チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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18.5 人生の転機

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私の名はヴェスト。王都にほど近い大公領の一角にある村から、利達を願いこの王都へとやって来た。
あの日からすでに一年がたつ。
その間に替わった職場はこれですでに4か所目だ。

仕事ぶりは決して悪いわけではないはずだ…。どこの家令や執事からも、それだけは何度も念をおされた。
だがある理由から、数か月もするとどこの職場からも暇を出されるのが常だっだ。


私の実家は村の中央にある教会だ。そう。父は教区の司祭なのだ。
教会の裏には司祭館があり、その敷地内には救護院も建てられている。

長兄は父の後を継ぐべく神学校へと進んでいった。未だ厳しい修行の身だ。
次兄は救護院での奉仕を経て医学の道を志した。やはり同じく修業の身だ。
そして三男この私…

私だけが落ちこぼれた。




私には大きな問題がある。感情を理解することが出来ないのだ。

私が持つスキル。それは今いる場所の全てを把握する〝空間認識”だ。

その空間内の物や人物、そのすべての位置や形、そして動きを誰よりも正確に把握して、今必要な行動をはじきだす。
だがそのスキルと引き換えに、私には見えないものを把握することが…とても難しい…。

感情を捕らえたとしても、それを理解することが出来ないでいる。ただ見たことを見たままに。
笑っていれば、笑っているなとしか思わないし、怒っていても、怒っているなとしか思わない。…それが人を苛立たせる。人の気持ちを汲めないがゆえに…。


その事実に気づいたことで私は司祭への道を諦めた。当然だ。教区民に寄り添えぬ司祭などあり得ない…。


両親も二人の兄も、それは素晴らしい人格者だ。
好きなように生きればいいと、何度も何度も言われてきた。
だがその言葉を聞くたびになんとかせねばと焦るのだ。

そして昨年の感謝祭の日…、家へ戻った兄たちも揃い、家族で囲んだそのテーブルで…

疎外感を感じたのだ。同じ卓を囲んでいるのに私だけが違う空間に居る。そんな感覚。

家族は私に気を使いさりげなく話題を振ってくれる…だが私を除く4人でならごく自然に会話が弾むのだ。教義の事、医術の事、共通の話題には事欠かない。私が今ここに居なくてもきっと何も変わらない…。
その事実に打ちのめされて、翌週には家を出たのだ。一角の男になるまで戻りはすまいと…。



そして先日、ベルトサーリ伯爵家の茶会…。茶会の後家令は言った。「揉め事の多い人は要りません」と。



喧嘩を売っているつもりは無い。ただ仕事がはかどるよう考えているだけなのだ。

あちらのピンクのドレスのご令嬢は身震いを3回した。ストールをお持ちしたほうがいいんじゃないか。そちらのふくよかなご婦人はスコーンを必ず半分残す。7つ目を手に取る前にキュウリのサンドイッチをすすめてはどうか。ベイカー氏とフィッツ氏は小さな諍いが7回もあった。お帰りが鉢合わせないよう調整を。

そのたびに舌打ちをされるのだ。新人風情が指図をするなと。
だが私には何が間違っているのかわからない。良き会になるよう気を配っただけ…、なのに何が彼らを怒らせるのか…。


そしてベルトサーリ家の計らいで紹介されたとある子爵家。まだほんの数日だというのに恐れていた事が起きてしまった…。

「デューセ、今日の君は動きが悪い。何度もご婦人にぶつかっているだろう?お客様の邪魔になるなら裏方に回っていてはどうだ」

「ものには言い方ってもんがあるだろうが!邪魔などと、お前には人の気持ちが分からないのか!」

扉の裏での、ほんの短い間の出来事。
それを聞いている人がいるとは思ってもみなかった、それがまさか自分の人生の転機になるとは…。




会も終盤に近づいたころ一人の少年が前に立つ。彼は大公ヴェッティ閣下のお供として来た少年だ。


「ずっと見てたけど、あなたの意見は間違ってない。」

「あなたにここは合ってないのかも知れないよ?」

「それは、しかるべき場所でならあなたの長所が発揮できるって事だよ。長所…もしかしてスキルかな?君の目端の利き方は普通じゃない。ねぇ、僕は今月末まで大公邸にいる。それまでにもしここを馘にされたら…これはそう言う運命なんだ。騙されたと思って訪ねてきて。僕にはあなたが必要なんだ。」



耳障りの良い言葉が次々と胸に染みわたる。
そうか、私は認められたかったのか。誰かに必要とされたかったのか。

気が付いたら彼が子供だと言うことを忘れて聞き入っていた。彼はほんとうに子供だろうか。醸し出す雰囲気がまるでやり手の商人のようだ。

しかるべき場所…私のスキルが?そんな事考えたことも無かった…。発揮…出来るだろうか、もしもそんな場所があったとしたら。




この特性を生かして一角の男になって…そうしたら胸を張って両親や兄たちの前に立てるだろうか…。





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