22 / 63
22
しおりを挟む小休憩を挟みつつ読み終えた頃には、十七時を過ぎていた。かれこれ五時間は経っている。語部は凝り固まった肩を解しつつ、首を左右に動かす。通っている整体の予約は、一週間先だった。パソコンに向かうにしろ、本を読むにしろ肩こりはつきまとう。
語部はもう一度、本を手に取る。パラパラとページを流し見ていくも、メモらしきものはなにもなかった。
やはり本の内容が、黎城の伝えたいことなのかもしれない。それとも本当は自分の作品を読んでもらいたいだけで、こんな遠回りなことをしているだけなのか。
語部は読んだ内容を反芻する。
主人公の勝俊は四十半ばで妻子持ちの男だ。彼には中学二年生の息子がいる。その息子は幼い頃から虚言癖があり、自分は夢で人の危機を見ることができるのだと言った。もちろん勝俊も妻も信じるはずもなく、周囲に不安感を与える息子を何度も嗜めていた。
小学校に入ってもそれが続き、挙句の果てには気味悪がられていじめにまで発展してしまう。そのせいか、息子はほとんど口を聞かなくなった。部屋にも籠りがちになり、学校も休むようになった。
そんなある日の早朝。会社に行く準備をしている勝俊の元に、息子が突然青ざめた顔で現れる。「今日は会社を休んだほうがいい」と急に言い出したのだ。
そんなことはできるはずもなく、大事な商談があるのだと伝えるも息子は「夢で見たんだ」と言い続ける。いい加減にしろと言って、勝俊が怒鳴ると玄関に向かう。そこで妻の悲鳴が聞こえ振り返ると、息子が自分の腹部に包丁を突き刺していた。
会社に行くどころではなくなり、すぐさまに救急車で病院に向かうこととなる。気が動転している中、なんとか会社に連絡を取ると、そこで会社付近の道路で車による暴走事故が起こったというニュースを知ることとなる。
ちょうど出社の時間が近いとあって、職場の何人かが被害にあったという。もし、息子が止めなかったら自分は死んでいたかもしれないと気付き、勝俊は愕然とする。
一命を取り留めた息子に話を聞くと、息子はやはりこのことを夢で見たのだと話し始めた。たとえ信じてもらえなくても、自分の家族を見殺しにするわけにはいかなかったのだと。そこで訥々と今までにあった夢で見たことが実際に起きた話を語った。
息子の胸中を知った勝俊はそこで初めて、息子にしてきた自分の対応を悔い改めることとなる。
ありがちなストーリーだが、息子の様子が徐々に暗澹としたものに変わっていく姿を勝俊の視点から捉え、それに気づけていないもどかしさが読者の同情を誘う。息子が自分の命に変えてまで父を止めよとしたのも、こちらとしては息を呑む展開だった。
それにとにかく感情描写が豊かで、文章も簡潔で読みやすい。その点では内容が真逆であっても、以前に送られてきた原稿に似ていた。
0
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜
高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀!
片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。
貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。
しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。
利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。
二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー?
曄琳の運命やいかに!
『後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
【完結】“熟年恋愛”物語
山田森湖
恋愛
妻を亡くし、独りで過ごす日々に慣れつつあった 圭介(56)。
子育てを終え、長く封じ込めていた“自分の時間”をようやく取り戻した 佳奈美(54)。
どちらも、恋を求めていたわけではない。
ただ——「誰かと話したい」「同じ時間を共有したい」、
そんな小さな願いが胸に生まれた夜。
ふたりは、50代以上限定の交流イベント“シングルナイト”で出会う。
最初の一言は、たった「こんばんは」。
それだけなのに、どこか懐かしいような安心感が、お互いの心に灯った。
週末の夜に交わした小さな会話は、
やがて食事の誘いへ、
そして“誰にも言えない本音”を語り合える関係へと変わっていく。
過去の傷、家族の距離、仕事を終えた後の空虚——
人生の後半戦だからこそ抱える孤独や不安を共有しながら、
ふたりはゆっくりと心の距離を縮めていく。
恋に臆病になった大人たちが、
無理をせず、飾らず、素のままの自分で惹かれ合う——
そんな“優しい恋”の物語。
もう恋なんてしないと思っていた。
でも、あの夜、確かに何かが始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる