三騎士狂想曲

Rila

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1、警護団入団(1)

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 その日は快晴で、澄み渡る青空の下、アベルト王国警護団の入団式典は滞りなく開催された。
 騎士国家試験に合格し、今日のこの日をめでたく迎えた騎士十五名が、本日の主役である。

「レイノルド・アイゼンタイン」
「はい!」

 最初に名前を呼ばれたレイノルドは、大声で返事をして、一歩前へと進んだ。

「本日付で、アベルト王国第十四警護団に配属する」

 配属先を言われ、敬礼をし、一歩下がる。
 横一列に整列した騎士十五名に対し、一人ずつ同じように配属先が読み上げられていった。

 入団式典は警護団指揮管理棟の屋外訓練場で行われており、会場には騎士達の家族、恋人、友人が彼らの晴れ姿を見るために多く集まっている。

 しかし、その観衆の中にレイノルドの知り合いは一人もいない。にも関わらず、彼は違う理由で注目を浴びていた。

「王国最年少の騎士」

 通常は十八歳で騎士見習いから始め、二十歳で試験資格を得られる警護団によわい十八歳で入団してしまった彼は、見習い期間をすっ飛ばして推薦枠で通った逸材として、人々の注目を集めていた。

 父親の存在を知らず、たった一人の家族だった母も早くに亡くした彼は、運よく剣術と魔力の才能に目覚め、生きていくために警護団への入団を決意した。しかしどこへ行っても、彼に対する周囲の視線は常に嫉妬と羨望の目が入り混じっている。

 式典が無事に終了すると、レイノルドは背後から伝わってくる不躾な視線を回避するために、さっさと一人建物の中へ入って行こうとした。途中、「入団おめでとうございます」と言いながら、会場の端で待機していた女の子達から花束と小さな紙袋を渡されそうになるが、花束を返して紙袋だけを受け取った。
 
 建物に入り誰もいない渡通路の縁に腰かけ、紙袋を開けるとクッキーが入っていた。

(花束よりマシか)

 そう思いながら、クッキーを一つ手に取り口に入れた。

 夕方から祝賀会と歓迎会もあるが、本音を言えばどちらにも参加したくない。華やかな席は自分とは無縁であると思っているし、他人と関わるのは苦手だからだ。それでも参加する理由は、騎士寮の食堂が休みとなっているせいで、会場でしか食事にありつけないことがわかったからだ。

「あま…」

 そう言いながら全てを食べ終えると、唇についたクッキーのカスを拭い取り、大人しく時間が来るまで待つことにした。


*  *  *


 祝賀会で出された料理はコース形式で、高級ホテル並みの豪華な料理に騎士たちは大喜びで食いついた。その会場の正面では、白い壁を背景に映し出した映像が流れており、王国の歴史や、王族と官僚の人物たちの紹介など、この国の騎士ならば最低限知っておかなければならない内容でまとめられていた。

 問題が起きたのは、その夜に開かれた歓迎会だった。

 レイノルドはいきなり肩を掴まれて、後ろに引き倒された。顔を上げて見ると、そこには見覚えのない男が睨む目つきでレイノルドを見下ろして立っていた。

「お前がレイノルドか。俺の恋人に色目を使いやがって」

 酒と怒りで正気を失った赤い顔の男が、引き倒したレイノルドに言い放った。

(は?何だ、こいつは)

 自分よりも年上の体格のいい男に見下ろされながら、レイノルドは特に動じることもなく、すぐに立ち上がるべきか否かを考えていた。

 何も言い返されないことにますます苛立った男は、レイノルドの胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。

「聞いているのか!最年少騎士だからって、世の中甘く見てんじゃねぇぞ!」

 周囲に緊張が走り、「止めろ」と数名の同輩達が酔った男を取り押さえようとする。

「放せ!こいつは俺の恋人に気がある振りを見せて、たぶらかそうとしたんだ!」

 周りが制止するのも聞かずに男はレイノルドを決して離そうもせず、ついに拳を投げおろそうとした瞬間―――

「何の騒ぎだ!」

上官の怒声がその場にいた全員の動きを凍らせた。
 
 カツカツと近づいてくる上官が来る前に、殴り合い寸前だった二人は互いに距離を取り、横一列に整列した。

「問題を起こした二人、名前を言え!」

「ベック・オロゾフスキーです」
「レイノルド・アイゼンタインです」

「そこの君。何があったか説明をしろ」

 上官に説明を求められたのはこの二人ではなく、何故かすぐ近くで見ていただけの青年だった。彼は見ていただけなのに、と迷惑そうな顔をしながら簡潔に答えた。

「詳しい事情は分かりませんが、オロゾフスキー殿の恋人のことで揉めていたようです」

 ずっと黙っていたレイノルドだったが、さすがに耐えきれず、許可もまだ出ていないが発言をする。

「自分はその方が誰なのかも知りません。言いがかりです」

「あんだと!?」

 レイノルドの発言は、案の定、酔っ払っているベックの怒りに再び火をつけた。ベックがレイノルドの胸ぐらを掴み上げた、次の瞬間ーーーレイノルドがベックの背後にまわり、さらにその腕を押さえて身動きを封じていた。

 ベックは何が起きたかすぐには理解出来なかったが、自分が抑えられたとわかると、赤面した。

「は、離せ!このヤロウ!」

「うるさいな。こうでもしなきゃ、話を聞いてくれないでしょ。それに今はまだ歓迎会の途中です。みんな楽しくお喋りしてるのに、そういう話なら外でしましょう。ちゃんと聞きますから」

 上官を前にしても緊張をしないのか、レイノルドの冷静な態度に唖然とする顔がいくつも浮かぶ。一部始終を見ていた上官が、ため息をついた。

「敷地内で暴力行為は許さない。今度問題を起こせば即刻処分するぞ。お前たちの為の宴の席で野暮なことをさせるな。まったく…」

 立ち去る上官に頭だけで軽く一礼をして、レイノルドは捕まえたベックに耳打ちする。

「これからあんたを解放するけど、静かについて来い。今問題を起こせば、恋人にも恥をかかせることになるぞ」

 恋人という言葉に反応したベックは、しっかりと頷いた。酒に酔っていても理性はまだ残っていたらしい。解放されると、先を行くレイノルドの後を追って歩き出した。ちょうどその時、ベックの視界に先程上官に状況説明をしていた青年の姿が入った。いきなり進行方向を変えてその青年の前までやって来ると「お前も来い」と言って、無理矢理肩を組んで連れて行こうとする。

「な、なんで!?俺は関係ないだろ」

「乗りかかった船だろ。最後まで付き合え」

 背後で起こっている出来事に呆れながら、レイノルドは中庭へと進んでいった。


*  *  *


「で?君の恋人って、どんな人?」

 早速相手の心情を逆撫でする言い方をしてしまったレイノルドだが、彼は彼なりに怒っている理由があった。

 せっかくバイキング形式のご馳走が並んでいたのに、満腹になる前にベックに絡まれて、そのうえ上官にも目をつけられてしまった。こうなったら、早く誤解を解いて中に戻りたいのだがーーー

「お前!今日女の子から花と菓子をもらっただろう!」

「入団式典でもらったアレか?お前たちももらっただろう?あの中に恋人がいたのか?」

 あっさりと質問に質問で返されたベックは、答えに窮した。

「ま、まさか、お前、みんなアレをもらえると思っていたのか?」

「違うのか?てっきりそうだと思って、面倒くさいから花は返したぞ」

「その花をもらったのが…いや、返された子が俺の恋人だ!」

 息を切らす勢いで叫ぶベックとは対照的に、レイノルドはまだ理解できないという様子で首を傾げている。

「そうか。で、なんでボランティアからもらった花を返しただけで、俺がお前の恋人をたぶらかしたことになるんだ?」

「ーーーっ!おまえぇ…!」

 ベックは予想していなかった展開に口をパクパクとさせながら、怒りで肩を震わせている。
 二人の一連のやり取りを見ていた青年は、一人で爆笑し始めた。

「なんだ!ベックの勘違いじゃんか!ぶっ、くく…くるし…!」

「うるせえ!勘違いじゃねえ!彼女は花を返されたんじゃなくて、貰ったと思って喜んでたんだ!こいつの迷惑な勘違いのせいで、俺は今日恋人に振られたんだぞ!」

「え?今日?入団式の日に?」

「うるっさい!そうだよ!部外者は黙ってろ!」

「お前が俺を連れてきたんだろ!」

 二人の会話を聞いていただけだが、こんな日に恋人に振られた哀れな男が目の前いるとわかれば、どんなに鈍いレイノルドでも、つい同情の目を向けてしまう。

「残念だったな」

「はあ!?お前に言われると余計に虚しいわ!」

 この後、ベックは自分の誤解を詫びることなく、再び二人を宴会の席に連れ戻した。
 酒を延々と飲み続けるベックの隣で、いい加減部屋に帰ろうとする二人は何度も引きとめられ、延々と愚痴を聞かせたのだった。
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