走りの小雪がやっとの思いで到着する。
「待ってください!私は誘拐なんかされてません。お母さんの早とちりなんです…」
「ほら見ろ?また冤罪を起こすなんて無能過ぎるんだよ!お前ら警察は…」
「とりあえず二人ともパトカーに乗れ!署の方で、ゆっくり話は聞いてやるから?」
「話なんか聞いた事ないじゃん?」
「うるせぇ!てめぇが騒ぎ立てるから、ご近所さんも大勢見に来てるぞ。他人に迷惑かけんな?」
「迷惑かけてんのはお前だろが!」
夏海の家の周りは大勢のギャラリーに取り囲まれている。携帯で写真を撮っている子供もいた。
「お願いです…刑事さん。私が全部悪いから…夏海君は何も悪くないんです…」
小雪は警察の袖に縋り付いて頼んだが、夏海は手錠をかけられてパトカーに無理やり乗せられて連れて行かれてしまった。小雪はその場にへたり込んで泣き崩れる。婦警が小雪の肩を抱いて慰めた。
「署の方で事情を聞いたら帰れるから、一緒に行きましょ?」
「本当ですか?行きます!」
ミニパトに乗せられて、小雪も夏海の跡を追った。警察署に着くと夏海の取調室とは別の取調室に連れて行かれる。空気の入れ替えの為、換気の為に取調室のドアは開けっぱなしなので、夏海の声はだだ漏れだった。
「だから何度も言ってんだろ?小雪さんの家に住んでる変態野郎が蝶柄の下着の匂いを嗅いでたんだっつーの!さっさと逮捕しろよ」
「はいはい、もっとマシな嘘ついてくれ。そんなわかりやすい嘘、誰も信じねぇからな?お前みたいな頭のおかしな奴の話、誰が信じると思ってんだ」
「小雪さんにも聞けばわかるさ?本当の話なんだからな」
小雪のいる一番手前の取調室から、廊下の突き当たりにある、一番奥の取調室に行こうとすると、婦警が仁王立ちして小雪の前に立ち塞がった。
「あの…婦警さん…。私も夏海君と同じ取調室に行きたいのだけど…」
「それはダメ!あの子はとても凶暴だから危険よ?警察でも手を焼いてるの…」
「夏海君は凶暴なんかじゃありません!ものすごく優しい人なんです」
「あの子、私にも性格どブス!とか言ってきたのよ?どっちの性格が悪いんだか…」
「夏海君の悪口言わないでください…」
「悪口を言われたのは私の方よ?」
「夏海君は何もしてない人に絶対にそんな事言わない…」
「警察も好きでやってるわけじゃなくて、通報があったから出動しただけなの」
「そうかもしれないけど…。この前の冤罪の時も…碌に調べもしないで…、警察は夏海君に酷い事をしたんでしょ?」
「あの冤罪事件で始末書を書かされて、こっぴどく叱られたから、あいつもあの子をかなり恨んでるのよ…」
「そんなの逆恨みじゃないですか?悪いのはあの短気な刑事さんでしょ!」
「私は突き指程度だったけど、先輩は何針も縫う大怪我を負わされて、障害者だからって特に罪には問われなかったけど…。公務執行妨害で逮捕も出来たんだからね?」
「冤罪で逮捕しといて、公務執行妨害っておかしくないですか?謝る気はないの…」
「あんなに暴れるから措置入院になるんじゃない?頭がおかしいのよ、あの子は…」
「夏海君は頭がおかしくなんかない!おかしいのは警察の方でしょ?」
「あなたも錯乱状態で言ってる事が支離滅裂だわ…。どうやらあなたも措置入院させるべきね?」
「夏海君を逮捕しないで!私は措置入院でも何でもすれば良いから…」
しばらくして精神鑑定の医者が到着して小雪は措置入院で病院に入れられて、両手両足をベルトで拘束されて、泣きながら寝る羽目になった。今までおさまっていたのに、病院で拘束された途端、フラッシュバックが連続で起こる。安静剤を打たれても一睡も出来ないが、それでも更にキツい薬を打たれて、無理やり眠らされた。悪夢を何度も何度も見て目を覚ますと、また安静剤を打たれて眠らされる。何も幸せを感じない。ただ死にたい衝動に襲われ続ける。これが現代日本の心のケアの実態だった。何も心を癒さず、ただ磔にして薬漬けにするだけだ。
「大きいやつは夏海君用で小さい奴はお店のお客さんやお友達に配る用だよ?」
「小雪さんは千秋って源氏名でやってるってオカンから聞いたけど、エロ親父からセクハラとかされてないか?」
「福原さんって人がしつこく絡んで来てるけど、お金持ちだからいっぱいお酒やおつまみ頼んでくれるし、春海ママも喜んでたよ!」
「そっか…。もっと普通のバイトやって欲しいんだけど」
「夏海君はスナックが嫌いなの?」
「いや、ガキの頃はよく店に遊びに行ってたんだけど、エロ親父がガキがいると酒がまずくなるって怒ってたから、行かなくなっただけだ。あとでそのエロ親父がオカンと寝たとか言って来て、俺の為に体売ってたのか?って思ったらムカついて来て…」
「やっぱり夏海君は優しいんだね?本当はお母さんの事が大好きなんだよ。だからムカついたんだと思う」
「て言うか中学生にオカンと寝たとか言ってくるオッさんとかマジで尊敬できねぇ!あんな大人にだけはなりたくない…と中学生の時に思った。だから行きたくない…」
「私もそんな大人は嫌いだよ?夏海君の方が絶対に大人っぽいなって思う」
ハロウィンは月曜日なので登校してすぐ小雪は友達にカップケーキを何個か配る。
「これ小雪が作ったの?美味しそう!」
「うん、手作りだよ?私は朝ごはんに味見で食べたけど」
「同棲中のツンデレ彼氏にも食べさせてあげたの?」
「うん、美味しいって喜んで食べてた」
放課後は夏海の家に帰らず、スナックじゅん子に向かった。材料費でへそくりが減ってしまったので、稼ぎたいと思っていたから五時からバイトに入る。お客さんが来ると手作りのパンプキンパイを配った。福原も上機嫌で受け取る。
「千秋ちゃんが作ったやつかい?」
「はい!私の手作りです」
「とか何とか言って本当は遥ママの手作りを、そう言って渡せと言われたんだろ?」
「私はそんな事は言いませんよ?千秋ちゃんが自分で作って持って来たんです」
「こいつは失礼!わしの勘繰り過ぎだったようだな」
その場でパンプキンパイのラッピングを開き、福原は一気に頬張る。
「美味い!こんな美味いパンプキンパイは初めて食った」
この日も小雪が指定されまくり、その日のナンバーワンの座を獲得した。ナンバーワンには金一封が出るが、場末のスナックなので、それほど金額は高くはない。
「この前はあの子が来てなかったから、私がナンバーワンを取れたけど、梨沙が辞めたくなった理由がわかるわ…」
「若いってだけで喋りも上手くないのにチヤホヤされててムカつくよね?」
裏に設置されたトイレにある、小汚い化粧直しルームで、熟女のホステスがタバコを吸いながら愚痴をこぼしている。
「ママ、ちょっと話が…」
ホステスたちに呼ばれて春海が奥の部屋に行くと、みんなで集まって深刻な顔をしている。
「どうしたの?千秋ちゃんだけだと大変だから、接客のヘルプに回ってあげて」
「ヘルプはいくら注文されてもボーナスが付かないですよね?なんか馬鹿馬鹿しくなって来て…」
「梨沙がいた頃もそうだったでしょ?」
「梨沙はあそこまでお客様の贔屓が激しくなかったし、私たちもご指名される事があったから良かったんだけど、千秋が来てから他の子は誰もご指名されなくなってるんです…」
「私たちも辞めようと思ってます」
「そんな事言わないで?千秋ちゃんが休んだらお店が回らなくなってしまうわ」
「でも…これ以上は…なんか精神的に辛くて…」
「わかったわ…。千秋ちゃんと話してみるから少し待って?」
春海は仕方なく、店が終わる頃に小雪を呼んで、こう言った。経営者として苦渋の決断である。
「小雪ちゃんには悪いんだけど…他のホステスの子が辞めちゃうって言うから、別のバイトを探してくれる?あなたならいくらでも雇ってくれるところはあるから」
「そうですか…。夏海君にも辞めて欲しいって言われてたから、そうします…」
夕方五時から閉店の十時まで頑張ったので、ナンバーワンの金一封が出て、一日で八千円稼げた。
「これだけあったら…フライヤーも買えるかな?夏海君に負担はかけたくないもん」
帰りのバスはもうなくなっていたので、仕方なく歩いて帰れるマンションの方へ向かってトボトボと歩き始める。玄関先で小雪の母親が仁王立ちして待ち構えていた。
「あっ、お母さん!どうしてそこに立ってるの」
「あなたの帰りが遅いから待ってたの」
「さっき家に帰るってライム送ったから?バイト先から友達の家が遠くて、バスもないの…」
「その友達の件についても調べさせてもらったの。あの夏海って言う背の低い男の子の家に泊まってるんでしょ?」
「夏海君は真面目だから私には一度も手を出してこないよ?」
「夏海って子の事も調べたんだけど、警察に何度も補導されてて逮捕歴もあるじゃない?危険だわ」
「誤認逮捕で冤罪だったんだよ?補導されてたのは虐待されて家出してたからだと思う」
「お母さんはね、あなたの事を心配してるの!」
「夏海君は本当に良い子だから!」
「私がここまで言ってもダメなら仕方ないわね?先に警察を呼んであるから今頃…」
「えっ、なんで警察を呼んであるの?」
「未成年者略取の罪で夏海って子を逮捕してもらいます」
「そんな事しないで…酷いよ…。やめて?お母さんの馬鹿!」
小雪は慌ててバス停前に止まっている夜間タクシーを呼び止めると、小学校の前まで行きたいと頼んだ。タクシーの料金メーターはガンガン上がって行き、八千円ギリギリのところで降ろしてもらう。小雪は無我夢中で走った。バスなら数分の距離が、妙に長く感じる。足が攣りそうになりながら、夏海の家を目指した。
「お前ら!これは住居不法侵入だぞ?」
「黙れ!お前みたいな犯罪者に人権なんてねぇんだよ?」
「は?俺が何やったっつーんだよ!また誤認逮捕で冤罪起こす気か…」
「小雪って子の親から通報されたんだ。娘を誘拐されたから犯人を捕まえてくれってな」
そこへ、小走りの小雪がやっとの思いで到着する。
「待ってください!私は誘拐なんかされてません。お母さんの早とちりなんです…」
「ほら見ろ?また冤罪を起こすなんて無能過ぎるんだよ!お前ら警察は…」
「とりあえず二人ともパトカーに乗れ!署の方で、ゆっくり話は聞いてやるから?」
「話なんか聞いた事ないじゃん?」
「うるせぇ!てめぇが騒ぎ立てるから、ご近所さんも大勢見に来てるぞ。他人に迷惑かけんな?」
「迷惑かけてんのはお前だろが!」
夏海の家の周りは大勢のギャラリーに取り囲まれている。携帯で写真を撮っている子供もいた。
「お願いです…刑事さん。私が全部悪いから…夏海君は何も悪くないんです…」
小雪は警察の袖に縋り付いて頼んだが、夏海は手錠をかけられてパトカーに無理やり乗せられて連れて行かれてしまった。小雪はその場にへたり込んで泣き崩れる。婦警が小雪の肩を抱いて慰めた。
「署の方で事情を聞いたら帰れるから、一緒に行きましょ?」
「本当ですか?行きます!」
ミニパトに乗せられて、小雪も夏海の跡を追った。警察署に着くと夏海の取調室とは別の取調室に連れて行かれる。空気の入れ替えの為、換気の為に取調室のドアは開けっぱなしなので、夏海の声はだだ漏れだった。
「だから何度も言ってんだろ?小雪さんの家に住んでる変態野郎が蝶柄の下着の匂いを嗅いでたんだっつーの!さっさと逮捕しろよ」
「はいはい、もっとマシな嘘ついてくれ。そんなわかりやすい嘘、誰も信じねぇからな?お前みたいな頭のおかしな奴の話、誰が信じると思ってんだ」
「小雪さんにも聞けばわかるさ?本当の話なんだからな」
小雪のいる一番手前の取調室から、廊下の突き当たりにある、一番奥の取調室に行こうとすると、婦警が仁王立ちして小雪の前に立ち塞がった。
「あの…婦警さん…。私も夏海君と同じ取調室に行きたいのだけど…」
「それはダメ!あの子はとても凶暴だから危険よ?警察でも手を焼いてるの…」
「夏海君は凶暴なんかじゃありません!ものすごく優しい人なんです」
「あの子、私にも性格どブス!とか言ってきたのよ?どっちの性格が悪いんだか…」
「夏海君の悪口言わないでください…」
「悪口を言われたのは私の方よ?」
「夏海君は何もしてない人に絶対にそんな事言わない…」
「警察も好きでやってるわけじゃなくて、通報があったから出動しただけなの」
「そうかもしれないけど…。この前の冤罪の時も…碌に調べもしないで…、警察は夏海君に酷い事をしたんでしょ?」
「あの冤罪事件で始末書を書かされて、こっぴどく叱られたから、あいつもあの子をかなり恨んでるのよ…」
「そんなの逆恨みじゃないですか?悪いのはあの短気な刑事さんでしょ!」
「私は突き指程度だったけど、先輩は何針も縫う大怪我を負わされて、障害者だからって特に罪には問われなかったけど…。公務執行妨害で逮捕も出来たんだからね?」
「冤罪で逮捕しといて、公務執行妨害っておかしくないですか?謝る気はないの…」
「あんなに暴れるから措置入院になるんじゃない?頭がおかしいのよ、あの子は…」
「夏海君は頭がおかしくなんかない!おかしいのは警察の方でしょ?」
「あなたも錯乱状態で言ってる事が支離滅裂だわ…。どうやらあなたも措置入院させるべきね?」
「夏海君を逮捕しないで!私は措置入院でも何でもすれば良いから…」
しばらくして精神鑑定の医者が到着して小雪は措置入院で病院に入れられて、両手両足をベルトで拘束されて、泣きながら寝る羽目になった。今までおさまっていたのに、病院で拘束された途端、フラッシュバックが連続で起こる。安静剤を打たれても一睡も出来ないが、それでも更にキツい薬を打たれて、無理やり眠らされた。悪夢を何度も何度も見て目を覚ますと、また安静剤を打たれて眠らされる。何も幸せを感じない。ただ死にたい衝動に襲われ続ける。これが現代日本の心のケアの実態だった。何も心を癒さず、ただ磔にして薬漬けにするだけだ。
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