去りし記憶と翡翠の涙

箕田 はる

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第三章

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「――こういう訳なので、泰子をどうか貰ってやってはくれませんでしょうか」

 天野は畳に付くほどに頭を下げ、恭治の両親に懇願する。理由は嘘偽り無く、正直に話した。
 天野の父親から隠すためにも、恭治の両親には予め知っておいたうえで承諾を得たかった事が大きい。

「俺からもお願いします。母さんたちも彼女の事はよく知っているだろう。俺は……彼女を救いたいと思っている」

 居住まいを正し、隣で一緒に頭を下げる恭治に天野は胸が詰まる思いがした。

「恭治は……泰子ちゃんが好きなのか?」

 勇夫の問いかけに、天野は唾を呑みこむ。心臓が割れそうなほど、激しく打っている。

「はい。好きです」

 断定するように言い切った恭治に、天野は密かに奥歯を噛みしめる。

「そうか……お前はどう思う?」

 豪快な勇夫もさすがにこの時ばかりは、静かな声で問いかけている。

「私は別に構いやしませんけど、泰子ちゃんは器量もいいですし……ただねぇ――」

 多恵の少し躊躇うような口調に、天野は不安げに顔を上げる。

「こんな辺鄙へんぴな島に嫁いできて、彼女が不憫なような気がしてならないの。こんな言いしたくないんだけど……お嬢様だからね……」

 多恵は視線を彷徨わせ、語尾が小さくなっていく。

「家族の贔屓目かもしれませんが……彼女は甘えたところもなく、自分の立場をきちんと弁えられます。それに彼女は、この場所をとても気に入っています。母が亡くなってからも、この島に行きたいと言っていましたから」

 天野は膝に載せた拳を固く握り、必死に訴えかける。泰子がこの島を気に入っていたのは本当だ。何度も行きたがっていたが、母の面影を思い出すのが嫌で天野の方が避けていた。

「……だからどうか、どうか――」

 微かに肩が震えだし、目の縁に涙が溜まっていく。

「俺がきちんと彼女を支えていく。俺もコイツも腹くくって、こうして頭を下げている。どうか、承諾して欲しい」

 恭治も後押しするように、再び頭を下げた。親友にこんな真似をさせてしまっている自分が、如何《いか》に無力かを思い知らされてしまう。

「……わかったわ」

 しばしの沈黙のうち、多恵が溜息と共に言葉を吐き出す。

「お前が良いなら、俺も別に構わない」

 勇夫も事実上認めてくれたと見ても良いだろう。

 了承が取れた事に安堵からか涙が溢れ出し、天野は何度も礼を述べて頭を下げた。恭治も「ありがとう。恩に着るよ」と両親に頭を下げる。
 恩に着るのは自分の方だと、天野は強く唇を噛み締めた。

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