甘味食して、甘淫に沈む

箕田 はる

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 隣で眠る男の腕の中で、春信はずっと考えていた。久しぶりに清次が隣にいるというのに、感じていたのは幸福ではなく寂寥感だった。色々と支援してくれた清次には申し訳ない気持ちにはなるが、だからこそ半端な気持ちを向け続ける方が不義理でしかないだろう。
「君が寝つかないなんて珍しいね。いつもなら、余韻を楽しむ間もなくすぐに眠ってしまうのにね」
 清次が春信を抱く手を強める。暖かな感触が背中にさらに広がる。
 もうこの熱に触れられないのだと思い、春信は清次の腕に手をやった。
 首に顔を埋める清次に愛おしさを覚えるも、春信はそれすらも全て忘れ難い思い出として心に焼き付けておく。
 覚悟を決めると清次の腕から擦り抜け、何度も愛し合った寝台の上で正座した。
 先延ばしにすることだって出来ただろう。だが、そういうわけに春信はいかなかった。
「話がある」
 春信は清次に切り出す。
「急に改まってどうしたんだい?」
 清次も向かい合うように正座する。いつにも増して愛情に満ちた瞳を前に、春信は酷く胸が痛んだ。それでも膝に乗せた拳を握り、背を正すと春信は口を開く。
「この家を出ようと思う」
 清次の顔色が一気に、愕然としたものに変わる。
「急に何を……さっきまで好きだと言ってくれていたじゃないか」
 狼狽える清次は眉間に皺を寄せ、詰問する。
「あれは嘘だったのか?」
「そうじゃない。好きになってしまったからこそ、僕は君に相応しくない」
「言っている意味がわからないよ」
「僕はきっとここにいても、明臣を思い出してしまう。君が僕を一途に愛してくれているのに」
「あの男の所に行きたいと言うのか?」
「明臣の所にもいくつもりはない。明臣といても、今度は君のことを思ってしまうから」
 清次は険しい顔のまま、春信の真意を探ろうと見つめる。
「だから僕は、一人で生きて行こうと思う。僕なんかを好きだと言ってくれる二人を僕は、これ以上傷つけたくない」
 自分の唯一出来る贖罪だった。二人のように当たり前に一人の人を想えていれば、こんな事にはならなかっただろう。たが、もう遅い。二人の強い愛を前に、春信はどちらかを選択するという手段を見失ってしまっていた。 
「だからと言って、ここを出る必要はないよ。君が傍にさえいてくれれば、他は何も望まないのだからね」
 清次が縋るように、春信の手を取る。
「そうはいかない。僕がここにいれば、明臣はきっと僕を連れ出そうとするはずだから」
「だったら、ボクが追い返してやる。君には会わせないよ」
「そんなこと、僕にはきっと耐えられない。だからこそ、そんな事をする君を僕は自分勝手に、幻滅してしまうかもしれない」
 絶句する清次に春信は「本当にごめん」と、頭を下げる。
 最低な言いようであると、自分でも分かっていた。
 だが、明臣の事を好きだと思っている以上は、否が応でもそういう風に思ってしまいそうだった。
「我儘なことを言っていることは百も承知だから。そんな僕を軽蔑してもらっても構わない」
 いっその事、その方が清次にとって良いのかもしれないとさえ思えてしまう。
 清次は手を離し、黙り込む。いつになく険しい表情で春信から視線を外していた。
 部屋の中が静まり返る。張り詰めた緊張感に、春信は腹に力を込めて向き合う。
「君の気持ちはよく分かったよ」
 清次が目を見ずに答える。
「時間をくれないか? 少し考えさせてくれ」
「分かった」
 清次にだって心の整理が必要なはずだ。春信はいくらでも待つつもりでいた。
 清次がため息を吐きだすと、落ち着かない様子で髪を片手でかきあげる。
「なんだかさっきまで天にも登る思いがしていたはずなのに、急に地獄に突き返された気分だよ」
「……本当に申し訳ない」
 ぐうの音も出ずに、春信は体を縮こめる。
「構わないよ。君が突然いなくなってしまう事の方が、ボクには一大事だからね。本当の事を言ってくれただけ、有難いぐらいだ」
 一瞬それも悩んだが、それこそ清次に対して不義理だと春信は思い留まっていた。
「兎にも角にも、答えは出す。だから君も急に居なくなる真似だけはやめて欲しい」
「分かった。約束する」
 清次の切実な形相に、春信も心からの誓った。

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