作家は二度、炎上する

箕田 はる

文字の大きさ
26 / 63

26

しおりを挟む

 こないだの書店員がいるのではないかと落ち着かない気持ちでいたが、今日は若い青年と店長らしき人しか見当たらない。安堵しつつ、何冊か見繕っていく。青少年向けのアンソロジーが同じ出版社から何冊か出ているようだった。それを手に取ると、今度は単行本の並ぶ棚へと向かう。
 先日見た『部屋籠もり』のPOPもまだそこにある。気まずさに早々に目を逸らし、棚にならんだレ行の棚差しプレートを辿る。この間読んだ『息子の標』の隣には『路上の王』と『少女の唄』というのが並んでいた。
 まだ三作品しか出ていないのか、それともこの本屋で扱っているのが三作品しかないのか。それは分からなかったが、『少女の唄』を手に取った。表紙には目元が隠れた長髪の少女が、青空に向かって口を開いている絵が描かれていた。その様子はまるで空に向かって歌っているかのようだった。裏表紙は青空に点々と白い雲が描かれている。
 文庫本とは違い、単行本にはあらすじが書かれていない。内容は分からないが、見た感じは青春小説にも見える。今回のテーマに通ずるものがありそうだった。
 レジで会計を済ませ、初夏の生ぬるい風を受けながら帰路に着く。
 早速、アンソロジーの方から先に手を伸ばす。黎城のことも気がかりだったが、自分のことも疎かにすることは出来ない。頭を抱えたい気持ちだったが、今は一つずつ片付けていくしかなかった。
 一冊目を読み終え、二冊目に取りかかろうとした時。不意にスマホが鳴りだす。誰からかと画面を見る。安時からだった。
 ややうわずった声で語部が電話に出ると、「これから会えませんか」と少し疲れた声が聞こえた。
 了承を述べ、一時間後に語部の家に来ることとなった。自分のせいで落ち込んでいるのかと一瞬思いもしたが、さすがに自意識過剰だと考えを改めた。
 一時間にも満たずに、安時は部屋を訪れた。ケーキを買いに行く余裕もなく、語部はいつも以上に悄然としている安時にどう接したら良いのか戸惑った。
 とりあえずコーヒーだけ出すと、安時は無言で頭を下げた。いつもとは明らかに違い、様子がおかしい。どんな言葉をかけて良いのか分からず、語部は隣に腰掛けることも出来ずに立ちつくす。作家であるくせに、口では何も相手に伝えられないのかと、もどかしさを感じた。
「ちょっと待ってろ」
 そう言って、語部は部屋を出た。安時がどちらにと尋ねてきたのを無視して、再び炎天下の中を徒歩二十分かけて馴染みの洋菓子店に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

処理中です...