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往生際
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奴らにとって何より大事なのはこの胡椒を守ること。それ以外は二の次だ。
つまりこれらの貴重品はフォルスト侯を呼び寄せる撒き餌になる。
地下からの白煙はすでにプスブスとしたものに変わっている。
地下の焚き火にくべた薪がそろそろ燃え尽きたんだろう。
だから僕は大急ぎでもう一つ派手な火災を仕掛けることにした。
「この辺の枯葉でいいか」
ボッ
エマニエルの持ち込んだ燭台。それを使って裏手の山裾に火をつけたのだ。
煙と違って明らかな火事となれば必ず当主である子爵に報告がいくはず。
そうなれば必ずフォルスト侯もやって来る。
大事な取引品の無事を確認するために。
地下でつけなかった火を敢えて山につけたのには幾つかの理由がある。
一つは簡単、神子の丸焼けはごめんだから。当然だよね?
もう一つは証拠になる荷箱を失うのは不味いから。必要だよね?
ついでにアマガエルが鳴いているのを聞いたから。これは雨が近い前兆と言われている。それなら火事の被害も最小限で済むと考えた。
そして次が最も肝心…
火事、それも山火事ともなれば家臣だけでは鎮火出来ないだろう。
となれば近隣から人手を集めるしかない。
それだけじゃない。
大きな騒ぎが広まれば否が応でも野次馬が集まってくる。
衆人環視の中に僕の姿を見つけたとして、フォルスト侯に何が出来るだろう。
野次馬は僕の自衛と、そして侯爵の悪事を言い逃れさせない目撃者だ。
問題はフォルスト候を糾弾する援軍がいつ現れるかだけど…
早朝消えた神子。
馬鹿じゃなければ誰にだってわかるはずだ。神子を拐ったのが誰の仕業かってことぐらい。
軍務の長にしては杜撰な計画…
フォルスト侯はそれでも僕を狙わないではいられなかった。
焦っていたんだろう。
だって早くしないと僕が誰かに喋ってしまうかも知れない。
悪事を白日のもとに晒す神の告げを。
証拠が無いうちはどれほど怪しくたってどうせ捕まらない。
その間に王位継承権を持つオスビーさえ始末してしまえば力技で誤魔化せる、そういう算段だろう。
フォルスト候は僕の心をへし折り傀儡にするつもりでいた。
全部僕のワガママによる無断外泊とでも証言させるつもりだったんだろう。
どれだけ見え見えの嘘でも神子がそう言えば話は終わり。
イラ「舐められたものだな…」
僕の精神は鋼より頑丈だ!
二人の護衛とエマニエルを閉じ込めた倉庫、そして火が広がりつつあるこの山裾は少しだけ離れている。
それにあの倉庫は石作り。すぐに飛び火はしない。
けど長引けば熱気で燻製くらいにはなるだろう。
街道から伸びる細道と倉庫が見通せる木立に姿を隠し時を待つ。
さあ、先に来るのはどっちだ!
頭の良いオスビーなら気づくはず。
もし神子が消えたとなったら…前日言い争っていたフォルスト候のところには真っ先に確認が行く。自領にも王都にも隠してはおけないとなったら弟名義の商会が最もくさいって。
だってフォルスト侯は僕たちが投資商会の存在に気付いてるって知らないんだから!
ソワソワ「まだか…」
オスビー間に合え !早く来い!
ガラガラガラ…
「来た!」
あの馬車は…侯爵家の紋!フォルスト候か!
山火事に驚愕しすぐに人を集め火を消すよう大声を張り上げたのは…多分弟の義父ハノーファー子爵。倉庫が無事なのを確認し慌てて中へ入っていったのが…まさにお目当て、フォルスト侯だ。
何も知らない近隣の農民たちが火消しの手伝いに駆り出される。
倉庫の近くには馬の水場として用意されている小さな人工池がある。彼らはそこから水を汲みせっせと運んでいく。
気がつけばいつの間にか出来ている人だかりは心配そうに山へ視線を寄越している。
とその時!人だかりの向こうから新たに聞こえたのは小気味良く駆けるひずめの音!
侯爵家の騎士か?…いいや違う!これは王族宮の騎士団!先頭に居るのは…
オスビー!!!
「オス」
僕が駆け付けるより先に扉を開けたのはフォルスト候とその護衛。彼らは外の異変に気付き様子を見に出てきたのだ。
背後の室内には拘束を解かれたエマニエルも見える。なら地下の二人も助け出されているだろう。
「フォルスト候!今すぐ神子ウルリッヒを返すがいい!されば罪状は横領罪のみ!命は助かろう!」
「な、何をふざけたことを…。お、横領などと…馬鹿を申すでない!」
「馬鹿かどうかはその中を確認すればわかる事!そこを退け!」
「ここに神子はおらぬ!それより我らは急ぎ火を消さねばならぬのだ!邪魔をするな!」
「かまわぬ!王子オスヴァルトが命じる!すべて捕らえよ!」
「ははっ!」
王妹王弟宮の騎士たちは問答無用で侯爵領、子爵領の家臣たちを捕えていく。
「この若造が!!!偽の王子がこの大貴族フォルスト家の当主に何をするか!」
「侯爵!あなたはいつから王子殿下より偉くなったのだ。不遜も甚だしい!」
「黙れ!あやつは庶子だ!仮初の王子よ!このような…この私にこの様な真似…許されるものか!!!」
「耳障りだ!どうせ証拠はここにある。引っ立てよ!」
「やめろぉぉぉ!!!」
どれほど暴れようが無慈悲に引きずられていく、哀れフォルスト候。
「ウーリ!ウーリどこだ!」
いっけなーい!うっかり見惚れてた。
「オスビー!」
「ウーリ!外にいたのか!いったいどう」
「それより証拠は地下だよオスビー!地下に全部ある!」
「誰か地下を改めよ!」
僕は駆け寄りながらまくしたてた。
フォルスト候の目当てが武器だけでなく胡椒だったこと。
不正の痕跡を残した王城の帳簿をエマニエルが持ち出したこと。
「どこかにあるはず。それも探し、っ!危ない!!!」
僕の視界に飛び込んできたのはオスビーに向かって走り来るエマニエル。その形相は歪み、手にはあの地下で見た柄のない槍先を握りしめている!
「ウルリッヒ!お前も愛する人を失うがいい!死ねオスヴァルト!」
「避けてオスビー!!!」
間に合うか⁉
僕とエマニエル。標的までの距離は変らない。
つまりこれらの貴重品はフォルスト侯を呼び寄せる撒き餌になる。
地下からの白煙はすでにプスブスとしたものに変わっている。
地下の焚き火にくべた薪がそろそろ燃え尽きたんだろう。
だから僕は大急ぎでもう一つ派手な火災を仕掛けることにした。
「この辺の枯葉でいいか」
ボッ
エマニエルの持ち込んだ燭台。それを使って裏手の山裾に火をつけたのだ。
煙と違って明らかな火事となれば必ず当主である子爵に報告がいくはず。
そうなれば必ずフォルスト侯もやって来る。
大事な取引品の無事を確認するために。
地下でつけなかった火を敢えて山につけたのには幾つかの理由がある。
一つは簡単、神子の丸焼けはごめんだから。当然だよね?
もう一つは証拠になる荷箱を失うのは不味いから。必要だよね?
ついでにアマガエルが鳴いているのを聞いたから。これは雨が近い前兆と言われている。それなら火事の被害も最小限で済むと考えた。
そして次が最も肝心…
火事、それも山火事ともなれば家臣だけでは鎮火出来ないだろう。
となれば近隣から人手を集めるしかない。
それだけじゃない。
大きな騒ぎが広まれば否が応でも野次馬が集まってくる。
衆人環視の中に僕の姿を見つけたとして、フォルスト侯に何が出来るだろう。
野次馬は僕の自衛と、そして侯爵の悪事を言い逃れさせない目撃者だ。
問題はフォルスト候を糾弾する援軍がいつ現れるかだけど…
早朝消えた神子。
馬鹿じゃなければ誰にだってわかるはずだ。神子を拐ったのが誰の仕業かってことぐらい。
軍務の長にしては杜撰な計画…
フォルスト侯はそれでも僕を狙わないではいられなかった。
焦っていたんだろう。
だって早くしないと僕が誰かに喋ってしまうかも知れない。
悪事を白日のもとに晒す神の告げを。
証拠が無いうちはどれほど怪しくたってどうせ捕まらない。
その間に王位継承権を持つオスビーさえ始末してしまえば力技で誤魔化せる、そういう算段だろう。
フォルスト候は僕の心をへし折り傀儡にするつもりでいた。
全部僕のワガママによる無断外泊とでも証言させるつもりだったんだろう。
どれだけ見え見えの嘘でも神子がそう言えば話は終わり。
イラ「舐められたものだな…」
僕の精神は鋼より頑丈だ!
二人の護衛とエマニエルを閉じ込めた倉庫、そして火が広がりつつあるこの山裾は少しだけ離れている。
それにあの倉庫は石作り。すぐに飛び火はしない。
けど長引けば熱気で燻製くらいにはなるだろう。
街道から伸びる細道と倉庫が見通せる木立に姿を隠し時を待つ。
さあ、先に来るのはどっちだ!
頭の良いオスビーなら気づくはず。
もし神子が消えたとなったら…前日言い争っていたフォルスト候のところには真っ先に確認が行く。自領にも王都にも隠してはおけないとなったら弟名義の商会が最もくさいって。
だってフォルスト侯は僕たちが投資商会の存在に気付いてるって知らないんだから!
ソワソワ「まだか…」
オスビー間に合え !早く来い!
ガラガラガラ…
「来た!」
あの馬車は…侯爵家の紋!フォルスト候か!
山火事に驚愕しすぐに人を集め火を消すよう大声を張り上げたのは…多分弟の義父ハノーファー子爵。倉庫が無事なのを確認し慌てて中へ入っていったのが…まさにお目当て、フォルスト侯だ。
何も知らない近隣の農民たちが火消しの手伝いに駆り出される。
倉庫の近くには馬の水場として用意されている小さな人工池がある。彼らはそこから水を汲みせっせと運んでいく。
気がつけばいつの間にか出来ている人だかりは心配そうに山へ視線を寄越している。
とその時!人だかりの向こうから新たに聞こえたのは小気味良く駆けるひずめの音!
侯爵家の騎士か?…いいや違う!これは王族宮の騎士団!先頭に居るのは…
オスビー!!!
「オス」
僕が駆け付けるより先に扉を開けたのはフォルスト候とその護衛。彼らは外の異変に気付き様子を見に出てきたのだ。
背後の室内には拘束を解かれたエマニエルも見える。なら地下の二人も助け出されているだろう。
「フォルスト候!今すぐ神子ウルリッヒを返すがいい!されば罪状は横領罪のみ!命は助かろう!」
「な、何をふざけたことを…。お、横領などと…馬鹿を申すでない!」
「馬鹿かどうかはその中を確認すればわかる事!そこを退け!」
「ここに神子はおらぬ!それより我らは急ぎ火を消さねばならぬのだ!邪魔をするな!」
「かまわぬ!王子オスヴァルトが命じる!すべて捕らえよ!」
「ははっ!」
王妹王弟宮の騎士たちは問答無用で侯爵領、子爵領の家臣たちを捕えていく。
「この若造が!!!偽の王子がこの大貴族フォルスト家の当主に何をするか!」
「侯爵!あなたはいつから王子殿下より偉くなったのだ。不遜も甚だしい!」
「黙れ!あやつは庶子だ!仮初の王子よ!このような…この私にこの様な真似…許されるものか!!!」
「耳障りだ!どうせ証拠はここにある。引っ立てよ!」
「やめろぉぉぉ!!!」
どれほど暴れようが無慈悲に引きずられていく、哀れフォルスト候。
「ウーリ!ウーリどこだ!」
いっけなーい!うっかり見惚れてた。
「オスビー!」
「ウーリ!外にいたのか!いったいどう」
「それより証拠は地下だよオスビー!地下に全部ある!」
「誰か地下を改めよ!」
僕は駆け寄りながらまくしたてた。
フォルスト候の目当てが武器だけでなく胡椒だったこと。
不正の痕跡を残した王城の帳簿をエマニエルが持ち出したこと。
「どこかにあるはず。それも探し、っ!危ない!!!」
僕の視界に飛び込んできたのはオスビーに向かって走り来るエマニエル。その形相は歪み、手にはあの地下で見た柄のない槍先を握りしめている!
「ウルリッヒ!お前も愛する人を失うがいい!死ねオスヴァルト!」
「避けてオスビー!!!」
間に合うか⁉
僕とエマニエル。標的までの距離は変らない。
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