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悪魔の宿る椅子
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ある日、その喫茶店に訪れた三十代の男性は、例の席に座った。
「お客様、失礼ですがこの席の事はご存じですか?」
「ええ、もちろんです。承知のうえで、この席を選んだんです」
「そうでしたか。でも、本当によろしいんですか?」
「はい」
「わかりました。この席に座るのも座らないのも、お客様の自由です。
それで、お飲み物はいかがいたしますか?」
「それじゃあ、コーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
それから五分も経たないうちに、例の席に座った男は息を引き取った。
それから三日が経ったある日、またしてもその喫茶店の例の席に五十代の女性が座った。
「お客様、失礼ですがこの席の事はご存じですか?」
「もちろんですわ。この椅子に座るために、わざわざ二時間かけてここまで来たんですもの」
「そうでしたか。でも、本当によろしいんですか?」
「ええ、当たり前です」
「わかりました。この席に座るのも座らないのも、お客様の自由です。それで、ご注文はどうしましょう?」
「最後に、とびっきり甘いものが食べたいわ。それと、とびっきり甘いココアをちょうだい」
「かしこまりました」
彼女もまた、五分もしないうちに息を引きとることとなった。
最後の願いであった甘いものを食べることすらできずに、彼女は亡くなったのだ。
その喫茶店に置かれている例の椅子は、人々から『悪魔の椅子』と呼ばれていた。
その椅子に座った者のほとんどが、五分ほどで息を引きとってしまうのだ。
それでも、人々がその椅子に座りたがるのには理由があった。
もし、その椅子に座っても生き延びることが出来れば、
その人には幸運が訪れるという噂があったのだ。
事実、この椅子に座って生き残った者の中には、会社を立ち上げて大金持ちになったり、
世界的に有名な小説家になった者もいた。
その日もまた、とある男性が喫茶店にやってきた。
その男性は例の椅子の近くまでやってくると、
ポケットから取り出した警察手帳を店主に見せながら、
「すまないが、この椅子を調べさせてくれないか?」と言った。
「店の外に持ち出されては困りますが、店内で調べる分には全く構いません」
「ありがとう。それでは遠慮なく調べさせてもらうよ」
刑事は一時間近くかけて椅子を隅々まで調べたが、不可解な点は何一つなかった。
「その椅子には何の仕掛けもありませんよ」
「という事は、この椅子には本当に悪魔が憑いているというのか?」
「どうでしょう。私自身はその椅子に座ったことがないので、なんとも言えません」
すると、刑事は意を決してその椅子に座った。
「そんなことをして良いんですか?あなたは椅子を調べに来ただけで、
この椅子に座ることが目的ではなかったはずでしょう」
「この椅子には何か仕掛けがあるはずだ。
こうなったら、私自身が実験台になって、この椅子の謎を解明するしかない。
それより、この一時間ずっと椅子を調べっぱなしで、喉がカラカラだ。すまないが水を一杯もらえるか」
だが、そう言って張り切っていた刑事も、五分としないうちに息を引き取った。
その喫茶店はとても小さな店だったが、
例の椅子のおかげで客足が絶えることは無く、常に繁盛していた。
それから更に数年が経ったある日、
店主が店を閉めようとしていると、彼の息子が友人を数人連れて喫茶店にやってきた。
するとあろうことか、彼の息子は例の椅子に座ったのだ。
「おい!今すぐその席から離れなさい!」
店主はそう注意したが、それでも息子は椅子から立ち上がろうとはせず、
「大丈夫だよ。俺、悪魔とか信じてないから。
こんなボロボロの椅子に座っただけで死ぬわけないじゃん。
いいか、ちゃんと俺のことを撮っておけよ。五分経っても死ななければ、俺達は大金持ちだ!」
そう言いながら、彼のことをビデオで撮り続けている友人に向かって言った。
どうやら彼らは、その映像をネットに流すことで有名になろうと目論んでいたらしい。
店主は仕方なく、息子や彼の友人たちに飲み物を振舞った。
すると驚くことに、なぜだか息子の友人たちが次々と息を引き取っていった。
「親父!これはどういう事なんだ?どうしてこの椅子に座ってる俺が無事で、こいつらが死んでんだよ!?」
息子は半ば錯乱状態になっていたが、彼の父親は非常に冷静だった。
そして店主は亡くなった息子の友人たちを、一人一人カウンターの裏へと運んだ。
「何してんだよ親父!早く警察に電話しなくちゃ!」
息子は慌ててポケットから携帯を取り出そうとしたが、
父親はそれを制止すると、友人が持っていたビデオカメラを何度も踏みつけた。
「どうしたんだよ親父!?なんでそんなことするんだよ?」
すると父親は、何も言わずにカウンターの裏へと行った。
そして、小さな小瓶に入っている透明な液体を息子に見せながらこう言った。
「これは、JYF-PO7776という薬だ。これを飲めば、五分としないうちに体内のあらゆる器官が膨張する。
この薬の良いところは、体内の器官が膨張してから五分もしないうちに、また元の太さに戻ることだ。
でも、大概の人間は五分と息を止めておくことはできないだろう?」
なるほど。
悪魔が憑りついていたのは、この椅子ではなかったということか。
「お客様、失礼ですがこの席の事はご存じですか?」
「ええ、もちろんです。承知のうえで、この席を選んだんです」
「そうでしたか。でも、本当によろしいんですか?」
「はい」
「わかりました。この席に座るのも座らないのも、お客様の自由です。
それで、お飲み物はいかがいたしますか?」
「それじゃあ、コーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
それから五分も経たないうちに、例の席に座った男は息を引き取った。
それから三日が経ったある日、またしてもその喫茶店の例の席に五十代の女性が座った。
「お客様、失礼ですがこの席の事はご存じですか?」
「もちろんですわ。この椅子に座るために、わざわざ二時間かけてここまで来たんですもの」
「そうでしたか。でも、本当によろしいんですか?」
「ええ、当たり前です」
「わかりました。この席に座るのも座らないのも、お客様の自由です。それで、ご注文はどうしましょう?」
「最後に、とびっきり甘いものが食べたいわ。それと、とびっきり甘いココアをちょうだい」
「かしこまりました」
彼女もまた、五分もしないうちに息を引きとることとなった。
最後の願いであった甘いものを食べることすらできずに、彼女は亡くなったのだ。
その喫茶店に置かれている例の椅子は、人々から『悪魔の椅子』と呼ばれていた。
その椅子に座った者のほとんどが、五分ほどで息を引きとってしまうのだ。
それでも、人々がその椅子に座りたがるのには理由があった。
もし、その椅子に座っても生き延びることが出来れば、
その人には幸運が訪れるという噂があったのだ。
事実、この椅子に座って生き残った者の中には、会社を立ち上げて大金持ちになったり、
世界的に有名な小説家になった者もいた。
その日もまた、とある男性が喫茶店にやってきた。
その男性は例の椅子の近くまでやってくると、
ポケットから取り出した警察手帳を店主に見せながら、
「すまないが、この椅子を調べさせてくれないか?」と言った。
「店の外に持ち出されては困りますが、店内で調べる分には全く構いません」
「ありがとう。それでは遠慮なく調べさせてもらうよ」
刑事は一時間近くかけて椅子を隅々まで調べたが、不可解な点は何一つなかった。
「その椅子には何の仕掛けもありませんよ」
「という事は、この椅子には本当に悪魔が憑いているというのか?」
「どうでしょう。私自身はその椅子に座ったことがないので、なんとも言えません」
すると、刑事は意を決してその椅子に座った。
「そんなことをして良いんですか?あなたは椅子を調べに来ただけで、
この椅子に座ることが目的ではなかったはずでしょう」
「この椅子には何か仕掛けがあるはずだ。
こうなったら、私自身が実験台になって、この椅子の謎を解明するしかない。
それより、この一時間ずっと椅子を調べっぱなしで、喉がカラカラだ。すまないが水を一杯もらえるか」
だが、そう言って張り切っていた刑事も、五分としないうちに息を引き取った。
その喫茶店はとても小さな店だったが、
例の椅子のおかげで客足が絶えることは無く、常に繁盛していた。
それから更に数年が経ったある日、
店主が店を閉めようとしていると、彼の息子が友人を数人連れて喫茶店にやってきた。
するとあろうことか、彼の息子は例の椅子に座ったのだ。
「おい!今すぐその席から離れなさい!」
店主はそう注意したが、それでも息子は椅子から立ち上がろうとはせず、
「大丈夫だよ。俺、悪魔とか信じてないから。
こんなボロボロの椅子に座っただけで死ぬわけないじゃん。
いいか、ちゃんと俺のことを撮っておけよ。五分経っても死ななければ、俺達は大金持ちだ!」
そう言いながら、彼のことをビデオで撮り続けている友人に向かって言った。
どうやら彼らは、その映像をネットに流すことで有名になろうと目論んでいたらしい。
店主は仕方なく、息子や彼の友人たちに飲み物を振舞った。
すると驚くことに、なぜだか息子の友人たちが次々と息を引き取っていった。
「親父!これはどういう事なんだ?どうしてこの椅子に座ってる俺が無事で、こいつらが死んでんだよ!?」
息子は半ば錯乱状態になっていたが、彼の父親は非常に冷静だった。
そして店主は亡くなった息子の友人たちを、一人一人カウンターの裏へと運んだ。
「何してんだよ親父!早く警察に電話しなくちゃ!」
息子は慌ててポケットから携帯を取り出そうとしたが、
父親はそれを制止すると、友人が持っていたビデオカメラを何度も踏みつけた。
「どうしたんだよ親父!?なんでそんなことするんだよ?」
すると父親は、何も言わずにカウンターの裏へと行った。
そして、小さな小瓶に入っている透明な液体を息子に見せながらこう言った。
「これは、JYF-PO7776という薬だ。これを飲めば、五分としないうちに体内のあらゆる器官が膨張する。
この薬の良いところは、体内の器官が膨張してから五分もしないうちに、また元の太さに戻ることだ。
でも、大概の人間は五分と息を止めておくことはできないだろう?」
なるほど。
悪魔が憑りついていたのは、この椅子ではなかったということか。
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