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しおりを挟む広々とした玄関は、磨かれた石畳になっていた。
割烹着姿の女中が待ちわびていたかのように現れ、目の前に立つ。
「お帰りなさいませ」と頭を下げる。
「紹介しよう女中の倉田さんだ。本家でもよく働いてくれていてね。今回、こっちに移ってもらったんだ」
倉田と呼ばれた女中は五十代ぐらいの女性で、黒髪を後ろにまとめ上げていた。生真面目そうな雰囲気を醸し出しているところから、清次の言うとおり信頼におけそうだった。
「どうも、お世話になります」
春信は深く頭を下げる。倉田は一瞬驚いた顔をするもすぐに、「はい。何かありましたら、いつでもお申し付けください」と腰を折った。
一階は広々とした洋作りの居間になっていた。ここで食事や歓談を楽しむ場のようだった。
春信は圧倒され、言葉を失っていた。
畳の部屋ばかり目にしてきただけに、こういった木張りの床や、華やかな内装に目を惹かれてしまうのだ。
高い天井には、円を描くように複数の電球が連なった洋燈が吊られている。
中央には白い布が敷かれた大きな洋卓と、見るからに柔らかそうな朱色の背もたれのある洋椅子が設置されている。その周囲を彩るように、洒落た洋箪笥や食器棚が置かれていた。
何もかもが新鮮であり、如何に自分が遅れをとっていたのか思い知らされる。
「こっちには台所と厠がある」
清次が指で指し示す。
可能であればここでも豆を煮たい。そんな思いから、春信は吸い込まれるように台所へと足を向ける。
実家の台所よりは手狭には見えるが、充分動けそうだった。色々な空想を浮かべようとしたところでふと、そんな詮無いことを考えている自分を苦々しく思う。
「別に遠慮することはないよ。好きなだけ、和菓子を作れば良い。もうすでに、倉田さんにも伝えてある」
和菓子屋の息子である事は、清次も周知の事実だ。たとえ春信がこちらの養子になろうとも、好きなことをさせてやろうという清次の配慮には違いなかった。
「……ありがとう」
その心遣いを受け取ることにして、春信は無理やり口元を緩める。
「ボクは君が望むことなら、なんでもするつもりでいる。小豆も砂糖も好きなだけ使うと良い」
「そこまで甘やかさないで欲しい。まだ役に立てるか分からないんだから」
自分に出来る事などたかが知れている。買いかぶり過ぎだと春信は牽制する。
「ここに来てくれただけで、ボクからしたら充分過ぎるぐらいだよ」
これ以上言っても堂々巡りになりそうだと、春信は諦めて口を噤む。少なくとも彼の期待を裏切らないようにしようと、心に留めておくことにした。
綺麗に艶出しされた階段を上がると、二階には四つ部屋があった。階段上がって、全体を囲うようにして、それぞれ褐色の扉がついている。
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