チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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219 彼と過ごすワルプルギスの夜

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「〝代償”…そんなスキルが…」


帰還の連絡を入れたエスターが教授から聞いた話。それは末子の従者と12家の誰かが強力な終身雇用を結んでいたという新情報だった。


「アッシュ、亡くなった家令、アンダースだが、彼は元は12家、最も早くに断絶となったヴァッソン侯爵家の末裔に当たる…。彼と息子の死ですでについにその直系は一人残さず途切れてしまった。私と君の婚儀の際訪れていたのも、ほとんど所縁の無い他人に当たる。それゆえ今まで言わずに来たが…もしかして彼がその〝代償”をもつ者だったのではないだろうか」

「そうかも知れない。それなら謎が解ける」


僕は地味に考えていた。家令は何故〝転移”を持つ者がいつか鍵になると知っていたのか、って。そしてそれを伝え継いだのかって。

家令の謎…

ノールさんが言うには契約系のスキルは履行されないと何らかのペナルティがあるって言う話だった。
それは聖約みたいに命がけのものとは限らない。けど、何も無いってことは無いだろう、って。
それを聞いていたアレクシさんがその憶測を後押しする。

「私を王都の裏びれたスラムで拾ったとき…、義父はこう言ったのです。」

『お前がそうだとすぐに分かった。支払われなかった代償は我が家系が肩代わりせねばならない。私がこうして公爵家に仕えているのはお前の代わりなのだ。その荷は本来お前が背負うべきもの。一人前になったなら身命を賭してユーリウス様に仕えユーリウス様の為に生きなさい。それがお前の運命さだめであり心の安寧を約束するもの。』

最初に断絶した12家の末裔アンダースさん。末子の従者に〝代償”をかけた男の子孫。
ヴァッソン家は末子の従者がその代償を支払わなかったことで、その家系もまたスキルの縛りに囚われた。
彼らは呪われ忌み嫌われる公爵家を転移持ちの男に代わって代々支え続けてきた…。そして転移のスキルを持つアレクシさんを見つけた家令が最初に投げかけた言葉は…そのまま今度はアレクシさんの楔となった。


「言葉の意味を読み解くに、このスキル下で代償を支払わなかった者に安寧は訪れないと言う事かな」

「それが違約料ペナルティか…。契約って怖い…。まぁ、僕に限って安易な契約なんか結ばないけど」
「おや何故だい?君はユーリ君と聖約を交わしているじゃないか」

「あれは問題ない。とにかく!僕は書類は何でも隅から隅まで読む男だよ。ざっくり…とか、ちょっと意味わからないな」
「だがあの時君は寝てた…、いやなんでもない」


軽口を叩けるまでに復活したアレクシさん。そこにやってきたのはそのアレクシさんを連行しに来たタピオ兄さん。アレクシさんは兄さんの指導の元、あれから毎日畑仕事を手伝っている。
健全な精神は健全な肉体に宿る、というのが兄さんの主張だ。つまりアレクシさんのメンタルがやや弱いのは肉体が弱いせいだと…。

ブルブル…ッ

身震いがする…。その理屈でいったら僕は精神がちいさ…、いいや!そんな訳無い!


「それでお前たち明日には一斉にここを発つんだろう?母さんが相当張り切ってるんだ。今夜は祭りの御馳走だ。間に合って良かったってな」
「イモのフルコースか…でも嬉しいな。お祭りだ!パーッとやろうよ!」


お祭りがあるから滞在を伸ばしたら?という僕の提案をすげなく蹴って、ケネスは捕まえた侍女や悪党どもを引っ立てて一足先に王都へと帰って行った。少しでも早くシグリットさんにあの黄金の解呪薬を飲ませてやりたいんだろう…。

僕とユーリは少し厚着して明日翼竜で帰る予定だ。これはユーリのリクエスト。上空は少しひんやりしてるけど10日前のノールさんより幾分ましだろう。ホントはノールさんとエスターにももう一騎、って思ったんだけどね…。

頑なにそれを辞退したノールさんとエスターは馬車で帰ることに。それからアレクシさんは…


「貸し馬車を借りてアルパ君を迎えに行くよ。侍女に聞いたがアデリーナは宿から義母へと手紙を出していたらしい。そこへ寄ってからリッターホルムへ戻る。彼女の最期の頼みだ…。せめてアルパ君の去就だけは何とかしてやりたい」

「仕方ない…。アデリーナと一緒になってやらかしてたあれやこれやが多すぎて多分ペルクリット伯爵家はお取り潰しになる。マテアスは今収監されてるし多分ちょっとやそっとじゃ出られない…、叩けば埃の出る体、罪状には事欠かないうえ大公は毛嫌いしてる。けどアルパ君に罪は無い。何よりここで負の連鎖はもう終わりにしたい…。」
「そうだな…」

「それでリッターホルムに連れてくるの?」

「いや、それは彼次第だ。遺恨があるようなら彼は神殿に預ける。そうでないなら…」
「そうでないなら?」

「私の養子に迎えてもいいと思っている。伯爵家が取り潰しになるなら尚のこと。あのアデリーナに散々甘やかされてきたというんだ、箱入りで育った彼に今さら庶民の暮しは厳しいだろう」


相変わらず甘いなぁ…甘い!甘すぎるよアレクシさんは!
けどそれがきっとアレクシさんの良い所で、トルコの伝統菓子『バクラヴァ』の様なその甘さに救われる人は必ず居るんだ、ユーリの様に…、アデリーナの様に…




………でも万が一リッターホルムにやってきたらビシビシしごいてやる…
僕がこっそり愛の鞭を決意していることなど何も知らないはずのノールさんは何故か同じことを呟いていた。

「魔女の息子だなんてどんな影響を受けてるか分からないよ…徹底的に矯正しなくちゃ。アレクシには無理だろうからこの僕が…」

再タッグを組む日は近いかもしれない…。




その日の夜は滅茶苦茶だった。

あまり冷え込まないマァの村でも初春の夜は少し肌寒い。でもそんなの関係ないとばかりに、並べきれないくらいの御馳走といくつもの酒樽、そして新たに組んだやぐらに火をくべたら、今夜はワルプルギス、再生の祭りだ!


「うえっへっへっへ!ユーリ飲んでるー?」
「それなりに。だが君はもう駄目だ。おぶって帰るのもやぶさかでないが明日の翼竜が辛くなるだろう?もう止めるんだ」

「だーいじょうぶだって!これくらいのお酒、僕だって少しは飲めるように、うっ!うぇ××××…」
「あ~あ、もう汚いわね。アッシュ、あんたはもう家に戻って休んでなさい!皆に迷惑かけるんじゃないわよ!ここは母さんが片付けといてあげるから!」

「うぁい…」


ユーリに手を引かれた帰路、別荘に戻るかと思いきやユーリは僕を実家に連れて行った。ユーリさん?


「以前からここで休んでみたかったんだよ。あたたかな温もりに包まれた場所。最後の夜をここで過ごしては迷惑だろうか?」
「どうせみんな広場で屍になるから別にいいけど…、最後の夜じゃなくて最初の夜ね。今日がこの世界の再生の日だよ」
「アッシュ…」

「あ、実家でふしだらな真似は無しね」
「…………分かった…」


何その間…、危ない所だった…。




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