チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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218 彼と本物の蜂蜜酒

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空気を読んだのか、逆に読まなかったのか、微妙な表情のノールさんの前にズイッっと割り込んできたのはケネスだ。


「アッシュ、夫人の復活はもう無いのだな?」
「多分もう無い。何となくだけどね、分かるんだ。もうアデリーナは居ないって」

「そ、そうか!でかしたぞアッシュ!ならば私にはもう呪いは降りかからぬのだな!シグリットはどうなのだ!」


へぇー、今まで割と平気そうにしてたと思ったのに…、意外と不安だったのか…。可愛いとこあるじゃん。とは言え、王家の呪いねぇ…


「う、うぅ~ん…。魔女の消滅と呪いは別件だと思うんだけど。12家の呪いならまぁ分からなくも…、けど王様の呪いは女指導者の呪術じゃん。」
「なんだと!」

「それならユーリウス様の呪いは?だってあれは里人たちの呪術でしょう?」

「それなんだけどね、一個思いついたことがある。ユーリ、ポケットのお酒出して。」
「酒だと…?ユーリウス!お前蜂蜜酒を持ち歩いているのか!とんだ好き者だな!」


全く…、すぐこうやってユーリに突っかかるんだから。けどこの僕の考えが正しければ、それはきっとシグリット姫をも救うはず。


「あのねぇ、僕が持ち歩くように言ったんだよ。毎日少しずつ欠かさず飲んでって。そのおかげというか、あの毒が薄まってたからアレクシさんだって助けられたんだ。小さなことからコツコツと。大事な事でしょ。とにかく王子の事は放っといて、その蜂蜜酒、中を見てみようよ」

「何故?これはここに来る前小瓶に移した樽の中の酒。昨日も一昨日も変わらな…これは…」


後ろではケネスが放っておくなと騒いでる。うるさいなぁ。
でもユーリが戸惑う瓶の中身を一緒になって覗き込むと、そこにあるのはキラキラとした黄金色の蜂蜜酒。聞かなくたって分かる。これは絶対普通のお酒じゃないって。


「これは一体どういうことだ。朝樽から瓶に移した時は確かに普通の…」
「分からないの?ユーリ。ヤドリギの中で僕は何て言った?」

「今日は新月、私の月だ、と…」
「そしてユーリはこう言った、篝火の灰は僕の灰だって。でもほんとにそうなんだよ。あのやぐらは僕のスキルで作ったナナカマド、魔を退けるナナカマド。それが燃え尽きて出来た灰なんだから。」

「そしてあのヤドリギは御神木の奇跡で作られたヤドリギ、そういう事だなアッシュ。」
「そうだよ兄さん、そうだ!兄さんにも感謝しなくっちゃ。ヤドリギ…やぐらの中に仕込んでおいてくれたの?」

「実はやぐらだけじゃない。危険そうな場所にはそれぞれ仕込んでおいた…。お前がいつも言うだろ?備えあれば…」

「憂いなし!ありがとう!兄さん大好き!痛った!何すんのユーリ、あー、んん、ゴホン、とにかく、王子が言ったじゃない。」

「新月の力を借り更に燻した蜂蜜酒は浄化の力を持つというやつか…」

「そうそう。ねぇユーリ、黄金の林檎だって僕とユーリ、二人の力を合わせなきゃ出来なかった。なら蜂蜜酒だって多分同じ。クルポックルの奇跡の中で、ユーリの月光スキルと僕のナナカマドスキルに燻された特別な蜂蜜酒…。ユーリ、早く飲んでみて!」


キラキラした液体がユーリの喉を通っていくのが分かる。上下するのどぼとけ…、あれ?…どうして僕には無いんだろう?おかしいな…

と、とにかく!

それが腑に届いた頃、ユーリの身体までもがキラキラと輝いて…


「銀の至宝が本物の白金に包まれた…キ、キレイ…、美しいよユーリ!」
「君が気に入ってくれたなら何よりだ。それよりも…」

ユーリは言う。身体の中から、今までずっと感じていた言葉に表せない不快感が消えたって。それって『身体を知れば怖くない 自分で行う健康管理』に載ってた不定愁訴…じゃなくて!

アデリーナが言ったじゃないか。「呪いで歪められた肝」って。

『図解入り 人体の構造』そこには詳細に臓器の役割が記されていた。
肝腎要、まさにその字の通り、肝は毒素の分解を促す臓器。その臓器が歪められ分解どころか毒の生成を行ってたなら、ユーリの感じる不快感は僕が思うよりもきっと、相当ひどいものだったんだろう…。


「ユーリ、今すぐここに例のあれ、出してみてよ」
「あれ…って、毒の事かい?だが銀の容器が…」

「そ、それならここに…」


すこしバツ悪そうにアレクシさんが銀の容器を差し出すけど僕はそれを押し返した。


「もうそれは要らない。そこの木の器でいいよ。ほら早く」


ユーリの、毒を抽出する時だけ出てくる犬歯みたいな歯は残っちゃったみたいだ。でもこれはチャームポイントだから!セクシーだから!断固このままって事で…。


「おかしい…、木の器だというのに腐食しないとは…、それにこの透明な液体は何だ…」

「きっとこれこそが全ての呪いを解除する鍵だよ。ユーリのスキルは〝熟成”に変化を遂げたあの呼気だ。あのね、末子のスキル、〝妙薬生成”…それは本来なら肝で作られてたはず。だけど肝が歪められたことで失われ、その一部が呼気に残った。肺は肝臓のすぐ上にあるからね。」


肝臓の持つ役割、それは毒素の分解だけでなく身体に必要な成分を作り出す。
その機能が極限に高まったのが恐らくは末子のスキル〝妙薬生成”。その肝を歪められ、末子はスキルを肺に移した。だけど魔女の介入でその呼気にすら澱が溜まり、…呼気は毒素となった…。今はサーダさんやノールさんの力を借りて本来の妙薬に戻りつつあるけど、とんだ回り道だ。

でも月の美神と謳われる末子が銀の至高とまで言われたのはきっとその強い意志の力!


「いい?今までだって12家に降りかかるユールボックビアの呪いはユーリの毒から作られる薬だけが効いたんだ。僕は思うんだけどね、何故12家の呪いに対抗するのがユーリの毒から作られる薬なのか。呪術師達がそんな救済用意するわけない。それならこれは末子の最期の抵抗だ。書いてあったじゃないか。末子は呪いに侵されながらも救済を続けたって。彼は強い。その強さを受け継いできたから末子の血筋はこんな非情な目にあっても耐えて来れたんだって…僕はそう思う。よく頑張ったねユーリ…」

「アッシュ…」

「だからこの液体はきっと姫の呪いを解いてくれる。女指導者の呪いが心配ならこれはケネスが飲めばいい。いいよねユーリ」

「殿下が私の身体から生み出された液体を飲みたいと思えばだが…」


それを聞いたケネスはまるで新歓コンパの大学生みたいに、勢いよくその液体を一気飲みした。
それを見ていたノールさんは呆れて、ユーリも唖然として、そして僕は…笑った。腹を抱えて、まさに大爆笑だ。


「うむ美味くは無いな。だがこれで一安心だ。さて、すぐにシグリットへも運んでやらねば。おいユーリウス、もう一杯頼む」
「あのねぇ…酒場のバーテンじゃないんだから…」

「いや構わない。気が逸るのも当然だ。」


みんなが陽気に笑う中、兄さんがじっとりアレクシさんを睨んでる。

「あ、あの…兄さん?」
「色々言いたいことはあるけどな。アッシュ、お前も来い!アレクシは今からお仕置きタイムだ!お望み通り鍛えてやる」
「おお!では私も行くとするか。」

「なんで王子が一緒に来るのさ…」

「なにしろこやつのおかげで私の頑張りが無駄になるところであったからな。一言言ってやらねば気が済まぬ!あれだなアッシュ、蔓を出すのだな?」


ウキウキと嬉しそうな顔して…何を言っているんだろうかケネスは…。
あれはケネスの専用お仕置き蔓だからアレクシさんには使わないのに…。でもケネスにはもうあまり出番はないかもしれないな。これからは…。



…いいや僕は油断しない男。だってケネスだよ?これからも目を光らせておくに越したことはない…。
だって…、備えあれば憂いなし、だからね。





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