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しおりを挟む「……俺には小説しかない」
零れ出た言葉は自分に向けてだった。何度となく迷い、苦しみ続けてきて、その度に筆を折りそうにもなっていた。大御所作家たちや新人作家の活躍を見ては、自分の才能のなさに自棄を起こしたこともある。それでも今もこうして続けてきているのは、自分に出来ることはそれしかないと悟っているからだろう。
黎城に語ったことで、自分の中の蟠りが氷解していくように心が軽くなっていた。それは自分の中に元々あった答えがきちんと認識された結果なのかもしれない。
「悪かったな。くだらない話をして」
謝罪を口にしながらも、話して良かったと思えていた。
『くだらないなんて言わないでください。話しが聞けて良かったです』
ぶんぶんと首を横に振り、まるで押しつけるように黎城がメモを突きつけてくる。それから再び、自分の手元に戻してペンを走らせる。
『僕もあなたに憧れて作家になったのですから』
グイグイとメモを前に出し、黎城が訴える。
「俺なんかに憧れるなんて、変わってるな」
照れくさく思いながらも、あんなことがあったというのに、そう言ってくる黎城が語部には不思議だった。
「黎城先生も知ってるはずだ。俺は芥川賞に泥を塗った男で、憧れを抱くような人間じゃない」
現に尊敬していたのに、幻滅したと言われたこともある。弁解の余地はなく、その言葉を甘んじて受け入れていた。
『何か理由があったはずです。先生なりに思うところがあったから、ああなってしまっただけで』
「どんな理由があれ、場を乱したことには変わりない」
黎城がうつむく。持っているメモ用紙がクシャっと音を立てる。
「……悪いな」
素直になれないことに語部は申し訳なく思う。それでも言わずにはいられなかった。
このまま黙っているかと思いきや、黎城が再びペンを動かす。
『救われたんです。先生と同じように僕も』
「救われた?」
見せられたメモを前に、語部は首を傾げる。そんな覚えはどこにもない。
『昔、先生に手紙を出したんです。その時にもらった返事で、僕は今もこうして生きていられる』
そんな深刻な内容だったのかと、語部は顔を歪める。初めて会った時に手紙を出したとまでは聞いていたが、それ以上深くは聞いていない。
「そうだったのか。でも悪いが、覚えていないんだ」
手紙の返事は必ず出していたが、数が多すぎて内容を全て覚えてはいない。探そうにも、もう何年も前となると残っているかも怪しかった。それに黎城の名前がペンネームであって、本名と違っていたらなおさらだろう。
『僕も先生と同じ、人との関わりに悩んでいました』
新しいメモ用紙に黎城が記していく。これから語られる話に耳を傾けるべく、語部は黎城の手元に視線を落とす。
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