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しおりを挟む長編を書くより先に期限のある短編から、話を考えた方が良い。
語部はそう決めると翌日から早速、話を練り始めた。
テーマは決まっている。後はどんな流れの話にするかを考えれば良い。その点は楽だった。問題は長編とは違って、話を簡潔にまとめなければいけないことだ。
今までに雑誌の連載小説をしたことがなく、全てが単行本の書き下ろしであった。特にページ数は決まっていなかったせいか、少ない枚数で考えるのは初めてのことだ。
それに青少年向けの話を書くのも初めてだった。難しい内容だと、読者から嫌厭されてしまうだろう。
悩んだ末に神崎に電話をかける。安時に聞こうかとも思ったが、先日の態度にどうも引け腰になっていた。きっと、「やっぱり書くんですね」と責めるような口調で言われるのがオチだと感じたからだ。
神崎に頼ることに抵抗はもちろんある。安時の話が脳裏をちらつきもした。だが、この際ゴーストライターでも何でもいいと思えた。書けないまま、消えていく方が嫌だった。
不甲斐なさに奥歯を噛み締めていると、神崎の声がした。
「語部先生から電話してくるなんて、珍しいですね」と冷ややかに言った神崎に、語部は早々に本題を切り出した。
「こないだの件、引き受けようかと思ってる」
「賢明な判断ですね」
「ただ、書けるかどうか」
内心の羞恥心を隠しつつ言った語部に、たいして気にもとめずに神崎は淡々とした口調で言った。
「先生の若い頃の夢を、お書きになったらどうでしょう?」
「俺の?」
「そうです。先生が小説家を志したのはいつ頃ですか?」
一瞬、語部は口を噤んだ。嫌な記憶が蘇る。黙っていても仕方がないと諦め、「……中学生ぐらいだったか」と力なく言った。
「きっかけは何ですか?」
聞かれると分かっていたが、やはり躊躇って再び口を閉ざす。何十年前のことでも、トラウマとなった出来事が今でも胸に居着いていた。
「言いたくなければ言わなくてもいいです。ただ、そういった自分の話を題材として使うのも良いのではないかと思っただけですから」
黙り込んでいる語部に、神崎は「そろそろ黎城先生との打ち合わせがありますので」と言った。背後から電車の到着を告げるアナウンスが流れていた。
「何かありましたら、また連絡をください。安時を経由してでも構いませんので。ああ、それから黎城先生も今回、このアンソロジーに参加しますので」
いつもの様に「それでは、失礼します」と言って、一方的に電話は切られた。
耳から離したスマホをデスクに置く。暗い画面に語部の険しい表情が映っていた。
自分のことを小説に書く。フィクションに少しの事実を加えるだけのことで、全て本当のことを曝け出す必要はない。よりリアリティを出すために、自分の経験を小説に投影することなどよくある話だ。現に語部も芥川賞騒動の後に出した「紙上」で、自分の過去を少しだけ織り交ぜている。でもあのときは、とにかく挽回しなければと必死だったのだ。だからこそ、嫌な記憶を引っ張りだし、作品に昇華させた。今回もある意味で同じ状況ではある。前回同様に、窮地に立たされていることには変わりないからだ。
とりあえず短編の書き方を知ろうと、書店に行くことにした。パソコンの右下を見て、時間を確かめる。十三時十六分。日も高く、気温も二十五度を超えている。げんなりするが、躊躇っている時間は無駄なだけだ。
語部は立ち上がると、スマホと財布だけを持って部屋を出た。
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