作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 これで黎城の作品を読んだのは二作目となるが、他にも二作品ほど作品を出している。この作品だけでは、黎城が何を伝えたいのか分からない。他の著書も読めば答えはわかるのかもしれないと、語部はネットで検索を掛けた。黎城の著書で何があるか調べるためだった。
 検索欄に黎城静と入れるとずらりと検索結果一覧が画面上に並ぶ。ネット通販サイトが上部を占めている。ネットでは買うつもりはなく、まとめているページはないかとスクロールしていく。そこで大型掲示板のスレッド名が目に留まる。
『【自伝】黎城静【二十三ページ目】』
 クリックしかけて、語部はとどまった。自伝という言葉は気になるが、きっと根も葉もない噂や誹謗中傷も書かれているかもしれない。自身の体験と重なり、語部はブラウザを閉じた。別に本人に聞けばいいし、なんなら本屋の棚に並んでいる本を読めばいい。
 原稿や本を送った真意についても本人に聞くのが良いはずだ。そう結論付けると、語部はスマホを手に取る。思い過ごしであればそれでいい。ただ、ここまでしてくるには理由があるはずだった。
 電話をかけようとして、着信があったことに気付く。履歴を開き、久々に目にした名に語部は動きを止めた。神埼からだった。渦中の人物からの着信に、いつのまにか眉間の皺が深くなる。担当が外れてから二年ほどになるが、これまでに連絡が来たことは一度もなかった。
 何か用事があるのならば、安時を通してくるのが筋なようにも思える。けれども安時からの連絡はなく、新着には神埼の名前だけしか表示されていなかった。
 どうするか悩んだが、よっぽどの用事がない限りはかけてこないはずだ。もしかしたら、安時のことで電話をかけてきたのかもしれない。そう考えると、少しだけ妙な胸騒ぎがした。
 語部が折り返しをかけると、三コール目で「はい、神崎です」という低い声が聞こえた。
「語部です……さっき電話を貰ったみたいで」
「ああ」
 冷めたような口調の神埼に、胸がざわりとした。自分も愛想がない方だが、神崎よりはまだましだと語部は思う。
「まだ正式には決まっていないんですが、アンソロジーの企画が持ち上がっているんです。青少年向けの青春小説でテーマは『夢見る少年少女』になります。枚数はざっと原稿用紙四十枚程度、提出は十二月二十日ぐらいだと踏んでいます」
 淡々と話を勧めていく神埼に、懐かしさと同時に、何故自分にこの話をという疑問で、語部は立ちつくした。
「聞いてますか?」
 そう言われて、やっと語部は「はぁ」と腑抜けた声が出る。電話の向こうから溜息が聞こえた。
「お書きになるつもりはないのですか?」
 そう問われ、これは仕事の話で受けるか受けないのか聞かれているのだと気づく。
「なんで……その話を俺に?」
 そこが大きな謎だった。安時からだったら分かるが、何故神埼から話が来るのだろうか。
「語部先生が最近、新刊を出されていないと聞いたものですから。いい加減、編集長もしびれを切らしているんです。安時から聞いてないんですか?」
 歯に衣着せぬ物言いは相変わらずだが、衝撃のあまり語部はスマホを強く握る。安時からは急かされたことなど一度もない。そんな状況になっているのであれば、言ってくれた方が良いに決まっている。
「この企画を断ったら、先はないかと私は思いますけど。それとも、次回作の目処はたっているのですか?」
「……たっていない。それどころか、プロットを没にされたぐらいで」
 思わず弱音が口をついて出る。まさか、すでに取り返しのつかないところまで来ていたとは——自分の意識の怠慢が招いた結果だと歯噛みした。
「相変わらず大量の手紙を書いているようですね。そんなことしている暇なんて、貴方にはないんじゃないのですか。今はとにかく、仕事を選ばずに受けることです」
「安時はそれを……」
 知らないはずがないが、一応確認を取る。さすがに安時を介さずに仕事を受けるわけにはいかない。そんなことは神崎も分かっているはずだった。
「もちろん知っていますよ。聞いてませんか? なかなか返事をもらえなかったものですから、こうして連絡を差し上げたんです」
 少し憤っているのか、神埼の口調は険しい。
「……何も」
 安時は何故、この話を自分にしてこなかったのか。今にも首を切られそうになっていることを言わないでいるのか。裏切られたような気分に、胃の腑に痛みを感じた。
「……そうですか。とにかく、今すぐにでも安時と話をしてください」
 用は済んだとばかりに「失礼します」と神崎は言って、通話が切れる。
 安時に変わってから、こんなにも不安を感じたことはなかった。それだけ自分がぬるま湯に浸っていたということだろう。
 語部は神崎に言われたとおり、すぐさま安時に電話をかける。間延びしたようなコール音に苛立ちが募った。
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