去りし記憶と翡翠の涙

箕田 はる

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第三章

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  次第に緩慢だった手の動きが早まっていき、二人の呼吸も上がっていく。遠くから聞こえてくる波音と共に、小屋の中に淫靡な水音が激しさを増していた。

「あっ……恭治……」

 天野が訴えかけるように見上げれば、恭治も既に限界に近いようで苦しげに熱っぽい吐息を吐き出していた。

「好きだ。蓮介」

 力強く言い切った言葉と共に唇を重ねられ、思いの丈をぶつけるように激しく唇を貪られていく。
 その荒々しさには、過去の自分達が築き上げてきた友情すらも壊してしまいそうだった。

「……っ」

 込み上げてくる強烈な快感に耐えきれず天野が体を震わせ吐精すると、恭治も追うように果て温かい液体が腹部に降り注ぐ。
 やっと手の動きが緩やかになり最期の残滓まで出し切ると、恭治がやっと唇を離した。

「大丈夫か?」

 気遣うような目の色をした恭治は、不安げに天野を見つめる。

「……大丈夫」

 天野が体を起こそうと肘を付くと恭治も体を起こし、ハンカチで天野の腹部にかかった液を丁寧に拭っていく。 
 こういう時はどんな顔をすれば良いのか天野は分からず、その様子をぼんやりとした目で見つめる。

「気は……変わったか?」

 天野のシャツのボタンを閉めつつ、恭治が伺うように問いかける。一瞬の躊躇いは合ったが、天野は首を横に振る。

「……そうか」

 それっきり二人は無言で始末を付けると、小屋を後にした。

「これぐらい、良いだろう」

 そう言って恭治が天野の手を取り、繋ぎ合わせる。誰かに見られてしまうのではと不安にもなったが、朝も早い漁師たちは今頃とっくに床に就いているだろう。それに都内とは比べ物にならないほど街灯が少ない。

「せめて便りぐらいは寄越せよ。お前は少し薄情なところがあるからな」

 冗談めかしに小さく笑う恭治に、「そうだな」と天野は少し明るめの声で返す。頬を緩めたくとも、不自然な笑みしか作れない。不可能な願いだったが、あえて否定はせずにおいた。

「あんまりにもお前が音信不通だと、彼女も心配するだろ。帰って来た時は顔ぐらい出せよ」
「……分かった。出来たらそうする」

 親友に嘘を重ねるのは辛いものがあって、断定するような言い方はしたくなかった。
 歯切れの悪い天野をどう思ったか分からなかったが、恭治は「銭湯寄ってくか」と言って一箇所だけ店先に灯っている明かりに足を向けた。
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