エマとニコ

アズルド

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第十二話

禁断の師弟愛

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 ニコがカレッジに登校すると、校門で生徒指導のキャンベルが仁王立ちで待ち構えている。

「ニコ・エマーソン。生徒指導室に来なさい?」

「先生、エマーソン君がまた何か問題を起こしたんですか?」

「別に何も?大切な話があるだけです」

「いつもより怒ってない感じだけど…」

 生徒指導室に来ると鍵を掛けてカーテンを閉める。防音壁なので、そこは二人だけの完全な密室空間だっだ。

「会いたかったわ…」

「先生…僕、夕方から四時間…レストランでアルバイトしてますので…よかったら来てください」

「それはどこのレストラン?」

「路地裏に入って…すぐのところに“王国一安いレストラン”って看板があるから…わかりやすいと思います」

「女性客があなたに手を出してるんじゃない?」

「お客様はほとんど…年配のおばあちゃんばかりですし…男性客の方が多いです…」

「それなら安心したわ!」

「今は…先生とお付き合いしてるので…他の女性には手を出してません…」

が食べたくなったらいつでも私に言って頂戴?」

「昨日…たくさん食べたから…今日はもう良いです」

「あなたが良くても私が良くないの!」

「先生…。父さんから言われてる事があって…聞いてくれますか?」

「処刑されたリアムの遺言?一体、何かしら…」

「キスの時間が…、合計三刻(約六時間)以上を超えたら…、女性と別れた方が良いって…」

「別れるなんてダメよ!もう私は…あなたから離れられない…」

「三刻キスすると約十年間寿命が縮まるので…平均寿命が八十四歳だとして…大体、七十四歳までなら生きられる計算です」

「七十四歳まで生きられたら十分よ?」

「でも僕の母さんはキスをし続けたから…三十三歳の若さで亡くなりました…」

「今の私と同じくらいの歳ね。死ぬには若いわ」

「僕は先生に…そんなに早く死んで欲しくありません…」

「だから私と別れると言うの?あなたは優しい子ね」

「今まで先生と…キスした時間をカウントしてましたが…既に一刻以上…経過しています…」

「もう一刻も?そんなにあなたと…キスしてたなんて…」

「残り二刻です…。先生とキス出来る時間は…」

「そんなの絶対に嫌!もうキスが病み付きになってるのよ?あなたのキスなしで生きられない…」

「逆ですよ…。キスしてたら…生きられなくなります…」

「こんなに好きにさせといて、すぐに別れるなんて酷いわ!」

「だから今日はキスを我慢して…ハグだけにしませんか?長く付き合う為に…」

「バグだけじゃ我慢できない…。キスしたいの」

「先生…僕を困らせる事は…言わないでください…」

「あなたは…キスしたくならないの?」

「今はお腹いっぱいなので…」

「じゃあ、お腹が空いたら…キスしましょう?」

 この日はキスせずに光魔法の講義に向かった。キャンベルが教卓から手を振ったので、二コも手を振り返す。ニコに火傷を負わされた男子学生それに気付いた。隣の席の女子大生に耳打ちする。

「今、キャンベル先生が、エマーソンに手を振ってなかったか?」

「気のせいじゃない?あの二人、犬猿の仲だし」

「最近、キャンベル先生のエマーソンに対する態度が優しくなったと思わないか?」

「それは私も思ったけど…。エマーソン君は優等生だし、先生が嫌う理由がないじゃない?」

「絶対にエマーソンの奴の尻尾を掴んでやる!」

「いい加減、諦めたら?グレゴリー…」

 派手な化粧をした女子大生はいじめっ子の男子学生とヒソヒソと話している。

「俺は奴に警戒されてるからジョゼがエマーソンの跡を尾行してくれないか?」

「何で私が尾行しなきゃならないの?」

「代わりに俺がムーアの跡を尾行するからさ?」

「それに一体、何の意味があるのよ?」

「エマーソンとムーアの仲を知りたくないか?」

「それは…気になってたけど、エマーソン君は成績の良い子が好きみたいだから、勉強頑張ってムーアさんの成績を抜けばきっと…」

「エマーソンとムーアは絶対やってると思うぞ」

「それはないわね?あの子、絶対にバージンよ」

「そんな事が、ジョゼにわかるんだ?」

「ムーアさんに男の話をしても、全く興味なさそうだもん…」

「ムーアは本当にバージンなのか?イマドキ、カレッジにそんな女いるんだな」

「エマーソン君はバージンの子ばかり狙ってキスしてるって噂なの…。私が誘っても見向きもしてくれないわ」

「ジョゼは見るからにやりまくってそうだからな?」

「失礼ね!相手は選んでるわよ?誰とでもしてるわけじゃないの」

「俺にはやらせてくれないのか?」

「私…馬鹿な男は嫌いだから」

「魔術カレッジ入れるだけで頭は良いって言われるぜ?」

「学年総合順位は二十位まで廊下に張り出されるけど、グレゴリーの名前は載ってなかったでしょ?」

「うっ…確かに学年二十位以内は無理だけどさ」

「私は二十位以内には入れてたのよ…」

「お前そんな派手な爪してるのに、実は頭良かったんだな?」

 ジョゼの細長い爪には、花殻の模様と小さなパールが散りばめられたネイルアートが施されている。

「ネイルアートと頭の良さは何の関係もないわよ?」

「そんな爪だと頭悪そうに見えるぞ?」

「はぁ…ネイルアート高いのに…。もうやめようかな…。エマーソン君にもそう思われてそう…」

「なぁ、それってトイレの時とかどうやってケツの穴、拭いてんだ?」

「あんたってマジ、最低ね?」

「絶対に爪の間とかに汚物がつきそうじゃん?」

「使い捨ての手袋して御手洗するの!終わったら手袋を脱ぐから清潔よ?」

「うわぁ~、トイレのたびにそれやんの?メンドクセェ」

「オシャレはメンドクサイものなんです!これでも相当、努力してるんだからね?」

 するとキャンベルのチョークが、グレゴリーの頭に飛んで来た。

「痛ぇ~ッ!モロに脳天直撃したぞ…」

「そこの二人!授業中お喋りが多い。減点です」

「あんたのせいで私まで減点されたじゃない!学期末の総合成績に響くのに…」

 その後、学期末の成績表が廊下に張り出されたが、ニコは二位に下がっていて、ペニーが一位になっている。

「ニコに勝つのが目標だったんだけど、多分あれってモラル得点のせいよね…」

「モラル得点って…何?」

「ニコは減点が多かったから、モラル得点の最大の百点分、引かれてると思うわ…」

「どうして…何点引かれてるか…ペニーにはわかるの?」

「総合得点はアカデミーの時より一教科増えて六百点が満点なの。更にモラル得点で最高七百点までになる…」

「僕のテストの成績は全部満点で六百点だけど、一教科分減点されたって事?」

「そうなるわけ。私はこの前、人命救助で五十点もらったから、ニコとの差が十点だから、成績はほとんど上がってないわ」

「でも一位は…すごいよ。おめでとう」

「私に成績で負けても悔しくないの?」

「ペニーが一位になれて…僕も嬉しいよ?これで…奨学金がもらえるね!」

「正直…ニコがいなかったら、光魔法の単位を落として、ギリギリ二十位以内に入れるかどうか危なかったと思うわ…」

「そんな事ないよ…?ペニーなら…一人でもやれたと思う…」

「ううん。モラル得点だって人命救助の加算が一番大きくて…。それだってニコがいなかったら取れなかった得点よ?」

「ペニーの迅速な対応が素晴らしかったから…あいつの火傷も痕が残らないって…母さんが言ってた」

「モラル得点もなかったとしたら、ランキング圏外に落っこちてた可能性もあるし」

 ネイルアートを齧りながら、物陰からジョゼがそれを見ている。

「ムーアさん、またエマーソン君と話してる…。私はランキング圏外に落ちてるからエマーソン君に振り向いてもらえない」

「俺なんてずっとランキング圏外だから、何とも思わねぇが」

「ねぇ、グレゴリー。ムーアさんの弱みを握ってくれない?」

「ジョゼがエマーソンを尾行してくれるってんなら、やってやるよ?」

「交換条件ね?この後、エマーソン君の跡を尾行するわ」
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