三騎士狂想曲

Rila

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2、警護団入団 (2)

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「れーい!レイ!レイ!」

 街中で無視できない声量で後ろから呼び止められたレイノルド(通称:レイ)は、仕方なく振り返って声の主を睨みつけた。

「うるさい。ベック」

「おいおい。仮にも俺はお前より二歳年上だぞ。もうちょい敬意を払えよ。それよりあいつ見てないか?」

「あいつ?」

「魔術の天才と言われているアッカーだよ」

「…誰?」
 
 沈黙の後、ベックがため息をつきながら頭をかいた。

「お前なぁ、一緒に酒を飲んだ相手の名前くらい覚えてやれよ」

 一緒に酒を飲んだ相手など、勝手に誤解をして初めからケンカ腰で絡んできたこの男と、その巻き添えを食って最後まで絡み酒に付き合わされたもう一人がいたことしか記憶に残っていない。

(あー、あいつか。魔術の天才か。なるほど。たしかに騎士というわりには華奢な奴だったな)

 せっかくアッカーのことを思い出しても、レイノルドはそんなふうに思うだけであった。

 彼はベックを無視して、手に持っていた地図に視線を戻した。

「そんな余裕なんかない。俺は早くこの地図を頭にいれないといけないんだ」

 レイノルドとベック、そして今この場にいないアッカーの三人が所属する警護団十四支部は、王都第三地区の警備部隊としてこの地区の治安を維持する業務を担っている。他所ヨソからこの土地にやってきたレイノルドにとって、この第三地区を熟知することは何よりも最優先事項だ。今日は非番なので一人で街に出て地図を見ながら道を覚えていたところ、同じく非番だったベックに見つかってしまったのだった。

「お?真面目だなぁ。そんなことは遊びながら頭にいれるもんだよ。俺も付き合ってやろうか!」

 入団式の初日から面倒くさい男だと思っていたが、どうやらお節介な性格でもあるようだとわかると、レイノルドはベックを見て渋々質問をした。

「なんであいつを探しているんだ」

 そう聞かれたベックは、“それを待っていました”と言わんばかりの笑みを浮かべた。 

「俺、剣術の腕はいいんだけど魔力のコントロールがダメなんだ。だからアッカーにお願いして、時々教えてもらおうって思っているんだけど、お前も一緒にどうだ?」

 ベックからの予想外な誘いに、レイノルドはその場で考え込んでしまった。最年少騎士と謳われてはいるが、じつはベックと同じ悩みを抱えていたからだ。アッカーが魔術の天才というならアドバイスが欲しいと素直にそう思えた。

「……でも、タダで教えてくれるかな」

 ベックはぽかんとして「そこまでせこい奴じゃないと思うけど…」と腕を組んで考えている。

 人付き合いが苦手なレイノルドにとって、誰かを頼ることはとても難しいと感じてしまうことなのだった。



ーーーーーーーーーーーーーー



 二人が探しているアッカーは勤務中のはずなので、この地区のどこかにいるだろうと言うことで、とりあえず偶然出会える事を期待して再び散策を開始した。

 今日は非番なので二人は私服だが、地図を持って歩くその姿は傍から見れば観光客と変わりなく、すれ違う女性達はキラキラと目を輝かせ、通り過ぎた男達からは睨むような目つきで見られていた。それに気づいたベックは、涼しい顔で歩く隣の青年の横顔をちらりと見た。

「なんかお前と歩いていると、世の中は不公平だなって思えてくるよ」

 ベックがそう言ったので、レイノルドは軽いため息をついた。

「まったく同感だよ。俺は辺境の地で生きるのに必死だったっていうのに、王都はこんなに平和なんだもんな」

「ん?そうか…なんか、ごめん。失言だった。忘れてくれ。それにしてもお腹すいたなー。あ、あそこに行こう。サンドイッチがうまいって有名な店なんだ。いろいろと面倒をかけたし、おごってやるから行こうぜ」

 ベックが何故か必死に誘うので怪しいと思ったレイノルドだったが、結局はおごりという言葉に弱く、大人しくついて行くのであった。


 
 お腹を空かせたレイノルドとベックが立ち寄ったパン屋は、店内でイートインができるスペースも設けられていた。そこで見たことのある人物を発見したベックは喜びの余り大声で声をかけてしまった。

「あ!お前もここにきてたの!?」

 ベックの大きい声にびっくりして振り向いたのは、二人が探していたあのアッカーだった。

「な、なんでお前ら…!」

「いやぁ。やっぱりここはサンドイッチが有名な店だからな!でもここで会うなんて奇遇だな~!」

 笑いながらアッカーがいるテーブル席まで来ると、同席している警護団の制服姿の男が自分達の同級生ではなく、同じ部隊に所属する上級生だと気づいて慌てて挨拶をした。

「あ、失礼します!ベックです。こっちがレイノルドで、俺たちはアッカーの同期です」

 ベックは自己紹介をしただけなのだが、何故かその男がムッとした顔で睨んできたので、ベックは思わず身を引いてしまった。

「え?俺、何かした?」

 なかなか注文をしないベックにしびれを切らしたレイノルドが、ベックの肩をたたいた。

「…ベック。注文しよう」

「お、おう。そうだった。注文しなきゃ」

 ベックはそそくさとその場を離れて、カウンターにいる可愛らしい小柄な女性に注文をすると、またアッカーのいる席に戻ってきた。

「ここで食べて行くつもりか?」

 アッカーが気まずそうに聞いてきたが、ベックは遠慮なくお願い事を切り出した。

「いや、頼みがあってさ。まずは話を聞いてくれる?」

「頼み?」

「アッカーてさ、入団試験で魔術テスト満点とっただろう。俺は剣術はできるけど魔法がダメなんだ。そこでさ、非番の時に自主練を兼ねてちょっと教えてくれないかなーって思ってさ。あ、こいつも一緒!」

 そう言って、ベックはレイノルドの肩に手を回し、アッカーに満面の笑みを見せた。

「…断る」

「え!やっぱり授業料が必要!?」

「いや、そうじゃなくて…俺も暇じゃないし…」

 そこへ、先ほどカウンターにいた女性が、二人分のランチプレートを運んできてくれた。

「はい、ローストビーフとエッグ&ベーコンです」

「あ、ありがとう!」

 男にはガサツな態度を見せるベックが優しい笑顔でお礼を言うと、彼女は可愛い笑顔を返してカウンターへと戻って行った。それを見ていたアッカーが呆れ顔でこう言った。

「お前…この間、恋人に振られたばっかりじゃなかったか」

「え、いや、何、その冷たい目。普通にお礼を言っただけだろ」

 ベックはそんなつもりはなかったのだが、周囲の目はなんとなく冷たい。俺をどんな男だと思ってるんだ、と無言で憤慨したベックだった。





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