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疑惑…
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日に日に形になっていく神殿都市。
都市と外界を隔てるのはもみの木の防災林と石を積み上げた重厚な防衛壁。正門を護る門番によって不埒な輩は通さない仕組みだ。
といっても〝神の怒り”を恐れてそもそも後ろ暗い輩は近寄らないだろうけど。
正門を入るとそこは南北に大きく開拓範囲を広げたなだらかな丘陵地帯だ。
ふもとに広がるのが小麦ライ麦の麦畑。
麦畑の合間合間には小さな四角い石の家屋があり、そこに住むのが土着の貧民や新たな住人の中でもそこを選んだ一部の人たち。
土地の付属となった彼らだが、オスビーの治めるこの神殿都市においてはきっと安穏な日々が約束されているだろう。
そしてもっとも広い中腹の場所は今や官吏となった貴公子ユリアンの提言で、内陸区画、海岸区画、公共区画に分けられている。
これによって南西領から来た人たちには海岸区画で海の仕事を、北部方面からやって来た人たちには内陸区画で陸の仕事をあてがっているが、この中腹は南北にまだまだ開拓の余地を残している。
おかげで建材、木工資材には困らないっていうね。
そこからさらに上へ登った、居住区と神殿部の間にあるのがアゴラと呼ばれる公共区画。
中央の大きな広場を挟んで右に劇場…左に音楽堂…。
かつてはたくさんの屋台が並んだであろうそこには、あのセレモニーの日を境に再び屋台が並びつつある。
その公共区画の両側にあるのが特別な居住区で…、強いて言うなら〝臣下の区画”とでも名付けようか。
ここには一緒に入植した初期顔ぶれ、それからカーステンらの家族のような、これからやってくるかもしれない貴人を集める事にしている。
貴族街などというつもりはないが、傭兵や使用人の彼、彼女ら含め、神殿部に出入りする人々は近くに配置したほうがいいだろうというユリアンの判断である。
そして何段もの石段を昇ると、そこがプロピュライア、ついに神殿部の入り口へと到達する。
およそお分かりいただけたかな?
さて、物の揃っていないここには多くの商人が商機を見出したようで、商いの申請が後を絶たない。
ここで当たり前のことだが、モノを買うにはお金が要るよね?
今まで都市民の衣食住は主となるオスビーが保証をしていた。(僕の宝石、以下同文)
おかげでそれほどお金を持つ必要がなかったけれど、これからはそうも言っていられない。
幸いここのところ、神殿に詣でる人の出入りが増えつつある…。
商機は何も商人だけのものではない。
そこで僕たちは、海岸に向かう坂道の両側を埋め尽くすオリーブの群生、それを農園として整えオリーブオイルを売ろうと思いついた。
そして驚くことなかれ!なんとこれはウル様のアイデアだ!
「せっかくあれだけのオリーブが生ってるんだもん。勿体ないよ」
「すばらしい着眼点ですね兄さん。なんと聡明なのでしょう」
「そんなことないよ…」テレ
「まあ、うん」ジ…
発想に文句はない。ただその…誰かさんの過保護っぷりがね。ちょっとね。
オリーブとはこの国において神の贈り物と呼ばれる果実である。
けれどオリーブは温暖な気候を好む。冬の寒さが厳しい東ではうまく育たない。
つまり東で出回るオリーブもこの西や南西側からの交易品がほとんどだ。
そしてここは神の地『ネオ・サンクトアリウム』
「もしやオリーブが神の贈り物と呼ばれるのは、ここ神殿都市がオリーブの宝庫だったからではないでしょうか」
「言えてる。そうかもね」
「その〝聖地”で採れた〝聖なるオリーブ”に神子の名を乗せて売り出せば敬虔な者なら誰でも欲しがるよ、きっと。僕が集めてたっていうだけで誰もがアメシストを持ちたかったくらいだもの」
「なんという豊かな発想でしょう。さすがですね兄さん」
「そうかな…」テレ
「あ、うん」ヒクッ
ウル様は父さん母さんとパン屋をやってたお陰で少し商魂たくまし…いや、これはいい成長だ。
なんにしても、ここ最近三人でいると自分がお邪魔虫に感じるのは気のせいだろうか…
気を取り直して僕はさらにそのオリーブを使って石鹸を作ることを思いついた。
この国で一般的に使われている石鹸…。それは動物の油で作られ汚れは落とすが大変臭い。
調薬の知識があればこそわかることだが、あれは油に含まれる何かと木灰に含まれる何かを反応させて作るものだ。
ならオリーブの油でも同じこと。
このオリーブ石鹸の他と一味違うところは、石鹼表面に神子の印が押されているところだ。
印はうなじの生え際に浮きでた小さな紋様と同じ図柄。
この印の入った石鹸こそが聖地でのみ手に入れられる『聖なる石鹸』。
これを、煩悩を洗い流す…とか、罪を洗い流す…的なうたい文句で売るのはどうだろう?小賢しさは僕の専売特許。ウル様には負けてらんないよ!
「エド、この仕事はこの間グレーデン領からやってきた敬虔なルイーゼさんにお願いして」
「わかりました」
コンコン
「楽しそうですねウルリッヒ様」
「ベン…」
やって来たのは仮執事のベン、つまり僕の父さんね。
「どうしたの衛生棟まで、珍しいね」
「オスヴァルト様がこれを至急エドヴィン様にお見せするようにと」
エドはオスビーの従者だが貴重な調薬師でもある。なので館内にいる時の御用は大体父さんが引き受けている。
「手紙…なんでしょう?」…フルフル「……」
クシャリ
丸められた手紙の送り主、それはリンデンの旦那様。
「手紙にはなんて…?」
「一度会って話したいと…」
オスビーは近々東への行幸が予定されている。エドはオスビーの従者だ。同行は可能…
「いいえ。私は行きません」
僕の意見を聞いたエドは秒で即答。決意は固いようだ。
「いいの?」
「ウルリッヒ様、父としてのあの人は私に惜しみ無い愛情をそそいでくれました。何不自由なく様々なものを与えてもくれました。そのことには大いに感謝しています」
エドは心配そうにチラッと隣に視線を向けるがウル様の顔はいたって平常。
きっと普通の子エミルとして過ごした二年はリンデン家の息子だった十年を上書きしつつあるのだろう。
「ですが人として尊敬できるかと言われれば答えは否です」
確かに…親子だからと言って無条件に愛は発生しない。旦那様がどうしてもウル様を受け入れられなかったように、今エドはどうしても父親を受け入れられないのだろう。これぞまさしく因果応報。
「どうしてもというのであればウルリッヒ様、どうか私の代わりに」
そこで僕にふる?
フー…「オスビーが東に行くならどうせついてくつもりだけど…」
僕はいつだってオスビーの護衛だからね。
「エミル、いいんだねお前はそれで」
場違いにかけられたのは父さんの声。
ハッとして顔をあげたウル様に向けられるのは慈しむような眼差し。
ああ…やっぱり父さんも全て気付い…
「エドヴィン様との婚約の許しをいただかなくても」
ズコー「べ、べべべ、ベン!」
「と、ととと、父さん!」
カァァ…「わ、私は家を出た身。許可など不要!愛しい人とは自分の意志で添い遂げます!」チラ
パクパク「…っ!」
「そうでございますか」
パタン
爆弾だけ投下して父さん退場…
結局…父さんが気付いているかいないかはよくわからなかった。
なんなのこの両親!
都市と外界を隔てるのはもみの木の防災林と石を積み上げた重厚な防衛壁。正門を護る門番によって不埒な輩は通さない仕組みだ。
といっても〝神の怒り”を恐れてそもそも後ろ暗い輩は近寄らないだろうけど。
正門を入るとそこは南北に大きく開拓範囲を広げたなだらかな丘陵地帯だ。
ふもとに広がるのが小麦ライ麦の麦畑。
麦畑の合間合間には小さな四角い石の家屋があり、そこに住むのが土着の貧民や新たな住人の中でもそこを選んだ一部の人たち。
土地の付属となった彼らだが、オスビーの治めるこの神殿都市においてはきっと安穏な日々が約束されているだろう。
そしてもっとも広い中腹の場所は今や官吏となった貴公子ユリアンの提言で、内陸区画、海岸区画、公共区画に分けられている。
これによって南西領から来た人たちには海岸区画で海の仕事を、北部方面からやって来た人たちには内陸区画で陸の仕事をあてがっているが、この中腹は南北にまだまだ開拓の余地を残している。
おかげで建材、木工資材には困らないっていうね。
そこからさらに上へ登った、居住区と神殿部の間にあるのがアゴラと呼ばれる公共区画。
中央の大きな広場を挟んで右に劇場…左に音楽堂…。
かつてはたくさんの屋台が並んだであろうそこには、あのセレモニーの日を境に再び屋台が並びつつある。
その公共区画の両側にあるのが特別な居住区で…、強いて言うなら〝臣下の区画”とでも名付けようか。
ここには一緒に入植した初期顔ぶれ、それからカーステンらの家族のような、これからやってくるかもしれない貴人を集める事にしている。
貴族街などというつもりはないが、傭兵や使用人の彼、彼女ら含め、神殿部に出入りする人々は近くに配置したほうがいいだろうというユリアンの判断である。
そして何段もの石段を昇ると、そこがプロピュライア、ついに神殿部の入り口へと到達する。
およそお分かりいただけたかな?
さて、物の揃っていないここには多くの商人が商機を見出したようで、商いの申請が後を絶たない。
ここで当たり前のことだが、モノを買うにはお金が要るよね?
今まで都市民の衣食住は主となるオスビーが保証をしていた。(僕の宝石、以下同文)
おかげでそれほどお金を持つ必要がなかったけれど、これからはそうも言っていられない。
幸いここのところ、神殿に詣でる人の出入りが増えつつある…。
商機は何も商人だけのものではない。
そこで僕たちは、海岸に向かう坂道の両側を埋め尽くすオリーブの群生、それを農園として整えオリーブオイルを売ろうと思いついた。
そして驚くことなかれ!なんとこれはウル様のアイデアだ!
「せっかくあれだけのオリーブが生ってるんだもん。勿体ないよ」
「すばらしい着眼点ですね兄さん。なんと聡明なのでしょう」
「そんなことないよ…」テレ
「まあ、うん」ジ…
発想に文句はない。ただその…誰かさんの過保護っぷりがね。ちょっとね。
オリーブとはこの国において神の贈り物と呼ばれる果実である。
けれどオリーブは温暖な気候を好む。冬の寒さが厳しい東ではうまく育たない。
つまり東で出回るオリーブもこの西や南西側からの交易品がほとんどだ。
そしてここは神の地『ネオ・サンクトアリウム』
「もしやオリーブが神の贈り物と呼ばれるのは、ここ神殿都市がオリーブの宝庫だったからではないでしょうか」
「言えてる。そうかもね」
「その〝聖地”で採れた〝聖なるオリーブ”に神子の名を乗せて売り出せば敬虔な者なら誰でも欲しがるよ、きっと。僕が集めてたっていうだけで誰もがアメシストを持ちたかったくらいだもの」
「なんという豊かな発想でしょう。さすがですね兄さん」
「そうかな…」テレ
「あ、うん」ヒクッ
ウル様は父さん母さんとパン屋をやってたお陰で少し商魂たくまし…いや、これはいい成長だ。
なんにしても、ここ最近三人でいると自分がお邪魔虫に感じるのは気のせいだろうか…
気を取り直して僕はさらにそのオリーブを使って石鹸を作ることを思いついた。
この国で一般的に使われている石鹸…。それは動物の油で作られ汚れは落とすが大変臭い。
調薬の知識があればこそわかることだが、あれは油に含まれる何かと木灰に含まれる何かを反応させて作るものだ。
ならオリーブの油でも同じこと。
このオリーブ石鹸の他と一味違うところは、石鹼表面に神子の印が押されているところだ。
印はうなじの生え際に浮きでた小さな紋様と同じ図柄。
この印の入った石鹸こそが聖地でのみ手に入れられる『聖なる石鹸』。
これを、煩悩を洗い流す…とか、罪を洗い流す…的なうたい文句で売るのはどうだろう?小賢しさは僕の専売特許。ウル様には負けてらんないよ!
「エド、この仕事はこの間グレーデン領からやってきた敬虔なルイーゼさんにお願いして」
「わかりました」
コンコン
「楽しそうですねウルリッヒ様」
「ベン…」
やって来たのは仮執事のベン、つまり僕の父さんね。
「どうしたの衛生棟まで、珍しいね」
「オスヴァルト様がこれを至急エドヴィン様にお見せするようにと」
エドはオスビーの従者だが貴重な調薬師でもある。なので館内にいる時の御用は大体父さんが引き受けている。
「手紙…なんでしょう?」…フルフル「……」
クシャリ
丸められた手紙の送り主、それはリンデンの旦那様。
「手紙にはなんて…?」
「一度会って話したいと…」
オスビーは近々東への行幸が予定されている。エドはオスビーの従者だ。同行は可能…
「いいえ。私は行きません」
僕の意見を聞いたエドは秒で即答。決意は固いようだ。
「いいの?」
「ウルリッヒ様、父としてのあの人は私に惜しみ無い愛情をそそいでくれました。何不自由なく様々なものを与えてもくれました。そのことには大いに感謝しています」
エドは心配そうにチラッと隣に視線を向けるがウル様の顔はいたって平常。
きっと普通の子エミルとして過ごした二年はリンデン家の息子だった十年を上書きしつつあるのだろう。
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確かに…親子だからと言って無条件に愛は発生しない。旦那様がどうしてもウル様を受け入れられなかったように、今エドはどうしても父親を受け入れられないのだろう。これぞまさしく因果応報。
「どうしてもというのであればウルリッヒ様、どうか私の代わりに」
そこで僕にふる?
フー…「オスビーが東に行くならどうせついてくつもりだけど…」
僕はいつだってオスビーの護衛だからね。
「エミル、いいんだねお前はそれで」
場違いにかけられたのは父さんの声。
ハッとして顔をあげたウル様に向けられるのは慈しむような眼差し。
ああ…やっぱり父さんも全て気付い…
「エドヴィン様との婚約の許しをいただかなくても」
ズコー「べ、べべべ、ベン!」
「と、ととと、父さん!」
カァァ…「わ、私は家を出た身。許可など不要!愛しい人とは自分の意志で添い遂げます!」チラ
パクパク「…っ!」
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