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第三章
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しおりを挟む翌日の早朝。屋敷中に響き渡るほどの激しい雨音に、天野は驚いて目を覚ます。
突如として発生した台風によって船は欠航、漁も中止となってしまった。天野にとってはケリを付ける願ってもみない機会だったが、漁師としては明日の食い扶持に影響が出る死活問題だ。
朝食の席では恭治の父親である勇夫が「妖怪の祟のせいだ」と太い眉を寄せ苦い顔をしていた。
「そんな迷信まだ信じているなんて、おかしな人ね」
朗らかに笑う多恵のお蔭で、湿気っていた場の雰囲気が和やかなものへと変わる。
天野は緊張と不安を悟られまいと、愛想笑いを浮かべた。
「蓮介くんもそう思うわよね?」
「僕はそういう事に疎いので……いたら面白いとは思いますが」
天野は当たり障りのない言葉で返す。
「いるからこそ、裏の集落では密かに生贄を出しているんじゃないか」
ムキになったのか勇夫が抗議の声を上げた。
この集落の真反対には、森を挟んで一つの集落がある。
反対側の集落では尼が貝を取っては、それを収入源にしているようだった。こっちの集落のような港はないらしく、漁船もない。そのため本州への出荷の際は、向こう側の分まで回収してから向かう事になる。
そのせいか、交流の少ない集落同士でも漁師は定期的に顔を合わせている。漁師をやっている勇夫が、向こうの噂が耳に入らないとは言い切れなかった。
「やめてくださいよ。食事中にそんな恐ろしい話」
諌めるような口調で、多恵が顔を顰めている。
「蓮介くんは行くことはないと思うが、あの森には絶対に立ち入らないようにな。あそこ入ったら二度と出られないと言われている」
「出られないんですか?」
変に思われなように、天野は努めて普通に問いかける。
「そうだ。あの場所は昔からそう言われてきていて、この島全員があの場所には近づかない。その昔、陰陽師が――」
「あなたっ!!」
多恵が射すくめるような目で、勇夫を睨みつけた。肩を竦め、困ったような顔で笑う勇夫は恭治と似ていて、やっぱり親子なんだなと思わされてしまう。
自分は父親に似ている所があるのか分からなかった。どちらかといえば、周囲からは母親に似ていると言われていたこともある。天野は線の細い体つきや中性的な顔つきは、威圧的でどこか冷たい印象の父親とは正反対だった。
男らしさには欠けてしまうが、天野としてもその方が都合が良い。あんな家族を放ったらかしにするような父親と、似ているだなんて思われるほうが嫌だった。だからこそ自分は残された妹を自らを犠牲にしてでも、守りたいと思ってしまう。
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