やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
82 / 138

東の決着 ①

しおりを挟む
あの誘拐事件から休息を挟んで二日後。その日の神殿にはオスビーとブリッタ様、他いろんな顔ぶれが揃っていた。

急きょ進められる前代未聞の裁判準備。
けれどオスビーはこれ以上僕を関わらせることに抵抗があるようで…

「フォルスト候の脅威はもはや去った。君が宮廷会議に出る必要はない」
「最後まで自分の目で見届けたい。オスビー、僕たちは一心同体でここまで来たんでしょ」
「それはそうだが…」

「僕にはオスビーが居るから大丈夫」
「では手を貸して」
「うん?」
「ラインハルト、これを結んでくれるか」

「これはこれは…」

手首に結ばれたのは真っ白なスカーフ。問題はそのスカーフが…

オスヴァルトの手首と一緒に結ばれていることだ!

カァァァァ「ちょ…これ…」
「うむ。これでいい」

僕の婚約者は大変なロマンチストだったらしい…




「ハノーファー子爵領の倉庫地下から押収した横領品すべて王城に届いてございます!」
「投資商会の所有する雑居家屋の一室から王城より持ち出したと思われる帳簿が見つかりました!」
「再調査した結果宮廷に残された納品の控えにも不審な点があるようです!」

伝令が告げる。

着々と揃えられる物証。
何しろ相手は大貴族。おまけに王族の縁続きだ。ことは慎重を要する。言い逃れ出来ないぐらいに揃った証拠が必要だ。

そして今日もまた一つの事実が提示される。

「エメリン妃が王城へ嫁いだ二十年前より今日までの城内名簿を全て調べました。急な逝去であった官吏は内乱の折を除いて二十余名。うち侍医の見立てに間違いのない傷病者を除けば不明な急死を遂げたものは三名。そのいずれもが主計課及び用度課に関わる官吏です」

「ブリッタ様、その事実には今まで誰も気が付かなかったのですか?」
「オスヴァルト、二十年の間に三人、この頻度で誰が疑いましょう」

「ブリッタ様。主計課と用度課の自主退職者を当たってください。見て見ぬふりしてた人が居るかも」
「さすがウルリッヒ様は入念。調べの手を伸ばしましょう。もはや邪魔立てする者はおらぬのですから」

因みに主計課とは予算の割り振りをする部署で、用度課とは城内で要するあらゆる品々の調達管理をする部署だ。
この暗殺業務が立証されれば、フォルスト候には横領のほかに殺人教唆罪が加算される。

「エマニエルは?」
「まるで毒気が抜けたように供述しておりますよ。ですがこれら官吏の暗殺に関しては何も知らぬと。ウルリッヒ様、どう思われるか」
「信じるよ。今更フォルスト候を庇う理由がない」

どうせ侯爵は生きて浮世には戻れない。庇ったところでエマニエルにもはや利なんか一つも無い。

「神子様。エマニエルの証言による情状酌量の件、本気でございますか」
「うんまあ…」

「何故だウーリ。エマニエルはアルトゥールと共に君たちを苦しめた当人ではないのか」

オスビーが言いたいのは多分前世軸のことだろう。だって今世は僕の方が、ゴホゴホゴホ…
確かにエマニエルは余計な入れ知恵をした。けどそれを取り入れ実行したのはあくまでアルトゥールと王妃だ。しょせん一男爵子エマニエル。そこまでの権限はない。

後ろ盾を欲するあまり正しい選択を見失い続けたエマニエル。
ただ一人、打算抜きで愛したアルトゥールを失った時点で罰は受けたと思ってる。

「情状酌量ったって野放しにする気は無いよ。あの美貌ってだけでも危険だし。でも悪知恵は本物だから」

本来ならエマニエルに対する刑罰とは、仮に僕やオスビーへの不敬罪に目をつぶったとしても、鉱山での過酷な労役あたりが妥当だろう。けどそうなったら線の細いエマニエルなんてあっという間にあの世行きだ。

だから僕はこう提案した。

「エマニエルは北の辺境にある修道院に収監する。それで防衛の役に立つことが出来ればその都度収容期間を一年ずつ免除するってのはどう?」
「なるほど。軍師として頭脳だけを利用するのだな」

ここで説明しておこう。
北の辺境。ここは亡き前王弟…というと混乱するだろうけど、要はアルトゥールやオスヴァルトのお祖父さんの弟が治めていた領土で、今はその息子が爵位を継ぎその地を守っている。

この国には豊かな資源を狙う不届きな他国がいくつかあるのだが、その最大にしてもっとも厄介な国が北の辺境から小さな国一つ挟んだ向こうにある、皇国レスプブリカだ。
北の辺境はこの国最強の軍を保有していて、代々の辺境伯はそれを指揮している。そうして皇国の脅威からこの国を護っているのだ。

よって北の辺境は北の山岳国境に沿って横長に広がり、標高は高く一年中うすら寒く冬の積雪も多く、決して暮らしやすい地理でも気候でもない厳しい土地だ。

それだけに北の神殿にはより厳しい苦行を求めるいかつい修道士たちが集まっている。
そしてその神殿に併設された修道院は、軍事要塞としての側面も持ち合わせている(僕にとって)大変恐ろしい場所だ。

僕の案はそこにエマニエルを収監しようってわけ。もちろん鍵の付いた捕虜用の独房にね。でも室内には一メートル四方の小さな庭?もあるらしいよ?人道的見地から捕虜の環境は整えてるんだって。さすがは軍事拠点でも神殿ってとこか。

「良い考えやも知れませぬ。あの地の修道士に易々と篭絡されるような軟弱者はおりませぬし要塞たる修道院は一切の侵入者を拒みますから」

ブリッタ様の言う軟弱者~…のくだりは、王弟宮から焼き菓子を持ち出した色ボケ官吏を指しているのだろう。おーこわ。

「では神子ウルリッヒ様からの進言として大司教には伝えておきましょう」
「お願いします神官長」

コンコン

「殿下、例の者が…」
「うむ」

ノックと共に告げられたのは待ちに待った特別招待客の到着である。

「行こうオスビー」
「ああ」




そこにいるのは精悍だった姿など見る影もない、目から光の消えた悲惨なエーリヒとフリッツ。

彼らは元フォルスト領の騎士であり、王城においては王妃の私兵だった。それも汚れ仕事専門の。
そこでフォルスト侯の悪事を証言させるため、神官長が城下にある医療修道院から見つけだしてくれたのだ。

「だがこれでは役に立たぬ…」
「大丈夫。こうするから」

癒しの力は再生の力。それがどんな傷でも再生する。そう、例え精神の崩壊だろうと!

「それにしても東に来てから再生の力を使うのが仇敵ばかりだなんて…」
「皮肉なものだな…」

ほんとだよ…



しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
15歳で測定する魔力の量によって、人生の大部分が左右されてしまう世界。 そんな世界で、運命の日を迎えたひとりの平凡な少年──リクは、抱いた淡い期待を大きく裏切られる。魔力が前代未聞のゼロと言い渡されたのだ。 深い絶望とともに頭を抱えていたとき、森でポーション屋を営んでいるというくたびれた男が声をかける。路頭に迷っていたリクは、店で手伝いをしてはどうかという彼の誘いを受けることにする。 捨てかけた夢を拾ってもらった少年と、拾った男。ふたりが絆を深めていく、ポーション屋でのお話です。 一人称おじさんくたびれ男性×魔力ゼロ以外平凡青年のBLです。 カクヨムにも載せています。(完結済み)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

処理中です...