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しおりを挟む「……終わった」
椅子に背を沈め、語部は時計を見上げる。夜の十九時二十分。電話を切ってから三時間以上経っていた。そういうえば夕飯を食べてなかったなと気付く。途端に腹の虫が鳴った。
何か食べに行こうかと思ったところで、インターホンが鳴る。こんな時間に誰だと不思議に思いつつ、宅配だろうかと玄関へと向かう。
はい、といいながらドアを開けると、厚手のコートにマフラーを巻いた黎城が袋片手に立っていた。
外は相当冷え込んでいるようで、開け放たれた扉の向こうからなだれ込む冷気が、部屋着を通して肌に突き刺さった。
「黎城先生……どうしたんだ?」
ぺこりと頭を下げる黎城に、語部は「取りあえず上がれ」と言って促す。立ち話する余裕のない寒さに加え、黎城の体が微かに震えていたというのもある。細見で血色の悪い外見からして、簡単に風邪を引いてしまいそうにも思えた。
部屋に上げると、黎城がキョロキョロと周囲を伺う。相変わらず挙動不審だなと思いながらも、語部はコーヒーを入れる為にキッチンに立つ。
黎城はテーブルに持ってきていた袋を乗せると、中から白いパックを取り出して並べだした。
「それは何だ?」
コーヒーポットを火に掛けながら、語部は首を伸ばす。黎城がパックの蓋を開けると、語部の方に向ける。中にはサーモンとタマネギのマリネが入っていた。
他のもパックも開け、黎城はその度に語部の方に向けて見せる。チキンに、ローストビーフ、彩りサラダ。それから、色んな種類のパンが入った紙袋まであった。
手が離せない語部の為にか、黎城が無言で一つ一つ披露していた。さすがにパンを一個一個見せてきた時には語部は「わかったから」と止めていた。唇をへの字にする黎城に、さすがに悪い気がして「準備出来たら自分でも見るから」と、フォローになったか分からない言い訳をした。
「ところで、どうしたんだ? 急に」
テーブルに並んだ品々を前に、語部は疑問を投げかける。突然の訪問にも驚かされたが、それ以上にまさか惣菜まで買ってくるとは。
黎城がノートを片手に、キッチンへ来ると手帳を語部に向ける。
『夕飯をご一緒したいと思いまして』
「だったら、連絡してくれれば良かっただろ。危うく出かけるところだった」
あと少し遅かったら、行き違いになっていたはずだ。この寒空の下、わざわざ買って来ていなかったら、どうする気だったのか。
『いなかったら、また来ます』
「この寒い中で行ったり来たりしてたら、風邪引くぞ」
呆れ混じりに語部が言うも、黎城は食器棚を見ては語部の方を見る。どれを使って良いのかと訴えかけているようだった。
「どれでも好きなものを使ってくれ」
語部の許しが出ると、黎城が棚から食器を取り出す。案外マイペースなんだなと、語部は黎城の新たな一面を知った。
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