やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

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創世記

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「エド!エドヴィン!」
「ど、どうしましたウルリッヒ様。今は会議の最中じゃ…」

「解読はどれくらい進んだ?」
「ところどころ抜けはありますがこのサンクトリウムの起源に関してはかなり分かってきたかと。ちょうど報告に上がりたいと考えていたのです。ですが今はそれどころではないかと思い差し控えておりました」
「起源…」
「ええ。そこにはウルリッヒ様と兄さんにとって重要な情報もあります」

重要な情報…それは〝やり直し”についての記述だろう…。けど今知りたいのはそこじゃない。

「何かお知りになりたいのですか?」
「うん。でも何かはわからない。一応全部見せてくれる?」

神バルデルスがこの日のために僕を神子に選びあの分岐まで戻したのなら、きっとその理由はこの古代文にある!

エドは何かを察したのだろう。黙って丁寧にまとめられた分厚い紙の束を差し出した。

「…こちらにまとめてあります」
「ありがと…」
「ここにおりますので不明な部分はお聞きください。補足いたします」
「助かるよ」


創世期を知る前にひとつ説明しておこう。

この国アードラスヘルムにおいて王は神に等しいとされている。
それは王の始祖、古の君主が神より生まれし存在と考えられているからだ。

人と交わり人として暮らす王の始祖は、長い歴史の中でまるで枝葉のようにその血を分け与えていった。
そうして増えた彼らこそが高貴なる者とされ、それがのちの貴族になったと言われている。

また、高貴でない者、つまり始まりの只人とは大地より生まれたというのが一般的な言い伝えだ。
この土より生まれた只人たちが今でいう平民のことである。

高貴なる者はあらゆる災難から只人を守ることを使命とし、只人は高貴なる者のために土を耕し恵みを納めた。

始まりは相互扶助だった関係が特権意識になり変わったのはいつからだったのか。
少なくとも古のサンクトリウムにおいて貴族はまだ存在しない。

成り立ちにより区別された二種の身分。これがアードラスヘルム国における身分制の始まり、そう僕たちは教えられている。


古の神殿都市。古の君主。

神より生まれし君主がなぜ人としての暮らしを営んでいたのか…
その答えがここにある。



神殿都市サンクトリウムの始まりは神々の気まぐれからはじまる。
登場するのは二組の一族。二つの種族、と言ったほうが正しいだろうか。

ひとつは天空に住まう神バルデルスとその兄弟神。

彼らは生命や運命を操作する能力を持っていた。
これは生命を創造することも絶やす事もできる、まさに神の領域と呼べる驚異的な力である。

もうひとつは巨神族。
彼らは溶岩に囲まれた地下世界からこの地を支え、ひょうや雷といった様々な自然現象を操作できる特殊な能力を持っていた。

人々にとっては広く大きなアードラスヘルムだが、この大陸など境界線の無い空、地中を統べる神々から見ればほんのちっぽけな島も同然。

自由気ままで気まぐれな神バルデルスは、ある日その島を使って退屈しのぎを始めたらしい。


「先ず神バルデルスは「大地を治めよ」と、己の分身たる人型を作ったのです」
「それがここに書いてあるアドゥン…これが古の君主?」
「いいえ。古の君主よりもさらに古き始まりの人型です。ですがこの人型は人になり損ねました」
「どうして?」
「巨神族が阻んだのです」


地下世界を縄張りとする巨神族は「地上の全ては我々のものだ!」といきり立ち、武装を整えその島(この大陸)に攻め入ったという。

そこに居たのはまだ産みだされたばかりの右も左もわからぬアドゥン。アドゥンは巨神によってあっという間に踏みつけられた。

「その後巨神は神バルデルスにより撃退され、二種属の神は不干渉の取り決めをしました」
「…いきなり飛ぶね。戦いの描写は無かったの?」
「すみません。文字の風化が激しく…。ですがペトロス修道士が何とか復元を試みております」
「分ったら報告ね」
「畏まりました。では続きを…」


踏みつけられたアドゥンはすでに絶命していた。
神バルデルスはその人型に再度命を吹き込むが、巨神によって一度大地に身を沈めた人型は神としての特性を半分失ってしまっていた。

すなわち天に生まれし神としての再生力を持ちながら大地の特性、営みの循環が混じることで、…寿命が備わってしまったのだ。

結果それは『再生の輪廻』という歪な業になった。
再生の輪廻、それは過去の人格を持ったまま新しく生まれ変わること。

「…まさに今の僕とウル様じゃないか…。ま、いいや。続けて」
「…そうして生まれた新たな子ファルセッティこそが古の君主です」

神々は大地に木々や花々を生み出し、またその森を動物や蟲といった生命で満たした。
そして木々や動物たちの管理、ファルセッティの世話を行うよう土塊から生み出した生命。それが人である。

「木々の管理者は農耕民となり…動物の管理者は狩猟民となり…」

「文明の進化と共に商人や職人が生まれるわけか…」

そして財を築いた彼らは貴族に次ぐ力を持つようになっていく。蛇足だけど。

「ファルセッティは?」

ファルセッティは『再生の輪廻』によってこの地を上手く繫栄させていった。
何故なら君主は全てを覚えているのだ。
一度目の生で上手く行った事は踏襲し、また上手くいかなかったことは修正する、と言ったふうに。


「それってまさに僕がやった事じゃん…」

また一人の統治者が続くと言う事は不変の思想で国を導けるということでもある。
不変、それは安定を意味する。
けどその思想は統治者によって善にも悪にも変わるものだ。

「ファルセッティが善性で幸いでした。ですがこの『再生の輪廻』は彼に大いなる苦悩をもたらしたのです」
「苦悩?」
「孤独と喪失感です」
「あー…」

君主ファルセッティは何度目かの生をやり直した時たまりかね父である神バルデルスに願ったという。彼が人々に奉仕した分だけどうか自分にも神の救いを、と。

神バルデルスは崇敬の意をこめ巨大なバルデルス像を祀ったファルセッティに褒美を与えることにした。そこで彼にこう告げたという。

『今世の生を終え冥界に下りた時、そこにある水差しをよく見極めよ。片方には記憶の水が、片方には忘却の水が満たされている。どちらを選ぶかは自分自身だ』

ファルセッティは後者を選んだ。彼は前世の記憶を手放し…そしてまた確約された安寧をも…手放したのだ。

「それがサンクトリウムの始まりです」





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