エマとニコ

アズルド

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第十一話

ライバル関係

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 ニコは合鍵を一つペニーに手渡した。

「次に来た時は…それで中に入って良いから…」

「えっ、合鍵…私がもらって良いの?」

「別に取られて困る物は置いてないし…。一番高いのは鸚鵡だけど…、あの鸚鵡やかましいから…ペニーにあげるよ?」

「鸚鵡なんて高価なもの、もらえるわけないでしょ?エマ様に叱られるじゃない…」

「母さんが…ペニーに鸚鵡をあげても良いって…言ってたから…大丈夫だよ?」

「そうなんだ?エマ様ってカッコいいわよね!」

「ペニーは…僕の母さんの事を…尊敬してるんだよね?」

「国王様が女は子供を産む為に神が作り出したものだ。とか発言して、フェミニストたちから反感を買ったんだけど、ラインハルト様がエマ様と騎士団長を交代して、騒ぎは収まったのよ?」

「そうだったんだ…」

「確かキャンベル先生もエマ様の事は好きみたいよ?面接で私がエマ様の話をしたら素晴らしい!って褒めてくれたし」

「僕の面接の時…キャンベル先生…そんな事は言ってなかったけど…」

「目の前にエマ様がいたから、言い出しづらかったんじゃない?」

「僕を養子にした理由とか母さんに尋ねてたよ」

「未婚の母が子供を引き取るって大変だけど、エマ様は男よりも稼ぎがあるから出来るのよね?」

「今はラインハルト様より…母さんの方が地位が上だって…ラインハルト様も言ってたな…」

「表向きにはね?でも実質的にはエマ様よりラインハルト様の方が、周りからの人望も厚くて、地位が低くてもラインハルト様にヘコヘコしてる連中は多いの」

「そう言えば…あのいじめっ子の父親が…ラインハルト様に目を付けられて…謹慎処分になったって言ってたから…権限は強いのかな…」

「実質上、国王様の次に偉いみたいよ?ラインハルト様って」

「ラインハルト様は…母さんの事が好きみたいなんだ…」

「ニコもそう思うんだ?私もそう思った!おしどり夫婦になれそうだけど、結婚しないのよね…」

「どうして母さんは…すごく綺麗なのに…結婚しないのかな…?」

「妊娠したら仕事ができなくなるからでしょ?」

「母さんが妊娠しても…ラインハルト様は産休を取らせるって言ってたけど…」

「実は私、ラインハルト様にも憧れてるのよ?騎士団の男たちの中で一番、カッコいいわよね!」

 ニコは突然、ペニーを抱きしめると耳元で囁いた。

「母さんも…ペニーも…僕より…ラインハルト様の方が…好きなんだね?」

「何、馬鹿な事を言ってるのよ?ニコはニコで良いところはあるわ!頼りなさそうに見えるけど」

「ラインハルト様は…僕のライバルだ…。ラインハルト様に勝たないと…」

「ニコが魔法で戦ったらラインハルト様も勝てないんじゃない?」

「やってみないとわからない…。今度…ラインハルト様に…お手合わせを…お願いしようかな?」

「あのいじめっ子みたいに殺してしまいそうにならないかしら…」

「手加減はしない…。ラインハルト様とは一度…本気で勝負してみたい…」

「大人しそうに見えて、ニコも男なのね?考え方が好戦的だわ…」

「僕がもし…ラインハルト様に勝てたら…母さんはなんて言うかな?」

「ニコがラインハルト様に大怪我させたりしたら、叱られるんじゃない?」

 アルバイトの時間になったので、ニコとペニーはレストランまで歩いて行く。いつもの様にウェイターの服を着て、ニコは出入り口のそばに立っている。

「いらっしゃいませ…。あっ…ラインハルト様だ…」

「おや、ニコ君がレストランで働いていたとは…。エマからも聞いてないぞ?」

「僕、来月からアパートの家賃は…自分で払う事にしたんです…」

「ここの給料では足りないんじゃないか?あの部屋は月極金貨七枚だろう」

「そうなんだ…。まだ給料はもらってないから…いくらもらえるか…わかんなくて」

「正規雇用の私で月給金貨八枚だけど、研修中のニコは半額の金貨四枚だと思うわ」

「あっ…お金が足りないと…アパートはどうなるの…?」

「アパートを追い出されるか、保証人に支払い請求が届くが、まあ保証人のエマが支払うから追い出される事はないだろう」

「足りない分なら私が貸してあげようか?貯金なら少しあるのよ」

「こんな事なら…もっと安い部屋に…しておけば良かった…」

「私の住んでるアパートなら金貨五万で借りられるわよ?部屋にシャワーは付いてないけど大浴場に行くから」

「ふむ、質屋に入れられる物があるなら、一時凌ぎにはなるが…」

 ラインハルトは気が進まないと言う表情で、ニコにアドバイスしている。

「母さんに…買ってもらった鸚鵡を…質屋に入れたら…いくらになるんだろ?」

「定価が金貨四十枚って言ったわよね?じゃあ半額の二十枚は確実に手に入るはず」

「鸚鵡まで買い与えていたのか?甘やかし過ぎにも程がある!」

「母さんから…自立する為に…頑張ってるから…鸚鵡は手放すつもりでいたけど…」

「エマが買い与えた鸚鵡を質屋に入れて金を作るのは自立してる事にはならないんじゃないか?」

「そうだよね…。でもあの鸚鵡…やかまし過ぎて…勉強してる時も邪魔なんだよ…」

「鸚鵡なんか持ってたら市役所の支援金も受けられないもんね…」

「そうなんだ…。市役所の職員も…ケチなんだね…」

「私が鸚鵡をもらったりしたら、絶対に支援は打ち切りだと言われるわ?」

「しかし君が自立する為にアルバイトを始めたのは感心したよ?なぜその事をエマに黙っていたんだ」

「母さんに…内緒でプレゼントを…買おうと思ってたから…」

「なるほど…それは殊勝な心がけだな」

「ラインハルト様も…母さんには…この事は黙ってて?」

「それは構わんが、ここは安い店なので、月末で金がなくなると、騎士団員がよく来るんだ」

「そうなんだ…。もしかして母さんも来るのかな…」

「まあ騎士団長の稼ぎだと、月末に苦しくなる事はないと思う。私は貯金があるので苦しくはないのだが、貯金は老後の資金にと思ってね」

「あの…ラインハルト様はご結婚はされないのですか?」

 ペニーは直球で思ってる事を尋ねる。

「田舎の母からも早く孫の顔を見せろと伝書鳩が来るが、返事はせずに無視しているよ」

「どうしてエマ様には…プロポーズされないのですか?」

「エマは誰かからプロポーズされても、全て断っていたよ?」

「ラインハルト様からプロポーズされたらエマ様も、喜ぶかもしれませんよ?」

「周りの者はみんなそう言ってくるが…自信がない」

「ラインハルト様ほどの方でも自信がないなんて…」

「恋愛に関してだけだ。仕事に関しては自信を持っている!」

「私がもしエマ様だったとして、ラインハルト様にプロポーズされたら、絶対に断りませんよ?」

「ありがとう。君にそう言ってもらえると少し自信が持てるよ?」

「ねぇ、ニコもそう思うわよね?」

 ペニーにそう尋ねられても、なぜかニコは不機嫌そうにそっぽを向くだけだ。

「今日は何だか怒りっぽいわね?ニコ」

「ラインハルト様…もし宜しければ…僕とお手合わせして…もらえませんか?」

「ん?剣術の試合なら…私でも相手出来るが、魔術の試合は分が悪いから無理だよ」

「わかりました…。魔法は使いません…。武器は…剣じゃなくても…良いですか?」

「君が保護された時に持ってたボーガンは殺傷能力が高いからダメだ」

「それ以外に…例えばどんな武器を…使っても良いですか?」

「飛び道具全般はダメだな。手から離れない武器なら何でも良いぞ?」

「槍とか鞭とかなら…大丈夫ですか?」

「うむ、それなら君とも良い試合が出来そうだな?」

「ニコ…。まさか本気でやるつもり?」

「本気を出して…ラインハルト様に勝てるか…やってみたい」
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