やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
107 / 138

創世記

しおりを挟む
「エド!エドヴィン!」
「ど、どうしましたウルリッヒ様。今は会議の最中じゃ…」

「解読はどれくらい進んだ?」
「ところどころ抜けはありますがこのサンクトリウムの起源に関してはかなり分かってきたかと。ちょうど報告に上がりたいと考えていたのです。ですが今はそれどころではないかと思い差し控えておりました」
「起源…」
「ええ。そこにはウルリッヒ様と兄さんにとって重要な情報もあります」

重要な情報…それは〝やり直し”についての記述だろう…。けど今知りたいのはそこじゃない。

「何かお知りになりたいのですか?」
「うん。でも何かはわからない。一応全部見せてくれる?」

神バルデルスがこの日のために僕を神子に選びあの分岐まで戻したのなら、きっとその理由はこの古代文にある!

エドは何かを察したのだろう。黙って丁寧にまとめられた分厚い紙の束を差し出した。

「…こちらにまとめてあります」
「ありがと…」
「ここにおりますので不明な部分はお聞きください。補足いたします」
「助かるよ」


創世期を知る前にひとつ説明しておこう。

この国アードラスヘルムにおいて王は神に等しいとされている。
それは王の始祖、古の君主が神より生まれし存在と考えられているからだ。

人と交わり人として暮らす王の始祖は、長い歴史の中でまるで枝葉のようにその血を分け与えていった。
そうして増えた彼らこそが高貴なる者とされ、それがのちの貴族になったと言われている。

また、高貴でない者、つまり始まりの只人とは大地より生まれたというのが一般的な言い伝えだ。
この土より生まれた只人たちが今でいう平民のことである。

高貴なる者はあらゆる災難から只人を守ることを使命とし、只人は高貴なる者のために土を耕し恵みを納めた。

始まりは相互扶助だった関係が特権意識になり変わったのはいつからだったのか。
少なくとも古のサンクトリウムにおいて貴族はまだ存在しない。

成り立ちにより区別された二種の身分。これがアードラスヘルム国における身分制の始まり、そう僕たちは教えられている。


古の神殿都市。古の君主。

神より生まれし君主がなぜ人としての暮らしを営んでいたのか…
その答えがここにある。



神殿都市サンクトリウムの始まりは神々の気まぐれからはじまる。
登場するのは二組の一族。二つの種族、と言ったほうが正しいだろうか。

ひとつは天空に住まう神バルデルスとその兄弟神。

彼らは生命や運命を操作する能力を持っていた。
これは生命を創造することも絶やす事もできる、まさに神の領域と呼べる驚異的な力である。

もうひとつは巨神族。
彼らは溶岩に囲まれた地下世界からこの地を支え、ひょうや雷といった様々な自然現象を操作できる特殊な能力を持っていた。

人々にとっては広く大きなアードラスヘルムだが、この大陸など境界線の無い空、地中を統べる神々から見ればほんのちっぽけな島も同然。

自由気ままで気まぐれな神バルデルスは、ある日その島を使って退屈しのぎを始めたらしい。


「先ず神バルデルスは「大地を治めよ」と、己の分身たる人型を作ったのです」
「それがここに書いてあるアドゥン…これが古の君主?」
「いいえ。古の君主よりもさらに古き始まりの人型です。ですがこの人型は人になり損ねました」
「どうして?」
「巨神族が阻んだのです」


地下世界を縄張りとする巨神族は「地上の全ては我々のものだ!」といきり立ち、武装を整えその島(この大陸)に攻め入ったという。

そこに居たのはまだ産みだされたばかりの右も左もわからぬアドゥン。アドゥンは巨神によってあっという間に踏みつけられた。

「その後巨神は神バルデルスにより撃退され、二種属の神は不干渉の取り決めをしました」
「…いきなり飛ぶね。戦いの描写は無かったの?」
「すみません。文字の風化が激しく…。ですがペトロス修道士が何とか復元を試みております」
「分ったら報告ね」
「畏まりました。では続きを…」


踏みつけられたアドゥンはすでに絶命していた。
神バルデルスはその人型に再度命を吹き込むが、巨神によって一度大地に身を沈めた人型は神としての特性を半分失ってしまっていた。

すなわち天に生まれし神としての再生力を持ちながら大地の特性、営みの循環が混じることで、…寿命が備わってしまったのだ。

結果それは『再生の輪廻』という歪な業になった。
再生の輪廻、それは過去の人格を持ったまま新しく生まれ変わること。

「…まさに今の僕とウル様じゃないか…。ま、いいや。続けて」
「…そうして生まれた新たな子ファルセッティこそが古の君主です」

神々は大地に木々や花々を生み出し、またその森を動物や蟲といった生命で満たした。
そして木々や動物たちの管理、ファルセッティの世話を行うよう土塊から生み出した生命。それが人である。

「木々の管理者は農耕民となり…動物の管理者は狩猟民となり…」

「文明の進化と共に商人や職人が生まれるわけか…」

そして財を築いた彼らは貴族に次ぐ力を持つようになっていく。蛇足だけど。

「ファルセッティは?」

ファルセッティは『再生の輪廻』によってこの地を上手く繫栄させていった。
何故なら君主は全てを覚えているのだ。
一度目の生で上手く行った事は踏襲し、また上手くいかなかったことは修正する、と言ったふうに。


「それってまさに僕がやった事じゃん…」

また一人の統治者が続くと言う事は不変の思想で国を導けるということでもある。
不変、それは安定を意味する。
けどその思想は統治者によって善にも悪にも変わるものだ。

「ファルセッティが善性で幸いでした。ですがこの『再生の輪廻』は彼に大いなる苦悩をもたらしたのです」
「苦悩?」
「孤独と喪失感です」
「あー…」

君主ファルセッティは何度目かの生をやり直した時たまりかね父である神バルデルスに願ったという。彼が人々に奉仕した分だけどうか自分にも神の救いを、と。

神バルデルスは崇敬の意をこめ巨大なバルデルス像を祀ったファルセッティに褒美を与えることにした。そこで彼にこう告げたという。

『今世の生を終え冥界に下りた時、そこにある水差しをよく見極めよ。片方には記憶の水が、片方には忘却の水が満たされている。どちらを選ぶかは自分自身だ』

ファルセッティは後者を選んだ。彼は前世の記憶を手放し…そしてまた確約された安寧をも…手放したのだ。

「それがサンクトリウムの始まりです」





しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

失恋までが初恋です。

あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。 そんなマルティーナのお話。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける! (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...