甘味食して、甘淫に沈む

箕田 はる

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「ならばと、ボクは二つ目の提案をしたんだ。それが明臣君にここで暮らして貰うことだ」
 明臣がソファーに再び背をつける。
「……何を言ってるのか、理解が追いつかない」
 春信は呆気に取られて、二人の顔を交互に見る。
「明臣君だって、君にはいなくなって欲しくはない。そこはボクだって同じだ。ただ、別で暮らすとなれば、君がこの男に好き放題される可能性もある。ならば、うちで管理した方が都合がいいと思ってね」
 そんなことをしてまで、引き留める清次が信じられなかった。
「それに君があんなあばら屋で過ごす思うと、ボクには許せなくてね」
「はぁ? 荒ら屋とはなんだよっ」
 一触即発状態の二人を前に、春信は「ちょっと待って」と間に入る。
「清次君もなにも、そこまでしなくても――」
 必死になる春信に「春信は俺といたくないのか?」と、明臣は顔を歪める。
「そうじゃない! ただ、こんな事したって、二人は不幸になるだけだ」
「だったら、どちらか選べるのか?」
 核心をつく明臣に「……それは」と弱腰になった。
 答えあぐねる春信に代わり、清次が答える。
「それが出来ないと分かっているから、ボクはその選択肢を取ったんだよ。言ったよね、ボクは君さえ傍に居てさえくれれば、他には何も望まないって」
 清次が春信の手を優しく握る。
「これがボクの出した答えだよ」
 この上ない提案である事は間違いなかった。ただ、それは自分にだけの話であって、二人を巻き込んでしまう事が心苦しかった。
「どうかな?」
「どうと言われても……」
 春信は明臣の方を見る。この家で暮らすとなれば、明臣の人生を大きく変えてしまう事になるはずだ。それを自分勝手に決めるわけにはいかない。
「明臣はどう思う? 僕は正直、明臣の人生にこれ以上は負担をかけたくない」
 明臣には自分なんかに縛られることなく、普通の幸せな人生を歩んで欲しかったのだ。
「俺は最初話を聞いた時、正直信じられなかった。だけどお前に会って、コイツの話が本当だと分かった。正直言うと納得はできない。だけどな、お前を手放す事の方が俺にはもっと諦めがつけられない」
 それから明臣は春信を真っ直ぐ見つめる。
「お前がそれで俺といてくれるなら、俺はそれを受け入れてやる」
「馬鹿だ、明臣は」
「それは聞き飽きたな」
 春信は涙を堪えるように、奥歯を噛む。二人は何処かおかしい。だけど、それを嬉しいと思ってしまう自分こそ、本当の狂人なのかもしれない。
「話は決まったようだね」
 事の成り行きを見守っていた清次が取り仕切るように、声を上げる。
「ただね、明臣君。一つ忠告しておくよ」
 清次が言い含めるように続ける。
「君がもし、春信君を連れて勝手にここから逃げ出そうなどと馬鹿な事を考えたのなら、ボクは春信君共に永遠に辿り着けない場所へと逝くつもりでいるからね」
 それから清次は「氷層みたいに」と呟く。明臣は気が削がれたように唖然とし、春信も言葉を失う。
「あくまでも彼は僕の伴侶だ。それを忘れないように」
 それから清次は一つ手を打ち、「そろそろ夕食の時間だ。倉田さんは機嫌が悪い。早めに席に着こうじゃないか」と微笑んだ。
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