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しおりを挟む「後はこちらで任せてください。先生には大事な仕事が残ってますから」
「……だが」
「先生は小説家なんです。自分のすべきことをしてください」
戸惑う語部を神崎が一蹴する。
「全てが片付いたら、先生にもきちんとお話ししますから」
神崎に促され、三人で書斎を出る。当然だが安時の姿はない。もう二度と、この場所に安時が来ないのだと思うと、語部は感傷に浸りそうにすらなっていた。
「あまり安時を追い詰めないでやってくれ」
会社としては訴えを起こしてもおかしくはないだろう。原稿を落としたり、作家を騙していたとしたら、大損害が起こりかねなかったのだから。その責任を負わせるのは当然のことだろう。それでも語部自身としては、安時を批難する気は起きなかった。
「先生のお気持ちも分かります。私だって、無関係じゃないですから……ですが、一歩間違えていれば、先生は作家生命を絶たれていたかもしれないんですよ。彼はパソコンのデータを消そうとしていたのですから。締め切りに間に合わなかったら、先生は信用を失い、二度とオファーはなかったはずです。それに身の危険だって起きないとは限らなかった」
神崎が苦悶の表情で、語部に訴える。これだけの事態になっても、安時を庇う語部を甘いと思っているのだろう。
「……だけどあいつは、確かに俺の担当編集だったんだ」
ソファに置かれていた原稿の束を語部は手に取る。語部を退出させる為にわざとコーヒーを零したにしても、原稿ごと駄目にすることも出来たはずだ。無意識に原稿をどかしたのだとしたら、彼は心から小説というものを敬愛している。どんなに恨んでいる相手が書いたものであったとしてもだ。
「元凶は俺だ。だから、この事は大事にしないで欲しい」
「……語部先生」
深い溜息が神崎から漏れる。苛立つように前髪をぐしゃりと掻き上げてすらいる。
「さすがに彼をこのままには出来ません。会社に黙っていたとしても、辞表を出して貰うことにはなるかと」
こうなってしまった以上は、会社にはいられないだろう。面の皮が厚い人間じゃない限り、やりずらくなるのは確かだ。
「とにかく私は、安時を探します。それまでお二人は大人しく、自分のすべきことをなさっていてください」
それから、と神崎の鋭い視線が黎城を捉える。
「黎城先生も大切な時期なんですから、もっと行動は慎重になさってください」
神崎に窘められ、黎城は肩を竦める。
神崎が「いいですね」と、念を押して出て行く。二人だけで取り残され、互いに顔を見合わせる。
「とにかく……黎城先生が分かる範囲で教えてくれ」
神崎はああ言っていたが、いつになるか分からない。モヤモヤした気持ちのままでは、執筆に身が入らないはずだ。
「……はい」
黎城が蚊の鳴くような声で返事をする。いつの間にか筆談でなくても大丈夫になったようだった。ただ、声が聞こえるか心配だと、語部は一応メモ用紙も置いておくかと書斎に戻った。
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