57 / 93
第三章
16
しおりを挟む「――こういう訳なので、泰子をどうか貰ってやってはくれませんでしょうか」
天野は畳に付くほどに頭を下げ、恭治の両親に懇願する。理由は嘘偽り無く、正直に話した。
天野の父親から隠すためにも、恭治の両親には予め知っておいたうえで承諾を得たかった事が大きい。
「俺からもお願いします。母さんたちも彼女の事はよく知っているだろう。俺は……彼女を救いたいと思っている」
居住まいを正し、隣で一緒に頭を下げる恭治に天野は胸が詰まる思いがした。
「恭治は……泰子ちゃんが好きなのか?」
勇夫の問いかけに、天野は唾を呑みこむ。心臓が割れそうなほど、激しく打っている。
「はい。好きです」
断定するように言い切った恭治に、天野は密かに奥歯を噛みしめる。
「そうか……お前はどう思う?」
豪快な勇夫もさすがにこの時ばかりは、静かな声で問いかけている。
「私は別に構いやしませんけど、泰子ちゃんは器量もいいですし……ただねぇ――」
多恵の少し躊躇うような口調に、天野は不安げに顔を上げる。
「こんな辺鄙な島に嫁いできて、彼女が不憫なような気がしてならないの。こんな言いしたくないんだけど……お嬢様だからね……」
多恵は視線を彷徨わせ、語尾が小さくなっていく。
「家族の贔屓目かもしれませんが……彼女は甘えたところもなく、自分の立場をきちんと弁えられます。それに彼女は、この場所をとても気に入っています。母が亡くなってからも、この島に行きたいと言っていましたから」
天野は膝に載せた拳を固く握り、必死に訴えかける。泰子がこの島を気に入っていたのは本当だ。何度も行きたがっていたが、母の面影を思い出すのが嫌で天野の方が避けていた。
「……だからどうか、どうか――」
微かに肩が震えだし、目の縁に涙が溜まっていく。
「俺がきちんと彼女を支えていく。俺もコイツも腹くくって、こうして頭を下げている。どうか、承諾して欲しい」
恭治も後押しするように、再び頭を下げた。親友にこんな真似をさせてしまっている自分が、如何《いか》に無力かを思い知らされてしまう。
「……わかったわ」
しばしの沈黙のうち、多恵が溜息と共に言葉を吐き出す。
「お前が良いなら、俺も別に構わない」
勇夫も事実上認めてくれたと見ても良いだろう。
了承が取れた事に安堵からか涙が溢れ出し、天野は何度も礼を述べて頭を下げた。恭治も「ありがとう。恩に着るよ」と両親に頭を下げる。
恩に着るのは自分の方だと、天野は強く唇を噛み締めた。
2
あなたにおすすめの小説
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる