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しおりを挟む我慢すればするほど、どんどんと感度は増していく。それだけ耐えるのも苦しい。
唾を飲み、一歩一歩と足を進める。そこまで広くないはずなのに、ドアまでの距離が途方もなく感じられる。足がガクガクと震えだし、押し上げられた布地は黒い染みが浮いていた。
限界まで追い詰められ、もうやめようと数歩進んだだけで睦紀はベッドに折り返そうとする。そこでつい、膝が床に着く。何度も荒い呼吸を繰り返していると、部屋の外からノックが聞こえた。睦紀が慌てて口を開く前に、扉が開いた。
「大丈夫か?」
春馬が驚いた声を上げて、こちらに近づく。睦紀は愕然とし、熱に浮かされた目で春馬を見た。
「苦しそうな声がしたから、心配になったんだ。具合が悪いのか?」
「……だ、大丈夫です」
必死で首を横に振り、身体を掻き抱くように丸める。不埒な考えだったとはいえ、服を着て良かったと安堵する。
「身体が凄く熱い。熱でもあるんじゃないのか」
春馬の手が肩を抱き、労るようにさする。それだけで得も言われぬ快感が襲う。
「ッ……ぁ……やっ」
下肢がじんわりと熱くなり、ドクドクと脈を打つ。まるで漏らしてしまったかのような、感覚に羞恥で目を閉じた。
「睦紀?」
一瞬、怪訝そうな顔をした春馬だったが、睦紀が股間を手で覆ったことで何かを察したようだった。
「……とりあえず着替えた方が良い」
そう言って立ち上がった春馬の目が、ベッドに釘付けになる。睦紀もそちらに視線を向け、血の気を失う。
ベッドの上には、白い箱とローションのボトルが転がっていた。自分が一体、何をしていたのか。言い逃れのできない状況に、睦紀は身体を強ばらせた。
「……そんな状態で、どこに行こうとしたんだ? 父さんに呼ばれたのか」
「ち、違います……呼ばれてません」
睦紀は慌てて否定する。春馬は苦虫を潰したような顔で、睦紀を見下ろす。
「それなら何故、そんな格好で座り込んでいたんだ? どこかに行こうとでもしていたんじゃないのか?」
興味本位で道具を咥えたまま、歩き回っていたなどとは口にはできず、睦紀は口を閉ざす。どう言い訳したら良い
のか、頭の中は真っ白で思いつかなかった。
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