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「仙さん」
春信が声を掛けると、仙太郎が「おお、坊ちゃん。お疲れさん」と煙草を持つ手を上げる。
仙太郎は春信が小さい頃から厨房にいた人間で、親しみのある雰囲気から春信は懐いていた。ごま塩頭には、相変わらず絞りはちまきが巻かれている。
「ごめん、休憩中に。またお願いしてもいい?」
春信は持ってきていた容器を差し出す。
「坊ちゃんも熱心なことだ」
仙太郎は煙草を一気に吸い込み、足元に落とす。靴で踏みつけながら、渡された容器を受け取った。蓋を開けると、中に入った春信の拵えた餡を人差し指で掬う。口に運ぶなり、目を閉じて顔を上に向けた。
春信はただその光景を固唾を呑んで見守る。
「うん。うちの味と同じですわ」
仙太郎の言葉に、一気に肩の力が抜けていく。
「でも父は口にさえ入れない」
再び餡を掬って口に運ぶ仙太郎を見ながら、春信は訴える。何が悪いのか聞いても昭蔵は答えてはくれなかった。
「うーん。何度か坊ちゃんの餡を食べたが、うちと遜色はないんだがなぁ。お兄さんの手前、もしかしたら遠慮しているとか」
腕を組み深く思い悩む仙太郎も、原因を見抜けないようだった。
「それはそうと坊ちゃん。養子に出ると聞いたんだが本当か?」
もう仙太郎の耳に届いているのかと、春信は内心驚きつつも頷く。
「ひでー話だよ。こんなにも店の為に奔走している子息を他にやっちまうなんて」
吐き捨てるように口にし、仙太郎は怒りを露わにする。
「仕方ないことなんだ」
「仕方ねぇったって、主人もひでーことするもんだ。こんなことって――」
「これは僕も納得の上でのことなんだ。もし、誰かに理由を聞かれたら、自ら決めたことだと伝えて貰いたい」
仙太郎は何か言いたげに口を開くも、不満を露わにしたまま閉ざす。
「今まで色々とありがとう。これからもどうか、この店を守って欲しい」
春信は頭を下げる。
長く努めている従業員ほど、貴重な人材で宝だ。これからこの店を支えてくれる従業員を一緒に育ててくれるのも、そういった仲間の一人一人なのだから。
春信が声を掛けると、仙太郎が「おお、坊ちゃん。お疲れさん」と煙草を持つ手を上げる。
仙太郎は春信が小さい頃から厨房にいた人間で、親しみのある雰囲気から春信は懐いていた。ごま塩頭には、相変わらず絞りはちまきが巻かれている。
「ごめん、休憩中に。またお願いしてもいい?」
春信は持ってきていた容器を差し出す。
「坊ちゃんも熱心なことだ」
仙太郎は煙草を一気に吸い込み、足元に落とす。靴で踏みつけながら、渡された容器を受け取った。蓋を開けると、中に入った春信の拵えた餡を人差し指で掬う。口に運ぶなり、目を閉じて顔を上に向けた。
春信はただその光景を固唾を呑んで見守る。
「うん。うちの味と同じですわ」
仙太郎の言葉に、一気に肩の力が抜けていく。
「でも父は口にさえ入れない」
再び餡を掬って口に運ぶ仙太郎を見ながら、春信は訴える。何が悪いのか聞いても昭蔵は答えてはくれなかった。
「うーん。何度か坊ちゃんの餡を食べたが、うちと遜色はないんだがなぁ。お兄さんの手前、もしかしたら遠慮しているとか」
腕を組み深く思い悩む仙太郎も、原因を見抜けないようだった。
「それはそうと坊ちゃん。養子に出ると聞いたんだが本当か?」
もう仙太郎の耳に届いているのかと、春信は内心驚きつつも頷く。
「ひでー話だよ。こんなにも店の為に奔走している子息を他にやっちまうなんて」
吐き捨てるように口にし、仙太郎は怒りを露わにする。
「仕方ないことなんだ」
「仕方ねぇったって、主人もひでーことするもんだ。こんなことって――」
「これは僕も納得の上でのことなんだ。もし、誰かに理由を聞かれたら、自ら決めたことだと伝えて貰いたい」
仙太郎は何か言いたげに口を開くも、不満を露わにしたまま閉ざす。
「今まで色々とありがとう。これからもどうか、この店を守って欲しい」
春信は頭を下げる。
長く努めている従業員ほど、貴重な人材で宝だ。これからこの店を支えてくれる従業員を一緒に育ててくれるのも、そういった仲間の一人一人なのだから。
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