41 / 55
41
しおりを挟む
十月上旬。予定通りに舟が出ると言うことで、春信は正装して清次と共に港に向かった。もちろん手には、餡子の入った容器を包んだ風呂敷がある。
この日の為に、春信は少し改良を加えていた。傍には清次もついていてくれて、邪魔にならない程度に手を貸してくれている。自分でも良い出来映えだと思えるものが生み出せたことに、春信は強い達成感を抱いていた。
港は爽やかな秋風に混じり、潮の匂いが満ちていた。
遠くの方で鴎が飛び交い、美しい旋回を披露している。
港には巨大な舟が何隻も並んでおり、その近くでは日本人と西洋人が荷物を運んだり、談笑している姿が多く見受けられた。
「英語なんて、さっぱりなんだけど」
日本語よりも多国語が飛び交う姿に、春信は自信なさげに清次に訴える。
「心配することないよ。手を差し出されたら、笑顔で握手すればいいだけだからね」
そうこう話していると、紳士然とした西洋風の男性が笑顔でこちらに近づいてくる。
清次も笑顔で対応し、握手を交わしながら何やら英語で受け答えする。それから、春信に手の平を向けて説明すると、感嘆の声を上げて男が手を差し出す。
春信は清次に言われた通りに、笑顔でそれに応じる。
何やら清次に向かって言い、手をなかなか離そうとしない。清次が流暢な英語と共に、止める素振りを見せる。
やっと手が離され、春信は安堵しつつ手を下ろした。
清次と男が二言三言話すと、帽子をあげて別れる。少し離れたところで清次が困ったように笑う。
「君を連れて帰りたいと言っていたよ」
春信は衝撃を受ける。言葉が分からないからこそ、頷いていたらと思うと背筋が凍る思いだった。
「ボクの妻だから、それは出来ないと言ったら何とか引いてくれたんだ」
納得する方も方だが、清次も平気で言ってのける所が春信には信じられない事だった。
それから数人の西洋人に声をかけられ、清次は英語だけでなく、ロシア語でも流暢に受け答えしていた。その姿に羨望を抱きながら、春信は大人しくやり取りを見守る。
そんな卓越した人物の隣にいるということは誇らしくもあり、同時に自分が居て良いのだろうかと不安にも襲われる。
そんな春信の心の揺れを知ってか知らずか、清次は「君が隣にいてくれるだけで、気が楽だよ」と世辞を言う。
「僕はただ、隣にいることしか出来てない」
「それで充分だ。ボクは自慢しながら歩けるからね」
「自慢することなんてないと思うけど」
「自慢じゃない所を見つける方が、ボクには難しいぐらいだよ。日が暮れてしまうかもしれないが、全て上げていこうか?」
清次には勝てないと、「もう、分かったから」と春信は降参する。
「見てご覧、あそこにいるよ」
清次が突然立ち止まり、春信に目で示す。
春信が視線の先を追うと、遠くの方で昭蔵が舟を見上げながら立っていた。見慣れた顔の人物が誰もおらず、祥一郎ぐらいは来るだろうと思っていただけに意外だった。
この日の為に、春信は少し改良を加えていた。傍には清次もついていてくれて、邪魔にならない程度に手を貸してくれている。自分でも良い出来映えだと思えるものが生み出せたことに、春信は強い達成感を抱いていた。
港は爽やかな秋風に混じり、潮の匂いが満ちていた。
遠くの方で鴎が飛び交い、美しい旋回を披露している。
港には巨大な舟が何隻も並んでおり、その近くでは日本人と西洋人が荷物を運んだり、談笑している姿が多く見受けられた。
「英語なんて、さっぱりなんだけど」
日本語よりも多国語が飛び交う姿に、春信は自信なさげに清次に訴える。
「心配することないよ。手を差し出されたら、笑顔で握手すればいいだけだからね」
そうこう話していると、紳士然とした西洋風の男性が笑顔でこちらに近づいてくる。
清次も笑顔で対応し、握手を交わしながら何やら英語で受け答えする。それから、春信に手の平を向けて説明すると、感嘆の声を上げて男が手を差し出す。
春信は清次に言われた通りに、笑顔でそれに応じる。
何やら清次に向かって言い、手をなかなか離そうとしない。清次が流暢な英語と共に、止める素振りを見せる。
やっと手が離され、春信は安堵しつつ手を下ろした。
清次と男が二言三言話すと、帽子をあげて別れる。少し離れたところで清次が困ったように笑う。
「君を連れて帰りたいと言っていたよ」
春信は衝撃を受ける。言葉が分からないからこそ、頷いていたらと思うと背筋が凍る思いだった。
「ボクの妻だから、それは出来ないと言ったら何とか引いてくれたんだ」
納得する方も方だが、清次も平気で言ってのける所が春信には信じられない事だった。
それから数人の西洋人に声をかけられ、清次は英語だけでなく、ロシア語でも流暢に受け答えしていた。その姿に羨望を抱きながら、春信は大人しくやり取りを見守る。
そんな卓越した人物の隣にいるということは誇らしくもあり、同時に自分が居て良いのだろうかと不安にも襲われる。
そんな春信の心の揺れを知ってか知らずか、清次は「君が隣にいてくれるだけで、気が楽だよ」と世辞を言う。
「僕はただ、隣にいることしか出来てない」
「それで充分だ。ボクは自慢しながら歩けるからね」
「自慢することなんてないと思うけど」
「自慢じゃない所を見つける方が、ボクには難しいぐらいだよ。日が暮れてしまうかもしれないが、全て上げていこうか?」
清次には勝てないと、「もう、分かったから」と春信は降参する。
「見てご覧、あそこにいるよ」
清次が突然立ち止まり、春信に目で示す。
春信が視線の先を追うと、遠くの方で昭蔵が舟を見上げながら立っていた。見慣れた顔の人物が誰もおらず、祥一郎ぐらいは来るだろうと思っていただけに意外だった。
12
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話
ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。
運動神経は平凡以下。
考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。
ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、
なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・
ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡
超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる