作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 マンションから出て、足早に洋菓子店を目指す。急いで出てきた事もあって、上着も着ないまま飛び出していた。長袖のシャツから入り込む冬の風が容赦なく体温を下げていく。いっそのこと走った方がいい。語部はジョギングするように、足や手を動かした。シャツとスラックス姿で走る男。何とも滑稽ではあるが、寒いよりはマシだ。驚いたような目で見てくる通行人の横を颯爽と走り抜ける。店に着くと上がった息を整えて、中に足を踏み入れた。
 本日二回目の来店だったが店員は驚いた様子もなく、愛想良く注文した商品を梱包してくれる。それを受け取り、店の外に出た。暖かい店内にいただけに、出たときの突き刺すような寒さが身に堪える。走るわけにも行かず、競歩をする早さで足を動かしながら、家路を辿る。
 同じものは買えなかったが、それでも安時の好きそうなフルーツのたくさん乗ったタルトだ。きっと口では恐縮しながらも、目を輝かせるんだろうと安易に想像が付く。
 マンションに着く頃には、体もだいぶん温まっていた。ただ手は氷のように冷たく、エレベーターのボタンを押す感覚がなくなっていた。
 部屋の階の廊下を歩き、玄関のドアを開ける。ふと、語部は違和感に気付く。靴が一足多い。それに中から話し声も聞こえてくる。訝しく思いつつ語部は靴を脱ぎ、部屋に足を踏み入れる。
 リビングには安時の姿はない。ケーキをキッチンに置き、声をかけようとしたところで、書斎の方から大きな物音がした。
「おい、何やってるんだ」
 何が起きたのか分からず、語部は書斎に駆けつける。薄ら開いたドアを勢いよく開けると、安時が床に尻餅をつき、立ちつくしている黎城を睨み付けていた。一方で黎城は肩を怒らせ、安時を見下ろしている。一体、何がどうなっているのか分からず、語部は唖然として二人を見つめた。
 安時が語部に気付き、こちらを見る。さっきまでの剣呑とした顔から、安堵したように眉根を下げる。
 左頬を摩り、「……先生」と弱々しい声で続ける。
「黎城先生が僕を殴ったんです」
「……どういうことだ?」
 語部は黎城の方を見る。黎城は語部の方を向くこともせずにただ安時を見下ろし、こぶしを強く握っていた。
「僕にも分かりません。急に殴りかかってきて」
「ふざけるな!」
 語部は一瞬、誰が叫んだのか分からなかった。だが、それが黎城であることに気付き、唖然として黎城を凝視した。黎城が倒れ込んでいる安時の胸ぐらを掴む。そこで金縛りが解けたように、語部が間に入る。
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