やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

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嬉しい便り

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エマニエルが僕の側付きお世話係となって早や一か月。僕たちは互いに相手の出方を探りあっていた。

このエマニエルだが、一言でいうと…とんでもなく妖艶な青年だ。
ウルリッヒ様より五つ上。殿下とは同級生の現在十八歳。けれど、すでに一国か二国傾けてきました、みたいな雰囲気を醸し出しているキツネ目の美青年だ。
美女だけど猫というより猛虎のような王妃様より、…正直色っぽい。経験(何の?)がなかったであろう殿下なんかひとたまりもなかっただろう。

学校を休学でもしてきたのかエマニエルは神殿に住み込んで居る。
まあ世話係だけに当然っちゃ当然なのだが、神殿には奉仕活動として下働きをする修道士がいる。なので実際は頻繁に姿を消す。
多分そんな時は王子に会っているのだろう。特に真夜中など居たためしがない。…多分エッチな…イイや何でもない。

この一か月、エマニエルは事あるごとに尊い神子の使命を訴えかけた。
人々を救うという充足感や達成感を強調し、過剰な力の施行を当然と思わせるように仕向けたいのだろう。

何を言っても「ですよね」しか言わない僕にイライラしているエマニエル。
彼の部屋はエミルの使ってた続き間じゃなく、廊下を挟んだ正面の部屋だ。時々その部屋から聞こえる大きな音は…多分物にあたっているんだろう。貴族の悪いとこだよ、そういうの。


わりと退屈な毎日。だけどその日は違っていた。

「ウルリッヒ様、手紙が届いております」

エマニエルがトレイに乗せて持ってきたのは一通の手紙。差出人はリンデン伯爵(ウル様のお父さんね)。だがその封蝋には貼りなおした跡がある。

「トレイごとそこ置いといて」
「はい」コトリ

え?怒らないのかって?
実を言うとこれはウルリッヒ様の日常である。
神殿の管理下に置かれたウルリッヒ様にプライバシーはない。手紙の類はいつだって検閲される。
全ては神官を出し抜いてプライベートで「ちょっと癒しを…」とかさせないためだ。分かる?実質それが出来るのは…二人きりの時間を持てる愛しの婚約者様くらいってこと。

さてさて、着任早々のエマニエルは知らないだろうが、旦那様がウルリッヒ様へ手紙を寄こしたことは一度もない。
いや、正確には一度だけあった。
それは義母が二人目の出産をしたあとのこと。でも内容が旦那様からウルリッヒ様あての「産後の肥立ちが悪いので見てやって欲しい」、との懇願だったため神官長により没収されたのだ。
それでもウルリッヒ様は、なさぬ仲の義母だというのに神官長に依頼を受けるよう指示されていた。

「何故ですウル様。ドローテア様をお好きじゃないでしょう?」
「…ドローテア夫人はね。でも偉業をなした産後の母親は救ってやりたい…」

僕が隣室で号泣したのは言うまでもない。



本題に戻り、僕にはわかる。あの封蝋はリンデンはリンデンでも、当主でなく息子、ウルリッヒ様のものだ。もっと正確に言うなら亡き伯爵夫人が使われていたものだ。

印章とは本来各屋敷にひとつ。それはだいたい当主の書斎に置かれている。

けれどリンデンの屋敷では亡き夫人の方が返信を要する手紙が多かったため、妊娠後期、お産のため養育棟に居を移された奥様は、それまでの印章が少し欠けてしまったのをこれ幸いにと旦那様に新しい象牙の印章をご用意された。そして古い印章を養育棟へお持ちになられたのだ。

当然それは夫人亡きあと、鍵のかかった奥様のキャビネットに保管され誰も知ることなど無かった訳だが、奥様の私物は全てウルリッヒ様が受け継がれている。つまりキャビネットも、その中に保管された…印章も。

カサリ…

このほんのわずかに縁の欠けた封蝋の手紙はウルリッヒ様のものだ。何度もは使えない危うい手だが、今回に限りそれは有効である。

内容はごく普通の近況を知らせる手紙。そこには僕に暇を出され神殿より戻ったエミルを両親ともども屋敷から追い出した、と書かれている。

「もとより夫婦は今は亡きお前の母がお前のためにと残した使用人。息子のエミルがお前の小間使いならばこそ温情でそのまま養育棟の管理をさせていたが、義務は果たした。もうよかろう」

ホッ…無事に屋敷を出たってことか…
この文面は、さりげなく両親がどんな扱いを受けていたかも知らせている。ウルリッヒ様ってば…さすがなんだから…

この手紙には僕だけにわかるもう一つの秘密がある。それは…

プライバシー確保の難しいウルリッヒ様のために、僕がウル様に教えた秘密のやり取り。それは〝あぶり出し”
紙片の隅にある茶色いしみは…多分オレンジのものだ。
トレイの上に燭台を置き、その上に紙面をかざせば…

ボワ…これは引っ越し先か!

全てが灰になったのを見届けてから大きな声でエマニエルを呼びつける。

「エマニエルー!」
「何でしょうウルリッヒ様」

「不愉快な手紙だから燃やしました。始末しておいて!」
「畏まりました。それよりウルリッヒ様」

「何?」

「小耳にはさんだのですがアルトゥール殿下は先日高位貴族のご令嬢方を招かれお茶会を開かれたそうですよ」
「ふーん」

王太子妃のド本命を決める合同見合いってことだね。

「そこで殿下は「従順で人を疑わぬ清らかな方が好きだ」と仰っていたそうです」
「へー」
「どんな話にも素直に耳を傾け」
「へー」ホジホジ
「殿下のご意思を尊重される方ですって」
「へー…」

なるほど。次はその手か…

シレ「全部僕じゃん」
「は?」

は?ってなんだよ。

「すごいな。僕たちって相思相愛♡」
「そ、そうでございますね…」ミシリ…

割れる割れる!トレイが割れる!

フー…「ウルリッヒ様は殿下がお好きですか?」
「そりゃもう!殿下のことで毎日頭一杯!」

違う意味で!

「それでは何故釣った魚にエサはやらない…などと仰ったのです?」
「ほんの冗談だよ。もっとウィットにとんだ方かと思ったのに…冗談通じないんだね、殿下って」
「…そうでございましたか」
「ちょっとイメージダウン…」
「殿下は真面目な方でございますから。あまり戯れはおよしあそばせ」

真面目ってなんだっけ?


アルトゥールは美しくも独占欲の強いエマニエルをこう言って口説いたそうだ。

「子を成すための正妃だけは如何ともしがたいが…それ以外、私の愛は全てお前のものだ。お前を側妃とする詫びに、宮廷内の権限だけは最大のものを与えよう」

だからこそエマニエルは、同じ男で尚且つ自分よりも権限のでかいウルリッヒだけはプライドにかけて認められないのだろう。

このエマニエルだが、彼はこの時点ではまだ王妃と蜜月ではない。あの王妃が子の産めない男爵子息ごときを歓迎するはずがない。

僕が思うにエマニエルが神殿に潜入したのは、王子と密会しやすくするためだけじゃなく、何らかの点数を稼いで王妃に気に入られるためのゴマすり的な意味もあるに違いない。狡猾なんだよエマニエルは…。

「一番お戯れなの自分たちのくせにね…」

「何かおっしゃいましたか?」

「ううん、別に」ニィィッコリ「ところで戯れと言えば…エマニエル、これ知ってる?」
「何ですか?」
「…裏を抜けたところにある墓所だけど」
「墓所…」



「あそこに夜な夜な先代マルレーン様の幽霊が出るんだって」








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