去りし記憶と翡翠の涙

箕田 はる

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第三章

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 長時間の話し合いの末、準備が整い次第すぐにでも泰子を嫁に迎える段取りとなった。しかしすぐにと言っても、それなりの根回しや婚礼の準備に時間がかかってしまう。
 あまりにも時間がかかるようであれば、高松家へ自分が直接行って直談判しようとも考えていた。
 婚礼については大掛かりなものにはせず、近くにいる親戚を呼んでの慎ましやかな式で済ませるという事で話は纏まる。
 長男の婚姻なのに立派な式を挙げさせてあげられない事に対して、天野は申し訳無さで何度も頭を下げた。
 多恵は「佳奈江の時に立派な式を見ているから、別に構わないわ」と優しく慰めてくれる。姑になる人が多恵であれば、泰子もきっと幸せに暮らしていけるだろうと天野は少しだけ心が軽くなった。
 後は泰子と話をして夜逃げさながらあの屋敷から逃げおおせて来れれば、全ては上手くいく算段だ。
 恭治の両親からはも天野自身はどうするのかと聞かれたが、恭治に話した通り自分は海外に行くので問題はないと話をして誤魔化した。

「今日も泊まっていきなさいね。遠慮はいらないわ」

 疲れているはずなのに、多恵は普段と変わらない笑顔を天野に向ける。

「いろいろとありがとうございます」
「良いのよ。家族になるんだから」

 多恵の一言に胸が熱くなる一方、自分がしようとしていることの罪悪感が押し寄せてくる。

「……はい」

 振り絞るように返事をした天野は、恭治に促されるように広間を後にした。


 部屋に入って早々に、天野は恭治に頭を下げた。

「本当にありがとう。恭治には頭が上がらない……」
「やめろ。これは俺が決めたことでもあるんだ。お前一人が背負う必要はない」

 恭治が天野を抱き寄せ、諭すように頭を撫でていく。天野は一瞬身を強張らせるも、諦めるように全身の力を抜いて恭治に体を預ける。
 昨夜の出来事以来、箍《たが》が外れたかのように恋人同士がするような真似事を恭治はしてきた。
 天野が居なくなると分かっているからこその行動だろう。内心は後ろ暗い事この上ないが、天野は拒みはせずにされるがままになる。
 髪を撫でていく恭治の指先は、微かに震えていた。今生の別れになるかもしいれないと、恐れているようにも思えてならない。
 付き合いは途切れ途切れであっても、恭治は天野をよく見ている。だからこそ嘘をついていると分かっていても、気づかぬ振りをしているかもしれなかった。

「お前の妹は必ず幸せにする。だから……お前もちゃんと幸せになれ」

 耳元で囁くように言われ、天野は罪悪感に唇を噛みしめる。

「……うん」

 恭治の肩越しに顔を埋め、天野は目を閉じて嘘を重ねた。
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