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シオン

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06 帽子屋の虚実

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「……嫌な夢…」



アリスは鬱々とした気持ちで立ち上がると目の前には出口と書かれた下向きの矢印が示された看板があった。そして、その向こうには目立った足場もない深い暗闇が一面に広がっていた。



「またよく落ちる場所ね」



アリスは看板に従って飛び降りた。



暫く暗闇が続いた後に葉が擦れ合うような音が聞こえだした途端にアリスは逆さ宿り木の枝葉の中から飛び出した。



「いっ、つ~」



アリスは飛び出した衝撃で尻餅をついた。



「こんな所に繋がっていたわけね」



アリスは立ち上がり、森の中を迷いながらも抜け出すと白ウサギの言っていた通り、生け垣に囲まれた紫屋根の屋敷を見つけた。



「此処が帽子屋の」



屋敷の門は鉄柵で固く閉じられていた。



アリスは鉄柵の門に手を掛けて登ろうとしたが鉄柵の門は錆び付いたような音を立てて開いた。



アリスはそのまま敷地内に入り、鉄柵の門を閉じた。そして、庭木の陰に隠れながら屋敷に近付くと屋敷の裏手の方から微かに声が聞こえてきた。



帽子屋ときちんとした服を着た大きな山鼠、ヤマネは裏庭でお茶会を開いていた。しかし、長机とたくさんの椅子が用意されているが二人以外誰もいなかった。



「…実に愉快なことだ…」



「で、でも…あの人の言うことは…」



ヤマネは怯えたような震えた声で帽子屋に言った。



「あんな外界の人間の言うことなど聞くに足りない、ようやくアリスが戻ってきたのだから」



帽子屋は笑みを浮かべながらティーカップの紅茶を口に運び、ソーサーに置いて言った。



「それはどういうこと?」



「これはこれは、アリスじゃないか!呼び鈴を鳴らせば迎えにいったものを」



帽子屋とヤマネの前に現れた大鎌を持ったアリスに言った。



「態とらしい」



アリスは心の中で思った。



「そんなことより、私が戻ってきたってどういうことよ?」



「どうやら、あの男の言っていたことは本当だったようだな」



帽子屋はそう思い、椅子から立ち上がった。



「そうだな、私を捕まえることが出来たなら教えてやってもいいぞ」



帽子屋はヤマネにそう言うとヤマネは口笛で何かに合図を送った。すると長机の下から沢山の鼠が現れた。



沢山の鼠達は二人を乗せて敷地内を駆け回り、帽子屋は自らの帽子を天高くに投げ上げた。



「面倒ね」



アリスは二人を追い掛けようとしたが何十倍にも巨大化した帽子が下向きになって地面に落ちてきた。



帽子が浮き上がり、中からフェルトで出来た蛸の脚ようなものが現れ、脚を八本持つフェクロパスとなった。そして、その脚のようなもので飛び上がり、アリスの真上に覆い被さった。



「何なのこれは?」



帽子の中から銀色の風がアリスに向けて吹き出された。



「うっ……」



アリスは目眩を感じた。



「や、やり過ぎじゃ…」



「このくらいではどうってことはない」



フェクロパスの全ての脚に線が走り、フェクロパスの体勢が崩れ、銀色の風の中から黒いマスクで口と鼻を覆ったアリスが飛び出してきた。



「…最悪な気分ね…」



アリスは大鎌の柄を支えに俯きながら呟くとフェクロパスの帽子が二つに分かれ、帽子は破裂して銀色の風が敷地全体に広がった。



「ゴホゴホ…」



帽子屋は平然と佇んでいるがヤマネは咳込んでいた。そして、銀色の風が晴れると…。



「そ、そんな俺の子分達が…」



沢山いた鼠達が全て痙攣しながらひっくり返っていた。



「さあ、色々と話してもらうわよ」



帽子屋とヤマネに歩み寄りながら言った。



「仕方がないな…」



帽子屋は何処からともなく帽子を出すと帽子の中に手を入れ、軍刀を引き抜いた。



「…ってそう易々と話はしませんよ」



帽子を被り、軍刀の切っ先をアリスに向けた。



「そこまでですわ」



というハートの女王の声と共に半分が白地で半分がトランプ柄をした仮面、トランプ兵達が帽子屋、ヤマネ、アリスを取り囲んだ。



「これは王妃様、こんな粗末な所になにようですか」



「捕らえなさい」



ハートの女王がトランプ兵達に命令するとトランプ兵達は三人の両腕を素早く掴んだ。しかし、アリスだけは素早く躱し、大鎌を振るうとトランプ兵達の仮面を切り裂いた。



「これはどういうことですか?」



帽子屋は驚く様子もなく冷静にハートの女王に尋ねた。



「私の取り仕切る裁判で虚偽を言ったからに決まっているではありませんの」



「私が王妃様に嘘など、誰がそんなことを?」



「貴方達よりかは信用に値する方ですわ」



ハートの女王はそう言うとアリスを捕まえるのに手間取っているトランプ兵に苛立ちながら言った。



「いつまでかかっているの!」



「王妃様、私が参りましょう」



鼻から上を鼻先の長い仮面で隠した烏のような風貌の男がハートの女王の背後に音もなく現れて助言した。



「いつも突然、現れるわねジャック」



「いかがいたしますか?」



「そうね、任せるわ」



「御意」



地面が黒い液状のように変わり、ジャックの姿は沈み込むように消えた。



「全くどれだけ引き連れてきてるのよ」



アリスはトランプ兵達を薙ぎ払いながら言うとトランプ兵達の背後からジャックが地面から浮かび上がるように現れた。



「命により、お前を拘束する」



ジャックは両手を前方に振るい、掌から鎖をアリスに向けて伸ばした。そして、鎖は大鎌の柄に絡み付いた。



アリスは大鎌を仕舞い、鎖の拘束から逃れると再び大鎌を出した。



「やれるものならやってみなさい!」



地面の所々が黒い液状になり、そこから鎖がアリスに向かって飛び出した。



アリスはそれを上へと飛び上がり躱すと鎖は互いにぶつかり絡み合った。そして、アリスは交じり合う鎖の上に降り立った。



「こんなもの?私はあの帽子屋に用があるの、この程度なら手を退きなさい」



「あの男に話を聞いた所で無駄だ」



「何故、無駄だと分かる!」



「それは知らないからだ、例え知っていたとしても王妃が知らないと言えば、それが真実となる。白を赤に、赤を白に此処はそんな世界なのだから」



「歪んでるわね」



「歪む?虚実とは同じものだ、嘘は多数の言動で証明されるもの、故に少数の事実も大多数の言動で嘘となる、それは力でも言えることだが」



「私には関係ないことね、私は私を信じるだけよ。そして、私がそんな世界を変えて見せるわ」



「無駄口はそろそろやめよう」



空中に黒い液状の部分が幾つか現れ、そこから鎖が飛び出してアリスを拘束した。



「そうね」



アリスの姿は黒い液状となり崩れた。



ジャックはその様子を見ると無言で鎖を消した。



「申し訳ございません…」



ジャックはハートの女王の元に現れると跪き謝った。



「貴方にしては珍しいこともあるわね」



ハートの女王はジャックを咎めることはなく、ただ驚いていた。



「城へ戻るわ、貴方は此処の処理をしてから戻りなさい」



ハートの女王はトランプ兵と帽子屋達を引き連れて城へ戻って行った。

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