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3、警護団入団 (3)
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ローストビーフが挟まれた分厚いサンドイッチを食べながら、ベックがアッカーと一緒にいた青年にチラリと目を向けた。
(名前は確か―――)
「先輩は、上官からユランさんて呼ばれてましたね。確か昨年首席で入団した方ですよね」
モグモグと肉厚なベーコンを味わいながら、レイノルドはベックの記憶の良さに感心していた。所属している第十四警護団の支部には上官や先輩、同期の人数を合わせると約三十名以上はいる。入団して二週間も経っていないので、まだ全員と会話をする機会もないはずなのに、ベックはかなり記憶力がいいようだとわかったのだ。
「君は入団初日からクダを巻いていた男だろう。酒は止めるべきだ」
痛いところを突かれたので、普段はお喋りなベックだが今回は黙ってしまった。
レイノルドはセットのスープとデザートも平らげると、水を飲み干して、アッカーに顔を向けた。
「いつなら教えてくれますか?」
「ん?何?」
「魔術です。俺も制御できない時があるんです。敵を飛ばそうして間違って壁ごと吹っ飛ばしたことがあって、怒られたことがあるんです」
四人がテーブルを囲んで座っているパン屋兼カフェ「マカノラ」には、別のグループ客やカップルも来ている。その全員に聞こえてしまったレイノルドの発言のせいで、四人は一瞬で注目の的になってしまった。
カウンターにいる店員の女性も、怯えてこちらを見ている。
「バカ!空気が読めない奴だな!分かったよ。教えてやるから、とりあえず今夜俺の部屋まで来い」
「ありがとうございます」
レイノルドは軽く頭を下げてアッカーに礼を言った。
「あ、俺も、行っていいよね…?」
話が勝手に進んでいく中、寂しそうに尋ねたベックだった。
アッカーと無事に約束を取り付けたレイノルドとベックが店から出て行った後、上級生のユランがアッカーに小声で話しかけた。
「あの二人、身元は大丈夫ですか?」
なぜか敬語で話すユランに、アッカーは普通に返した。
「恋人のことで揉めていたみたいだし、あまり追求しなくても大丈夫だと思うよ」
「分かりました」
「まぁ、とりあえず今は、こっちのことに集中しよう」
二人は平穏を取り戻した店内で、カウンターにいる女性に視線を投げた。明るく接客をこなしているが、じつは先日たった一人の兄を亡くし、そして今は彼女自身が誰かにつきまとわれる、いわゆるストーカー被害に直面している。
制服を着て巡回してくれる警護団の二人と目が合ったその女性は一瞬だけ素顔に戻り、不安そうに微笑むだけだった。
※ ※ ※
その日の夜、アッカーは約束通り二人の迷惑な同級生を部屋の中へと迎え入れた。
この二人は入団式初日から縁ができてしまい、しかもなかなか面倒くさい奴らであることは既に気づいている。早く終わらせよう、と思ったアッカーは単刀直入に言った。
「魔術のコントロールができない理由は二つある。自分の魔力量を理解していない事と、あとは性格の問題だ」
なぜか二つ目の理由が癪に触ったレイノルドとベックだったが、今日はお酒を飲んでないベックは軽く咳払いをして、冷静に質問で返した。
「魔力量を理解するって、レベルは検査数値を見てわかっているつもりだけど違うのか?」
「数値を見て分かったつもりになっているだけで、頭と体が繋がっていないようなものだな。だから日々練習をして自分の魔力量を体にもわからせないといけないんだよ」
レイノルドがなるほど、と頷きながら二つ目について尋ねると、
「それはな、お前達は物事を簡単に力づくで解決しようとするクセがあるだろう。普段からせっかちなタイプの人間は魔法を使う機会が少ないから、自分の魔力量に気付くのが他の人より遅れるんだ。慎重な奴ほど自覚するのが早いし、コツを掴めば僅かな集中力で自分の魔力を自由に操ることができるってわけさ」
アッカーはそう言いながら左手の人差し指から炎を出して、火力を自由に変えて見せた後は徐々に小さくして消して見せた。
レイノルドは、アッカーの言っていることは何となく理解できたが、なぜ自分がせっかちの部類に入るのかわからない、と思っていた。
「俺はせっかちなのか?」
「んー。君は他の人より魔力量もありそうだけど、武術も秀でているから、トラブルに巻き込まれても一番簡単な方法で解決してきただろう。せっかちと言うよりも才能がありすぎて、本当の自分の事がわかっていないかもしれないな」
「…?俺は誰よりも自分のことを分かっているつもりだけど」
レイノルドの答えに、ベックが即答で否定した。
「いや、どうかな。意外と自分の事なんて分かっているようで、分かっていないかもしれなぞ。特にレイはけっこう鈍感なところがあるしな」
ベックに言われると何故か心当たりがあるような気がしたレイノルドは、そわそわと落ち着かない気持ちになった。
「まぁ、好きな人でもできれば、いくら鈍いお前でも新しい自分に出会う日がくるかもな」
レイノルドを弟のように扱うベックを見たアッカーは、慎重にベックの反応を伺うように、いきなり違う質問をぶつけた。
「ベック。昼間に来ていたあのカフェ、前にも行ったことがあるのか?」
「いや、パン屋でサンドイッチが美味しいって有名な店だろ。レイに迷惑かけたから、お詫びにランチを奢るって話になってあそこに行っただけだよ。…何かあるのか?」
それから少し間が空いた後、アッカーは二人を同じ支部の仲間として、先に事情を打ち明けることにした。
「今日指令が出たんだ。あのカフェにいた女の子の周辺警護をするようにってさ」
「理由は?」
ベックは訳を尋ねながら、お店のカウンターにいた可愛らしい女性のことを思い出していた。
「一週間前にお兄さんを誰かに殺されて、その後から部屋を荒らされたり、付け回されているらしい」
「目的がはっきりしないと、ずっと警護するのも無理があるな」
「気になるなら明日上官からその話を聞くといい。とにかく俺はしばらくあの子の警護にあたる事になるから、魔術のことは自分達でなんとかしてくれ」
しっ、しっと猫を払うような手つきで二人に部屋から出ていくように促したアッカーに、レイノルドとベックは口を尖らせながら自室へと戻って行ったのだった。
(名前は確か―――)
「先輩は、上官からユランさんて呼ばれてましたね。確か昨年首席で入団した方ですよね」
モグモグと肉厚なベーコンを味わいながら、レイノルドはベックの記憶の良さに感心していた。所属している第十四警護団の支部には上官や先輩、同期の人数を合わせると約三十名以上はいる。入団して二週間も経っていないので、まだ全員と会話をする機会もないはずなのに、ベックはかなり記憶力がいいようだとわかったのだ。
「君は入団初日からクダを巻いていた男だろう。酒は止めるべきだ」
痛いところを突かれたので、普段はお喋りなベックだが今回は黙ってしまった。
レイノルドはセットのスープとデザートも平らげると、水を飲み干して、アッカーに顔を向けた。
「いつなら教えてくれますか?」
「ん?何?」
「魔術です。俺も制御できない時があるんです。敵を飛ばそうして間違って壁ごと吹っ飛ばしたことがあって、怒られたことがあるんです」
四人がテーブルを囲んで座っているパン屋兼カフェ「マカノラ」には、別のグループ客やカップルも来ている。その全員に聞こえてしまったレイノルドの発言のせいで、四人は一瞬で注目の的になってしまった。
カウンターにいる店員の女性も、怯えてこちらを見ている。
「バカ!空気が読めない奴だな!分かったよ。教えてやるから、とりあえず今夜俺の部屋まで来い」
「ありがとうございます」
レイノルドは軽く頭を下げてアッカーに礼を言った。
「あ、俺も、行っていいよね…?」
話が勝手に進んでいく中、寂しそうに尋ねたベックだった。
アッカーと無事に約束を取り付けたレイノルドとベックが店から出て行った後、上級生のユランがアッカーに小声で話しかけた。
「あの二人、身元は大丈夫ですか?」
なぜか敬語で話すユランに、アッカーは普通に返した。
「恋人のことで揉めていたみたいだし、あまり追求しなくても大丈夫だと思うよ」
「分かりました」
「まぁ、とりあえず今は、こっちのことに集中しよう」
二人は平穏を取り戻した店内で、カウンターにいる女性に視線を投げた。明るく接客をこなしているが、じつは先日たった一人の兄を亡くし、そして今は彼女自身が誰かにつきまとわれる、いわゆるストーカー被害に直面している。
制服を着て巡回してくれる警護団の二人と目が合ったその女性は一瞬だけ素顔に戻り、不安そうに微笑むだけだった。
※ ※ ※
その日の夜、アッカーは約束通り二人の迷惑な同級生を部屋の中へと迎え入れた。
この二人は入団式初日から縁ができてしまい、しかもなかなか面倒くさい奴らであることは既に気づいている。早く終わらせよう、と思ったアッカーは単刀直入に言った。
「魔術のコントロールができない理由は二つある。自分の魔力量を理解していない事と、あとは性格の問題だ」
なぜか二つ目の理由が癪に触ったレイノルドとベックだったが、今日はお酒を飲んでないベックは軽く咳払いをして、冷静に質問で返した。
「魔力量を理解するって、レベルは検査数値を見てわかっているつもりだけど違うのか?」
「数値を見て分かったつもりになっているだけで、頭と体が繋がっていないようなものだな。だから日々練習をして自分の魔力量を体にもわからせないといけないんだよ」
レイノルドがなるほど、と頷きながら二つ目について尋ねると、
「それはな、お前達は物事を簡単に力づくで解決しようとするクセがあるだろう。普段からせっかちなタイプの人間は魔法を使う機会が少ないから、自分の魔力量に気付くのが他の人より遅れるんだ。慎重な奴ほど自覚するのが早いし、コツを掴めば僅かな集中力で自分の魔力を自由に操ることができるってわけさ」
アッカーはそう言いながら左手の人差し指から炎を出して、火力を自由に変えて見せた後は徐々に小さくして消して見せた。
レイノルドは、アッカーの言っていることは何となく理解できたが、なぜ自分がせっかちの部類に入るのかわからない、と思っていた。
「俺はせっかちなのか?」
「んー。君は他の人より魔力量もありそうだけど、武術も秀でているから、トラブルに巻き込まれても一番簡単な方法で解決してきただろう。せっかちと言うよりも才能がありすぎて、本当の自分の事がわかっていないかもしれないな」
「…?俺は誰よりも自分のことを分かっているつもりだけど」
レイノルドの答えに、ベックが即答で否定した。
「いや、どうかな。意外と自分の事なんて分かっているようで、分かっていないかもしれなぞ。特にレイはけっこう鈍感なところがあるしな」
ベックに言われると何故か心当たりがあるような気がしたレイノルドは、そわそわと落ち着かない気持ちになった。
「まぁ、好きな人でもできれば、いくら鈍いお前でも新しい自分に出会う日がくるかもな」
レイノルドを弟のように扱うベックを見たアッカーは、慎重にベックの反応を伺うように、いきなり違う質問をぶつけた。
「ベック。昼間に来ていたあのカフェ、前にも行ったことがあるのか?」
「いや、パン屋でサンドイッチが美味しいって有名な店だろ。レイに迷惑かけたから、お詫びにランチを奢るって話になってあそこに行っただけだよ。…何かあるのか?」
それから少し間が空いた後、アッカーは二人を同じ支部の仲間として、先に事情を打ち明けることにした。
「今日指令が出たんだ。あのカフェにいた女の子の周辺警護をするようにってさ」
「理由は?」
ベックは訳を尋ねながら、お店のカウンターにいた可愛らしい女性のことを思い出していた。
「一週間前にお兄さんを誰かに殺されて、その後から部屋を荒らされたり、付け回されているらしい」
「目的がはっきりしないと、ずっと警護するのも無理があるな」
「気になるなら明日上官からその話を聞くといい。とにかく俺はしばらくあの子の警護にあたる事になるから、魔術のことは自分達でなんとかしてくれ」
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