作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 電話をかけてみると、四コール目で音が途切れた。語部が名乗るも相手からの返答は帰ってこない。しばらく待っても返事はなく、そこで話せないのだと気づく。
「こないだの公園で待っている。一時間後に落ち合おう」
 一方的にそう言ってから語部は電話を切った。ちゃんと来るかも分からなければ、一方的に押しつけてしまったことに少しばかりの罪悪感が芽生える。
 時刻はすでに十八時を過ぎていた。日が延びたとはいえ昼のような明るさではなく、淡いオレンジの光がカーテンの隙間から床に線を生み出している。
 あの公園に行くのは気が重い。向こうで落ち合う頃には辺りは薄暗くなっているかもしれない。少ない街頭の下で、ブランコに乗る黎城の姿を思い出す。
 やっぱり表紙の男に似ていると、語部は複雑な思いで苦笑する。
 一時間後と言ったが、語部は少し早めにマンションを出た。
 会社帰りのスーツのサラリーマンとすれ違い、語部は歩みを早める。
 スーツ姿の自分が脳裏に浮かぶ。小説家として食べていけなくなったら、自分も彼らのような生活――もしくは、バイトを掛け持ちして食い扶持をつないでいくしかなくなるだろう。
 生憎、この歳になっても結婚していなかっただけまだ、立て直しの余地はあった。自分一人だけならどうにでもなる。最悪、実家に戻ろうかとも考えたが、両親はすでに姉夫婦と同居していて自分の入る場所はなさそうだった。
 それに親は語部が小説家になったことをあまりいい顔をしていない。長男である語部には、きちんとした普通の生活を営んで欲しいと望んでいたはずだ。大学まで行かせたのにと、恨んでいるかもしれない。それに芥川賞の件もある。そう考えると、自然と実家に帰る足も遠のいていた。かれこれ何年も実家には顔を出していない。時々、母親から電話が来るものの締め切りが近いからと言い訳をして、正月すら顔を出さなかった。
 先の見えない未来ほど恐い物はない。だったら何故、不安や恐れを抱えたまま小説を書き続けているのか。自分が伝えたいことなど、周囲にとってはどうでも良いことだろし、聞かされたところでだからなんだと思われているかもしれない。
 安定した生活。普通のごく一般的な日常。姉や両親が歩んだような、堅実な人生の道のり。それに自分も素直に乗っかっていたら、すれ違っていくサラリーマン達の様に平凡ながらも安定した幸せを掴んでいたかもしれない。
 鬱屈とした気持ちを抱えたまま、公園内に足を踏み入れると、ブランコにはすでに黎城の姿があった。
 相変わらず長い前髪が、暖簾のように目元を覆っている。語部に気づいたのか顔を上げると、ブランコから立ち上がった。手には手帳を持っている。
「聞きたいことがある」
 そう言って、語部は黎城に近づくと隣のブランコに腰を下ろす。
「とりあえず座れ」
 そういうとカタンという音を立てて、黎城もブランコに腰を落とした。
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